大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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別荘ライフ

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”白キノコ”の後にカインが見たがっていた刀傷のついた大木にも寄って、コルンの観光は一旦終わりだ。

おかえりなさい、と出迎えたのはアマンド様のお母さまだ。

本当はカインと入れ違いで王都に戻る予定だったけれど、予定を変えてそのまま別荘に滞在することにしたらしい。

カインは別荘での暮らしを満喫しているようだ。

アマンド様の護衛の鍛錬にもちゃっかり参加している。

田舎暮らしに飽きる様子もなく、「ここにいる間に体鍛えることにしたから」と、暇さえあれば護衛の皆さんと一緒に鍛錬に励んでいる。

私は相変わらず左腕を固定しなければならなかったから、不自由がないように、別荘の使用人も色々と気遣ってくれる。



さて、今日はカインの希望で近くの川へ釣りに来ている。

最初は張り切って釣り糸を垂らしていたカインだったが、なかなか釣果が出ず飽きてしまったらしい。

自分の釣竿を私に預けて、今はサワガニ捕りに夢中だ。

「姉さーん!これで15匹目!」

笑顔で手を振るカインに手を振り返す。

「あんなに大声だしたらお魚が逃げちゃうわ」

「楽しそうで何よりだよ。それにあのカニ、フリットにして塩をかけて食べるとうまいんだ。」

アマンド様がエサを付け替えて静かに釣り糸を垂らすと、水の流れる音が心地いい。

心と体がすっかりほどけているのを感じる。

ああ、ずっとこうしていたいなぁ。

キラキラ光る水面をぼーっと眺めていると、「レイリア、」と名を呼ばれた。

「もうすぐ2週間経つけど・・もしよければもう1週、こっちで過ごさないか?」

こちらに来て1週目は、療養でほぼ別荘から出れなかった私のために、ずっと考えていてくれたらしい。

「でもお仕事は・・?」

「実はすでに休暇延長の打診をしていて、通りそうな見込みなんだ。リアさえ良ければ、俺ももう少しこっちで休みたい。どう?」

「私も!私もまだお休みしたいです!」

嬉しくて嬉しくて、つい早口になってしまう。

「そしたら、カインが王都に戻る時に、俺も一旦王都に戻るよ。リアのお父上にも挨拶したいし、休暇の延長を申請してくる。次の日には戻ってくるから、それまで母上とゆっくりしててくれ。母上もずっとこっちにいる予定だから。・・っと」

アマンド様が釣竿を大きく前後に動かすと、竿が大きくしなった。

「え、もしかして魚ですか?」

「だな。」

彼が難なく釣り上げたのは、イワナという魚だった。

桶で泳ぐ姿を見にカインが戻ってくる。

「おおー思ったより小さいな。」

「川魚は大体それくらいのサイズだぞ。カインもそろそろ釣りに戻るか?」

「そーだなー。サワガニあと2匹とれたら30行くから、そしたら代わろうかな。」

ピンピンと手に振動を感じて竿に目を移すと、私の竿が僅かにしなっている。

「アマンド様、来てください!竿が!」

なにしろ右手1本で竿を握っているのだ。

早く代わってもらわないと!

アマンド様は持っていた竿をカインに押し付け、私の後ろに立って竿をそのまま握り込んできた。

「リア、一緒に釣ろう」

竿先がグッと引き込まれ、糸が左右に走り出す。

「わ、わ」

引かれる方向に合わせて、何度か竿を動かしてからアマンド様の合図でグッと引き上げる。

ようやく姿を現したその糸の先には・・

「キャアッ!へ、ヘビ!」

ニョロニョロと体をくねらせる、黒いヘビで仰天した。

カインも目を丸くしている。

アマンド様がクスッと笑う。

「まさかここで釣れるとは・・リア、あれはウナギっていうんだ」

「ウナギ・・?」

「歴とした魚だよ。美味いぞ。母上の大好物だ。カイン、そこの布を取ってくれ。」

アマンド様が布を使って桶に入れていく。

ヌルヌルしていて、素手だと掴めないらしい。

「本当に美味しいんですか?」

ていうか、ほんとにヘビじゃないんですね?

「ポワレにして、山椒とペッパーのソースで食べるのが母上のお気に入りだな。喜ぶぞ」

桶の中を忙しなく行き来するウナギを恐る恐る見てみると、真っ黒だと思ったその体は微かに青みを帯びている。

ヘビにはないヒレを見つけてようやく納得した。

「あ!アマンド!こっちにも来た、来た!当たりだ!」

カインの持つ釣竿も大きくたわむ。

はしゃぐカインの声。

その後、私達はさらにイワナを4匹釣り上げて、誇らしげに帰宅したのだった。









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