HERESY's GAME

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第一章

The negotiation and repair

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「マジで行くのかよ……」

「近くにあるだけで身震いしそう……ここがGENESISの本部……」


 省吾と絢香は生唾を飲み込んで、目の前にそびえ立つ黒き要塞を見上げる。

 瓦礫の町の中心に聳え立つのは、一際異彩を放つ大廈高楼な建造物──GENESISの本部である。


「テメエらだけの資金じゃねえってのによ……本来分けられるはずなのに、嫌がらせでNUMBERSに援助がいかないよう工作してるのだって、上は知ってるはずだろうが!」


 その拠点の荘厳な様を見て、省吾は悔しそうに近くの廃車を蹴り上げる。


「なんか、怖くなってきたよ……他者を寄せ付けない威圧感っていうか、すごく冷たい感じがする」

「クソ! 同じGUARDIANの組織だっていうのに、なんでこんな差がありやがるんだよ……俺らの不甲斐無さを突きつけられてるみてえで、情けねえ……!」


 落ち込むように俯く2人の頭に、背後からそっと手が置かれる。


「胸を張れ2人共。俺達は弱気を助ける正真正銘のヒーローだ。虚栄を張る者に、決して臆してはいけない」

「ボス……!」


 2人の背後からNUMBERSのボスである天童が現れる。


「とはいえ、お前達は飽くまで付き添いだ。敵地には変わりないからな。俺から決して離れるなよ」

「は、はいボス!」


 天童は静かに頷くと、要塞の入り口へと向かっていく。


「え!? 俺等付き添いだったのかよ! ボスの護衛で呼ばれたんじゃねえの?」

「バカね。ボスに護衛なんて必要な訳ないでしょ」

「あ? じゃあなんで俺等はGENESISとの交渉に呼ばれたんだよ?」

「……護衛よ」

「いや意味わかんねえよ! 護衛じゃねえって、自分で言ったんだろうが」

「今のNUMBERSはとても脆弱。ボス不在の基地では、またいつ敵が襲ってくるか、どんな危険があるか分からないのよ。ならば自分の側にいた方が安全だって、そうボスが判断したのよ」

「ち、ちょっと待てよ! じゃあ護衛ってのは……俺等が守られる側って事か!?」

「そういう事。私達はまだまだ守られる存在って事よ」

「けどよ……なんでボスは俺等を? 本部にゃもっと強いブレストワンとか、守るべき奴らがいたはずだろ? なんでボスはソイツらを守らねえんだよ!」

「そこまでは分からないわよ……真意はボスにしか。期待してくれてるって事にしましょう」


 2人は要塞を見上げる──ビルから覗く空には、曇天が渦巻いていた。


「どうした2人共。行くぞ」

「あ、はい!」


 天童の背を追うように、省吾と絢香はGENESISの本部へと入っていくのであった。

 GENESIS本部──内観は無機質そのものであり、3人はエントランスを抜けて漆黒の廊下をひたすら歩く。


「気味悪いな。ホントに人間が住んでるのかよ」

「まるで宇宙基地ね。そこら中の壁から武器の気配もする。銃口を突きつけられてるみたいに……嫌な感じ」

「行くぞ2人共。指定された部屋はこの奥だ」

「おう!」


 廊下の最奥。天童が機械仕掛けの扉の前に立つと、四方から伸びる赤いレーザーが3人を覆う。

 レーザーは3人の足元で消えると、辺りから電子音が鳴り響き、機械の扉は重々しく開かれた。


「失礼する。NUMBERSの天童だ」


 扉の奥の空間は、10畳ほどの狭い応接間であった。黒いレザーの家具で統一された部屋は、静かに3人を威圧する。

 中央では、数人の男達が大理石のテーブル越しにこちらを見据えていた。

 

「ほほう。まさかホントに本人が来るとはなァ。ようこそフェニックスの天童。NUMBERSのボスに会えるとは光栄だね」


その内の1人──中央に座るリーダー格の男がテーブルに足を乗せたまま、天童に向かって両手を広げる。


「……そちらのボスは来てはいないようだな」

「ハハハ! ウチのボスがこんな小さな事案で来る訳ないだろう。アンタらと違って忙しいんだよ」

「些事のつもりはないんだがな。私は身命を賭し、この場に赴いたつもりだ」

「ハッ、そうかい。ま、何にせよ要件はこの俺に言うんだな。とりあえず紅茶を飲んでくれ。是も否も、まずはそれからだ」


 男はティーカップに紅茶を注ぎ3人に差し出す。

省吾はしかめっ面で席へ座ると、熱々の紅茶を一気に飲み干した。


「──で? NUMBERSのボスが何の用だ? 暇すぎて子守の仕事でも始めたのか? 生憎だが新人育成なら間に合ってる」

「……内容は事前に送付しただろう。お前達も知っているはずだ。最近DISASTERSが活発化している事を。今こそブレストワン同士で手を取り合い、一丸となって対処すべきだ。でなければ、待っているのは破滅のみだぞ」

「対処かァ……だったらその後はどうする? DISASTERSの奴らは全員皆殺しでいいんだよな?」

「良い訳がないだろう。私慾による粛清など、俺は断じて許さない」


男はタバコに火をつけ、天童の言葉にゆっくりと首を振る。


「そこだ……そこに相違がある限り、俺達がテメエらと仕事する気はねえんだよ」

「仕事ではない。手を取り合うと言ったんだ。同じ組織に属するブレストワンじゃないか……俺は、同盟を結ぶ為にここに来た」

「手を取り合うなんて御大層に言うが、貸してくれの間違いじゃないのか? 肩を並べてるつもりか? あ?」


 終始ニヤニヤとしていた男だったが、煙を吐くと同時に額に青筋を浮かべる。


「この際ハッキリ言ってやろう。テメエらみたいなザコと俺達を一緒にするんじゃねえ。奴らの侵攻も俺達はほぼ無傷なんだよ。テメエらと組むだ? バカが。そのまま壊滅すれば、俺達にとっては願ったり叶ったりだ」

「戯言を……お前達が徹底的に敵を潰すなら、何故DISASTERSは未だ勢力を拡大している? 防戦一方なんだろう? 見え透いた嘘は止すんだな」

「……」

「俺達が手を組めば、間違いなく奴らに勝てる。今こそ力を結集するべきだ。目の前の亀裂などではなく、大局を見ろ──世界が滅ぶんだぞ!」

「黙れ! 御託並べようが、甘ったれのザコ共と組む気はねェ──龍希!」


 男が合図すると、後ろで控えていた少年が消える──そして、テーブルの上に黒炎と共にその少年が現れる。


「……」


 少年は無言で掌を天童らに向け、黒く蠢く炎を顕現させる。

 あどけなさすら残る銀髪の少年──だが、その瞳に宿る黒い光は、対峙する者全てを凍り付かせるような狂気が滲んでいた。


「……今日は引こう。だが、俺は諦めないぞ」

「ケッ、単純バカが。2度と来るんじゃねえ!」

「行くぞ、2人共」

「え、でもボス──」

「いいから。今日は帰ろう」

「は、はい……」


 天童は省吾と絢香の背中を押し、部屋を後にした。

 扉が閉まったの確認すると、龍希と呼ばれた白髪の少年は手を下ろす。


「へへ、ヤケに甘いなキャップ。敵のボスの首を狩るチャンスだったのによ」

「甘ェのお前だ。天童──フェニックスはボスも認める本物の実力者だ。俺等がどうこう出来る相手じゃねえ。ま、こっちにはアイツより100倍強いデスフェニックスがいるがな」

「……」


 男は振り返って少年を眺める。少年は鼻を鳴らすと、黒炎と共に部屋から消えた。


─────────────────


 GENESIS本部外観──天童と別れた省吾と絢香は帰路に着いていた。

 省吾は振り返って、再びその要塞を見上げる。


「省吾、どうしたの? そういえばアンタずっと大人しかったわね。いつもなら食って掛かったでしょうに」

「絢香。あの男の後ろにいた銀髪見たか?」

「……うん、嫌でも見えたよ」

「俺、NUMBERSがザコって呼ばれて、前の野郎を殴ろうとしたんだけど……アイツ見てたら動けなくなっちまった。俺が一歩でも動こうものなら、一瞬で殺される……そんな威圧感があった。年下に見えるようなガキに、俺はブルっちまった」

「省吾……」

「絢香、強くなるぞ。NUMBERSの為に──ボスの為に」

「……うん!」
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