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秋
俺は今、自制心を試されている。
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御前試合が終わり、次の日曜日。
王宮で開催された"新秋の宴"にレイリアと出席したわけだが・・
落ち着け。
俺は心を鎮めようと目を閉じた。
ここにくる前に、レイリアのお父上から釘を刺されたばかりじゃないか。
いつに無く、念を押して俺への信頼を口にしたお父上は、何かを感じ取っていたのかもしれない。
落ち着け。
お父上の心象を悪くする訳にはいかない。
それはわかっている。
わかっているのだが・・
「アマンドさま・・」
待ってくれレイリア。
もう少し、心を落ち着けさせてくれ。
「アマンドさま・・」
再度呼ばれて、観念して目を開く。
フルートグラスを向けて、ウルウルした瞳で俺に微笑むレイリアがそこにいた。
「かんぱい・・」
俺が持ったグラスにチンッと当てると、コクリとひと口飲み、幸せそうに笑う。
クッ・・これだ。
何でさっきから、ひと口飲むごとに「かんぱい・・」を求めてくるんだ・・!
可愛すぎるだろうがっ!
「アマンド様、かんぱい・・」
あー抱きしめたいキスしたいキスしたい抱きしめたい!抱きしめてからキスでもキスしてから抱きしめても順序は問わない大事なのは抱きしめるのもキスするのもどちらもセットでしたいということで・・えぇい!ともかく落ち着け!
「あ・・無くなっちゃった」
ショボンとするレイリア。
グラスが空になっている。
ダメだ。お代わりさせちゃダメだ。
もっと飲ませてしまいたい、なんて思っちゃダメだ・・!
広間から、国王陛下の登場を知らせるファンファーレが鳴り、俺は溢れ出る欲望をようやく断ち切って、レイリアの手を取った。
「ほら、レイリア、始まるよ。広間へ行こう」
レイリアを立たせてみるが、ふらつく様子はない。
よし、これなら大丈夫。
この後ソフトドリンクを飲ませれば、帰る頃には少しは酒も抜けるだろう。
まずは広間へ行って、陛下の登場の後に謁見が・・
この後の動きを頭の中で組み立てていると、レイリアが急に俺の体にしがみついてきた。
「リア、どうした?気分でも悪く・・」
こちらを見上げるレイリアは上機嫌に笑っている。
「アムド、大好き」
ハァ・・・もう!このコは・・っ!
俺は再び目を閉じて、煩悩と戦うのだった。
国王陛下の登場の後、貴族は並んで王に謁見する。
俺もレイリアを連れて、列に加わった。
通常は名前が読み上げられて礼をしたらそれで謁見は終わる。
陛下からお言葉をいただくことは稀だ。
俺たちの番が来た。
御前試合の活躍についてお褒めいただくのは、まあ予想の範囲内だった。
予想外だったのは、レイリアが王妃殿下に声をかけられたことだ。
「あなたがレイリアね!こちらへ。少しお話ししましょう」
王妃殿下が玉座から手招きしてレイリアを呼んだのだ。
後ろに控える貴族たちが騒めいた。
レイリアが、王妃殿下に両手を握られながら、何か話している。
国王陛下からの「剣術の練習で日頃から心掛けていることは何か」という問いに答えながら、王妃殿下とレイリアの会話から漏れ聞こえる言葉を耳で追う。
「これからもジュディの良き友として是非仲良く・・」という王妃殿下のお言葉が聞こえてきた。
またマルグリット侯爵令嬢絡みか・・彼女と友人になったことで、こうも王族の覚えめでたくなってしまうとは・・
国王殿下との謁見も終わり、俺はレイリアを座らせ、ワイングラスに注いで酒に偽装させた果実水を飲ませた。
「これ・・お酒かしら?」
酒じゃないことがバレたか?
