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私ことロゼッタ バウムハイムはとにかく気が弱い女の子だった。
それは育った環境によるところも大きい。
王宮筆頭魔法使いを務めるバウムハイム伯爵家の長女として生まれたロゼッタは、生まれて間もなく、魔力がないことが判明した。
この世界には、魔力がある。
と言っても、魔法を発動できるほどの魔力を持つ者はほんの一握りで、それもほとんどが貴族だ。
平民であれば魔力無しは20人に1人程度の確率で生まれるが、より強い魔力を求めて婚姻を結ぶ貴族においては、魔力無しが生まれる確率は非常に稀だ。
強い魔力を持つ者はより良い縁談を得られるし、使用できる魔法によっては要職に就くこともできる。
魔力が、貴族世界においてヒエラルキーそのものなのだ。
生まれてきた長女が魔力無しだと判明し、父であるバウムハイム伯爵は激怒した。
伯爵と同じグリーンアイを持つこの失敗作は自分の子ではないと言い張り、執事に自分の視界に入れないように命じた。
母である伯爵夫人は、夫人と同じピンクブロンドの髪を持つこの子どもが魔力無しなのは自分のせいではないと金切り声をあげ、その後ロゼッタの世話は放任して、全て乳母に任せた。
その後生まれた、妹のハンナが強い魔力を持っていなかったら、夫婦仲は戻らなかったかもしれない。
次女ハンナの誕生により、バウムハイム伯爵家に笑顔が戻る。1人肩身の狭い思いをするロゼッタを残して。
両親は、妹ばかりを甘やかし、ロゼッタを冷遇した。
使用人もロゼッタを遠巻きにし、中には、ロゼッタを嫌う妹ハンナの歓心を買うため、嫌がらせをする者まで現れた。
ロゼッタは息を潜めて、自室で本ばかり読んで過ごすようになった。
そんなある日、強力な魔力を持つジェイドとロゼッタとの婚約が決まった。
父からその話を聞かされた時、ロゼッタは何の冗談かと耳を疑ったものだ。
ジェイドはその高い魔力だけでなく、闇魔法の素質があるらしく、建国以来3人しか存在しない闇魔法の使い手となれば、次代の王宮筆頭魔法使いの座は約束されたも同然だ。
父が自分の役職の後継として、伯爵家次男のジェイドと繋がろうとしているのはわかったが、妹のハンナではなく、魔力無しの自分の婚約者に据えてくれるなど思ってもみなかった。
心の奥底では、父も私の将来を考えるほどには愛してくれていた・・ロゼッタは、父の慈悲に感謝して感激の涙を流した。
見目麗しく、婚約者として殊更自分に優してくれるジェイドに、ロゼッタはすぐに恋に落ち、貴族の子女が通う学園へ2人一緒に通うのを指折り数えて心待ちにしていた。
15歳になり、学園が始まった。
登下校も、昼食も、テスト前の勉強も、いつもジェイドと一緒だ。幸せだった。
ジェイドと婚約したロゼッタへの妬みから、妹ハンナの嫌味や暴言は以前よりもきつくなったが、学園にいる間はそれも忘れられた。
多くの魔力持ちは、思春期の成長に合わせてその魔力量が増える。
人によっては倍近くまで増える者もいるらしいが、ジェイドの魔力量はとうとう筆頭魔法使いであるロゼッタの父をも越え、闇魔法もあっという間に修得した。
学園に入って間も無く1年が経とうとする頃、よく解明されていない闇魔法の研究協力も兼ねて、ジェイドは週に2回魔塔に通うようになった。
ジェイドの態度に、何かよそよそしさを感じるようになったが、会う回数が減ったせいだと最初は思っていた。
しかし同時期から、彼の不貞をそこここで耳にするようになる。
最初はただの噂だと信じていなかったロゼッタも、彼と関係を持った女性から目の敵にされ、嫌味を言われたり、嫌がらせされるようになり、不貞は本当だったのだ、と心を傷めるようになった。
ジェイドに夢中になった令嬢から命を狙われたこともあった。
確か、次の授業にジェイドと2人で移動している時だった。
「ジェイド様と結婚するのは私よ!」とナイフを向けてきた令嬢は、すでに目が正気ではなかった。
焦った様子のジェイドが捕縛魔法で捕らえてくれなかったら、ロゼッタは無事ではすまなかっただろう。
あの令嬢は、その後すぐに療養のため学校を辞め、領地へ戻ったと風の噂で聞いた。
流石にその件があってロゼッタに顔向できなくなったのか、それとも、無理して取り繕う必要はないと思ったのか、ジェイドは取り巻きの令嬢たちと過ごすようになった。
口では「君のことが大切だ」と言ってくれるジェイドだが、ロゼッタと学園で過ごすことは、もうほとんど無くなっていた。
それは育った環境によるところも大きい。
王宮筆頭魔法使いを務めるバウムハイム伯爵家の長女として生まれたロゼッタは、生まれて間もなく、魔力がないことが判明した。
この世界には、魔力がある。
と言っても、魔法を発動できるほどの魔力を持つ者はほんの一握りで、それもほとんどが貴族だ。
平民であれば魔力無しは20人に1人程度の確率で生まれるが、より強い魔力を求めて婚姻を結ぶ貴族においては、魔力無しが生まれる確率は非常に稀だ。
強い魔力を持つ者はより良い縁談を得られるし、使用できる魔法によっては要職に就くこともできる。
魔力が、貴族世界においてヒエラルキーそのものなのだ。
生まれてきた長女が魔力無しだと判明し、父であるバウムハイム伯爵は激怒した。
伯爵と同じグリーンアイを持つこの失敗作は自分の子ではないと言い張り、執事に自分の視界に入れないように命じた。
母である伯爵夫人は、夫人と同じピンクブロンドの髪を持つこの子どもが魔力無しなのは自分のせいではないと金切り声をあげ、その後ロゼッタの世話は放任して、全て乳母に任せた。
その後生まれた、妹のハンナが強い魔力を持っていなかったら、夫婦仲は戻らなかったかもしれない。
次女ハンナの誕生により、バウムハイム伯爵家に笑顔が戻る。1人肩身の狭い思いをするロゼッタを残して。
両親は、妹ばかりを甘やかし、ロゼッタを冷遇した。
使用人もロゼッタを遠巻きにし、中には、ロゼッタを嫌う妹ハンナの歓心を買うため、嫌がらせをする者まで現れた。
ロゼッタは息を潜めて、自室で本ばかり読んで過ごすようになった。
そんなある日、強力な魔力を持つジェイドとロゼッタとの婚約が決まった。
父からその話を聞かされた時、ロゼッタは何の冗談かと耳を疑ったものだ。
ジェイドはその高い魔力だけでなく、闇魔法の素質があるらしく、建国以来3人しか存在しない闇魔法の使い手となれば、次代の王宮筆頭魔法使いの座は約束されたも同然だ。
父が自分の役職の後継として、伯爵家次男のジェイドと繋がろうとしているのはわかったが、妹のハンナではなく、魔力無しの自分の婚約者に据えてくれるなど思ってもみなかった。
心の奥底では、父も私の将来を考えるほどには愛してくれていた・・ロゼッタは、父の慈悲に感謝して感激の涙を流した。
見目麗しく、婚約者として殊更自分に優してくれるジェイドに、ロゼッタはすぐに恋に落ち、貴族の子女が通う学園へ2人一緒に通うのを指折り数えて心待ちにしていた。
15歳になり、学園が始まった。
登下校も、昼食も、テスト前の勉強も、いつもジェイドと一緒だ。幸せだった。
ジェイドと婚約したロゼッタへの妬みから、妹ハンナの嫌味や暴言は以前よりもきつくなったが、学園にいる間はそれも忘れられた。
多くの魔力持ちは、思春期の成長に合わせてその魔力量が増える。
人によっては倍近くまで増える者もいるらしいが、ジェイドの魔力量はとうとう筆頭魔法使いであるロゼッタの父をも越え、闇魔法もあっという間に修得した。
学園に入って間も無く1年が経とうとする頃、よく解明されていない闇魔法の研究協力も兼ねて、ジェイドは週に2回魔塔に通うようになった。
ジェイドの態度に、何かよそよそしさを感じるようになったが、会う回数が減ったせいだと最初は思っていた。
しかし同時期から、彼の不貞をそこここで耳にするようになる。
最初はただの噂だと信じていなかったロゼッタも、彼と関係を持った女性から目の敵にされ、嫌味を言われたり、嫌がらせされるようになり、不貞は本当だったのだ、と心を傷めるようになった。
ジェイドに夢中になった令嬢から命を狙われたこともあった。
確か、次の授業にジェイドと2人で移動している時だった。
「ジェイド様と結婚するのは私よ!」とナイフを向けてきた令嬢は、すでに目が正気ではなかった。
焦った様子のジェイドが捕縛魔法で捕らえてくれなかったら、ロゼッタは無事ではすまなかっただろう。
あの令嬢は、その後すぐに療養のため学校を辞め、領地へ戻ったと風の噂で聞いた。
流石にその件があってロゼッタに顔向できなくなったのか、それとも、無理して取り繕う必要はないと思ったのか、ジェイドは取り巻きの令嬢たちと過ごすようになった。
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