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第6章~原初の○○~
第42話 殺人――トゥルトゥールー、トゥルトゥルールルー
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―――翌日、管理者部屋
「それじゃあ今日は約束がありますので、ラルゴの所に行ってきますね」
レイがそう言うと、
「約束?いつもの牧場の手伝いではなくて、かい?」
リンネが訊く。
「はい、今日はラルゴの紹介でラルゴのお兄さんのエルバさんに会う約束をしているのです」
「あ~あのエルバ、ねぇ」
リンネはエルバについて何か知っているようだ。
「あのって、リンネはエルバさんについて何か知っているのですか?」
「ん?レイ君はエルバのことを知らなかったのかい?」
「残念ながら」
「あれだけダムアの村に通っているのに?」
リンネが信じられないという顔をする。
「そんなに有名な人なのですか?」
「有名も有名さ、何せここからほとんど出ることのない私の耳に入るくらいだからね」
「僕は知らなかったのですが」
レイが若干悔しそうに言う。
「まぁレイ君はいつもダムアの一族の近くにいたからね。近くにいると見えないものもあるものさ」
「そう言うものですかね?」
「そういうもの、そういうもの」
いまいち納得は出来ないものの、レイはそういうものだと無理やり納得。
「それで、リンネはエルバさんについて何を知っているのですか?」
「エルバ一人というよりも、エルバとラルゴ兄弟について、と言ったの方が正しいかな。エルバとラルゴ兄弟。兄は農業、弟は畜産に精通した一流の生産者兄弟。兄のエルバは、職人気質で人を寄せ付けない性格なのに対して、弟のラルゴは、乱暴な物言いだけど明るくて誠実な性格、って言う噂さ」
「僕がラルゴから聞いたエルバの性格と、リンネの言うエルバの性格に多少の違いがあるのですがそれは何故でしょう」
「そりゃあ周りから――外側から見た、見た目と、家族――内側から見た、見た目は違うものでしょ」
「それではどちらが正しい見た目なのでしょうか?」
「それはレイ君が直接彼に会って判断するべきだと私は思うよ。何せ人づたいの情報というものは必ず何らかのフィルターがかかっているものだからね。情報は必ず自分の目で見て判断する。これ、大事だよ」
「なるほど、リンネはたまに良いことを教えてくれますよね」
「たまに、は余計だよ」
「たまに、です」
そこは譲ってやらないぞ、とレイは言う
「へいへい、レイ君そろそろ出発した方がいいんじゃないかい?」
「あ!!そうでした。それではリンネ、貴重な情報をどうもありがとうございました」
そう言ってレイは管理者部屋を後にした。
残されたリンネはいつもの怪しい笑みを浮かべる。
「ナニモイミナンテナイヨ」
―――地球、ラルゴの牧場
「おはようございます!!」
レイが顕現と同時に挨拶をする。しかし、いつもはラルゴからの挨拶が返ってくるのだが、今日は返って来なかった。
「別の場所で仕事をしているのでしょうか?」
レイはそう言うと牧場の中をラルゴを探して歩き回る。しかし、どこを探してもラルゴの姿はなく、それどころかいつも一緒に仕事をしていたラルゴの妻のベラの姿も見当たらない。レイはどうしたものかと考えた結果。
「索敵しましょう」
そう言ってラルゴの魂から漏れるマナの反応を索敵するが、何故かどこにもラルゴの気配が存在しない。
いやな予感がする。レイは索敵範囲を思いきって地球全体に拡大。その結果。
「感じない」
つまりラルゴは地球上にはいないということになる。いや、そんなことはない。ラルゴは地球から出る術など持ち合わせていないはずだ。
レイのいやな予感が確信に変わりつつあったその時。
「主!!」
レイのことを呼ぶ女性の声が聞こえた。レイはその声に聞き覚えがあった。
「ベラ!!」
レイが声のする方に振り向くと、レイから少し離れた場所からレイに向かって手を振り、レイのことを呼ぶ女性の姿があった。
「ベラ、そんなに慌てて、一体どうしたのですか?」
ベラはその顔を涙で濡らし、縋るようにレイのローブを掴む。
「主!!ラルゴ、ラルゴの奴が……」
「ラルゴが一体どうしたのですか?」
「ラルゴが崖から落ちて死んじまったんだよ」
「そんな……」
レイの嫌な予感が的中。ラルゴはすでに返らぬ人となっていた。
「と、兎に角ラルゴの元まで案内してください!!」
