15 / 39
14
しおりを挟む
空が青い。
白い花が咲き乱れている。
(また、あの夢だ・・)
よく晴れた、暖かい日だった。
蝶々がそこかしこに飛んでいて、これ以上ないくらい、平和な日に見えた。
視線を戻すと、私の手を引き、前を歩くジェイド様がいた。
肩口で切り揃えられた銀髪が、歩く度に揺れている。
元居た場所からどんどん離れていくのが気になって、私は後ろを振り返った。
規則正しく並んだ墓石が、遠ざかっていく。
(・・そうだ。)
ここは、墓地だった。
彼も私も、真新しい喪服に身を包んでいる。
葬儀が終わり、埋葬を見届けたあと、彼が私の手を引いて連れ出したのだ。
彼の、母親の葬儀だった。
彼の母親は、長いこと精神を患っていた。
ジェイド様のことが大好きで、彼が側にさえいれば、大抵は大人しくしていたそうだ。
ロシュフォード家で行われた、私とジェイド様の婚約の顔合わせで、一度だけお会いしたことがある。
体調不良で出られない、と聞いていたお母様が、急に応接間に現れたのだ。
彼と同じ銀髪の、美しい人だった。
お母様はとても興奮していて、私がそこにいる事をひどく怒っていた。
やっぱり、魔力無しの私だから気に入らないんだ、と悲しくなったのを覚えている。
益々興奮したお母様が火かき棒を手にしたところで、ジェイド様が彼女に声をかけて連れ出してくれて、大事には至らなかった。
その時から約1年、彼女は帰らぬ人となった。
ジェイド様は埋葬の間、決して涙を見せなくて、そんな彼を見ているのが辛かった。
2人きりで見晴らしのいい場所に来てようやく、彼は涙を流した。
私は何もできなくて・・ただ黙って寄り添った。
ひとしきり泣いたあと、彼は笑顔を見せて言った。
「ロゼッタ、僕はね、魔法で皆を幸せにしたいんだ」
私も微笑んで、頷いた。
「僕は魔力がとても高いんだって。筆頭魔法使いになれるかもしれないんだって!」
赤い瞳が、涙の膜でいつもより光っていた。
涙を堪えて、彼に微笑む。
「きっとできるわ!ジェイド様は、皆を幸せにする!」
「うん!」とジェイド様が笑う。
きっと彼なら、魔法で皆を幸せにしてくれる。
魔法を使わなくたって、私を幸せな気持ちにしてくれるのだ。
なのに私はー
目を覚ますと、すぐに天蓋が目に入った。
身体を起こして、見慣れない部屋を確認する。
柔らかな日の光の入るそこは、白と水色を基調にした、美しい部屋だった。
絨毯や家具は白く、壁は薄い水色で、白い水玉模様の装飾が施されていた。
ベッドから降りようとして、右足に巻かれた細い金鎖に気づく。
外そうと試みたが、足首をぐるりと囲んだそれには鍵がかけられていて、早々に諦めた私は、金鎖を引いて長さを確かめた。
もう一端は、ベッドの足に括り付けられているようだ。
思いの外、長さがあったので、床に降り立ち、ベッドから離れてみる。
ベッドから6歩の範囲までは余裕で動けそうだ。
白いドアに向かうが、やはり届かない。
近場にあったティーテーブルの、二脚ある椅子の一方に座って、窓の方をぼんやりと眺めた。
ここから1番離れた壁にある、この部屋唯一の窓だ。
窓ははめ込み式で、白い窓枠に取手はない。
距離があるので、近づく事は不可能だった。
ここから見えるのは、青い空だけだ。
景色の代わり、とでも言うかのように、硝子窓に、壁と同様の白い水玉の装飾がされていた。
改めて部屋を見回して、私はそれに気づいた。
椅子から立ち上がり、手近な壁に近づいて、白い円形の装飾を凝視する。
親指と人差し指で作った円より、一回り小さい円形のそれは、白、というより乳白色で、一見真珠のように見える。
「まさかこれ・・」
既視感のある、銀色の煌めきが渦を巻く。
「・・・解魔の角石?」
それは確かに解魔の角石に見えた。
壁だけじゃ無い。
嵌め込み式の硝子窓にも、真っ白な天井にも、ドアにも。
整然と並ぶ水玉の装飾だと思ったそれは、全て、解魔の角石だった。
白い花が咲き乱れている。
(また、あの夢だ・・)
よく晴れた、暖かい日だった。
蝶々がそこかしこに飛んでいて、これ以上ないくらい、平和な日に見えた。
視線を戻すと、私の手を引き、前を歩くジェイド様がいた。
肩口で切り揃えられた銀髪が、歩く度に揺れている。
元居た場所からどんどん離れていくのが気になって、私は後ろを振り返った。
規則正しく並んだ墓石が、遠ざかっていく。
(・・そうだ。)
ここは、墓地だった。
彼も私も、真新しい喪服に身を包んでいる。
葬儀が終わり、埋葬を見届けたあと、彼が私の手を引いて連れ出したのだ。
彼の、母親の葬儀だった。
彼の母親は、長いこと精神を患っていた。
ジェイド様のことが大好きで、彼が側にさえいれば、大抵は大人しくしていたそうだ。
