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24 side J
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今夜、彼女を無理矢理にでも僕のものにするつもりだった。
僕の呪いを彼女に植え付ければ、彼女はもう僕から離れられない。
でも、僕は動けないでいた。
彼女が僕を恐れて、嫌がって、拒んでくれればよかったのに。
夕食の時、彼女にこの3年間の暮らしぶりを聞いた。
晴れた日は、職場の近くにあった砂浜でお昼を食べて、その砂浜で拾った薄いピンク色の貝を使ってウィンドウチャイムを手作りした話。
節約のためにパンを作ってみたら何度やっても膨らまなくて、結局諦めてパンは買うことにした話。
沖に鯨が来ていると聞いて、同僚の家族と一緒に皆で休日に見に行った話。
彼女の3年は、羨ましいほど光に満ちていた。
その話を聞いて僕が思ったのは、妬みでも恨みでもなくー
僕が思ったのは、寂しさと・・・安堵だった。
彼女を幸せにするのは、途中までは確かに僕の役目だった。
呪いを知ってからは、それを果たせなくて苦しかった。
でも、僕はある意味役目を果たしたのだ。
彼女の幸せを見届ける、という役目を。
(・・・呪いは、彼女の前から去るべきだ)
ふらり、と立ち上がって隣にある彼女の部屋へ向かう。
ロゼッタはもう寝ているだろう。
それでも、どうしても彼女の顔をみておきたかった。
「教えて。あなたの話を。」
ロゼッタは、起きて僕を待っていた。
ベッドの端にふたり並んで腰を下ろし、僕は長い長い話をした。
忘却術を使うほど、彼女に知られたくなかった僕の血の話を。
彼女は僕の所業が相当ショックだったのか、ずっと涙を流して聞いていた。
話し終えて、暗い部屋には彼女のすすり泣きしか聞こえない。
打ちひしがれた様子のロゼッタを見下ろす。
とうとう、話してしまった。
呪いを撒き散らす僕は、まるで死神のように映っただろう。
彼女が涙声で小さく「ごめんなさい」と呟いた。
僕を拒む声。
当たり前だ、だってー
「父がごめんなさい」
ロゼッタが続けた言葉に、愕然とした。
君が、言うのか。
あの男にあんなに傷つけられた君が。
あの男は君を家族だなんて思っていなかった。
君だって気づいていたはずだ。
厭いながら、当然のように君を利用して。
それなのに君はあの男の家族として、あれの代わりに、僕に謝ろうというのか。
君だって。
君だってあんなに傷つけられてきたのに。
僕を見上げた彼女の目から、ボロボロと涙がこぼれる。
「気づいてあげられなくて・・・ひとりにして、ごめんなさい」
そう言うと、彼女は立ち上がり僕を抱きしめた。
頬を、涙が伝った。
僕の呪いを彼女に植え付ければ、彼女はもう僕から離れられない。
でも、僕は動けないでいた。
彼女が僕を恐れて、嫌がって、拒んでくれればよかったのに。
夕食の時、彼女にこの3年間の暮らしぶりを聞いた。
晴れた日は、職場の近くにあった砂浜でお昼を食べて、その砂浜で拾った薄いピンク色の貝を使ってウィンドウチャイムを手作りした話。
節約のためにパンを作ってみたら何度やっても膨らまなくて、結局諦めてパンは買うことにした話。
沖に鯨が来ていると聞いて、同僚の家族と一緒に皆で休日に見に行った話。
彼女の3年は、羨ましいほど光に満ちていた。
その話を聞いて僕が思ったのは、妬みでも恨みでもなくー
僕が思ったのは、寂しさと・・・安堵だった。
彼女を幸せにするのは、途中までは確かに僕の役目だった。
呪いを知ってからは、それを果たせなくて苦しかった。
でも、僕はある意味役目を果たしたのだ。
彼女の幸せを見届ける、という役目を。
(・・・呪いは、彼女の前から去るべきだ)
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ロゼッタはもう寝ているだろう。
それでも、どうしても彼女の顔をみておきたかった。
「教えて。あなたの話を。」
ロゼッタは、起きて僕を待っていた。
ベッドの端にふたり並んで腰を下ろし、僕は長い長い話をした。
忘却術を使うほど、彼女に知られたくなかった僕の血の話を。
彼女は僕の所業が相当ショックだったのか、ずっと涙を流して聞いていた。
話し終えて、暗い部屋には彼女のすすり泣きしか聞こえない。
打ちひしがれた様子のロゼッタを見下ろす。
とうとう、話してしまった。
呪いを撒き散らす僕は、まるで死神のように映っただろう。
彼女が涙声で小さく「ごめんなさい」と呟いた。
僕を拒む声。
当たり前だ、だってー
「父がごめんなさい」
ロゼッタが続けた言葉に、愕然とした。
君が、言うのか。
あの男にあんなに傷つけられた君が。
あの男は君を家族だなんて思っていなかった。
君だって気づいていたはずだ。
厭いながら、当然のように君を利用して。
それなのに君はあの男の家族として、あれの代わりに、僕に謝ろうというのか。
君だって。
君だってあんなに傷つけられてきたのに。
僕を見上げた彼女の目から、ボロボロと涙がこぼれる。
「気づいてあげられなくて・・・ひとりにして、ごめんなさい」
そう言うと、彼女は立ち上がり僕を抱きしめた。
頬を、涙が伝った。
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