【完結】浮気の証拠を揃えて婚約破棄したのに、捕まってしまいました。

airria

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空が青い。

白い花が咲き乱れている。

(また、あの夢だ・・)

よく晴れた、暖かい日だった。

蝶々がそこかしこに飛んでいて、これ以上ないくらい、平和な日に見えた。

視線を戻すと、私の手を引き、前を歩くジェイド様がいた。

肩口で切り揃えられた銀髪が、歩く度に揺れている。

元居た場所からどんどん離れていくのが気になって、私は後ろを振り返った。

規則正しく並んだ墓石が、遠ざかっていく。

(・・そうだ。)

ここは、墓地だった。

彼も私も、真新しい喪服に身を包んでいる。

葬儀が終わり、埋葬を見届けたあと、彼が私の手を引いて連れ出したのだ。






彼の、母親の葬儀だった。

彼の母親は、長いこと精神を患っていた。

ジェイド様のことが大好きで、彼が側にさえいれば、大抵は大人しくしていたそうだ。

ロシュフォード家で行われた、私とジェイド様の婚約の顔合わせで、一度だけお会いしたことがある。

体調不良で出られない、と聞いていたお母様が、急に応接間に現れたのだ。

彼と同じ銀髪の、美しい人だった。

お母様はとても興奮していて、私がそこにいる事をひどく怒っていた。

やっぱり、魔力無しの私だから気に入らないんだ、と悲しくなったのを覚えている。

益々興奮したお母様が火かき棒を手にしたところで、ジェイド様が彼女に声をかけて連れ出してくれて、大事には至らなかった。

その時から約1年、彼女は帰らぬ人となった。




ジェイド様は埋葬の間、決して涙を見せなくて、そんな彼を見ているのが辛かった。

2人きりで見晴らしのいい場所に来てようやく、彼は涙を流した。

私は何もできなくて・・ただ黙って寄り添った。

ひとしきり泣いたあと、彼は笑顔を見せて言った。

「ロゼッタ、僕はね、魔法で皆を幸せにしたいんだ」

私も微笑んで、頷いた。

「僕は魔力がとても高いんだって。筆頭魔法使いになれるかもしれないんだって!」

赤い瞳が、涙の膜でいつもより光っていた。

涙を堪えて、彼に微笑む。

「きっとできるわ!ジェイド様は、皆を幸せにする!」

「うん!」とジェイド様が笑う。

きっと彼なら、魔法で皆を幸せにしてくれる。

魔法を使わなくたって、私を幸せな気持ちにしてくれるのだ。

なのに私はー







目を覚ますと、すぐに天蓋が目に入った。

身体を起こして、見慣れない部屋を確認する。

柔らかな日の光の入るそこは、白と水色を基調にした、美しい部屋だった。

絨毯や家具は白く、壁は薄い水色で、白い水玉模様の装飾が施されていた。

ベッドから降りようとして、右足に巻かれた細い金鎖に気づく。

外そうと試みたが、足首をぐるりと囲んだそれには鍵がかけられていて、早々に諦めた私は、金鎖を引いて長さを確かめた。

もう一端は、ベッドの足に括り付けられているようだ。

思いの外、長さがあったので、床に降り立ち、ベッドから離れてみる。

ベッドから6歩の範囲までは余裕で動けそうだ。

白いドアに向かうが、やはり届かない。

近場にあったティーテーブルの、二脚ある椅子の一方に座って、窓の方をぼんやりと眺めた。

ここから1番離れた壁にある、この部屋唯一の窓だ。

窓ははめ込み式で、白い窓枠に取手はない。

距離があるので、近づく事は不可能だった。

ここから見えるのは、青い空だけだ。

景色の代わり、とでも言うかのように、硝子窓に、壁と同様の白い水玉の装飾がされていた。

改めて部屋を見回して、私はに気づいた。

椅子から立ち上がり、手近な壁に近づいて、白い円形の装飾を凝視する。

親指と人差し指で作った円より、一回り小さい円形のそれは、白、というより乳白色で、一見真珠のように見える。

「まさかこれ・・」

既視感のある、銀色の煌めきが渦を巻く。

「・・・解魔の角石?」

それは確かに解魔の角石に見えた。

壁だけじゃ無い。

嵌め込み式の硝子窓にも、真っ白な天井にも、ドアにも。

整然と並ぶ水玉の装飾だと思ったそれは、全て、解魔の角石だった。
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