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18 side J
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ロゼッタとの婚約は、思いもよらぬ形で唐突に終わりを迎えた。
突然現れて婚約の解消を求める彼女が、あのロゼッタと同一人物だとは、とても思えない。
(これは・・誰だ)
冷ややかに僕を見つめる彼女に、愕然とする。
「私、ずっと婚約を解消したいと思っておりましたの。だって…こんなに取っ替え引っ替え‥ねぇ?どんな病気を持っているかもしれませんし、やはり我が身はかわいいですから」
ロゼッタが放ったその言葉は、そういう意味で使ったのではないとわかっていても、僕の胸を抉った。
彼女が、僕から去ろうとする。
「忘却」
思わず使った忘却術はしかし、彼女には効かなかった。
「さよなら。貴方様を、心の底から軽蔑致します」
彼女は颯爽と出ていった。
それでも僕は甘く見ていた。
どうせ彼女は、あの父親に逆らう事はできない、と。
彼女は、生まれてからあの家でずっと、劣等感を植えつけられてきた。
絶対的なあの人に、彼女が対抗出来るはずがない。
彼女の家に、ロゼッタが帰ってきたら教えて欲しいと伝言し、思いつく場所を探したが、魔力の無い彼女を探す事は難しい。
彼女が本気で姿を消したら、流石の僕でも見つけられないかもしれない。
彼女の不在が、ようやく現実味を帯びて迫ってきた。
夜になっても彼女は家に帰らず、彼女の部屋で、手がかりを探す。
クローゼットの中はガランとしていて、ロゼッタが気の迷いでいなくなった訳ではないことがすぐにわかった。
僕らは、2人で1つだと思っていた。
魔力も家族の愛にも恵まれず可哀想なロゼッタと、血の呪いを持つ不幸な僕。
僕らは運命共同体で、幸せになるためには、僕が彼女を引っ張って行かなきゃいけなくて。
けれど、そうじゃなかった。
彼女は・・彼女の運命は、その気になれば、すぐに捨て去ることができるものだった。
僕の助けなんて、必要なかった。
当たり前じゃないか。
"呪い”の分際で、誰を救えるというのだ。
彼女がいるから僕は、生きなければならない、と歯を食いしばって耐えてきた。
彼女のために僕は、治療法を探すため、となりふり構わず呪いを撒いた。
"彼女の存在"で、すべての帳尻を合わせようとしてきた、その前提が、音を立てて崩れていく。
彼女は僕を軽々と飛び越えて、自由な世界へ旅立った。
瞬間込み上げたのは、怒りだった。
ロゼッタに出し抜かれた怒り。
それに気づかなかった、自分への怒り。
翌日、ロゼッタがドーラン法の救済を受けた事を知った。
彼女の父親は、口汚く彼女を罵った後に、ドサっと椅子に崩れ落ちた。
「くそっ・・あの恩知らずめ!ジェイド、少し待ってくれれば私がいい婚約相手を紹介してやる。確か遠縁にー」
「・・必要ない。僕の相手は決まってる。」
「まさか、あの恩知らずのことを言ってるのか?ドーラン法が適応されたんだぞ?ロゼッタが帰ってきたとしても、もう婚姻は結べん!」
僕は半笑いで、彼を見た。
「あなたにはもう一人、娘がいるだろう?」
彼ははっきりと顔をしかめた。
「・・・だめだ」
僕は声をあげて笑った。
彼は、”血の呪い”をバウムハイム家に入れたくなかった。
それで、僕と縁を結ぶために、娘のロゼッタを差し出したのだ。
利用するくせに、今もなお、僕を、ロゼッタを拒み続ける。
馬鹿にするにも、程がある。
闇の魔力が溢れ出し、バチバチと周囲で爆ぜる。
僕が何をしようとしているのか察して、彼はそれなりに抵抗したが、もうとっくに僕は、彼の力を上回っている。
彼にはもう、僕を止める事などできないのだ。
「支配」
ロゼッタは僕を見限った。
僕との縁を断ち切ったつもりだろうが、そうはいかない。
