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「お疑いですか?私は正真正銘、本物のロゼッタ バウムハイムですが。」
「ロゼッタ…」
「とりあえず、ベッドに戻るか、下着だけでも履いて下さいます?」
嫌悪の表情を隠しもせず言ってやる。
本音は「そんなもん晒すな!見苦しい!」だったので、いいよね、これくらい。
その時、ベッドで、布団の膨らみがモゾっと動いた
「ん…ジェイド様ぁ…どうしたの?」
(あ、起きちゃった。)
これは…めんどくさい事になりそうだ。
起き上がった女は、私への敵対心を隠しもしなかった。
「な…あなた!婚約者だかなんだか知らないけど、ジェイド様の部屋にまで乗り込んできて、どういうつもり!?この恥知らず!愛されてもいないくせに!」
さすがに、裸のままベッドから降りてはこないようだ。
睨み付けてくる女に見覚えはない。
「あなたがいるから、ジェイド様は私と結婚できないのよ。もうジェイド様を縛り付けるのはやめてあげて!」
その台詞聞くの、前世の記憶を取り戻してから貴方で3人目なんですよ。
付き合う女性の皆が皆、ジェイド様に夢中になり、私に強い敵意を向けてくる。
彼が魔性の女ならぬ"魔性の男"と呼ばれる所以だ。
苛立ちを覚えるが、難癖を付けられるこんな事態も今日で終わりだ。
そう思えば、苛立ちも静まり、逆に清々しい気持ちになった。
ただ、目の前には清々しくない光景が。
彼はいつまで全裸でいるつもりなんだろう?
未だに私の前から動こうとしない彼を冷ややかに見つめる。
彼の身体は細身の割に適度に筋肉が付いていて、意外である。
いや、無反応のこの人より、まずは私を恥知らず呼ばわりする、怒れる恥知らず女の対応だ。
「えーっと、ごめんなさい、あなたのお名前を存じ上げなくて…。あなたには先月にも同じことを言わせてしまって…え?言ってない?じゃああの令嬢は誰…いえ、気になさらないで。そういえばあの令嬢はブロンドでしたわ。ウッカリですわ」
テヘペロ。
女はブロンドの女の存在を匂わせると、顔色を悪くした。
あれ?もしかして、心配になっちゃった?
「あ、大丈夫ですわ。私の知っているだけですけれど、歴代のブロンドの彼女は計3人、あなたのような赤毛の彼女は計6人なので、この人は赤毛の方が好きなんだと思います。心配なさらないで?」
よしよし、フォローできた。
「私、ずっと婚約を解消したいと思っておりましたの。だって…こんなに取っ替え引っ替え・・ねぇ?どんな病気を持っているかもしれませんし、やはり我が身はかわいいですから。ご安心ください。ちゃんと婚約は解消いたします」
やっと今日、それだけの材料が手に入ったのだから。
嬉しくて、思わず目を細めながら口角を上げてしまう。
「と言うわけで、おめでとうございます。お二人の門出を心よりお慶び申し上げますわ」
まだ動こうとしないジェイド様に目を向ける。
「一生添い遂げて、大切になさいませ。それではこれで失礼いたします」
さらばだヤリ○ン野郎。
今日イチの笑顔でその場を後にしようとした、その時。
「忘却」
またもや降ってきた魔法に、私は目を丸くした。
ジェイド様を見上げると、少し目元を緩ませてこちらを見ている。
「ロゼッタ…」
そう言って、頬に手を伸ばそうとしてきたので反射的に後退した。
「汚い手で触らないでくださる!?」
あの女との事後の手で触られたら、と思っただけで鳥肌が立つ。
彼が呆然としている。
なぜ効かないのか、とその目が言っている。
「精神干渉系の魔法を使うなど、法に触れる行為ですわ」
言いながら、やはり、と私は失望する。
やはり、彼の仕業だった。
忘却魔法を使われているかもしれない、ということは、予測の範囲を超えて、ほとんど確定事項だった。
でも、何かの間違いであって欲しい、と、祈りにも似た気持ちも心のどこかにあった。
それが本当だったら、私の青春を捧げてきた相手が、もう救いようがないクズ野郎だったと認めるしかないから。
・・終わりだ。
私は後ろ手にドアノブに手をかける。
「ロゼッタ……ロゼッタ…!婚約解消なんてムリだ!これは家同士の契約で・・」
別れを告げよう。私の運命と、これまでの人生に。
「さよなら。貴方様を、心の底から軽蔑致します」
今までの私なら、一度も彼に向けなかったであろう蔑みの眼差しを向けると、彼は顔を蒼くして固まった。
そして私は、その場を後にした。
「ロゼッタ…」
「とりあえず、ベッドに戻るか、下着だけでも履いて下さいます?」
嫌悪の表情を隠しもせず言ってやる。
本音は「そんなもん晒すな!見苦しい!」だったので、いいよね、これくらい。
その時、ベッドで、布団の膨らみがモゾっと動いた
「ん…ジェイド様ぁ…どうしたの?」
(あ、起きちゃった。)
これは…めんどくさい事になりそうだ。
起き上がった女は、私への敵対心を隠しもしなかった。
「な…あなた!婚約者だかなんだか知らないけど、ジェイド様の部屋にまで乗り込んできて、どういうつもり!?この恥知らず!愛されてもいないくせに!」
さすがに、裸のままベッドから降りてはこないようだ。
睨み付けてくる女に見覚えはない。
「あなたがいるから、ジェイド様は私と結婚できないのよ。もうジェイド様を縛り付けるのはやめてあげて!」
その台詞聞くの、前世の記憶を取り戻してから貴方で3人目なんですよ。
付き合う女性の皆が皆、ジェイド様に夢中になり、私に強い敵意を向けてくる。
彼が魔性の女ならぬ"魔性の男"と呼ばれる所以だ。
苛立ちを覚えるが、難癖を付けられるこんな事態も今日で終わりだ。
そう思えば、苛立ちも静まり、逆に清々しい気持ちになった。
ただ、目の前には清々しくない光景が。
彼はいつまで全裸でいるつもりなんだろう?
未だに私の前から動こうとしない彼を冷ややかに見つめる。
彼の身体は細身の割に適度に筋肉が付いていて、意外である。
いや、無反応のこの人より、まずは私を恥知らず呼ばわりする、怒れる恥知らず女の対応だ。
「えーっと、ごめんなさい、あなたのお名前を存じ上げなくて…。あなたには先月にも同じことを言わせてしまって…え?言ってない?じゃああの令嬢は誰…いえ、気になさらないで。そういえばあの令嬢はブロンドでしたわ。ウッカリですわ」
テヘペロ。
女はブロンドの女の存在を匂わせると、顔色を悪くした。
あれ?もしかして、心配になっちゃった?
「あ、大丈夫ですわ。私の知っているだけですけれど、歴代のブロンドの彼女は計3人、あなたのような赤毛の彼女は計6人なので、この人は赤毛の方が好きなんだと思います。心配なさらないで?」
よしよし、フォローできた。
「私、ずっと婚約を解消したいと思っておりましたの。だって…こんなに取っ替え引っ替え・・ねぇ?どんな病気を持っているかもしれませんし、やはり我が身はかわいいですから。ご安心ください。ちゃんと婚約は解消いたします」
やっと今日、それだけの材料が手に入ったのだから。
嬉しくて、思わず目を細めながら口角を上げてしまう。
「と言うわけで、おめでとうございます。お二人の門出を心よりお慶び申し上げますわ」
まだ動こうとしないジェイド様に目を向ける。
「一生添い遂げて、大切になさいませ。それではこれで失礼いたします」
さらばだヤリ○ン野郎。
今日イチの笑顔でその場を後にしようとした、その時。
「忘却」
またもや降ってきた魔法に、私は目を丸くした。
ジェイド様を見上げると、少し目元を緩ませてこちらを見ている。
「ロゼッタ…」
そう言って、頬に手を伸ばそうとしてきたので反射的に後退した。
「汚い手で触らないでくださる!?」
あの女との事後の手で触られたら、と思っただけで鳥肌が立つ。
彼が呆然としている。
なぜ効かないのか、とその目が言っている。
「精神干渉系の魔法を使うなど、法に触れる行為ですわ」
言いながら、やはり、と私は失望する。
やはり、彼の仕業だった。
忘却魔法を使われているかもしれない、ということは、予測の範囲を超えて、ほとんど確定事項だった。
でも、何かの間違いであって欲しい、と、祈りにも似た気持ちも心のどこかにあった。
それが本当だったら、私の青春を捧げてきた相手が、もう救いようがないクズ野郎だったと認めるしかないから。
・・終わりだ。
私は後ろ手にドアノブに手をかける。
「ロゼッタ……ロゼッタ…!婚約解消なんてムリだ!これは家同士の契約で・・」
別れを告げよう。私の運命と、これまでの人生に。
「さよなら。貴方様を、心の底から軽蔑致します」
今までの私なら、一度も彼に向けなかったであろう蔑みの眼差しを向けると、彼は顔を蒼くして固まった。
そして私は、その場を後にした。
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