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23 side J
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僕はようやく、血の呪いの治療法を見つけた。
思いついたきっかけは、3年前、ロゼッタがいなくなったあの時だ。
ロゼッタに忘却魔法をかけたのに効かなかった理由を考えて、彼女が持っているとは俄かに信じがたいが”解魔の角石”だろう、と結論付けた。
すべての魔法を無効化できる”解魔の角石”。
その存在はもちろん知っていたが、”血の呪い”の治療法を探す中でそれを試したことはなかった。
高価で、触れる者の魔力を吸収してしまうから扱いづらいというのもあったが、理由はそれだけではない。
母が、持っていたからだ。
母は、元々は2系統の魔法が使える優秀な魔法使いだった。
だが、僕の呪いで精神が悪化していくにつれ、母の使う魔法は脅威となった。
僕に給仕していたメイドにすら嫉妬し、怒りで魔法攻撃を加えた母に、父はとうとう”解魔の角石”を準備した。
僕からの贈り物ということにして、僕がそのピアスをはめてあげると、母は大層喜んでその後ずっとつけていてくれた。
そこに配された真珠色の石はとてもとても小さかったが、直接身につけたことで、母は魔法が使えなくなった。
”解魔の角石”を身につけていても、母の症状は進行し、最後には亡くなった。
だから、最初から試す必要がないと思い込んでいた。
でも、あのピアスをつけた時点で、母の症状はかなり進行していた。
それなのに、その後3年も生きた。
脳裏に、あの手記の内容がよぎる。
【母親は、その多くが、術師を生み10年前後で死に至る。】
3代目である作者が母親を亡くしたのは9歳、2代目は8歳、始祖は・・・”幼少時”に母を亡くした、としか記載がなかった。
それに対し、僕が母を亡くしたのは12歳の時だ。
強い闇の魔力を有した魔法使い達が、いずれも10歳になる前に母親を亡くしているのに、なぜ僕の母親はそれより長く生きていたのか。
「・・身につけるだけじゃ、だめなのかもしれない」
その後は”解魔の角石”を手に入れることに奔走し、ロゼッタが行方をくらましてから1年後、バウムハイム家に婿に入った。
妻となったハンナは、ロゼッタには似ても似つかなかった。
むしろ、僕の魔力にしか興味がない義父の目と、僕の容姿にしか興味がないハンナの目は、ぞっとするほど瓜二つで、ハンナを抱くのも、ハンナに触れられるのも到底無理だった。
それでも”解魔の角石”の効果を早く見たかったから、ハンナには毎日別の方法で呪いを摂らせた。
ひどいことをしているという自覚はあったが、最初に僕をモノとして扱ってきたのは義父の方だ。
目的のために、無遠慮に僕の中を踏み荒らしていくのは、いつも義父の方だ。
だから、僕だって義父の大事なものを傷つけることを厭わない。
ハンナに”血の呪い”を摂らせ、解魔の角石で四方を囲った箱に横たえてふたを閉める。
それはまるで、棺桶のようだった。
月光が僅かにだけ差す暗い部屋で、僕は求めていた答えをようやく見つけた。
”血の呪い”で出てしまった症状を治癒することはできないが、呪いは沈静化できる。
”解魔の角石”が答えだった。
身につけさせるだけでは症状の進行を止めるには不十分だが、”解魔の角石”で囲んだ空間で過ごしていれば、症状はそれ以上進行しない。
石をすりつぶして飲ませたこともあったが、魔力の高いハンナは魔力が枯渇して倒れ、2日は寝込んでいた。
僕自身の魔力が無効化できたらと思い、僕も石をすりつぶして飲んでみたことがある。
少しだけ気分が悪くなり、すべての魔法は使えなくなったが、それ以外は普段通り過ごせていた。
魔力枯渇に至らなかったのだ。
それくらい、血に宿る闇の魔力は強かった。
僕という例外を除いて、おそらく魔力のある者には、この治療自体が毒となる。
常に魔力枯渇のリスクに晒されることになるからだ。
でも魔力のないロゼッタなら、そのリスクはない。
愛娘ハンナの末路を義父に見せつけてから、義両親を領地へ追いやった。
葬儀の後、僕は着々とロゼッタを迎え入れる準備を進める。
魔力のないロゼッタなら、エルフィンの角そのものを使用できる
エルフィンの角で囲われた部屋にいれば、血の呪いは沈静化する。
またはエルフィンの角を飲んだ場合も同様に沈静化する。
逆を返せば、血の呪いを受けたら、発症を抑えるためにこの部屋にいるか、薬を飲みつづけるかしかない。
