151 / 165
秋
別荘ライフ
しおりを挟む
”白キノコ”の後にカインが見たがっていた刀傷のついた大木にも寄って、コルンの観光は一旦終わりだ。
おかえりなさい、と出迎えたのはアマンド様のお母さまだ。
本当はカインと入れ違いで王都に戻る予定だったけれど、予定を変えてそのまま別荘に滞在することにしたらしい。
カインは別荘での暮らしを満喫しているようだ。
アマンド様の護衛の鍛錬にもちゃっかり参加している。
田舎暮らしに飽きる様子もなく、「ここにいる間に体鍛えることにしたから」と、暇さえあれば護衛の皆さんと一緒に鍛錬に励んでいる。
私は相変わらず左腕を固定しなければならなかったから、不自由がないように、別荘の使用人も色々と気遣ってくれる。
さて、今日はカインの希望で近くの川へ釣りに来ている。
最初は張り切って釣り糸を垂らしていたカインだったが、なかなか釣果が出ず飽きてしまったらしい。
自分の釣竿を私に預けて、今はサワガニ捕りに夢中だ。
「姉さーん!これで15匹目!」
笑顔で手を振るカインに手を振り返す。
「あんなに大声だしたらお魚が逃げちゃうわ」
「楽しそうで何よりだよ。それにあのカニ、フリットにして塩をかけて食べるとうまいんだ。」
アマンド様がエサを付け替えて静かに釣り糸を垂らすと、水の流れる音が心地いい。
心と体がすっかりほどけているのを感じる。
ああ、ずっとこうしていたいなぁ。
キラキラ光る水面をぼーっと眺めていると、「レイリア、」と名を呼ばれた。
「もうすぐ2週間経つけど・・もしよければもう1週、こっちで過ごさないか?」
こちらに来て1週目は、療養でほぼ別荘から出れなかった私のために、ずっと考えていてくれたらしい。
「でもお仕事は・・?」
「実はすでに休暇延長の打診をしていて、通りそうな見込みなんだ。リアさえ良ければ、俺ももう少しこっちで休みたい。どう?」
「私も!私もまだお休みしたいです!」
嬉しくて嬉しくて、つい早口になってしまう。
「そしたら、カインが王都に戻る時に、俺も一旦王都に戻るよ。リアのお父上にも挨拶したいし、休暇の延長を申請してくる。次の日には戻ってくるから、それまで母上とゆっくりしててくれ。母上もずっとこっちにいる予定だから。・・っと」
アマンド様が釣竿を大きく前後に動かすと、竿が大きくしなった。
「え、もしかして魚ですか?」
「だな。」
彼が難なく釣り上げたのは、イワナという魚だった。
桶で泳ぐ姿を見にカインが戻ってくる。
「おおー思ったより小さいな。」
「川魚は大体それくらいのサイズだぞ。カインもそろそろ釣りに戻るか?」
「そーだなー。サワガニあと2匹とれたら30行くから、そしたら代わろうかな。」
ピンピンと手に振動を感じて竿に目を移すと、私の竿が僅かにしなっている。
「アマンド様、来てください!竿が!」
なにしろ右手1本で竿を握っているのだ。
早く代わってもらわないと!
アマンド様は持っていた竿をカインに押し付け、私の後ろに立って竿をそのまま握り込んできた。
「リア、一緒に釣ろう」
竿先がグッと引き込まれ、糸が左右に走り出す。
「わ、わ」
引かれる方向に合わせて、何度か竿を動かしてからアマンド様の合図でグッと引き上げる。
ようやく姿を現したその糸の先には・・
「キャアッ!へ、ヘビ!」
ニョロニョロと体をくねらせる、黒いヘビで仰天した。
カインも目を丸くしている。
アマンド様がクスッと笑う。
「まさかここで釣れるとは・・リア、あれはウナギっていうんだ」
「ウナギ・・?」
「歴とした魚だよ。美味いぞ。母上の大好物だ。カイン、そこの布を取ってくれ。」
アマンド様が布を使って桶に入れていく。
ヌルヌルしていて、素手だと掴めないらしい。
「本当に美味しいんですか?」
ていうか、ほんとにヘビじゃないんですね?
