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御前試合

再訪室

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表彰式で国王陛下から勲章が授与されるのを見届けてから、興奮冷めやらぬ私はジュディ様と試合について語り合っている。

優勝は、決勝でも速さで圧倒したディフィート様、そして2位が王宮騎士団のデライト様、3位がアマンド様だ。

勲章は3位までというから、アマンド様は初めて勲章を授与されたことになる。

「それにしても、ディフィート様の速さったら・・凄かったです。同じレークロイド派の中でも抜きん出ていると言うか、別物かと思うほどで・・」

ふふん、と上機嫌のジュディ様が笑みをこぼす。

「まあ、ね。お兄様は小さな頃からその才能を認められていたわ。でも才能だけじゃないのよ?人の何倍も努力して練習して、鍛え上げたからこそのあの剣なんだから。まあ、あなたの婚約者も、途中でお兄様と当たらなければ、きっと準優勝くらいにはなれてたと思うけど。でもその運も含めてが御前試合なのよ!」

「ジュディ様、私、御前試合を見に来れてよかった!今から来年が楽しみです!」

「ふふ、レイリアがわかってくれる人で良かったわ」

身支度を終えた侯爵夫人が呆れている。

「ジュディ、いつまで喋ってるの。私はもう帰るわよ?レイリアさん、また会いましょうね」

侯爵夫人が退室すると、ジュディ様が悪戯っぽく笑った。

「どうせ道が混雑してすぐには出発出来ないんだから、急ぐ必要はないわ。何か飲みながら、まだまだ喋りましょう」

「はいっ!」

ゲルトさんに飲み物のおかわりを頼み、今日の1番の見どころベスト3をお互いに発表し合う。

第2位まで発表したところで、おかわりを持ってきたゲルトさんが、何度か咳払いして「お嬢様」と声をかけてきた。

「何よ、ゲルト」

「いらしてます。」

「え?まさかお兄様が?」

「いえ、恐れながら王子殿下が・・」

は?

2人同時に、ぐりん!と勢いよく室内の方を振り返ると、応接コーナーのソファに座ったエルバート殿下が「やあ」と手を挙げた。

あわわわ・・なにか不敬なことを言ってなかっただろうか。さっき話した内容を慌てて思い返す。

「殿下!いつから・・!」

「さっき侯爵夫人が帰る時に、入れ違いでね。あ、入室の許可もその時にもらっているよ」

「ぐっ・・それにしたって、お声をかけて下さればいいじゃないですか!」

「2人の可愛いおしゃべりを邪魔したくなかったんだ」

ニコニコする王子殿下と対極的に、ジュディ様の視線は冷たい。

「何のご用ですの?余興に誘っていただいた件はもう、お礼申し上げましたが?私、忙しいんですの」

「実はジュディに助けて欲しくてね」

「まあ、こんな小娘に何が出来ましょう」

不敵に笑うその姿は、大物のそれだ。

「その余興の件でね。実は剣舞の出演者と、この余興に尽力してくれた関係者を集めて今、褒美の宴を開いているんだ。私も差し入れを持って、これから直々に労を労いに行こうかと思ってるんだけど」

ジュディ様の瞳が輝きだす。

「それはどこで・・!いえ、なんでもありませんわ。それが私と何の関係がありますの。」

「行こうとしたら、母上に止められてね。ほら、今回の出演者は世界中から来てるだろう?公式な立場で出席するのに、パートナーを連れていないと侮られるからダメだと言うんだ。家庭を持たないと、1人前と認められない国もあるからね・・私は未婚だが、せめて誰かパートナーを見つけて一緒に参加をって釘を刺されて、困っている」

「それは・・確かにメンフィスの文化圏やセヤック地方都市はそのような考えが顕著ですけれど・・・」

「私としては、非公式な宴だからいいだろうと思ったんだけどね。そうもいかないらしい。ジュディ、私と一緒に行ってくれないか?今を逃したら、あんな素晴らしい剣舞を見せてくれた出演者達に話を聴く機会もないだろうし・・・」

宴の話を聞いてから、ずっとジュディ様がウズウズしている。

「誰がいいかと思うより先に、誰よりも剣舞に詳しい君のことがパッと思い浮かんでね。僕も助かって、君も喜んでくれるんなら、一石二鳥だろう?それに、君の華やかなドレス姿なら、そのまま宴にも連れて行けると思ったんだ」

顔を背けていたジュディ様が、チラッと王子殿下に視線を投げた。

「・・その宴は、本当に非公式ですの?実は王侯貴族が参加していたりは・・」

「いや、王族で行くのは私だけだ。貴族だって招待していない。居るのは出演者と、余興の関係者・・関係者って言うのは、企画運営した文官達だよ。ほら、さっき観覧席に説明に来たグース。それとその部下が数名程度だ。本当に関係者だけの、こじんまりとした宴なんだよ」

「・・・」

ジュディ様が揺さぶられている。

彼女は我儘で有名だ。

我儘、つまり、欲に忠実なのだ。

大好物が、さあどうぞ、と目の前に差し出された状態で、ジュディ様は断れない。

差し出された状況は気に食わないが、相手は王族。

王族への若干の遠慮が絡むことで、殿下の必勝パターンが出来上がりつつある。

私はゴクリ、と唾を飲み込んだ。

これは殿下が策士なのか、それともただ単にジュディ様がチョロいのか。

ゲルトさんと目を見交わし、互いに頷く。

両方だな、両方。

「で、でもレイリアを1人には出来ませんしっ!」

ジュディ様が最後の足掻きに出た。

彼女は忘れているのだろうか。

たった数時間前に、私をこの部屋に置いてきぼりにしたことを。

「心配いらないよ、ジュディ。レイリアさんにももうすぐ迎えが来るはずだ。」

「え?」

私にお迎え?

「さっき侯爵夫人と入れ違いになった時に、アマンド ガーナーが入室許可を申請してるって近衛が言いに来ていたんだ。」

え?また?

「夫人が挨拶がてら、直接許可を出しに行くって話してたから、もうすぐ来るんじゃないかな?」

「ほ、本当ですかっ!」

アマンド様に直接、おめでとうが言える!

ジュディ様がスッと立ち上がった。

「・・それなら仕方ありませんわね。あの素晴らしい剣舞を披露してくれた出演者のためにも、今日は王子殿下にお付き合いいたしましょう。」

「君がパートナーなんて光栄だな。さて、今日の主役の1人に、私も会ってから行こうかな。アマンドの到着を待つことにしよう」


















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