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クラブ活動②

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バザーが始まり、教会前の広場に徐々に人が集まりだす。

食べ物の屋台も多く出ているため、昼食を求める多くの人でこれから混み合ってくるのだ。

売り子は教会関係者にお任せするので、私たちは品出しまで済ませればそこでお役御免だ。

先ほどの不穏な空気はすっかり薄れ、令嬢たちは品出しが終わると、そこここでおしゃべりに興じ出した。

私の班の令嬢方も例に漏れず。

「レイリア様は、騎士団に行かれたことはありますか?」

「私がですか?いえ・・なぜです?」

「それが、聞いてくださいます?最近できたお友達のお話なのですが、その方も婚約者が騎士団にいらして・・なんと、彼のお昼時に騎士団まで行って落ち合って、昼食デートをしているらしいのです!」

えー!と黄色い悲鳴が上がる。

「騎士服の婚約者様と昼食デート!?そんな・・・羨ましすぎますわ・・!」

「私、あの騎士服で優しくされたらイチコロです!」

興奮する面々。

うん、私も今、いいなぁって思ってしまった。

「でも、お昼時でも、騎士団の隊舎を抜け出すなんて、大丈夫なのかしら?」

「ええ、私もそう思って聞いてみたんですが、何かあればすぐに隊舎に戻れるような距離であれば外食も可能だそうです。あの辺りは街の中心ですからお店も多いですし、そのお友達はもう何度も昼食デートをしていると言っていましたから」

「そうなんですね」

その時、パンパン、と手を叩く音がした。

「それではクラブの皆様、私たちも昼食の会場へ参りましょう。」

ビシュヌ様の号令で、ぞろぞろと令嬢たちが動き出した。




「レイリア、行く前にちょっと話せないかしら」

「ええ、メイベル。今行くわね」

メイベルは私の手を引いて、少し離れたところに移動した。

「その後、どうかしら?」

メイベルのいうのは、きっと婚約解消に向けた作戦のことだろう。

私は安心させるために、メイベルに向かってニッコリと微笑んだ。

「大丈夫よ、メイベル。そのつもりで行動してるわ」

「ありがとう・・安心したわ」

メイベルが金の髪をなびかせながらふわりと笑った。

私はふと、疑問に思っていたことを口にする。

「あの、ちょっと聞きたいんだけど、メイベルはいつ彼と会っているの?」

「レイリア・・その質問に答えてもいいけれど、知らない方がいい事もあるんじゃないかしら?」

「あ、ち、違うの!そういうことじゃなくて、ちょっと失敗しちゃって、アマンド様と会う機会が増えてしまいそうなの。あなたたちの邪魔になったら悪いかと思って・・」

「ふうん・・まあ、大丈夫よ。私たち、特に曜日を決めて会っているわけではないから。」

「あ・・そうなのね」

定期的に会っているわけではない、と聞いて少しホッとする自分は、何なんだろう。

「レイリアが羨ましいわ。堂々と会うことができて・・私は一昨日にお会いできたのが最後。次はいつ会えるかしら・・」

「一昨日・・?」

「そう、日曜にね、アマンド様が港で積荷の警備をしてて。」

私の顔を見て、幸せそうに微笑むメイベル。

心臓が乾いた音を立てる。

その時。

「レイリア様!」

振り返ると、にこやかなビシュヌ様が「こちらへいらして!」と私を呼んでいる。

傍には神父様の姿。

「は、はい!…ごめんなさい、レイリア。先に行っていて」

「そんな、私も一緒に行くわ」

急ぐ私の後ろを、メイベルがついてくる。

ビシュヌ様の方へ引き返すと、神父様が口を開いた。

「あのブローチを作ったのは、ディセンシア伯爵家のご令嬢さまでしたか」

「はい、ブローチは私の担当ですが・・」

「いえね、先日教会にいらした女性から、あなたにお礼を言って欲しいと託されまして」

「お礼、ですか?」

「その方は、前回の冬のバザーで、犬の顔のブローチを買ったそうなのです」

「ああ、犬のブローチ。はい、ありました」

神父様が頷いて、優しく目を細める。

「犬好きの、まだお小さい息子さんに買ったそうです。息子さんもそのブローチを気に入って、毎日服につけているそうで…」

「まぁ、本当ですか」

自分の作ったブローチを購入した人から話を聞ける機会はなかったので、なんだか嬉しい。

「それで、ここからが本題ですが…。先日、街中でふとした隙に、息子さんを見失ってしまったんだそうです。どこに行ったのか見回している時に、リン、と鈴の音が聞こえて、そして音の方向に目を向けたら、息子さんがもう直ぐ馬車の行き交う車道に出ようとしているところだった・・」

「え・・・!」

「駆け寄って、車道に出る前に止められたので事なきを得たようですが、鈴が鳴らなかったら、車道に出るまで気付かれず、きっとただでは済まなかった、と仰るのです。それはもう感謝されていて、このことを息子の命の恩人に伝えて欲しい、と頼まれましてね。」

「まぁ・・」

まさかあのブローチが、人の役に立つなんて。

助かってよかった、という深い安堵が胸に広がる。

「子供用のブローチに鈴をつけたのは、たまたまですか?」

「いえ、私の従兄弟の子供がとても活発で、よく迷子になるので、鈴をつけたらどうだろう、と思ったのがきっかけで・・」

「なるほど、やはりそこまで考えておられたのですね。素晴らしい発想です。貴方様はきっと良い母親になるでしょうな」

ブローチの件と、神父様のお言葉に、何だか元気をもらえた気がした。

「神父様、もしまたそのお方に会う機会がありましたら、お伝え頂けますか?感謝を伝えてくださって、ありがとうございます、と。」

「ええ、ええ、もちろん。」

ビシュヌ様が興奮したように手を叩いた。

「レイリア様、素晴らしい逸話ですわ!早速、昼食の時に皆様で共有いたしましょう!」

「・・・そうですわね。さすが私の親友だわ、レイリア」

それでは、と教会へ戻る神父様を見送る。

瞬きもせずにこちらをじっと見つめる、メイベルの青い瞳に気づくはずもなかった。



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