白銀の王

春乃來壱

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18.紅色の石。

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ーー紅い石を大切そうに両手で握ったままのむいとそれを見つめたまま動かないフィーに、碧が何か声を掛けようと考えていると突然地面が激しく揺れ始めた。

「うわっ!?え、地震?!」

突如起こった揺れに耐えきれず、ダンジョンが崩れ出し天井から石がガラガラと落ちてくる。

「…【】!」

輝璃が咄嗟の判断で言霊を使い、碧達の周りだけ崩壊が止まる。だがそれも所詮数秒間だけ先延ばしにしただけだったが、輝璃はその間にむいを抱き上げ碧に向かって叫ぶ。

「…碧!もうもたない、転移して!」

「わかった!…【転移】」

その一言で輝璃の意図を察した碧は急いで転移をする為に動き出す。
双子ふたりがフィーとむいを連れて碧に触れていてくれていたのですぐに魔法を発動させる。

一瞬の浮遊感に襲われ景色が一変し、5人は最初にフィーが転移した時の遺跡ダンジョンの入口から少し離れた場所に立っていた。

遺跡ダンジョンの方に目をやると岩が崩れ落ち入口が塞がっていくのが見えた。
あと少し脱出が遅れていたら碧達もあれに潰されていたのかと思うとゾッとする。

「び、びっくりしました」

「本当に、まさか崩れるとは思わなかった」

「…フィー、むい、怪我は?」

「だいじょーぶ…」

「あ…僕も大丈夫っす」

返事をする2人の声は暗い。
輝璃がむいを安心できるように雪と一緒に近くにあった岩場に座らせる。雪が撫でていると少し落ち着いたのかそのまま眠ってしまった。

それを見たフィーが気持ちを落ち着かせるように1度だけ深呼吸をしてから口を開いた。

「気を使わせちゃってごめんっす。もう平気っす」

「…本当に、大丈夫?」

「もう落ち着いたから大丈夫っす」

フィーがそう言いながらいつものように笑っていたので輝璃はそれ以上の追求を諦める。
するとフィーはむいの方を見てから“エド兄ちゃん”について話してくれた。

「エド兄ちゃんは僕らの家族だった人っす。親は違うっすけど」

「親が違うけどお兄ちゃん…」

碧がそれを聞いて真っ先に思いついたのは輝璃で、横に立つ輝璃を見ると視線に気づき頭を撫でてくる。

「正確にはお兄ちゃんみたいな存在だった、って感じっすかね。フェンリルの中では僕とむいは幼い方だったんでエド兄ちゃんがよく遊んでくれて。むいは特に、懐いてたっすから…」

「…あの石が、エド兄ちゃんに関係してるの?」

「あれからエド兄ちゃんの気配がするんす」

「でも、なんで石から?」

原因がわからず考え込んでいると輝璃が“もしも”と前置きしてから話し始めた。

「…石の中に魔力を封じ込めたら、出来るんじゃないかな。それなら石から気配がしたとしてもおかしくはない、かも」

「魔力を封じ込めるってなんのためにそんなこと」

「…帝国が白銀狼フェンリルを襲ったのは、力を奪うため。その力を使う為に生み出した、とか」

“ただの憶測でしかないけど”と言う輝璃をフィーが肯定する。

「あり得ると思うっす。魔力を結晶化する魔法もあるっすし、あいつらは僕らフェンリルの血や瞳は使えるって言ってたっす」

「でもなんでそれがダンジョンに?」

「もしもフェンリルの力を結晶石に封じ込められたのなら、なんであいつらが結晶石にいちゃんを手放したのか…それがわからないんす」

「輝璃、何かわかる?」

碧に聞かれた輝璃が何かを言おうと口を開き、戸惑うように視線を泳がせ何も言わずに閉ざした。

「カガリくん?」

その様子を不思議に思ったフィーが心配そうに見つめると、輝璃は迷いながら口を開く。

「…フィー、あの遺跡ダンジョンはいつからある?」

「え?10年前に急に出来たって聞いてるっすけど」

「ダンジョンと何か関係あるの?」

「…うん。俺の考えが正しかったらダンジョンは実験場、だから」

「…実験場ってなんのっすか?」

「…本当に、結晶化したまま使のかどうかの実験。きっとそれの第1段階がダンジョンの“核”だったんじゃないかな」

「あ、だから俺が結晶石を引き抜いた途端にダンジョンが崩れた…?」

そうだとしたら急にダンジョンが崩れた理由も説明がつくし、ダンジョンを形成するために1番大事なパーツが取られたから崩れてしまったと考えれば辻褄が合う。

思い出したように呟いた碧に、輝璃は頷く事で肯定する。

「でもじゃあなんで成功したってわかったのに何年も回収されなかったんすか?」

「…地下に降りた時に、壁に傷がついてる所が何ヶ所かあった。だから少なくとも1度は帝国の奴らも取りに来てるはず、だと思う」

じゃあなんで、と問おうとする碧の表情を読んだのか輝璃が“でも”と言葉を続ける。

「たぶん、結晶石を囲む蔦が邪魔して、回収したくてもできなかった。帝国の奴らもあの蔦に関しては計算外だったんじゃないかな」

確かにあの蔦は再生力が高すぎて進んでいくのはかなりきつかった。
碧が納得していると、輝璃が “ごめんね”と謝りだす。

「どうして謝るんすか?」

「…俺の話は、フィーにとって気分のいいものじゃなかったでしょう?」

「…そうっすね。でもエド兄ちゃんは取り返せたっすし、その原因も少しだけどわかったっす。それにまだ何処かにいる家族も見つけられるかもしれないんすよ?」

“これは輝璃くんがいなかったらわからなかった事なんすよ”とフィーは笑いながら輝璃の頭を撫でる。

「…ん。なら、よかった」

「はいっす。もしかしたら帝国以外にも渡ってる可能性もあるっすし、時間がかかったとしても取り戻してみせるっす」

「…俺らも手伝う」

「本当っすか?それは頼もしいっす」

輝璃とフィーの顔に笑みが浮かぶのを見て碧もほっとして頬が緩む。雪達の方を向くとちょうどむいが起きたようで、雪と一緒に立ち上がっている所だった。

碧達が視線を向けるとむいは“お腹空いたねぇ”と少し恥ずかしそうに笑った。


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