【完結】浮気の証拠を揃えて婚約破棄したのに、捕まってしまいました。

airria

文字の大きさ
上 下
2 / 39

しおりを挟む
私ことロゼッタ バウムハイムはとにかく気が弱い女の子だった。

それは育った環境によるところも大きい。

王宮筆頭魔法使いを務めるバウムハイム伯爵家の長女として生まれたロゼッタは、生まれて間もなく、魔力がないことが判明した。

この世界には、魔力がある。

と言っても、魔法を発動できるほどの魔力を持つ者はほんの一握りで、それもほとんどが貴族だ。

平民であれば魔力無しは20人に1人程度の確率で生まれるが、より強い魔力を求めて婚姻を結ぶ貴族においては、魔力無しが生まれる確率は非常に稀だ。

強い魔力を持つ者はより良い縁談を得られるし、使用できる魔法によっては要職に就くこともできる。

魔力が、貴族世界においてヒエラルキーそのものなのだ。

生まれてきた長女が魔力無しだと判明し、父であるバウムハイム伯爵は激怒した。

伯爵と同じグリーンアイを持つこの失敗作は自分の子ではないと言い張り、執事に自分の視界に入れないように命じた。

母である伯爵夫人は、夫人と同じピンクブロンドの髪を持つこの子どもが魔力無しなのは自分のせいではないと金切り声をあげ、その後ロゼッタの世話は放任して、全て乳母に任せた。

その後生まれた、妹のハンナが強い魔力を持っていなかったら、夫婦仲は戻らなかったかもしれない。

次女ハンナの誕生により、バウムハイム伯爵家に笑顔が戻る。1人肩身の狭い思いをするロゼッタを残して。

両親は、妹ばかりを甘やかし、ロゼッタを冷遇した。

使用人もロゼッタを遠巻きにし、中には、ロゼッタを嫌う妹ハンナの歓心を買うため、嫌がらせをする者まで現れた。

ロゼッタは息を潜めて、自室で本ばかり読んで過ごすようになった。

そんなある日、強力な魔力を持つジェイドとロゼッタとの婚約が決まった。

父からその話を聞かされた時、ロゼッタは何の冗談かと耳を疑ったものだ。

ジェイドはその高い魔力だけでなく、闇魔法の素質があるらしく、建国以来3人しか存在しない闇魔法の使い手となれば、次代の王宮筆頭魔法使いの座は約束されたも同然だ。

父が自分の役職の後継として、伯爵家次男のジェイドと繋がろうとしているのはわかったが、妹のハンナではなく、魔力無しの自分の婚約者に据えてくれるなど思ってもみなかった。

心の奥底では、父も私の将来を考えるほどには愛してくれていた・・ロゼッタは、父の慈悲に感謝して感激の涙を流した。

見目麗しく、婚約者として殊更自分に優してくれるジェイドに、ロゼッタはすぐに恋に落ち、貴族の子女が通う学園へ2人一緒に通うのを指折り数えて心待ちにしていた。

15歳になり、学園が始まった。

登下校も、昼食も、テスト前の勉強も、いつもジェイドと一緒だ。幸せだった。

ジェイドと婚約したロゼッタへの妬みから、妹ハンナの嫌味や暴言は以前よりもきつくなったが、学園にいる間はそれも忘れられた。

多くの魔力持ちは、思春期の成長に合わせてその魔力量が増える。

人によっては倍近くまで増える者もいるらしいが、ジェイドの魔力量はとうとう筆頭魔法使いであるロゼッタの父をも越え、闇魔法もあっという間に修得した。

学園に入って間も無く1年が経とうとする頃、よく解明されていない闇魔法の研究協力も兼ねて、ジェイドは週に2回魔塔に通うようになった。

ジェイドの態度に、何かよそよそしさを感じるようになったが、会う回数が減ったせいだと最初は思っていた。

しかし同時期から、彼の不貞をそこここで耳にするようになる。

最初はただの噂だと信じていなかったロゼッタも、彼と関係を持った女性から目の敵にされ、嫌味を言われたり、嫌がらせされるようになり、不貞は本当だったのだ、と心を傷めるようになった。

ジェイドに夢中になった令嬢から命を狙われたこともあった。

確か、次の授業にジェイドと2人で移動している時だった。

「ジェイド様と結婚するのは私よ!」とナイフを向けてきた令嬢は、すでに目が正気ではなかった。

焦った様子のジェイドが捕縛魔法で捕らえてくれなかったら、ロゼッタは無事ではすまなかっただろう。

あの令嬢は、その後すぐに学校を辞め、領地へ戻ったと風の噂で聞いた。

流石にその件があってロゼッタに顔向できなくなったのか、それとも、無理して取り繕う必要はないと思ったのか、ジェイドは取り巻きの令嬢たちと過ごすようになった。

口では「君のことが大切だ」と言ってくれるジェイドだが、ロゼッタと学園で過ごすことは、もうほとんど無くなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...