「貸してごらん」とレイリアのグラスを受け取り、目の前で飲んでみせる。
「大丈夫だ、レイリア。酒100%の味がする。酒で間違いない。」
そう言ってグラスを返すと、「100%のお酒、飲みます・・」と言いながら、嬉しそうに受け取った。
俺が言ったことを、レイリアが鵜呑みにしている。
今なら、何でも刷り込みできそうな気がするな。
そうだ、これを機に、人前でも愛称呼びするように刷り込みさせるのはどうだろう。
早速取り掛かろうとする俺に、声がかかり、振り返ると、そこにいたのは近衛兵だった。
「アマンド ガーナー様。エルバート王子殿下がお待ちです。こちらへお願いできますでしょうか。」
王宮で開催された"新秋の宴"にレイリアと出席したわけだが・・
落ち着け。
俺は心を鎮めようと目を閉じた。
ここにくる前に、レイリアのお父上から釘を刺されたばかりじゃないか。
いつに無く、念を押して俺への信頼を口にしたお父上は、何かを感じ取っていたのかもしれない。
落ち着け。
お父上の心象を悪くする訳にはいかない。
それはわかっている。
わかっているのだが・・
「アマンドさま・・」
待ってくれレイリア。
もう少し、心を落ち着けさせてくれ。
「アマンドさま・・」
再度呼ばれて、観念して目を開く。
フルートグラスを向けて、ウルウルした瞳で俺に微笑むレイリアがそこにいた。
「かんぱい・・」
俺が持ったグラスにチンッと当てると、コクリとひと口飲み、幸せそうに笑う。
クッ・・これだ。
何でさっきから、ひと口飲むごとに「かんぱい・・」を求めてくるんだ・・!
可愛すぎるだろうがっ!
「アマンド様、かんぱい・・」
あー抱きしめたいキスしたいキスしたい抱きしめたい!抱きしめてからキスでもキスしてから抱きしめても順序は問わない大事なのは抱きしめるのもキスするのもどちらもセットでしたいということで・・えぇい!ともかく落ち着け!
「あ・・無くなっちゃった」
ショボンとするレイリア。
グラスが空になっている。
ダメだ。お代わりさせちゃダメだ。
もっと飲ませてしまいたい、なんて思っちゃダメだ・・!
広間から、国王陛下の登場を知らせるファンファーレが鳴り、俺は溢れ出る欲望をようやく断ち切って、レイリアの手を取った。
「ほら、レイリア、始まるよ。広間へ行こう」
レイリアを立たせてみるが、ふらつく様子はない。
よし、これなら大丈夫。
この後ソフトドリンクを飲ませれば、帰る頃には少しは酒も抜けるだろう。
まずは広間へ行って、陛下の登場の後に謁見が・・
この後の動きを頭の中で組み立てていると、レイリアが急に俺の体にしがみついてきた。
「リア、どうした?気分でも悪く・・」
こちらを見上げるレイリアは上機嫌に笑っている。
「アムド、大好き」
ハァ・・・もう!このコは・・っ!
俺は再び目を閉じて、煩悩と戦うのだった。
国王陛下の登場の後、貴族は並んで王に謁見する。
俺もレイリアを連れて、列に加わった。
通常は名前が読み上げられて礼をしたらそれで謁見は終わる。
陛下からお言葉をいただくことは稀だ。
俺たちの番が来た。
御前試合の活躍についてお褒めいただくのは、まあ予想の範囲内だった。
予想外だったのは、レイリアが王妃殿下に声をかけられたことだ。
「あなたがレイリアね!こちらへ。少しお話ししましょう」
王妃殿下が玉座から手招きしてレイリアを呼んだのだ。
後ろに控える貴族たちが騒めいた。
レイリアが、王妃殿下に両手を握られながら、何か話している。
国王陛下からの「剣術の練習で日頃から心掛けていることは何か」という問いに答えながら、王妃殿下とレイリアの会話から漏れ聞こえる言葉を耳で追う。
「これからもジュディの良き友として是非仲良く・・」という王妃殿下のお言葉が聞こえてきた。
またマルグリット侯爵令嬢絡みか・・彼女と友人になったことで、こうも王族の覚えめでたくなってしまうとは・・
国王殿下との謁見も終わり、俺はレイリアを座らせ、ワイングラスに注いで酒に偽装させた果実水を飲ませた。
「これ・・お酒かしら?」
酒じゃないことがバレたか?
「貸してごらん」とレイリアのグラスを受け取り、目の前で飲んでみせる。
「大丈夫だ、レイリア。酒100%の味がする。酒で間違いない。」
そう言ってグラスを返すと、「100%のお酒、飲みます・・」と言いながら、嬉しそうに受け取った。
俺が言ったことを、レイリアが鵜呑みにしている。
今なら、何でも刷り込みできそうな気がするな。
そうだ、これを機に、人前でも愛称呼びするように刷り込みさせるのはどうだろう。
早速取り掛かろうとする俺に、声がかかり、振り返ると、そこにいたのは近衛兵だった。
「アマンド ガーナー様。エルバート王子殿下がお待ちです。こちらへお願いできますでしょうか。」
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