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秋
荷造り
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アマンド様の別荘に向かう日が近づくにつれて、落ち込んでいた気持ちが、少しずつ上向いてくる。
出発を明後日に控えて、私は荷造りに勤しんでいた。
キーラに手伝ってもらって、持ち物を厳選する。
「キーラ、そんなにドレスは持っていけないわ。あっても使わないんじゃないかしら。それにワンピースもさすがにこんなには・・」
「いいえ、お嬢様。あちらは大奥様がいらっしゃるんですよ?それに、2週間もあるんですから!万事に備えるべきです!」
別荘では身の回りのことも含めてガーナー家のご厄介になるので、うちから付き添いはない。
不足のないように荷造りしたいところではあるけれど、既にワンピースの枚数は日数分を超えている。
うーむ、絶対に多すぎる。
「馬車の中で刺繍はやっぱり無理よね」
「山道ですから、無理ですね。」
「刺繍ができたら、バザーの品物もかなり進むと思ったんだけど・・」
「クラブには、お休みだとお伝えになってるんですし、今回は作るのはお休みになったらいかがですか?」
「それでも、ね。移動に6時間もかかるし・・」
先日の一件以来、私はクラブを休んでいるが、バザーの品物だけはコツコツと作り溜めていた。
休む理由に体調不良を挙げ続けるのもさすがに気が引けて、今回は婚約者の別荘で休暇を過ごすのだと正直に伝えている。
クラブ長のビシュヌ様からは活動もお休みで構わないと気遣ってもらったけれど、むしろ気分転換になるので出来る範囲でバザー向けの刺繍グッズを作成している。
「6時間なんてお2人でいたらあっという間ですよ、きっと道中は・・」
「あ、出かける時間だわ」
キーラのニヤつきを無視して、私は立ち上がった。
「今日はお城ですか・・すっかりお嬢様はお忙しいですね」
今日はこれから、王宮へ行く予定だ。
多忙を極める一国の王太子が、乗馬インストラクターをするために毎週マルグリット家へ通えるはずもなく、今週はジュディ様が黒馬エリザベータを伴い王宮へ習いに行くのだと言う。
ジュディ様は筋がいいらしく、もう速足もマスターしてしまった。
私は楽しそうに教わるジュディ様を傍で見学するだけだし、もう立ち会う必要は無いように思うのだけど、ジュディ様は「レイリアが一緒じゃ無いと殿下と2人で会ってはいけないと言う約束ですもの」と頑なだ。
そもそも、殿下がジュディ様とお会いになるのを解禁されたのは夏の話だ。
その時は「2人きりじゃないなら会ってもいい」とマルグリット侯爵が許可したらしいけど、もう私なしでもお2人で会えばいいと思う。側近だって護衛だっているんだし、2人きりじゃない状況を望むなら、それは私でなくても良いはずだ。
とは言え、殿下も私が立ち会うことに異を唱えないので、結局毎回私は乗馬を上達させるジュディ様を見に行きながら、エリザベータからの毎度の催促により、ブラッシングの腕を上達させている。
**********************************
「レイリア様」
王宮に着いて、徒歩で馬場に案内されていると、見知った声が聞こえた。
黒い騎士服のディフィート様がこちらに歩み寄ってくるので、お行儀良くカーテンシーをする。
「いつも妹が申し訳ない。」
その口ぶりから、私が乗馬レッスンに付き添うためにここに現れたのはご存知のようだった。
「ディフィート様も今日はお付き添いに?」
「いえ、あなたが来るのを待っていました。この間の夜会がとても楽しかったので、そのお礼に」
ニッコリと笑われるが、その美しい顔よりも、あの夜、令嬢にあるまじくお酒に酔って記憶をなくした失態に気が取られた。
「あ、ハイ、その節は・・こちらこそありがとうございました。私も楽しかったです」
「ダンスに心躍ったのは本当に久しぶりでした。それで・・実は、いいワインが手に入ったんです」
「はい?」
「アイスワインをご存知ですか?とても甘くて飲みやすいんです。今度、我が家にいらした時に少しお飲みになりませんか?」
「アイスワイン・・」
それはクラブの友人が、いつか飲んでみたいと騒いでいた女性に人気のお酒では無いだろうか。
他国からわざわざ取り寄せないといけないし、人気があるので予約分で売り切れてしまい滅多に手に入らないのだとか。
「レイリア様がいらした時に開けませんか?母と私と飲みましょう。ジュディも喜びます。日取りはー」
「お兄様、私をダシに使うのはやめてくださらない?」
いつの間にか乗馬服のジュディ様が後ろに立っていた。
「レイリア、気をつけなさい。お兄様はお酒に酔ったあなたを愛でたくてしょうがないんだから」
「な・・っ!」
ディフィート様は眉をひそめる。
「ジュディ・・兄の楽しみを奪ってはいけないよ」
「レイリアは私と参ります。お兄様はもうお仕事にお戻りになっていただいて結構ですわ。それでは」
手を取られ、ジュディ様にぐいぐいと連れて行かれる私に、ディフィート様が声をかける。
「レイリア様、アイスワインは取っておきますから、今度是非」
「結構です!」
聞こえていないのか、ニコニコと手を振るディフィート様が遠ざかっていく。
「レイリア、多分あの人、すぐには諦めないわ。いい?いくら美味しそうに見えても、出されたものをこれまでみたいにすぐ口にしてはダメよ?わかった?」
子どもに諭すように言い含められる。
・・・ジュディ様の中で、私の扱いはどうなってるんですか。
