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15 side J
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最初にロゼッタに抱いた感情は、あれは同情心だったのだと思う。
婚約の顔合わせで訪れた彼女はひどく自信無さげで、大人達の会話に合わせて、ぎごちなく笑顔を作ったり消したりしていた。
彼女の両親が一度もロゼッタと目を合わせないので、彼女が家族とうまくいっていないだろうことは、早い段階で気づいていた。
すぐにその理由に思い至る。
彼女は魔法が使えなかった。
それどころか、少しの魔力も持っていなかった。
彼女の両親は隣り合って座っているのに、ロゼッタだけがそこから少し離れた場所に居て、それが全てを物語っているように思えた。
顔合わせの最中、不意にドアが開き、「ジェイド!」と母が入ってきた。
焦った様子で母を追いかけてきた使用人が、部屋に入るなり慌てて礼を取る。
母は僕を抱きしめた。
「ジェイド!ジェイド!私と一緒にきて!」
いつものように、僕を呼びに来たのだろう。
「リネット、今ジェイドはお客様の対応中だ。控えなさい。・・失礼、妻は体調が悪いもので・・」
父が俯いて弁解する。
母は"お客様"に剣のある目を向けた。
「・・誰なの?」
バウムハイム伯爵が口を開き、彼と妻の紹介をした。
「そしてこちらが、ご子息と婚約させて頂く、娘のロゼッタだ」
「婚約?」
母の目が、ロゼッタを捉えた。
あの時すでに、筆頭魔法使いであるバウムハイム伯爵は知っていたはずだ。
知った上で、母上を試したんだろう。
自分の娘が標的になるのを厭わずに。
「あなたなんか!あなたなんかにジェイドは渡さないわ!ジェイドは私とずっと一緒にいるの!」
母の発作が始まり、父が使用人に合図を出した。
「出てって!出ていきなさいよ!出ていけったら!」
使用人に羽交締めにされた母は益々興奮し、暴れてそこから抜け出すと、暖炉にかかっていた火かき棒を手に取った。
「リネット!」と父が叫ぶ。
あの子がやられる、そう思った僕は、向かいの席を見た。
可哀想なくらい萎縮しているロゼッタ。
その少し離れた場所にいたバウムハイム伯爵は、立ち上がりながら、夫人を背にかばう。
ロゼッタを守ろうとしている者は、そこに誰もいなかった。
僕は立ち上がった。
「母上、危ないですよ。それを置いて、僕と一緒に行きましょう」
手を差し出すと、母がゆっくりと火かき棒を下ろし、僕に渡してくれる。
「一緒にいてくれる?私だけ?」
「ええ、母上。大好きです。」
退室を詫びてから、大人しくなった母と応接室を後にした。
さっきの場面が、頭から離れない。
誰にも守ってもらえず、怯えることしかできない、僕の婚約者。
歩きながら思った。
あの子を守ってあげよう。
あの子に優しくしてあげよう。
いつかあの子を救いだして、幸せにしてあげよう。
彼女と過ごす時間は穏やかで、僕といる間は、幸せそうに笑ってくれることが増えていった。
そんな彼女の変化を見れるのが嬉しくて、学園ではできる限り一緒に過ごすようにしていた。
いや、それは建前で、僕は彼女を独占したかっただけなのかもしれない。
彼女に笑顔を向けられるのも、彼女に笑顔を向けられる価値を知るのも、僕だけがいい。
年頃だったこともあり、女性らしい体に変化していく彼女から、益々離れがたくなる。
学園を卒業したら、すぐにでもロゼッタと結婚するつもりだった。
あの家から、早く救い出してあげたくて、それに何より、そうすれば、ずっと一緒に居られるから。
婚約の顔合わせで訪れた彼女はひどく自信無さげで、大人達の会話に合わせて、ぎごちなく笑顔を作ったり消したりしていた。
彼女の両親が一度もロゼッタと目を合わせないので、彼女が家族とうまくいっていないだろうことは、早い段階で気づいていた。
すぐにその理由に思い至る。
彼女は魔法が使えなかった。
それどころか、少しの魔力も持っていなかった。
彼女の両親は隣り合って座っているのに、ロゼッタだけがそこから少し離れた場所に居て、それが全てを物語っているように思えた。
顔合わせの最中、不意にドアが開き、「ジェイド!」と母が入ってきた。
焦った様子で母を追いかけてきた使用人が、部屋に入るなり慌てて礼を取る。
母は僕を抱きしめた。
「ジェイド!ジェイド!私と一緒にきて!」
いつものように、僕を呼びに来たのだろう。
「リネット、今ジェイドはお客様の対応中だ。控えなさい。・・失礼、妻は体調が悪いもので・・」
父が俯いて弁解する。
母は"お客様"に剣のある目を向けた。
「・・誰なの?」
バウムハイム伯爵が口を開き、彼と妻の紹介をした。
「そしてこちらが、ご子息と婚約させて頂く、娘のロゼッタだ」
「婚約?」
母の目が、ロゼッタを捉えた。
あの時すでに、筆頭魔法使いであるバウムハイム伯爵は知っていたはずだ。
知った上で、母上を試したんだろう。
自分の娘が標的になるのを厭わずに。
「あなたなんか!あなたなんかにジェイドは渡さないわ!ジェイドは私とずっと一緒にいるの!」
母の発作が始まり、父が使用人に合図を出した。
「出てって!出ていきなさいよ!出ていけったら!」
使用人に羽交締めにされた母は益々興奮し、暴れてそこから抜け出すと、暖炉にかかっていた火かき棒を手に取った。
「リネット!」と父が叫ぶ。
あの子がやられる、そう思った僕は、向かいの席を見た。
可哀想なくらい萎縮しているロゼッタ。
その少し離れた場所にいたバウムハイム伯爵は、立ち上がりながら、夫人を背にかばう。
ロゼッタを守ろうとしている者は、そこに誰もいなかった。
僕は立ち上がった。
「母上、危ないですよ。それを置いて、僕と一緒に行きましょう」
手を差し出すと、母がゆっくりと火かき棒を下ろし、僕に渡してくれる。
「一緒にいてくれる?私だけ?」
「ええ、母上。大好きです。」
退室を詫びてから、大人しくなった母と応接室を後にした。
さっきの場面が、頭から離れない。
誰にも守ってもらえず、怯えることしかできない、僕の婚約者。
歩きながら思った。
あの子を守ってあげよう。
あの子に優しくしてあげよう。
いつかあの子を救いだして、幸せにしてあげよう。
彼女と過ごす時間は穏やかで、僕といる間は、幸せそうに笑ってくれることが増えていった。
そんな彼女の変化を見れるのが嬉しくて、学園ではできる限り一緒に過ごすようにしていた。
いや、それは建前で、僕は彼女を独占したかっただけなのかもしれない。
彼女に笑顔を向けられるのも、彼女に笑顔を向けられる価値を知るのも、僕だけがいい。
年頃だったこともあり、女性らしい体に変化していく彼女から、益々離れがたくなる。
学園を卒業したら、すぐにでもロゼッタと結婚するつもりだった。
あの家から、早く救い出してあげたくて、それに何より、そうすれば、ずっと一緒に居られるから。
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