それは足枷よりも強力な、僕から離れられない枷となる。
思いついたきっかけは、3年前、ロゼッタがいなくなったあの時だ。
ロゼッタに忘却魔法をかけたのに効かなかった理由を考えて、彼女が持っているとは俄かに信じがたいが”解魔の角石”だろう、と結論付けた。
すべての魔法を無効化できる”解魔の角石”。
その存在はもちろん知っていたが、”血の呪い”の治療法を探す中でそれを試したことはなかった。
高価で、触れる者の魔力を吸収してしまうから扱いづらいというのもあったが、理由はそれだけではない。
母が、持っていたからだ。
母は、元々は2系統の魔法が使える優秀な魔法使いだった。
だが、僕の呪いで精神が悪化していくにつれ、母の使う魔法は脅威となった。
僕に給仕していたメイドにすら嫉妬し、怒りで魔法攻撃を加えた母に、父はとうとう”解魔の角石”を準備した。
僕からの贈り物ということにして、僕がそのピアスをはめてあげると、母は大層喜んでその後ずっとつけていてくれた。
そこに配された真珠色の石はとてもとても小さかったが、直接身につけたことで、母は魔法が使えなくなった。
”解魔の角石”を身につけていても、母の症状は進行し、最後には亡くなった。
だから、最初から試す必要がないと思い込んでいた。
でも、あのピアスをつけた時点で、母の症状はかなり進行していた。
それなのに、その後3年も生きた。
脳裏に、あの手記の内容がよぎる。
【母親は、その多くが、術師を生み10年前後で死に至る。】
3代目である作者が母親を亡くしたのは9歳、2代目は8歳、始祖は・・・”幼少時”に母を亡くした、としか記載がなかった。
それに対し、僕が母を亡くしたのは12歳の時だ。
強い闇の魔力を有した魔法使い達が、いずれも10歳になる前に母親を亡くしているのに、なぜ僕の母親はそれより長く生きていたのか。
「・・身につけるだけじゃ、だめなのかもしれない」
その後は”解魔の角石”を手に入れることに奔走し、ロゼッタが行方をくらましてから1年後、バウムハイム家に婿に入った。
妻となったハンナは、ロゼッタには似ても似つかなかった。
むしろ、僕の魔力にしか興味がない義父の目と、僕の容姿にしか興味がないハンナの目は、ぞっとするほど瓜二つで、ハンナを抱くのも、ハンナに触れられるのも到底無理だった。
それでも”解魔の角石”の効果を早く見たかったから、ハンナには毎日別の方法で呪いを摂らせた。
ひどいことをしているという自覚はあったが、最初に僕をモノとして扱ってきたのは義父の方だ。
目的のために、無遠慮に僕の中を踏み荒らしていくのは、いつも義父の方だ。
だから、僕だって義父の大事なものを傷つけることを厭わない。
ハンナに”血の呪い”を摂らせ、解魔の角石で四方を囲った箱に横たえてふたを閉める。
それはまるで、棺桶のようだった。
月光が僅かにだけ差す暗い部屋で、僕は求めていた答えをようやく見つけた。
”血の呪い”で出てしまった症状を治癒することはできないが、呪いは沈静化できる。
”解魔の角石”が答えだった。
身につけさせるだけでは症状の進行を止めるには不十分だが、”解魔の角石”で囲んだ空間で過ごしていれば、症状はそれ以上進行しない。
石をすりつぶして飲ませたこともあったが、魔力の高いハンナは魔力が枯渇して倒れ、2日は寝込んでいた。
僕自身の魔力が無効化できたらと思い、僕も石をすりつぶして飲んでみたことがある。
少しだけ気分が悪くなり、すべての魔法は使えなくなったが、それ以外は普段通り過ごせていた。
魔力枯渇に至らなかったのだ。
それくらい、血に宿る闇の魔力は強かった。
僕という例外を除いて、おそらく魔力のある者には、この治療自体が毒となる。
常に魔力枯渇のリスクに晒されることになるからだ。
でも魔力のないロゼッタなら、そのリスクはない。
愛娘ハンナの末路を義父に見せつけてから、義両親を領地へ追いやった。
葬儀の後、僕は着々とロゼッタを迎え入れる準備を進める。
魔力のないロゼッタなら、エルフィンの角そのものを使用できる
エルフィンの角で囲われた部屋にいれば、血の呪いは沈静化する。
またはエルフィンの角を飲んだ場合も同様に沈静化する。
逆を返せば、血の呪いを受けたら、発症を抑えるためにこの部屋にいるか、薬を飲みつづけるかしかない。
それは足枷よりも強力な、僕から離れられない枷となる。
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