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第一章
The battle has already begun
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「どうも、ありがとう。お兄ちゃんお姉ちゃん! おかげでシシィが見つかったよ」
「おう、もう脱走させんなよー」
郊外の公園に、子供の元気な声が響き渡る。
少年は尻尾を振る犬のリードを引き、そそくさとその場を後にした。
仕事を終えた省吾のオッドアイは、キラキラと輝いていた。
「迷い犬、見つかって良かったわね」
「そうだな。やっぱ些細な事でも、喜ばれると気持ちがいいもんだ」
「私達ブレストワンは、昔はもっと怖がられる存在だったらしいけど……最近、こうやって感謝してくれる人も増えたよね」
絢香は片目が隠れた髪を撫で、微笑を浮かべる。
「そうだな。まあ、全員じゃないのは分かってるけどよ。上手く適応してるって証拠だろうな」
2人は仕事を終え、アジトがある廃墟街へ帰っていた。
かつての争いの爪痕が残る、人寄り付かぬ薄暗い区域。切断された瓦礫、焼け焦げた廃屋。様々な能力で壊されたであろう遺構がいくつも残されている。
「あ、そういえば……もうすぐじゃない?」
「え? 何が?」
「忘れないでよ。もう8月に入ったのよ?」
「おぉ、そういえばそうか。そうだな……もう、夏になったな!」
「ちーがーう! 初夏はとっくに終わってるから。ほら、誕生日だよ」
「ああ、そっか! そういやボ──」
瞬時に殺気を察知し、2人は左右に展開する。
すると2人がコンマ0秒までいた場所に、大きな瓦礫が突風と共に飛ばされてきた。
「うお、危ねえ!」
「ハッハッハァ~! ガキでも流石に避けるかァ。腐ってもブレストワンって所だなァ」
「誰!?」
振り返ると、ポケットに手を突っ込みながらこちらに歩いてくる髭面の男。
レゲエ風の装いに身を包み、浅黒い肌とドレッドヘアーが特徴的な男が、省吾と絢香を見て拍手をしていた。
「いきなり何しやがんだテメェ!」
「いや、それよりこの瓦礫……普通の人間の所業じゃない。アンタもブレストワンね?」
「御名答ォ~。まァ、俺ッチはテメェらNUMBERSと違って甘ったれチャンじゃねえけどよォ」
「な……てめえGENESISの連中か! なんでこんな場所にいやがんだ? ここは俺等NUMBERSの縄張りだぞ!」
「ハッハァ! ただの挨拶代わりだァ。美味しそうなガキが無警戒で歩いてるもんだから、思わずマーキングしちまったってだけよォ」
NUMBERSとGENESIS──ブレストワンは、この2つの勢力で争いを繰り広げている。
省吾らが与しているにはNUMBERSと呼ばれる穏健派のブレストワン。敵対するこの男は、GENESISと呼ばれる過激派のブレストワンであった。
「くっ、こんな所にまで勢力を広げていたなんて……」
「なんだコイツの能力は? おい! 能力名はなんだ!」
「ヒャハハハァ! あんまりにも日和見なテメェらだから、避けられねェか心配だったよ。安心したぜ……少しは楽しめそうでよォ!」
国際諜報機関GUARDIAN──始まりは一つの議論からであった。悪人をどう裁くべきなのか。片方は徹底的に断罪し、悪を根絶する事こそが社会変革に繋がると主張。
もう片方は、この力を暴力に使うのではなく、抑止力として掲げ更生を目指すべきだと唱えた。
この議論はやがてGUARDIANから2つの組織が出来上がる程にまで亀裂は大きくなり2極化。戦争する事態にまで発展してしまったのだ。
戦火は途絶え、今はお互い睨み合いの攻防が続いているが、いつ戦争が起きてもおかしくない状況であった。
「俺ッチは全てを吸収し、そしてそれを倍返しで跳ね返すぜェ~、久しぶりの獲物だァ。楽しい戦闘にしようぜェ!」
「くそ、GENESISのヤツ……いよいよ実力行使ってか?」
