大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

文字の大きさ
61 / 165
それぞれの夏

これを機に夢を叶えようと思う。

しおりを挟む
夏編の『来てはいけない場所に来てしまったのかもしれません』『恋はするものではなく落ちるもの』のアマンドサイドです。
*****************************************


プラージュでのランチの後、再び馬車に乗る。

「この後はどこに参りますの?」

「実は既に予約しているところがあって…そこでもいいか?」

俺には、いつか叶えたい夢があった。

子供の頃、街で見かけたケトルピーラットとレイリアがリンクしたその時から、俺の中でケトルピーラットは特別な存在だ。

いつか、レイリアとケトルピーラットを共演させたい。

今度の日曜は、その夢を叶える絶好のチャンスだ。

問題は、どのようにケトルピーラットを調達するか。

相手は生き物だ。

購入するのは容易いが、たかが俺の夢のために買うなど許されない。

かといって、元々ペットなどとは無縁の生活を送ってきた俺だ。

誰かが飼っているケトルピーラットを借りて、万が一何かあったら申し訳が立たない。

さてどうしたものかと考えていた俺は、勤務で街を見回っている際にある看板を見つけた。

「・・・『ケトピカフェ♡プイプイ』?」

店の外には数人並んでいて、人気店らしい。

一緒に見回っていた騎士仲間のゼノが、俺のつぶやきを聞いて説明してくれる。

「お堅いお前は知らないだろ。最近こういう店が流行ってるんだよ。カフェなんだけど、ケトルピーラットがいてよ。ケトルピーラットを見るだけじゃなくて、追加料金払えば自分のところのテーブルで抱っこしたり、撫でたりできるんだ。動物好きの女の子とか大喜びよ。」

俺は思わず空を見上げた。

天啓来たり・・!

「予約は必要か?」

「え・・アマンド、まさかの興味アリ!?」

驚くゼノに詳しく仕組みを聞こうとしたが、それなら今予約してこいと強く勧められた。

店に入り、まっすぐカウンターに向かう。

「いらっしゃいませ。」

「予約をしたいのだが」

「承知致しました。それでは日時ですが・・」

日曜は予約がないと入れないらしく、希望の時間帯は2枠しか残っていなかった。

危ないところだった。ゼノに感謝だ。

「それでは日曜の午後2時からの2時間をお取りしました。ケトルピーラットの予約はいかがされますか?」

「それは予約しないとだめなのか?」

「どの子でもよければ予約は不要ですが、お好きな子がいらっしゃるなら予約をお勧めしております。こちらイラストですが、ご参考までにどうぞ」

渡されたカタログをペラペラめくる。

レイリアとケトルピーラットの共演さえ見られれば、別にどれでも・・と思っていたが、あるケトルピーラットのページで指が止まる。

このオレンジの毛並み・・!

説明書きでは、この店の5番人気らしい。

チャームポイントのところに、『お店一番の食いしん坊!美味しそうに目を細めて食べる姿が最高にキュート!』と書いてある。

「ニンジンちゃんで頼む。」

「承知致しました。一緒にセットパックはいかがですか?」

メニュー表に載っているセットパックは全部で5種類あるようだ。

「オススメを教えてくれ」

「そうですね・・用途にもよりますが、オススメはこちらのケトピちゃん大満足セットになります。餌とおもちゃ、ブラシの3点セットで、ケトピを堪能するだけでなく、恋人とイチャイチャできるとカップルから大人気で」

「ケトピちゃん大満足セットを頼む。」

「ご予約ありがとうございます。」

そんな経緯で、今日、とうとうレイリアを『ケトピカフェ♡プイプイ』に連れてくることができた。

レイリアにドリンクの注文を聞いている間も、楽しみすぎてワクワクが止まらない。

待望の瞬間。

「はいお待たせしましたー!ニンジンちゃんです!」

「ニンジンちゃん・・!」

一気にレイリアの頬が上気する。

夢にまで見た、レイリアとケトルピーラット ニンジンちゃんの共演!

くぅ・・!なんって可愛いんだ!!

俺のレイリアケトルピーラットが、ケトルピーラットを愛でている・・!

「アマンド様は、ケトルピーラットが好きなんですか?」

「大好きだ」

大好きに決まってるだろう、レイリアケトルピーラットだぞ?

ちょっと俺の情緒が混乱しているのは自覚している。

冷静になれ、俺。

「かわいいっ!アマンド様、見てください!」

大はしゃぎで喜ぶレイリア。

セットについていたおもちゃやブラシは、2人が協力して行うものが多い。

例えばブラッシングでは、俺がニンジンちゃんを両手にのせて、レイリアがブラッシングするので自然と距離が近づく。

あの時、大満足セットを予約した自分を褒めてやりたい。

あっという間に2時間が経過し、名残惜しいものの会計へ向かう。

「こちらお釣りでございます。お客様、会員カードはいかがされますか?」

「会員カード?」

「はい。ご利用に応じたポイントをお付けして、ポイント数によって会員限定のサービスがお受けになれます。また、隔月でお好きなケトルピーラットの飼育記録をお送りしております。」

「作ろう。」

レイリアとの話題作りに最適だ。

「ありがとうございます。飼育記録はどのケトピちゃんにいたしますか?」

「ニンジンちゃんで。」

「かしこまりました」

カフェを去ろうとして物販コーナーが目に入る。

そこには色とりどりのケトルピーラットのぬいぐるみ。

思わず、レイリアに似た色のぬいぐるみを探してしまう。

自分が持つわけにはいかないが、レイリアには今日の思い出に持っていてほしい。

俺は大満足でその店を後にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた

今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。 二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。 ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。 その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。 が、彼女の前に再びアレクが現れる。 どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…

『めでたしめでたし』の、その後で

ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。 手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。 まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。 しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。 ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。 そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。 しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。 継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。 それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。 シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。 そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。 彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。 彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。 2人の間の障害はそればかりではなかった。 なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。 彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。

[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」 二人は再び手を取り合うことができるのか……。 全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)

元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。

有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。 けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。 ​絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。 「君は決して平凡なんかじゃない」 誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。 ​政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。 玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。 「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」 ――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・

青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。 彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。 大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・ ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。

処理中です...