【完結】浮気の証拠を揃えて婚約破棄したのに、捕まってしまいました。

airria

文字の大きさ
上 下
1 / 39

プロローグ

しおりを挟む
鈍い頭痛とともに目が覚める。

ゆっくりと瞳を開けると、白い天井が目に入った。

「ロゼッタ?」

心配そうに私の顔を覗き込むのは・・そうだ。この世界での、私の婚約者だ。

「ロゼッタ?覚えてる?僕の目の前で急に倒れてしまって・・小一時間くらい君は寝ていたんだ。」

部屋を借りて長椅子の上に寝かせてくれていたらしい。

体は大丈夫か、どこか痛いところはないか、と心配そうに聞いてくる婚約者をじっと見つめる。

美しい銀髪に、切れ長の、ルビーのような赤い瞳。

透き通るように白い肌、高い鼻梁、薄い唇。

どの角度から見ても麗しい、整った顔だ。

「ジェイド様、私、倒れる前に何のお話をしていたのでしたっけ?」

「・・何だったかな。君が倒れて驚きすぎたせいか、内容は覚えていないんだ・・ごめんね。何か気になることでも?」

そう話す彼の表情は、自然に見えた。

「あ、いえ。お話の途中だったらいけないと思いまして」

「僕も覚えてないし、きっと大したことじゃない。さて、君の家には連絡しておいたから、ここでもう少し休んでいよう。」

「はい、ありがとうございます。」

部屋の外からは、音楽や笑い声が聞こえてくる。

そうだ、今日は夜会に来ていたんだった。

「あの、ジェイド様。私はもう大丈夫なので、どうぞお戻りください。」

「そんなことできるわけないだろう?君は僕の婚約者なんだよ?」

「・・ありがとうございます」

そう言いながら、彼の言葉に大いに冷めた気持ちになる。

倒れる前までだったら、私を思いやるような、このジェイド様の発言に、感激して舞い上がっていたことだろう。

そう、倒れる前までなら。




私はロゼッタ バウムハイム。

リンドール帝国の筆頭魔法使いを務める、バウムハイム伯爵の長女である。

この1時間ほど前に、私は唐突に前世を思い出した。

この生を受ける前、私はこことは別の世界の・・日本という国で生きていた。

前世の記憶はどれもひどく曖昧で、一番はっきりと思い出せるのは、社会人として働いていた記憶だが、結婚していたのかとか子供がいたのかとか、そこまでは思い出せない。

もしかしたら、若くして死んでしまったのかもしれない。

前世の記憶は同時に、日本人として生きていた頃の私の「当たり前」も蘇らせた。

差別が禁止され、自由な発言が認められ、誰もが幸福に生きる権利を保証されていた、今の世界には無い「当たり前」を。

そして結論付けた。

献身的に見える目の前の婚約者が、ただ私を利用しようとする、ただの浮気者のクソヤローであることを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...