大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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それぞれの夏

宝石店にやってきた。

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このお話は夏編『勝負に勝たなきゃ意味がない。』の回想部分のアマンドサイドです。

**********************************

来週、レイリアと茶会に行ける!

ドレスを贈りたかったが・・さすがに間に合わないか・・でもそうだな。それなら・・

俺はウキウキと考えを巡らせる。

今日はこの後、問屋街にある手芸問屋にレイリアを連れていくつもりだったが、予定変更だ。

レイリアの手を触りながら、気づいてしまったのだ。

この薬指を飾る、婚約者の証が無いじゃないか、と。

レイリアには婚約式の際に、俺の瞳に似たイエローダイヤを贈っていた。

通常は、成長期を終えて指のサイズが決まる頃、つまりデビュタントを迎える頃に指輪に仕立てるのが一般的だ。

去年の激務にかまけて失念していたことに今更気づくなんて、ハッキリ言って婚約者として失格だ。

周囲に知らしめるためにも、この指には指輪が必要だ。

だが、あのイエローダイヤを持ってきたとしても、茶会までに出来上がるとは思えない。

「よし、これから指輪を買いに行こう」

「はい!?」

「レイリア、すまなかったな。うっかりまだ婚約指輪を作っていなかった。正式な指輪を作るには間に合わないが・・次の茶会でこの指にはめる指輪を探さないと・・」

立ち上がって、御者に行き先の変更を告げる。

これから向かうクレア宝石店は、あのイエローダイヤを選んだ店でもある。

「アマンド様!そんな、急に困ります!」

本当に、自分の色のアクセサリーも身に纏わせず無防備な状態にしたままで、俺は今までどうして気付かなかったんだ?

迂闊すぎる。

試合で言えば、何の防護具もつけずに出る様なものだ。

隙だらけじゃないか・・!

急速に高まる危機感。

そうだ。俺の色のアクセサリーで牽制できるのであれば、文字どおり、それは防護具となるのだ。

「遠慮しないでくれ。そもそもが婚約者として、これまで君に贈り物をしなさすぎたんだ。どうせならネックレスもイヤリングも髪飾りもいいものがあれば・・」

防護具であれば選ぶのは得意だ。

やはり肌が露出しているところ、そして急所、パッと目につくところは防護する必要がある。

レイリアの薬指の根元にどんな指輪を飾ろうか夢想し始めた俺に、焦った様子のレイリアが声を上げる。

「遠慮ではなくて・・・!そんな間に合わせの指輪なんて嫌ですわ!」

え?嫌・・?

「その・・皆さんにお披露目するのに、ちゃんとした指輪でないと、恥ずかしいです!」

レイリアの真意を知り、俺は自分が恥ずかしくなった。

レイリアに指摘されるまで、自分でも気づいていなかった。

俺は安易に考えていたんだ。

ただ単に、と。

レイリアは、一生に一度の婚約指輪を、ちゃんと大切に考えてくれていたのに・・!

替えのきくような物ではないと、俺に気付かせようとしてくれたんだろう。

確かにそうだ。

レイリアの薬指にはめる指輪は、俺からの婚約指輪と結婚指輪。

生涯で、その2つだけにするべきだ。

「そうか…まあ、レイリアがそう言うなら、今回は俺も一緒に行くし…。わかった。では婚約式の時に贈ったイエローダイヤは、今度預からせて欲しい。すぐに指輪にして贈りたい。」

「わかりました!」

俺にレイリアの真意が伝わったことがわかったんだろう。

明らかにホッとした様子で、レイリアが勢い良く同意する。

気持ちが通じ合った充足感と共に、指を絡めてレイリアの手を握りなおす。

斯くなる上は、それ以外のアクセサリー防護具を揃える!

クレア宝石店に到着し、家名を名乗ると担当の店員が現れた。

「いらっしゃいませ、ガーナー様。今個室を準備いたしますので、少し店内をご覧になってお待ち下さい。」

「わかった。ほらレイリア。少し見て回ろう」

宝石店に足を踏み入れるのなんて、婚約で渡すイエローダイヤを見に来た時以来だ。

無尽蔵に買い与えることまではできないが、去年の給料と、御前試合での報奨金がほとんど手付かずのまま残っていて、今すぐ自由にできる金には困らない。

ショーケースの中には、華奢なものから大ぶりな宝石を使用したものまで様々なアクセサリーが並ぶ。

こんな細く小さなものなのに、その金額は想像を超え桁違いだ。

だが、ここは都内でも1、2を争う高級宝飾店。品質は確かなのだろう。

これが防護具だと思えば安いものだ。

それに・・・今日レイリアの帽子を選んでいた時にも感じていたが、レイリアが俺の選んだアクセサリーを身に纏うというのは、新たな楽しみになりそうだ。

「レイリアは、どんなのが好き?」

「その、アマンド様。今回は私、お茶会用に作ったドレスと一緒に、アクセサリーも頼んでいるんです。なので次のお茶会用のアクセサリーは買っていただく必要はございませんの。ドレスに合わせて、キーラと母と選んだものなので・・」

「そうか・・。ちなみに何色なんだ?」

「アクセサリーですか?薄い水色ですわ。」

レイリアの瞳の色だ。

「どんなデザインなんだ?ここに似たようなのはあるか?」

「ええと・・そうですね。これはルビーですから少し雰囲気は違いますけれど、ネックレスの形はこれが近いです。宝石はアクアマリンで、色は・・あ、こちらの色みたいに、透明感のある水色で・・」

嬉しそうにショーウインドーを覗き込むレイリア。

茶会用に準備したアクセサリーを、レイリアも身につけるのを楽しみにしているようだ。

残念ではあるが、それならば次の茶会用は諦めるか・・では今日はそれ以外のものを選ぶとしよう。

「お待たせいたしました。準備が整いましたのでこちらへどうぞ」

店員に案内され、俺たちは個室へ向かった。


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