「いいえ。奴が作戦の尖兵だとは思えない。本当にからかいに来ただけみたいよ……奴らにとって、人の家にピンポンダッシュするのとなんら変わりないんでしょうね」
「そーそー。ただの戯れだってェ。お互い小競り合いしてるだけじゃ、腕が鈍っちまうってもんよ。俺ッチと遊ぼうぜェ~!」
男は両手を広げ、辺りの瓦礫を吸収し一箇所に集めると、その巨大な塊を2人に向かって投げつけた。
「けっ、こんな瓦礫粉々してやるよ!」
省吾は読んでくる瓦礫に臆する事なく、その塊を己が赫灼の炎で殴り飛ばす。
瓦礫は爆散し、辺りに破片が飛び散るが、その割れた瓦礫の死角から男の顔が覗いた。
「ハロォ~!」
省吾の反応がやってくる前に、男の拳が頬に炸裂する。省吾は後方まで吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!? この……瓦礫を投げたと同時に自分も突撃してやがったのか!」
「省吾!」
「お前は下がってろ絢香! 今日はあと残り1回しかないんだろ!?」
「う……」
「今度はこっちの番だ。くらえ! アポカリプスッ!」
省吾は手に青い炎を纏い、その弾を男に向かって投げつける。
が、男は涼しい顔でそれをキャッチし、その核エネルギーを吸収してしまった。
「な!? 俺のアポカリプスを!」
「オイオイオイ。そんなもんかァ? だとしたら拍子抜けだぜ?」
「けっ、安心しろよ。今のは弱火も弱火だ……つっても、ここじゃ俺のアポカリプスは全力を出せねえからな」
「省吾、どいて!」
絢香はガトリング砲を顕現させ、その砲弾の雨を浴びせる。
ウエポンマニアのラスト武器……その乾坤一擲の砲撃は、全て男の手に吸われてしまった。
「せ、戦車も壊す砲弾が……!」
「フンフン。核エネルギーと武器出現かァ。いい能力だねェ……だが残念だ。俺の吸収は全てを飲み込んじまう。炎のブレストワンは全部俺のカモだ。相性だよ相性♪」
男が言う通り、能力との相性が芳しくない。
このままではマズイ。そう、後ろに一歩後ずさりした時だった。
「なら、不滅の炎はどうだ?」
「何?」
突如として、男の周りに業火が舞う。その紅蓮の烈火は、男を取り囲んで包み込む。
「なんだこの火は! 俺の吸収で──な、出来ねェ!?」
「無駄だ──永久不滅の炎は、オレが許さぬ限り決して消えない」
「な……がぁ、あああああぁぁぁーッ!」
纏う炎は男の身を焼く。現れた大男が手を振り払うと、その炎は一瞬で消滅する。
「あ、あ……? この炎、ウチのエース──」
「殺しはせん。貴様らとは違うんでな。失せろ」
「ひ、ひいいぃぃーッ!!」
2人を苦戦させた吸収の使い手は、無様にも脱兎の如く駆けていく。
その光景に、省吾と絢香はポカンとしていたが、すぐに我に返る。
「無事か? お前ら」
「あ、アンタは……!」
「ボス!」
振り返ると、スーツに身を包んだ身長2メートルを越す眉目秀麗の偉丈夫。
背からは翼を象った炎が燃え盛っていたが、男が息を吐くと同時に消え去った。
「天童さん。ありがとうございます」
「た、助かったぜ……」
「アイツ、GENESISのヤツだな。全く……俺の子に手を出すとは」
天童と呼ばれた男は、2人の頭にそっと手を置く。
天童芳樹──NUMBERSを率いる組織のボス。
彼の能力アルマヴェドは永久不滅の炎。あらゆるものを焼き尽くし、また癒す事もでき、全ての攻撃を退ける。
「ボスのアルマヴェド。相変わらずかっけぇぜ! 流石ハイブレストワンだ!」
「ええ……また助けられたわね」
ハイブレストワン──稀有な能力を授かるブレストワンの中でも、とりわけ強力な個体をそう呼称する。
「もう夜も遅い。早く帰りなさい」
「はーい」
「ボス! 今度俺と特訓してくれよ!」
天童は省吾の頭をワシャワシャと撫で、薄く微笑を浮かべる。
「また今度な」
そう言い残し、天童はその場を去って行った。
「くぅー! 相変わらずしびれるぜボスは。ああなりたいものだぜ……」
「そうね。けど、本当にこんな場所にまで連中が来るなんて。争ってる場合じゃないのに」