「ああ、こっちだよ」
レイはベラに連れられてラルゴが落ちたという崖下まで向かって行った。
レイたちがラルゴの落ちたという崖下まで来ると、そこには数人の人だかりが出来ていて、各々が泣いたり、ショックを受けたりと様々な反応を見せていた。
「ラルゴ……」
レイがラルゴの遺体を見る。ラルゴの遺体の顔は驚愕の表情に満ちており、それだけ崖からの落下が突然のことであったことがうかがえた。
「ラルゴの奴、どうしてあんな所に行ったんだ」
レイがその声に反応し、顔を上げるとそこにはラルゴに似た顔をした男性が悲しそうな表情をして立っていた。
「あなたは?」
レイがその男に訊くと、レイの隣にいたベラが答えた。
「エルバだよ。朝方にエルバの所に行ったラルゴが中々帰ってこなかったからあたしがエルバの家に行ったら……」
「ラルゴはうちに来ていなかったのです。それで、心配になって近所の皆でラルゴのことを探していたら……」
「ここで亡くなっていたと」
ベラとエルバが頷いた。
気の毒に。そうレイが思い再びラルゴの遺体を見る。するとある違和感に気付いた。
「血が――」
「どうしたんですか?」
エルバがレイに訊く。
「エルバさん、ラルゴの遺体は動かしてはいないのですよね?」
「はい、あまりに突然のことで皆動揺してしまっていて……」
「――おかしい」
「え?」
「崖から落ちてここで亡くなっていたのならば、もっと出血しているはずです。なのに」
言ってレイは、ラルゴの遺体のすぐ横の地面を指差す。
「ほら見てください。地面にほとんど血がついていません。ラルゴがもしあそこの崖から落ちて、ここで亡くなっていたのならば大量の血が地面に流れ出しているはずです。それなのにここにはほとんど血が流れ出ていない」
「つまりどういうことだい?」
ベラが訊く。
「つまり、ラルゴはここで亡くなったわけではない、ということです」
その場にいた全員に動揺が広がる。
更にレイが「それに」と言い、ラルゴの遺体を触りその傷口を確かめる。
「やっぱり」
「主、何がやっぱりなんだい?」
更にベラが訊く。
「傷口の形状です。今ラルゴの遺体の頭の傷口を確認してみたのですが、この傷口は落下の衝撃でついた傷口ではありません。もっとこう、斧や鉈といった重い刃物で付けられた傷口です」
「と、いうことはつまり」
「ラルゴは誰かに殺された。ということになります」
「それじゃあ今日は約束がありますので、ラルゴの所に行ってきますね」
レイがそう言うと、
「約束?いつもの牧場の手伝いではなくて、かい?」
リンネが訊く。
「はい、今日はラルゴの紹介でラルゴのお兄さんのエルバさんに会う約束をしているのです」
「あ~あのエルバ、ねぇ」
リンネはエルバについて何か知っているようだ。
「あのって、リンネはエルバさんについて何か知っているのですか?」
「ん?レイ君はエルバのことを知らなかったのかい?」
「残念ながら」
「あれだけダムアの村に通っているのに?」
リンネが信じられないという顔をする。
「そんなに有名な人なのですか?」
「有名も有名さ、何せここからほとんど出ることのない私の耳に入るくらいだからね」
「僕は知らなかったのですが」
レイが若干悔しそうに言う。
「まぁレイ君はいつもダムアの一族の近くにいたからね。近くにいると見えないものもあるものさ」
「そう言うものですかね?」
「そういうもの、そういうもの」
いまいち納得は出来ないものの、レイはそういうものだと無理やり納得。
「それで、リンネはエルバさんについて何を知っているのですか?」
「エルバ一人というよりも、エルバとラルゴ兄弟について、と言ったの方が正しいかな。エルバとラルゴ兄弟。兄は農業、弟は畜産に精通した一流の生産者兄弟。兄のエルバは、職人気質で人を寄せ付けない性格なのに対して、弟のラルゴは、乱暴な物言いだけど明るくて誠実な性格、って言う噂さ」
「僕がラルゴから聞いたエルバの性格と、リンネの言うエルバの性格に多少の違いがあるのですがそれは何故でしょう」
「そりゃあ周りから――外側から見た、見た目と、家族――内側から見た、見た目は違うものでしょ」
「それではどちらが正しい見た目なのでしょうか?」
「それはレイ君が直接彼に会って判断するべきだと私は思うよ。何せ人づたいの情報というものは必ず何らかのフィルターがかかっているものだからね。情報は必ず自分の目で見て判断する。これ、大事だよ」
「なるほど、リンネはたまに良いことを教えてくれますよね」
