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第8章~アウリスの大森林~

第58話 アウリスの大森林~エルフの奴らってあんまりアタシと合わないんだよな~

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「エルフなんているんですか!?」

「いるに決まっているだろう。ああ、そういえばルナは異世界人だったな」

「そうですよ、忘れてたんですか?」

「ルナはこの世界にだいぶ馴染んでいるからな。失念していた」

 ガルシアさんは微笑みながらそう言う。確かに転移当初から見れば今の私は恰好も最初の領地でこの世界の物に着替えさせてもらったし、それ以外の姿はこの世界の人たちと遜色ない。ガルシアさんが失念してしまうのも頷ける。

「エルフってどこかの国に属するような種族ってイメージがないんですけど、王国民なんですね」

 私がそう言うとガルシアさんは少し考え込むような仕草をして口を開いた。

「そこが、少しややこしくてな、実はアウリスの大森林に住むエルフは王国民というわけではないのだ」

「そうなんですか?でも、アウリスの大森林は王国領なんでしょう?」

「王国法上はな」

 ガルシアさんの含みのある言い方に私は首を傾げる。王国法上ということは実際は違うということだ。

「なんぞきな臭い話でもあるんですか?」

「そんなことはないぞ。ただ、アウリスの大森林にエルフが住んでいることを王国は黙認しているだけの話だ」

 なるほどそれで私には話せなかったというわけか。アウリスの大森林は王国法上では王国領となってはいるものの、実質アウリスの大森林を管理しているのはエルフなわけで、それが国外に漏れては王国の威信に関わる。確かにある程度の信用が置ける人間でなくてはそんなことは話せないわけだ。

「なるほど、それで私には話せなかったわけですね。でも、アウリスの大森林に着いてしまったら話すも何もなかったのではないですか?」

「その時は、ルナとサジ殿を置いて、残った者たちのみでアウリスの大森林に入るつもりだったんだ」

「それってだいぶひどくないですか?」

「アウリスの大森林の近くには小さいが村もある。そこで2,3日待機してもらう予定だったのだ。全然ひどくはないだろう」

「それならば、納得は出来ますけどサジさんは何故ですか?」

「サジ殿には次の目的地はアウリスの大森林であることしか教えてはいないからな。もっともサジ殿の反応からしてサジ殿はアウリスの大森林にエルフが住んでいることを知っているようだったがな」

「だったらサジさんも一緒で良いんじゃないですか?」

「それは大人の事情というやつだ。今回の姫様のアウリスの大森林への訪問は非公式な訪問ということにはなっているが、エルフ側としては公式な訪問となる。そんな場に臨時の護衛隊員を連れて行くわけにはいかんのだ」

「ややこし過ぎやしませんかねそれ」

「言ったろう大人の事情だと、大人の事情とはすべからくしてややこしいものなのだ」

「そんなものなんですかねぇ」

「そんなものなのだ」

 サジさんの件については理解した。だけどまだ一つ私にはわからないことがある。

「でも、どうして王国はエルフの存在を隠すような真似を?」

「それはだな、エルフ側からの要請があったからなのだ。自分たちの存在を隠してくれとな」

「それはまたどうして……」

「エルフを知らないルナに説明するがエルフは耳が長くて長命という特徴がある。」

 それは私の浅いファンタジー知識でも知っていることだ。それがこの世界のエルフの特徴と合っているということは恐らくもう一つの身体的特徴が肝なのだろう。

「そしてもう一つの特徴それがエルフが身を隠す最大の理由になっている」

「エルフは美男、美女ぞろいというところですか?」

 私がそう言うと、ガルシアさんは目を丸くする。

「なんだ、ルナはエルフに会ったことでもあるのか?」

「ありませんよ、ただ、私のいた世界でもエルフは長い耳と美貌をもった寿命の長い種族と伝わっているだけです」

「エルフがいないのにか」

「エルフがいないのにも関わらずです」

 その辺は本当に不思議な話というよりご都合主義のような何かを感じるのだが、こうして異世界転移させられた身としては、きっと私の世界に過去エルフが異世界転移させられたとかそういう理由でもあるのだろう。

「まあエルフの特徴を知っているのであれば、話は早い。実はその美男、美女ぞろいというのが問題でな過去にこの世界ではエルフ狩りという悪習が流行った時期があるのだ」

「つまり、そのエルフ狩りから自分たちを守るためにエルフはアウリスの大森林に住みつくようになって王国にも助けを求めたということですか?」

「それは少し違う。実はアウリスの大森林はとてつもなく厄介な場所でな、ときおりモンスターのスタンビートを起こしていてな、それにより王国は少なくない被害を受けていたのだ。ところがそこに目を付けたエルフたちがアウリスの大森林に住んで森の様子を監視し続ける代わりにアウリスの大森林に非公式に住まわせろと言って来たのだ」

「それはまた……」

 豪胆な種族だと思う。だってそうでしょう、たった一つ少数民族が一つの国相手に、それも当時エルフ狩りという憂き目にあっていた種族がだ、対等に交渉に臨んだのだから。

 私はエルフという種族への認識を改めなければならないだろう。私がそう思い言葉を噤んでいると、ガルシアさんがフッと笑みをこぼした。

「中々豪胆な種族だろう?」

「はい、そう思います――それでロレーヌはそんなエルフに何の用事で会いに行くのですか?」

「それこそ時期国王としての務めのためだ。エルフの族長に直接会い、現在のアウリスの大森林の状況と盟約の更新、これが今回の姫様のするべき務めの一つだ」

「なるほどそれは大事な務めですね」

「だからお前もいつもより注意して姫様の護衛に当たるようにするんだぞ」

「了解です!!」

 こうして私はロレーヌの非公式で公式な役目という複雑な役目に帯同することになったのであった。 
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