僕がこの家に来てあげよう。
ロゼッタと家族になるには、もうこの方法しかないのだから。
突然現れて婚約の解消を求める彼女が、あのロゼッタと同一人物だとは、とても思えない。
(これは・・誰だ)
冷ややかに僕を見つめる彼女に、愕然とする。
「私、ずっと婚約を解消したいと思っておりましたの。だって…こんなに取っ替え引っ替え‥ねぇ?どんな病気を持っているかもしれませんし、やはり我が身はかわいいですから」
ロゼッタが放ったその言葉は、そういう意味で使ったのではないとわかっていても、僕の胸を抉った。
彼女が、僕から去ろうとする。
「忘却」
思わず使った忘却術はしかし、彼女には効かなかった。
「さよなら。貴方様を、心の底から軽蔑致します」
彼女は颯爽と出ていった。
それでも僕は甘く見ていた。
どうせ彼女は、あの父親に逆らう事はできない、と。
彼女は、生まれてからあの家でずっと、劣等感を植えつけられてきた。
絶対的なあの人に、彼女が対抗出来るはずがない。
彼女の家に、ロゼッタが帰ってきたら教えて欲しいと伝言し、思いつく場所を探したが、魔力の無い彼女を探す事は難しい。
彼女が本気で姿を消したら、流石の僕でも見つけられないかもしれない。
彼女の不在が、ようやく現実味を帯びて迫ってきた。
夜になっても彼女は家に帰らず、彼女の部屋で、手がかりを探す。
クローゼットの中はガランとしていて、ロゼッタが気の迷いでいなくなった訳ではないことがすぐにわかった。
僕らは、2人で1つだと思っていた。
魔力も家族の愛にも恵まれず可哀想なロゼッタと、血の呪いを持つ不幸な僕。
僕らは運命共同体で、幸せになるためには、僕が彼女を引っ張って行かなきゃいけなくて。
けれど、そうじゃなかった。
彼女は・・彼女の運命は、その気になれば、すぐに捨て去ることができるものだった。
僕の助けなんて、必要なかった。
当たり前じゃないか。
"呪い”の分際で、誰を救えるというのだ。
彼女がいるから僕は、生きなければならない、と歯を食いしばって耐えてきた。
彼女のために僕は、治療法を探すため、となりふり構わず呪いを撒いた。
"彼女の存在"で、すべての帳尻を合わせようとしてきた、その前提が、音を立てて崩れていく。
彼女は僕を軽々と飛び越えて、自由な世界へ旅立った。
瞬間込み上げたのは、怒りだった。
ロゼッタに出し抜かれた怒り。
それに気づかなかった、自分への怒り。
翌日、ロゼッタがドーラン法の救済を受けた事を知った。
彼女の父親は、口汚く彼女を罵った後に、ドサっと椅子に崩れ落ちた。
「くそっ・・あの恩知らずめ!ジェイド、少し待ってくれれば私がいい婚約相手を紹介してやる。確か遠縁にー」
「・・必要ない。僕の相手は決まってる。」
「まさか、あの恩知らずのことを言ってるのか?ドーラン法が適応されたんだぞ?ロゼッタが帰ってきたとしても、もう婚姻は結べん!」
僕は半笑いで、彼を見た。
「あなたにはもう一人、娘がいるだろう?」
彼ははっきりと顔をしかめた。
「・・・だめだ」
僕は声をあげて笑った。
彼は、”血の呪い”をバウムハイム家に入れたくなかった。
それで、僕と縁を結ぶために、娘のロゼッタを差し出したのだ。
利用するくせに、今もなお、僕を、ロゼッタを拒み続ける。
馬鹿にするにも、程がある。
闇の魔力が溢れ出し、バチバチと周囲で爆ぜる。
僕が何をしようとしているのか察して、彼はそれなりに抵抗したが、もうとっくに僕は、彼の力を上回っている。
彼にはもう、僕を止める事などできないのだ。
「支配」
ロゼッタは僕を見限った。
僕との縁を断ち切ったつもりだろうが、そうはいかない。
僕がこの家に来てあげよう。
ロゼッタと家族になるには、もうこの方法しかないのだから。
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