思わず遠目になると、向こうの馬場で私の姿を見とめたエリザベータが、後ろ足をカツカツやり出すのが見えて、私はため息をついたのだった。
出発を明後日に控えて、私は荷造りに勤しんでいた。
キーラに手伝ってもらって、持ち物を厳選する。
「キーラ、そんなにドレスは持っていけないわ。あっても使わないんじゃないかしら。それにワンピースもさすがにこんなには・・」
「いいえ、お嬢様。あちらは大奥様がいらっしゃるんですよ?それに、2週間もあるんですから!万事に備えるべきです!」
別荘では身の回りのことも含めてガーナー家のご厄介になるので、うちから付き添いはない。
不足のないように荷造りしたいところではあるけれど、既にワンピースの枚数は日数分を超えている。
うーむ、絶対に多すぎる。
「馬車の中で刺繍はやっぱり無理よね」
「山道ですから、無理ですね。」
「刺繍ができたら、バザーの品物もかなり進むと思ったんだけど・・」
「クラブには、お休みだとお伝えになってるんですし、今回は作るのはお休みになったらいかがですか?」
「それでも、ね。移動に6時間もかかるし・・」
先日の一件以来、私はクラブを休んでいるが、バザーの品物だけはコツコツと作り溜めていた。
休む理由に体調不良を挙げ続けるのもさすがに気が引けて、今回は婚約者の別荘で休暇を過ごすのだと正直に伝えている。
クラブ長のビシュヌ様からは活動もお休みで構わないと気遣ってもらったけれど、むしろ気分転換になるので出来る範囲でバザー向けの刺繍グッズを作成している。
「6時間なんてお2人でいたらあっという間ですよ、きっと道中は・・」
「あ、出かける時間だわ」
キーラのニヤつきを無視して、私は立ち上がった。
「今日はお城ですか・・すっかりお嬢様はお忙しいですね」
今日はこれから、王宮へ行く予定だ。
多忙を極める一国の王太子が、乗馬インストラクターをするために毎週マルグリット家へ通えるはずもなく、今週はジュディ様が黒馬エリザベータを伴い王宮へ習いに行くのだと言う。
ジュディ様は筋がいいらしく、もう速足もマスターしてしまった。
私は楽しそうに教わるジュディ様を傍で見学するだけだし、もう立ち会う必要は無いように思うのだけど、ジュディ様は「レイリアが一緒じゃ無いと殿下と2人で会ってはいけないと言う約束ですもの」と頑なだ。
そもそも、殿下がジュディ様とお会いになるのを解禁されたのは夏の話だ。
その時は「2人きりじゃないなら会ってもいい」とマルグリット侯爵が許可したらしいけど、もう私なしでもお2人で会えばいいと思う。側近だって護衛だっているんだし、2人きりじゃない状況を望むなら、それは私でなくても良いはずだ。
とは言え、殿下も私が立ち会うことに異を唱えないので、結局毎回私は乗馬を上達させるジュディ様を見に行きながら、エリザベータからの毎度の催促により、ブラッシングの腕を上達させている。
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「レイリア様」
王宮に着いて、徒歩で馬場に案内されていると、見知った声が聞こえた。
黒い騎士服のディフィート様がこちらに歩み寄ってくるので、お行儀良くカーテンシーをする。
「いつも妹が申し訳ない。」
その口ぶりから、私が乗馬レッスンに付き添うためにここに現れたのはご存知のようだった。
「ディフィート様も今日はお付き添いに?」
「いえ、あなたが来るのを待っていました。この間の夜会がとても楽しかったので、そのお礼に」
ニッコリと笑われるが、その美しい顔よりも、あの夜、令嬢にあるまじくお酒に酔って記憶をなくした失態に気が取られた。
「あ、ハイ、その節は・・こちらこそありがとうございました。私も楽しかったです」
「ダンスに心躍ったのは本当に久しぶりでした。それで・・実は、いいワインが手に入ったんです」
「はい?」
「アイスワインをご存知ですか?とても甘くて飲みやすいんです。今度、我が家にいらした時に少しお飲みになりませんか?」
「アイスワイン・・」
それはクラブの友人が、いつか飲んでみたいと騒いでいた女性に人気のお酒では無いだろうか。
他国からわざわざ取り寄せないといけないし、人気があるので予約分で売り切れてしまい滅多に手に入らないのだとか。
「レイリア様がいらした時に開けませんか?母と私と飲みましょう。ジュディも喜びます。日取りはー」
「お兄様、私をダシに使うのはやめてくださらない?」
いつの間にか乗馬服のジュディ様が後ろに立っていた。
「レイリア、気をつけなさい。お兄様はお酒に酔ったあなたを愛でたくてしょうがないんだから」
「な・・っ!」
ディフィート様は眉をひそめる。
「ジュディ・・兄の楽しみを奪ってはいけないよ」
「レイリアは私と参ります。お兄様はもうお仕事にお戻りになっていただいて結構ですわ。それでは」
手を取られ、ジュディ様にぐいぐいと連れて行かれる私に、ディフィート様が声をかける。
「レイリア様、アイスワインは取っておきますから、今度是非」
「結構です!」
聞こえていないのか、ニコニコと手を振るディフィート様が遠ざかっていく。
「レイリア、多分あの人、すぐには諦めないわ。いい?いくら美味しそうに見えても、出されたものをこれまでみたいにすぐ口にしてはダメよ?わかった?」
子どもに諭すように言い含められる。
・・・ジュディ様の中で、私の扱いはどうなってるんですか。
思わず遠目になると、向こうの馬場で私の姿を見とめたエリザベータが、後ろ足をカツカツやり出すのが見えて、私はため息をついたのだった。
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