ロシュフォード家で行われた、私とジェイド様の婚約の顔合わせで、一度だけお会いしたことがある。
体調不良で出られない、と聞いていたお母様が、急に応接間に現れたのだ。
彼と同じ銀髪の、美しい人だった。
お母様はとても興奮していて、私がそこにいる事をひどく怒っていた。
やっぱり、魔力無しの私だから気に入らないんだ、と悲しくなったのを覚えている。
益々興奮したお母様が火かき棒を手にしたところで、ジェイド様が彼女に声をかけて連れ出してくれて、大事には至らなかった。
その時から約1年、彼女は帰らぬ人となった。
ジェイド様は埋葬の間、決して涙を見せなくて、そんな彼を見ているのが辛かった。
2人きりで見晴らしのいい場所に来てようやく、彼は涙を流した。
私は何もできなくて・・ただ黙って寄り添った。
ひとしきり泣いたあと、彼は笑顔を見せて言った。
「ロゼッタ、僕はね、魔法で皆を幸せにしたいんだ」
私も微笑んで、頷いた。
「僕は魔力がとても高いんだって。筆頭魔法使いになれるかもしれないんだって!」
赤い瞳が、涙の膜でいつもより光っていた。
涙を堪えて、彼に微笑む。
「きっとできるわ!ジェイド様は、皆を幸せにする!」
「うん!」とジェイド様が笑う。
きっと彼なら、魔法で皆を幸せにしてくれる。
魔法を使わなくたって、私を幸せな気持ちにしてくれるのだ。
なのに私はー
目を覚ますと、すぐに天蓋が目に入った。
身体を起こして、見慣れない部屋を確認する。
柔らかな日の光の入るそこは、白と水色を基調にした、美しい部屋だった。
絨毯や家具は白く、壁は薄い水色で、白い水玉模様の装飾が施されていた。
ベッドから降りようとして、右足に巻かれた細い金鎖に気づく。
外そうと試みたが、足首をぐるりと囲んだそれには鍵がかけられていて、早々に諦めた私は、金鎖を引いて長さを確かめた。
もう一端は、ベッドの足に括り付けられているようだ。
思いの外、長さがあったので、床に降り立ち、ベッドから離れてみる。
ベッドから6歩の範囲までは余裕で動けそうだ。
白いドアに向かうが、やはり届かない。
近場にあったティーテーブルの、二脚ある椅子の一方に座って、窓の方をぼんやりと眺めた。
ここから1番離れた壁にある、この部屋唯一の窓だ。
窓ははめ込み式で、白い窓枠に取手はない。
距離があるので、近づく事は不可能だった。
ここから見えるのは、青い空だけだ。
景色の代わり、とでも言うかのように、硝子窓に、壁と同様の白い水玉の装飾がされていた。
改めて部屋を見回して、私はそれに気づいた。
椅子から立ち上がり、手近な壁に近づいて、白い円形の装飾を凝視する。
親指と人差し指で作った円より、一回り小さい円形のそれは、白、というより乳白色で、一見真珠のように見える。
「まさかこれ・・」
既視感のある、銀色の煌めきが渦を巻く。
「・・・解魔の角石?」
それは確かに解魔の角石に見えた。
壁だけじゃ無い。
嵌め込み式の硝子窓にも、真っ白な天井にも、ドアにも。
整然と並ぶ水玉の装飾だと思ったそれは、全て、解魔の角石だった。
116
お気に入りに追加
3,388
あなたにおすすめの小説

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。


お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。
甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」
「はぁぁぁぁ!!??」
親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。
そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね……
って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!!
お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!!
え?結納金貰っちゃった?
それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。
※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません
片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。
皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。
もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる