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それぞれの御前試合

王子殿下の特命④一子相伝の女剣 リュシールデュール

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アルと高速船に乗り込み、更に南下する。

港に降りると、そこからは大陸内の移動になるので、長い馬車の旅だ。

移動中、シムさんが教えてくれたお祭りを2つばかり見ることができた。

様々なポーズをしながら神聖な滝壺へダイブする祭。

夜、先祖に向けて火のついたランタンを飛ばす慰霊のための祭。

夜のイベントなら、ランタンはいいかもな。

港まつり辺りで使えそうなアイディアだ。

楽しみながら、馬車で移動すること5日目。

「ココ、リュシールデュールのチヂェさんの家」

とうとう着いた!

チヂェさんは大きな瞳のエキゾチックな美女だった。

こっちの女性はドレスではなく、スレンダーなロングワンピースを着ていて、その下に、裾が窄まった形のトラウザーズを履いている。





『普段なら是非お受けする話だけどね、今回はごめんなさい』

「何とか参加する方向でご検討頂きたいんです。謝礼は弾みますんで、どうか!」

アルが通訳してくれているのをじっと待つ。

唯一の女性の剣舞なのだ。

何としても演目に入って欲しい!

『それがねぇ、私、その頃赤ちゃんが産まれてる予定なのよ。』

はて?と一瞬思考が止まり、チヂェさんのお腹を見る。

「え!?あ、いや、すみません。もしかしてご懐妊なんですか!?」

女性の腹をジロジロ見るなんて失礼だったと焦る俺に、チヂェさんはコロコロ笑って言った。

『そうそう。だからちょっと私が参加するのは難しいってこと。』

「そ、そうですか。オメデトウゴザイマス」

そっか・・じゃあリュシールデュールは無理だ。

諦めて、失礼しようとしたその時。

チヂェさんが何事かをアルに話している。

『これから娘が帰ってくるから、娘に頼んでみたら?』





帰宅した娘のピュイちゃんは16歳で、目元が涼しげな、これまた美人だった。

『はぁ!?そんなん行かないに決まってんでしょ!?』

母親であるチヂェさんが好意的な反応を見せてくれていたので、まさかピュイさんにすごい剣幕で断られるとは思ってもみなかった。

呆気に取られた俺だったが、諦めたくない。

リュシールデュールは一子相伝の女剣。

つまり、チヂェさんに頼めない今、頼みの綱はピュイちゃんだけだ。

なぜダメなのか、理由を聞いても全然答えてくれなくて、俺はほとほと困ってしまった。

人前で踊るのが嫌なのかとおもったが、舞を見たいと言うと、あっさり披露してくれる。

舞に使用するのは、宝飾で彩られた舞踏用の美しいサーベルだ。

柄部分に長い房飾りがあり、舞うたびに、その房飾りが流れるように空を切る。

流麗な、美しい舞だ。

絶対に演目に加えたい!俺は思いを強くした。

改めて余興への出場をお願いするが、全く受け付けてくれない。

「頼むよ!君の舞は美しい!我が国民に是非披露して欲しい!」

『ずぇったいイヤ!』

何でだよ!

その後、3日連続で通い詰め、ようやく理由を聞き出すことができた。

衣装が嫌なのだと。

「は?衣装?」

予想外の理由だ。

『そうよ!あんな衣装着て踊るくらいなら死んだ方がマシなの!』

「ピュイちゃん、1回着て見せてよ。ね?じゃねーとホントにダサいのかわかんねーし。ピュイちゃんはダサいと思ってるかもしんねーけどさ、昔のファッションも、一周回ってまた流行ることもあるじゃん?俺、一応王都都会に住んでるし、見せてもらえれば、本当にダサいか、判定するからさ」

伝統的な衣装というのは、この年代にはダサく見えるものなんだろうが、実際には、どの年代問わず普遍的な美しさを感じることができるはずだ。

それに、所変われば、美的センスも変わったりする。

え、アリじゃね?とか、王都だったら全然変じゃないしむしろオシャレ!とか。

そんなフォローに繋げるためにも、まずは着て見せてもらわないと始まらない。

説得を続けて、ようやくピュイちゃんが着替えに行った。

よしよし。これであとは着替えてきたら、衣装を褒めて、それで参加の方向で固めていければ・・・





「だっさ!」

あまりのダサさに2度見する。

え?何この伝統服とは思えない虎虎しい服は!

まず目につくのは虎!

スタイルガン無視のダボっとしたワンピースは黒地だが、でっかい虎の顔が胸下から股上位までに描かれていた。

伝統服と思えないトラウザーズは、右足部分が蛍光ピンク、左足部分が蛍光グリーンの布になっている。

度肝を抜かれてたじろぐ俺。

ピュイちゃんの顔が赤く染まる。

『だから言ったじゃない!何が悲しくてこんな格好で人前で踊らなきゃいけないのよ!バカァ!』


 

心ならずも、ピュイちゃんの心を傷つけてしまった。

チヂェさんに衣装を見直す提案もしてみたが、あの衣装の人形が街のお土産になっているらしく、そんなすぐに変えられるものじゃないから、と渋い顔をされてしまった。

そりゃさ、あの位の年頃のコが、ダサい服着て人前に出るってヤだよな。

でもさ、あの服じゃせっかくの舞も綺麗に見えないと思うし、何より演者が気持ちよく舞えないってのは問題だと思うんだ。

舞は一流なのになぁ・・ん?そうか!そうだよ!

俺は泊まっている宿から、再びチヂェさんの家に走った。

「チヂェさん!ピュイちゃん!衣装だけど、俺に任せてくれませんか!」

『無駄よ。伝統衣装を変えるわけにはいかないの。』

「伝統は変えません!伝統はそのままに、ハイブランドのデザイナーに依頼して、デザインし直してもらいます!」

カッティングも含めてデザインし直してもらったら、伝統はそのままでも絶対に格好良くなるから、と説得する。

「チヂェさん、ピュイさんの舞は一流です。それなら、衣装も一流にしてみませんか」

全女性憧れのハイブランド、"ハイルスミス"にデザインを頼む方向で考えていることを伝えると、チヂェさんは即決。

ピュイちゃんも喜んではいたが、出来上がってきたものを見るまでは余興に参加するかはまだ保留、と言われた。

まだアイディアの段階だし、これから手紙を書いて、殿下を通して"ハイルスミス"に依頼してもらう形になるだろう。

今後の詳細は決まり次第、また手紙で知らせることにして、ようやく笑顔を見せてくれたピュイちゃんに安堵しながら、次なる目的地へ向かったのだった。
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