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アフターストーリー
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その後の彼の混乱ぶりは酷いものだった。
目を見開いて、たっぷり30秒は固まっていたと思う。
ようやく口を開いたが、「にん・・」と言ったまま言葉にならず、そのまま、さらに1分ほど経過した。
「それは・・誰の・・いや、そのロゼッタが?」
他に誰がいると言うのだろう。
混乱する彼に比べて、私は努めて冷静だった。
「一応お伝えしておきますが、相手はジェイド様以外あり得ません」
「僕の・・」
呆然とするジェイド様に、やっぱり自分の子か聞こうとしてらしたのね、と呆れてしまう。
大体、彼と一緒でないとこの家から出してもらえない私にその可能性はないだろうに。
でも、彼の驚愕ぶりも分からないではない。
このような関係になった後、彼は「子供を作る気はない」と私に明言していた。
詳しい理由は語らなかったが、私も察するところがあったので、無理に欲しいとは思わなかった。
彼の"血の呪い"を沈静化するため、今や私は、エルフィンの角と共にしか生きられない。
仮に魔力を有する子を身籠ったとしたら、子どもが魔力枯渇になって、きっと妊娠の継続は難しいことになる。
それに、私の身に蓄積されているであろう"血の呪い"が、おなかの中で子どもに受け継がれてしまうかもしれない。
彼は避妊に関してかなり熱心に取り組んだし、私も彼の言う通りに従ってきた。
避妊や妊娠に関すること、所謂、生殖に関しては魔法の預かり知らぬ分野らしく、この世界の避妊法は専ら薬によるものだった。
イプサーク村に自生するディリーの実から作られたそれを飲めば、妊娠する確率は0に等しい。
そのはずだった。
だから、私が身籠る可能性は彼の中では"あり得ない"に近かったのだろうと思う。
私だって、まだ半信半疑だ。
でも、いつまで経っても月のものが始まらないし、少し前から胸に違和感も感じていて・・あと1週間ほどして、それでも月のものが来なければ、その時は医者を呼んでもらうためにも、ジェイド様に相談しようと思っていた。
予定よりも早い彼の帰宅は嬉しい反面、そういう意味では誤算でもあった。
ようやく呪縛が解けたのか、彼は動き出すと私を横抱きにした。
「・・寝よう。」
そう言って、私をベッドに横たえ、彼も隣に横になる。
隙間なくピッタリと体を寄せてくるところを見るに、彼もこのまま寝るつもりのようだ。
「ジェイド様のお部屋で寝ましょう。このお部屋じゃ魔力の回復に支障が・・」
「いいんだ。ここで寝る」
そうして静けさが訪れた部屋には、時計の針が進む音がやけに響く。
夜も更けているというのに、眠れそうにない。
きっと、目の前で身を固くしている彼も。
なんだか耐えきれなくなって、寝返りを打ち、彼に背を向ける。
思わず口にしていた。
「ジェイド様・・ごめんなさい」
彼は・・詰めていた息を吐いた。
「なぜ、謝るの」
そう聞かれてしまって、答えられなかった。
遠征から帰ってきたばかりの彼を、困らせてしまったから?
彼の求めに、応じられなかったから?
彼が望んでいない事態を招いてしまったから?
何も言えなくて黙ってしまった私の肩を、彼の手が摩る。
「明日、朝一番で医者を呼ぶ。いいね」
私は黙ったまま、頷いた。
翌日、朝早くに診察を受けて、私の懐妊が確定した。
ジェイド様はそれを一緒に聞いた後、難しい顔をしながらすぐに医者と別室へ消えていき、その後しばらくの間、部屋に戻ってこなかった。
目を見開いて、たっぷり30秒は固まっていたと思う。
ようやく口を開いたが、「にん・・」と言ったまま言葉にならず、そのまま、さらに1分ほど経過した。
「それは・・誰の・・いや、そのロゼッタが?」
他に誰がいると言うのだろう。
混乱する彼に比べて、私は努めて冷静だった。
「一応お伝えしておきますが、相手はジェイド様以外あり得ません」
「僕の・・」
呆然とするジェイド様に、やっぱり自分の子か聞こうとしてらしたのね、と呆れてしまう。
大体、彼と一緒でないとこの家から出してもらえない私にその可能性はないだろうに。
でも、彼の驚愕ぶりも分からないではない。
このような関係になった後、彼は「子供を作る気はない」と私に明言していた。
詳しい理由は語らなかったが、私も察するところがあったので、無理に欲しいとは思わなかった。
彼の"血の呪い"を沈静化するため、今や私は、エルフィンの角と共にしか生きられない。
仮に魔力を有する子を身籠ったとしたら、子どもが魔力枯渇になって、きっと妊娠の継続は難しいことになる。
それに、私の身に蓄積されているであろう"血の呪い"が、おなかの中で子どもに受け継がれてしまうかもしれない。
彼は避妊に関してかなり熱心に取り組んだし、私も彼の言う通りに従ってきた。
避妊や妊娠に関すること、所謂、生殖に関しては魔法の預かり知らぬ分野らしく、この世界の避妊法は専ら薬によるものだった。
イプサーク村に自生するディリーの実から作られたそれを飲めば、妊娠する確率は0に等しい。
そのはずだった。
だから、私が身籠る可能性は彼の中では"あり得ない"に近かったのだろうと思う。
私だって、まだ半信半疑だ。
でも、いつまで経っても月のものが始まらないし、少し前から胸に違和感も感じていて・・あと1週間ほどして、それでも月のものが来なければ、その時は医者を呼んでもらうためにも、ジェイド様に相談しようと思っていた。
予定よりも早い彼の帰宅は嬉しい反面、そういう意味では誤算でもあった。
ようやく呪縛が解けたのか、彼は動き出すと私を横抱きにした。
「・・寝よう。」
そう言って、私をベッドに横たえ、彼も隣に横になる。
隙間なくピッタリと体を寄せてくるところを見るに、彼もこのまま寝るつもりのようだ。
「ジェイド様のお部屋で寝ましょう。このお部屋じゃ魔力の回復に支障が・・」
「いいんだ。ここで寝る」
そうして静けさが訪れた部屋には、時計の針が進む音がやけに響く。
夜も更けているというのに、眠れそうにない。
きっと、目の前で身を固くしている彼も。
なんだか耐えきれなくなって、寝返りを打ち、彼に背を向ける。
思わず口にしていた。
「ジェイド様・・ごめんなさい」
彼は・・詰めていた息を吐いた。
「なぜ、謝るの」
そう聞かれてしまって、答えられなかった。
遠征から帰ってきたばかりの彼を、困らせてしまったから?
彼の求めに、応じられなかったから?
彼が望んでいない事態を招いてしまったから?
何も言えなくて黙ってしまった私の肩を、彼の手が摩る。
「明日、朝一番で医者を呼ぶ。いいね」
私は黙ったまま、頷いた。
翌日、朝早くに診察を受けて、私の懐妊が確定した。
ジェイド様はそれを一緒に聞いた後、難しい顔をしながらすぐに医者と別室へ消えていき、その後しばらくの間、部屋に戻ってこなかった。
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