大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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急転直下

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「いーち、にー、さーん!押せー!」

ギシッギシッミシッと軋みながら、ようやく車体が動き出す。

いける・・!

「そのまま押せー!押せー!」

渾身の力を込めて推し続けると、車輪は差し込んだ木の板に乗り上げ、ガタンと大きく前進した。

「よしっ!」

道を塞いでいた大きな荷馬車をようやく動かせることができ、ほっとする。

しっかりぬかるみにはまり込んでしまった車輪は押しても引いてもどうにもならず、途中で馬をもう一頭加えるなどしていたので、半刻以上かかってしまった。

これで先へ進める。

服はだいぶ汚れてしまったが、これで陽のあるうちに着けそうだ、と胸を撫で下ろしたのも束の間、護衛騎士たちがざわついていることに気がついた。

「どうした?」

「若様、実は行商人が見当たらなくて・・」

行商人が?

「さっきまで馬を引いていたんじゃないのか?」

「それが、めまいがするって言うので、ちょっと前から休ませていたんです」

周囲は深い森で、脇道もない。自分から身を隠そうとしない限りすぐに見つかりそうなものだが・・

ああ、と護衛の1人が手を打った。

「奥方を馬車に迎えに行ったのでは?見てきます!」

そう言って駆け出す若い護衛に、護衛騎士の長のオーエンが鋭い声を挙げた。

「ちょっと待て!まさか、お嬢様と同じ馬車に案内したのか!?」

オーエンと俺は顔を見合わせ、そして同時に、剣を抜きながら馬車に向かって走り出した。

大きな荷馬車には少し不釣り合いに思える痩せた老馬。

護衛も付けずに夫婦だけで荷を運ぶ行商。

大事な商品があるはずの荷馬車から離れ、行方の知れない行商人。

感じていた違和感が、急速に結びついていく。

どうか・・どうか思い違いであってくれ!

馬車の周囲に、控えているはずの護衛が見えず、思わず叫んだ。

「レイリア!」

呼びかけても答えはない。

剣を構え、ドアを開けるが、すでにそこはもぬけの殻だった。

「・・くそっ!」

「総員!周囲を警戒しながら手がかりを探せ!若様、隊を編成し直します。ここから西へ離宮があるので、早馬を出して、王宮騎士団に助力を願い出ましょう。手がかりを探してーー」

オーエンが発する言葉が上滑りしていく。

ここにレイリアがいない。その事実に、到底冷静でいられない。

馬車に繋がれていた残る1頭を外しにかかる。

「なりません!この深い森に入るのは自殺行為です。きっと奴らも手前のY字路まで戻ったはず!道のどちらへ向かったかまでは予想できません!」

こうしている間にも陽は暮れ、リアが遠ざかってしまう。

周囲に血痕はなかった。攫ったと言うことは、すぐに害する気はないはずだ。

女手ひとつでレイリアを連れ出せるはずがない。あの行商人もグルで間違いない。

それならきっと、もう一台馬車を用意しているはず。

Y字路まで戻れば、きっと、道に轍が残っているはずだ。

「若様!1人では危険です!くそっ誰か!俺にも馬を!」

オーエンの制する声に構わず、俺は馬に跨り走り出した。




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