「んだな。来たるべき日に備えなきゃよ」
迫る闇を憂いながら、2人は組織のアジトへと帰っていった。
「おう、もう脱走させんなよー」
郊外の公園に、子供の元気な声が響き渡る。
少年は尻尾を振る犬のリードを引き、そそくさとその場を後にした。
仕事を終えた省吾のオッドアイは、キラキラと輝いていた。
「迷い犬、見つかって良かったわね」
「そうだな。やっぱ些細な事でも、喜ばれると気持ちがいいもんだ」
「私達ブレストワンは、昔はもっと怖がられる存在だったらしいけど……最近、こうやって感謝してくれる人も増えたよね」
絢香は片目が隠れた髪を撫で、微笑を浮かべる。
「そうだな。まあ、全員じゃないのは分かってるけどよ。上手く適応してるって証拠だろうな」
2人は仕事を終え、アジトがある廃墟街へ帰っていた。
かつての争いの爪痕が残る、人寄り付かぬ薄暗い区域。切断された瓦礫、焼け焦げた廃屋。様々な能力で壊されたであろう遺構がいくつも残されている。
「あ、そういえば……もうすぐじゃない?」
「え? 何が?」
「忘れないでよ。もう8月に入ったのよ?」
「おぉ、そういえばそうか。そうだな……もう、夏になったな!」
「ちーがーう! 初夏はとっくに終わってるから。ほら、誕生日だよ」
「ああ、そっか! そういやボ──」
瞬時に殺気を察知し、2人は左右に展開する。
すると2人がコンマ0秒までいた場所に、大きな瓦礫が突風と共に飛ばされてきた。
「うお、危ねえ!」
「ハッハッハァ~! ガキでも流石に避けるかァ。腐ってもブレストワンって所だなァ」
「誰!?」
振り返ると、ポケットに手を突っ込みながらこちらに歩いてくる髭面の男。
レゲエ風の装いに身を包み、浅黒い肌とドレッドヘアーが特徴的な男が、省吾と絢香を見て拍手をしていた。
「いきなり何しやがんだテメェ!」
「いや、それよりこの瓦礫……普通の人間の所業じゃない。アンタもブレストワンね?」
「御名答ォ~。まァ、俺ッチはテメェらNUMBERSと違って甘ったれチャンじゃねえけどよォ」
「な……てめえGENESISの連中か! なんでこんな場所にいやがんだ? ここは俺等NUMBERSの縄張りだぞ!」
「ハッハァ! ただの挨拶代わりだァ。美味しそうなガキが無警戒で歩いてるもんだから、思わずマーキングしちまったってだけよォ」
NUMBERSとGENESIS──ブレストワンは、この2つの勢力で争いを繰り広げている。
省吾らが与しているにはNUMBERSと呼ばれる穏健派のブレストワン。敵対するこの男は、GENESISと呼ばれる過激派のブレストワンであった。
「くっ、こんな所にまで勢力を広げていたなんて……」
「なんだコイツの能力は? おい! 能力名はなんだ!」
「ヒャハハハァ! あんまりにも日和見なテメェらだから、避けられねェか心配だったよ。安心したぜ……少しは楽しめそうでよォ!」
国際諜報機関GUARDIAN──始まりは一つの議論からであった。悪人をどう裁くべきなのか。片方は徹底的に断罪し、悪を根絶する事こそが社会変革に繋がると主張。
もう片方は、この力を暴力に使うのではなく、抑止力として掲げ更生を目指すべきだと唱えた。
この議論はやがてGUARDIANから2つの組織が出来上がる程にまで亀裂は大きくなり2極化。戦争する事態にまで発展してしまったのだ。
戦火は途絶え、今はお互い睨み合いの攻防が続いているが、いつ戦争が起きてもおかしくない状況であった。
「俺ッチは全てを吸収し、そしてそれを倍返しで跳ね返すぜェ~、久しぶりの獲物だァ。楽しい戦闘にしようぜェ!」
「くそ、GENESISのヤツ……いよいよ実力行使ってか?」
「いいえ。奴が作戦の尖兵だとは思えない。本当にからかいに来ただけみたいよ……奴らにとって、人の家にピンポンダッシュするのとなんら変わりないんでしょうね」
「そーそー。ただの戯れだってェ。お互い小競り合いしてるだけじゃ、腕が鈍っちまうってもんよ。俺ッチと遊ぼうぜェ~!」
男は両手を広げ、辺りの瓦礫を吸収し一箇所に集めると、その巨大な塊を2人に向かって投げつけた。
「けっ、こんな瓦礫粉々してやるよ!」
省吾は読んでくる瓦礫に臆する事なく、その塊を己が赫灼の炎で殴り飛ばす。
瓦礫は爆散し、辺りに破片が飛び散るが、その割れた瓦礫の死角から男の顔が覗いた。
「ハロォ~!」
省吾の反応がやってくる前に、男の拳が頬に炸裂する。省吾は後方まで吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!? この……瓦礫を投げたと同時に自分も突撃してやがったのか!」
「省吾!」
「お前は下がってろ絢香! 今日はあと残り1回しかないんだろ!?」
「う……」
「今度はこっちの番だ。くらえ! アポカリプスッ!」
省吾は手に青い炎を纏い、その弾を男に向かって投げつける。
が、男は涼しい顔でそれをキャッチし、その核エネルギーを吸収してしまった。
「な!? 俺のアポカリプスを!」
「オイオイオイ。そんなもんかァ? だとしたら拍子抜けだぜ?」
「けっ、安心しろよ。今のは弱火も弱火だ……つっても、ここじゃ俺のアポカリプスは全力を出せねえからな」
「省吾、どいて!」
絢香はガトリング砲を顕現させ、その砲弾の雨を浴びせる。
ウエポンマニアのラスト武器……その乾坤一擲の砲撃は、全て男の手に吸われてしまった。
「せ、戦車も壊す砲弾が……!」
「フンフン。核エネルギーと武器出現かァ。いい能力だねェ……だが残念だ。俺の吸収は全てを飲み込んじまう。炎のブレストワンは全部俺のカモだ。相性だよ相性♪」
男が言う通り、能力との相性が芳しくない。
このままではマズイ。そう、後ろに一歩後ずさりした時だった。
「なら、不滅の炎はどうだ?」
「何?」
突如として、男の周りに業火が舞う。その紅蓮の烈火は、男を取り囲んで包み込む。
「なんだこの火は! 俺の吸収で──な、出来ねェ!?」
「無駄だ──永久不滅の炎は、オレが許さぬ限り決して消えない」
「な……がぁ、あああああぁぁぁーッ!」
纏う炎は男の身を焼く。現れた大男が手を振り払うと、その炎は一瞬で消滅する。
「あ、あ……? この炎、ウチのエース──」
「殺しはせん。貴様らとは違うんでな。失せろ」
「ひ、ひいいぃぃーッ!!」
2人を苦戦させた吸収の使い手は、無様にも脱兎の如く駆けていく。
その光景に、省吾と絢香はポカンとしていたが、すぐに我に返る。
「無事か? お前ら」
「あ、アンタは……!」
「ボス!」
振り返ると、スーツに身を包んだ身長2メートルを越す眉目秀麗の偉丈夫。
背からは翼を象った炎が燃え盛っていたが、男が息を吐くと同時に消え去った。
「天童さん。ありがとうございます」
「た、助かったぜ……」
「アイツ、GENESISのヤツだな。全く……俺の子に手を出すとは」
天童と呼ばれた男は、2人の頭にそっと手を置く。
天童芳樹──NUMBERSを率いる組織のボス。
彼の能力アルマヴェドは永久不滅の炎。あらゆるものを焼き尽くし、また癒す事もでき、全ての攻撃を退ける。
「ボスのアルマヴェド。相変わらずかっけぇぜ! 流石ハイブレストワンだ!」
「ええ……また助けられたわね」
ハイブレストワン──稀有な能力を授かるブレストワンの中でも、とりわけ強力な個体をそう呼称する。
「もう夜も遅い。早く帰りなさい」
「はーい」
「ボス! 今度俺と特訓してくれよ!」
天童は省吾の頭をワシャワシャと撫で、薄く微笑を浮かべる。
「また今度な」
そう言い残し、天童はその場を去って行った。
「くぅー! 相変わらずしびれるぜボスは。ああなりたいものだぜ……」
「そうね。けど、本当にこんな場所にまで連中が来るなんて。争ってる場合じゃないのに」
「んだな。来たるべき日に備えなきゃよ」
迫る闇を憂いながら、2人は組織のアジトへと帰っていった。
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