「たまに、は余計だよ」
「たまに、です」
そこは譲ってやらないぞ、とレイは言う
「へいへい、レイ君そろそろ出発した方がいいんじゃないかい?」
「あ!!そうでした。それではリンネ、貴重な情報をどうもありがとうございました」
そう言ってレイは管理者部屋を後にした。
残されたリンネはいつもの怪しい笑みを浮かべる。
「ナニモイミナンテナイヨ」
―――地球、ラルゴの牧場
「おはようございます!!」
レイが顕現と同時に挨拶をする。しかし、いつもはラルゴからの挨拶が返ってくるのだが、今日は返って来なかった。
「別の場所で仕事をしているのでしょうか?」
レイはそう言うと牧場の中をラルゴを探して歩き回る。しかし、どこを探してもラルゴの姿はなく、それどころかいつも一緒に仕事をしていたラルゴの妻のベラの姿も見当たらない。レイはどうしたものかと考えた結果。
「索敵しましょう」
そう言ってラルゴの魂から漏れるマナの反応を索敵するが、何故かどこにもラルゴの気配が存在しない。
いやな予感がする。レイは索敵範囲を思いきって地球全体に拡大。その結果。
「感じない」
つまりラルゴは地球上にはいないということになる。いや、そんなことはない。ラルゴは地球から出る術など持ち合わせていないはずだ。
レイのいやな予感が確信に変わりつつあったその時。
「主!!」
レイのことを呼ぶ女性の声が聞こえた。レイはその声に聞き覚えがあった。
「ベラ!!」
レイが声のする方に振り向くと、レイから少し離れた場所からレイに向かって手を振り、レイのことを呼ぶ女性の姿があった。
「ベラ、そんなに慌てて、一体どうしたのですか?」
ベラはその顔を涙で濡らし、縋るようにレイのローブを掴む。
「主!!ラルゴ、ラルゴの奴が……」
「ラルゴが一体どうしたのですか?」
「ラルゴが崖から落ちて死んじまったんだよ」
「そんな……」
レイの嫌な予感が的中。ラルゴはすでに返らぬ人となっていた。
「と、兎に角ラルゴの元まで案内してください!!」
「ああ、こっちだよ」
レイはベラに連れられてラルゴが落ちたという崖下まで向かって行った。
レイたちがラルゴの落ちたという崖下まで来ると、そこには数人の人だかりが出来ていて、各々が泣いたり、ショックを受けたりと様々な反応を見せていた。
「ラルゴ……」
レイがラルゴの遺体を見る。ラルゴの遺体の顔は驚愕の表情に満ちており、それだけ崖からの落下が突然のことであったことがうかがえた。
「ラルゴの奴、どうしてあんな所に行ったんだ」
レイがその声に反応し、顔を上げるとそこにはラルゴに似た顔をした男性が悲しそうな表情をして立っていた。
「あなたは?」
レイがその男に訊くと、レイの隣にいたベラが答えた。
「エルバだよ。朝方にエルバの所に行ったラルゴが中々帰ってこなかったからあたしがエルバの家に行ったら……」
「ラルゴはうちに来ていなかったのです。それで、心配になって近所の皆でラルゴのことを探していたら……」
「ここで亡くなっていたと」
ベラとエルバが頷いた。
気の毒に。そうレイが思い再びラルゴの遺体を見る。するとある違和感に気付いた。
「血が――」
「どうしたんですか?」
エルバがレイに訊く。
「エルバさん、ラルゴの遺体は動かしてはいないのですよね?」
「はい、あまりに突然のことで皆動揺してしまっていて……」
「――おかしい」
「え?」
「崖から落ちてここで亡くなっていたのならば、もっと出血しているはずです。なのに」
言ってレイは、ラルゴの遺体のすぐ横の地面を指差す。
「ほら見てください。地面にほとんど血がついていません。ラルゴがもしあそこの崖から落ちて、ここで亡くなっていたのならば大量の血が地面に流れ出しているはずです。それなのにここにはほとんど血が流れ出ていない」
「つまりどういうことだい?」
ベラが訊く。
「つまり、ラルゴはここで亡くなったわけではない、ということです」
その場にいた全員に動揺が広がる。
更にレイが「それに」と言い、ラルゴの遺体を触りその傷口を確かめる。
「やっぱり」
「主、何がやっぱりなんだい?」
更にベラが訊く。
「傷口の形状です。今ラルゴの遺体の頭の傷口を確認してみたのですが、この傷口は落下の衝撃でついた傷口ではありません。もっとこう、斧や鉈といった重い刃物で付けられた傷口です」
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