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17 side J
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僕は、違う。
手記に書かれていたあれは、全部昔々の物語だ。
僕の血は皆と同じ赤色をしているし、確かに母は亡くなっているけれど、他に精神をおかしくしている人はいない。
ロゼの父君も言っていた。『この手記が、真実とは限らん。』と。
僕は、絶対違う。
そう信じたくて、確かめたくて、誘われるままに知らない女の子と口付けた。
口付けたその日、これで女の子に何か起きてしまったら、死んでしまったら、と自分の罪深さに慄いて、僕は一睡も出来なかった。
翌日に女の子を見に行って、元気そうに笑う様子にホッとしたのを覚えている。
ほら、きっと大丈夫。
証明したくて、他にも何人かの女の子と関係を持った。
でも数を重ねていくうちに、周囲に、特にロゼッタに、敵意を向けるようになっていく彼女らの姿は、かつての母と重なった。
決定的だったのは、そのうちの1人が、ロゼッタにナイフを向けた時だ。
僕は認めざるを得なかった。
僕の中に、”血の呪い”は確かにあるのだと。
僕がロゼッタと一緒にいることで彼女が標的になると思い知り、それ以降は、ロゼッタと過ごすのを極力避けた。
”血の呪い”が本当に治せないのか、粗方の方法を試した。
思いつく魔法は全て。
それ以外にも、解毒に解呪に薬にハーブに・・・けれど僕をあざ笑うかのように、彼女たちの症状は悪化する一方だった。
鬱屈とした思いを精とともに吐き出す。
順調に歩めているのは、魔法使いとしての僕だけで、ロゼッタとの未来が遠ざかっていく。
卒業してすぐに結婚?出来るわけないだろう?ロゼッタを”血の呪い”で穢してしまう。
彼女に全てを話す?相手を狂い殺す呪いを持つ僕を受け入れてほしいと?
僕が彼女をあの家から救い出さなきゃいけないのに、彼女を幸せにしなきゃいけないのに。
いくら結婚を先延ばしにしても、彼女の父親は、僕とロゼッタの結婚を諦めるつもりはないだろう。
そして、彼女が僕を嫌いになっても、ロゼッタは父親の言うなりになるしかない。
彼女との結婚が揺るがないのを知っているから、人目を気にすることも無くなった。
私のことが嫌いになったのか、自分ではだめなのか、そう言われ、ロゼッタに泣かれることが増えていく。
「君のことが好きだから、大切にしたいんだ」
そんな月並みなことしか言えなかった。
全てが、空回りしていく。
ある日、魔法省で仕事を終えて帰ろうとしていた僕はロゼッタの父から呼び出しを受け、彼の部屋へ向かった。
筆頭魔法使いであるロゼッタの父は、職場では信頼の置ける上司だった。
彼は国のために働く優秀な魔法使いを育成することに腐心していた。
役に立つ人材には熱心に目をかけるが、そうでない者は容赦なく切り捨てる、そう言う人だった。
彼が側近に退室を命じたので、その手の話だと理解する。
「随分、遊んでいるみたいだな」
その言いように、から笑いが漏れた。
「僕も、男ですから。」
押し黙る彼に手を振る。
「あの手記の研究を引き継ぐことにしたんです。彼女たちを治す方法が見つかるかもしれないでしょう?それに仕事の手は抜いてませんよ。あなたの大好きな、国のためにね」
「ジェイド・・」
わざと不躾な態度をとった僕はその時、彼に何を期待していたのだろう。
確かなのは、あの時僕を咎め、叱り、糾弾できるのは、おそらく彼だけだったということだ。
沈黙の後、彼は顔を背けることなく、僕の目を真正面から見つめてこう言った。
「遊びはほどほどには構わん・・その代わり、研究結果の報告だけは忘れるな」
闇が、一層濃くなった。
手記に書かれていたあれは、全部昔々の物語だ。
僕の血は皆と同じ赤色をしているし、確かに母は亡くなっているけれど、他に精神をおかしくしている人はいない。
ロゼの父君も言っていた。『この手記が、真実とは限らん。』と。
僕は、絶対違う。
そう信じたくて、確かめたくて、誘われるままに知らない女の子と口付けた。
口付けたその日、これで女の子に何か起きてしまったら、死んでしまったら、と自分の罪深さに慄いて、僕は一睡も出来なかった。
翌日に女の子を見に行って、元気そうに笑う様子にホッとしたのを覚えている。
ほら、きっと大丈夫。
証明したくて、他にも何人かの女の子と関係を持った。
でも数を重ねていくうちに、周囲に、特にロゼッタに、敵意を向けるようになっていく彼女らの姿は、かつての母と重なった。
決定的だったのは、そのうちの1人が、ロゼッタにナイフを向けた時だ。
僕は認めざるを得なかった。
僕の中に、”血の呪い”は確かにあるのだと。
僕がロゼッタと一緒にいることで彼女が標的になると思い知り、それ以降は、ロゼッタと過ごすのを極力避けた。
”血の呪い”が本当に治せないのか、粗方の方法を試した。
思いつく魔法は全て。
それ以外にも、解毒に解呪に薬にハーブに・・・けれど僕をあざ笑うかのように、彼女たちの症状は悪化する一方だった。
鬱屈とした思いを精とともに吐き出す。
順調に歩めているのは、魔法使いとしての僕だけで、ロゼッタとの未来が遠ざかっていく。
卒業してすぐに結婚?出来るわけないだろう?ロゼッタを”血の呪い”で穢してしまう。
彼女に全てを話す?相手を狂い殺す呪いを持つ僕を受け入れてほしいと?
僕が彼女をあの家から救い出さなきゃいけないのに、彼女を幸せにしなきゃいけないのに。
いくら結婚を先延ばしにしても、彼女の父親は、僕とロゼッタの結婚を諦めるつもりはないだろう。
そして、彼女が僕を嫌いになっても、ロゼッタは父親の言うなりになるしかない。
彼女との結婚が揺るがないのを知っているから、人目を気にすることも無くなった。
私のことが嫌いになったのか、自分ではだめなのか、そう言われ、ロゼッタに泣かれることが増えていく。
「君のことが好きだから、大切にしたいんだ」
そんな月並みなことしか言えなかった。
全てが、空回りしていく。
ある日、魔法省で仕事を終えて帰ろうとしていた僕はロゼッタの父から呼び出しを受け、彼の部屋へ向かった。
筆頭魔法使いであるロゼッタの父は、職場では信頼の置ける上司だった。
彼は国のために働く優秀な魔法使いを育成することに腐心していた。
役に立つ人材には熱心に目をかけるが、そうでない者は容赦なく切り捨てる、そう言う人だった。
彼が側近に退室を命じたので、その手の話だと理解する。
「随分、遊んでいるみたいだな」
その言いように、から笑いが漏れた。
「僕も、男ですから。」
押し黙る彼に手を振る。
「あの手記の研究を引き継ぐことにしたんです。彼女たちを治す方法が見つかるかもしれないでしょう?それに仕事の手は抜いてませんよ。あなたの大好きな、国のためにね」
「ジェイド・・」
わざと不躾な態度をとった僕はその時、彼に何を期待していたのだろう。
確かなのは、あの時僕を咎め、叱り、糾弾できるのは、おそらく彼だけだったということだ。
沈黙の後、彼は顔を背けることなく、僕の目を真正面から見つめてこう言った。
「遊びはほどほどには構わん・・その代わり、研究結果の報告だけは忘れるな」
闇が、一層濃くなった。
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