「ポワレにして、山椒とペッパーのソースで食べるのが母上のお気に入りだな。喜ぶぞ」
桶の中を忙しなく行き来するウナギを恐る恐る見てみると、真っ黒だと思ったその体は微かに青みを帯びている。
ヘビにはないヒレを見つけてようやく納得した。
「あ!アマンド!こっちにも来た、来た!当たりだ!」
カインの持つ釣竿も大きくたわむ。
はしゃぐカインの声。
その後、私達はさらにイワナを4匹釣り上げて、誇らしげに帰宅したのだった。
おかえりなさい、と出迎えたのはアマンド様のお母さまだ。
本当はカインと入れ違いで王都に戻る予定だったけれど、予定を変えてそのまま別荘に滞在することにしたらしい。
カインは別荘での暮らしを満喫しているようだ。
アマンド様の護衛の鍛錬にもちゃっかり参加している。
田舎暮らしに飽きる様子もなく、「ここにいる間に体鍛えることにしたから」と、暇さえあれば護衛の皆さんと一緒に鍛錬に励んでいる。
私は相変わらず左腕を固定しなければならなかったから、不自由がないように、別荘の使用人も色々と気遣ってくれる。
さて、今日はカインの希望で近くの川へ釣りに来ている。
最初は張り切って釣り糸を垂らしていたカインだったが、なかなか釣果が出ず飽きてしまったらしい。
自分の釣竿を私に預けて、今はサワガニ捕りに夢中だ。
「姉さーん!これで15匹目!」
笑顔で手を振るカインに手を振り返す。
「あんなに大声だしたらお魚が逃げちゃうわ」
「楽しそうで何よりだよ。それにあのカニ、フリットにして塩をかけて食べるとうまいんだ。」
アマンド様がエサを付け替えて静かに釣り糸を垂らすと、水の流れる音が心地いい。
心と体がすっかりほどけているのを感じる。
ああ、ずっとこうしていたいなぁ。
キラキラ光る水面をぼーっと眺めていると、「レイリア、」と名を呼ばれた。
「もうすぐ2週間経つけど・・もしよければもう1週、こっちで過ごさないか?」
こちらに来て1週目は、療養でほぼ別荘から出れなかった私のために、ずっと考えていてくれたらしい。
「でもお仕事は・・?」
「実はすでに休暇延長の打診をしていて、通りそうな見込みなんだ。リアさえ良ければ、俺ももう少しこっちで休みたい。どう?」
「私も!私もまだお休みしたいです!」
嬉しくて嬉しくて、つい早口になってしまう。
「そしたら、カインが王都に戻る時に、俺も一旦王都に戻るよ。リアのお父上にも挨拶したいし、休暇の延長を申請してくる。次の日には戻ってくるから、それまで母上とゆっくりしててくれ。母上もずっとこっちにいる予定だから。・・っと」
アマンド様が釣竿を大きく前後に動かすと、竿が大きくしなった。
「え、もしかして魚ですか?」
「だな。」
彼が難なく釣り上げたのは、イワナという魚だった。
桶で泳ぐ姿を見にカインが戻ってくる。
「おおー思ったより小さいな。」
「川魚は大体それくらいのサイズだぞ。カインもそろそろ釣りに戻るか?」
「そーだなー。サワガニあと2匹とれたら30行くから、そしたら代わろうかな。」
ピンピンと手に振動を感じて竿に目を移すと、私の竿が僅かにしなっている。
「アマンド様、来てください!竿が!」
なにしろ右手1本で竿を握っているのだ。
早く代わってもらわないと!
アマンド様は持っていた竿をカインに押し付け、私の後ろに立って竿をそのまま握り込んできた。
「リア、一緒に釣ろう」
竿先がグッと引き込まれ、糸が左右に走り出す。
「わ、わ」
引かれる方向に合わせて、何度か竿を動かしてからアマンド様の合図でグッと引き上げる。
ようやく姿を現したその糸の先には・・
「キャアッ!へ、ヘビ!」
ニョロニョロと体をくねらせる、黒いヘビで仰天した。
カインも目を丸くしている。
アマンド様がクスッと笑う。
「まさかここで釣れるとは・・リア、あれはウナギっていうんだ」
「ウナギ・・?」
「歴とした魚だよ。美味いぞ。母上の大好物だ。カイン、そこの布を取ってくれ。」
アマンド様が布を使って桶に入れていく。
ヌルヌルしていて、素手だと掴めないらしい。
「本当に美味しいんですか?」
ていうか、ほんとにヘビじゃないんですね?
「ポワレにして、山椒とペッパーのソースで食べるのが母上のお気に入りだな。喜ぶぞ」
桶の中を忙しなく行き来するウナギを恐る恐る見てみると、真っ黒だと思ったその体は微かに青みを帯びている。
ヘビにはないヒレを見つけてようやく納得した。
「あ!アマンド!こっちにも来た、来た!当たりだ!」
カインの持つ釣竿も大きくたわむ。
はしゃぐカインの声。
その後、私達はさらにイワナを4匹釣り上げて、誇らしげに帰宅したのだった。
358
あなたにおすすめの小説
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜
h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」
二人は再び手を取り合うことができるのか……。
全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)
家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた
今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。
二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。
ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。
その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。
が、彼女の前に再びアレクが現れる。
どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。
有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。
けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。
絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。
「君は決して平凡なんかじゃない」
誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。
政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。
玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。
「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」
――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる