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「おねーさん、そこの美人のおねーさん!」
仕事を終えて、買い出しに向かった市場は多くの人で賑わっている。
誰かに呼ばれた気がして振り向くと、1本入った路地から手招きする姿が目に入った。
(なんだ・・客引きか。)
知らないフリをして踵を返そうとしたが、タタッとこちらに走り寄ってきて手をギュッと握られた。
自分よりも小柄なその女性は、クリッとした目をパチパチ瞬かせて人好きのする顔で笑う。
「捕まえた!ね、おねーさん!占いやっていきませんか?」
「結構よ・・お金ないし」
「お安くします!今日は私の占い師デビューの日なんです!おねーさんが私の1番目のお客さんになってくれたら・・そうだな、初めて記念で半額にします!500ドネでどうですか?」
「とか言って、占った後でもっと請求してくるんじゃないの?」
「そんなこと、しません!なんかおねーさん見たらビビッと来ちゃって・・ね?お願いします!私の門出を祝うと思って、この通り!」
きっと私と同じくらいの年齢だろう占い師が、私を拝んでくる。
私はフゥ、と息を吐いて彼女の提案を受け入れた。
彼女の店は、路地を入ってすぐのところにあった。
道端に支柱を立てて、四方を布で囲んだだけの簡易な占い場。
強い風が吹いたら倒れてしまいそうだ。
中には、客用に小さな椅子とまな板位の小さな机が置いてある。
私が椅子に座ると、彼女は向かいの地面にそのまま腰掛けた。
肩に背負っていた鞄を下ろし、ゴソゴソとあさって目当てのものを見つけると、それを机にゴトリと置いた。
紺の布に包まれていたそれは、赤ん坊の拳大の小さな水晶だった。
布を折りたたんで、透明な球形が机から転がり落ちないように注意深く配置すると、彼女は「よし」と小さく呟いた。
「では始めましょう!」
彼女は嬉々として私に告げると、何を占ってほしいか聞いてきた。
「じゃあ、今年の運勢をお願い」
「はい!」
薄い木の板を取り出して、私に差し出す。
「ここに生年月日と、誕生地を書いてください」
私が書いている間に、彼女は太い蝋燭を取り出して、蝋燭の芯に向かって人差し指と中指を揃えて真っ直ぐに伸ばした。
「着火」
蝋燭に火が点ると、今度は私から木板を受け取り、蝋燭の火にかざす。
火がついた木板を机の溝に差し込むと、木板は少し傾いて起立した。
木板は曲がりながら燃えていき、半分ほどを残して自然に鎮火した。
「さーてどれどれ。ではおねーさんの運勢ですが・・うん。全体的にいいですよ!特に仕事運バッチリ!今の仕事もいいですし、割と凝り性だから、絵付けとかそういう職人系も合ってます。体も丈夫で病気の心配も無し!恋愛に関しては・・うわーモテモテですね!なのにイマイチかなぁ。今お付き合いされてる方はいないんですか?」
「恋愛運は別にいいわ。それより今年、旅行に行くならどの辺りがいいかしら?」
「今年は方角的には東が良さそうです。おねーさんは緑の恵みを受けやすいみたいだから、森とか、植物が多いところの方がいいですね。」
「ふーん」
その後もいくつかのアドバイスを受けて、私は500ドネを手渡した。
「初めてだったけど、楽しかったわ」
「ありがとうございます!」
ふと水晶が目に入り、私は迷いながらも口を開いた。
「あのさ・・それ、本物の水晶でしょう?そんな高価なもの、人前に出さない方がいいんじゃない?」
この界隈は治安がいい方ではあるが、客と1対1になる場所で持ち出すのは流石に危ない。
「あー、いや、そうなんですけど、やっぱり占い師のイメージってこれじゃないですか。」
「まぁ確かにそうだけれど・・」
(・・・このコ、カタチから入るタイプね)
「本当は、師匠にも良い顔されてないんです。水晶は媒介物になるからって」
媒介・・?疑問が顔に出ていたのだろうか、彼女は詳しく教えてくれる。
「師匠曰く、水晶は別の世界と現実を繋げる媒介物になるんだそうです。だから、王様のお抱えになれちゃうくらい偉大な昔の占い師は、水晶を介して見たいものを見れたんです!」
「ふぅん・・」
占いは、魔法のあるこの世界においても、運命や吉凶を見るのに使われる。
昔は国に雇われる占い師もいたようだが、魔法の研究が進んだ今、その地位は廃れ、占い師は市井でしか見かけなくなった。
それにしても、別の世界、か。
その中に、前世いたあの世界も入っているだろうか。
「あなたも、この水晶を通して何か見れたりするの?」
「2回だけ・・見ようとして見たものでもないし、風景だけでした。意図したものが見えるようだったら、こんな道端で占いなんてしてないんですよ・・・」
トホホ、と呟く占い師の卵に微笑む。
「占い師になったばかりなんだから、これからまだわからないじゃない?どんな偉大な占い師だって、最初からなんでも見れた訳じゃないんだろうし・・」
「おねーさん・・」
まぁ頑張んなさい、と立ちあがろうとすると、再度パッと手を掴まれた。
「じゃ、自信ないですけど、1回、水晶占いしてみてもいいですか!?もちろん無料で!」
返事を待たずにグイッと引っ張られて、水晶に手を当てさせられる。
「ねぇ、私そろそろ行かなくちゃなんだけど」
「すぐ終わりますから!ほら、さっき、おねーさんモテモテだって言ったでしょ?将来どんな人と結婚するのかだけでも見せてくださいよ。見れても見れなくても、一瞬で終わりますから!」
仕事を終えて、買い出しに向かった市場は多くの人で賑わっている。
誰かに呼ばれた気がして振り向くと、1本入った路地から手招きする姿が目に入った。
(なんだ・・客引きか。)
知らないフリをして踵を返そうとしたが、タタッとこちらに走り寄ってきて手をギュッと握られた。
自分よりも小柄なその女性は、クリッとした目をパチパチ瞬かせて人好きのする顔で笑う。
「捕まえた!ね、おねーさん!占いやっていきませんか?」
「結構よ・・お金ないし」
「お安くします!今日は私の占い師デビューの日なんです!おねーさんが私の1番目のお客さんになってくれたら・・そうだな、初めて記念で半額にします!500ドネでどうですか?」
「とか言って、占った後でもっと請求してくるんじゃないの?」
「そんなこと、しません!なんかおねーさん見たらビビッと来ちゃって・・ね?お願いします!私の門出を祝うと思って、この通り!」
きっと私と同じくらいの年齢だろう占い師が、私を拝んでくる。
私はフゥ、と息を吐いて彼女の提案を受け入れた。
彼女の店は、路地を入ってすぐのところにあった。
道端に支柱を立てて、四方を布で囲んだだけの簡易な占い場。
強い風が吹いたら倒れてしまいそうだ。
中には、客用に小さな椅子とまな板位の小さな机が置いてある。
私が椅子に座ると、彼女は向かいの地面にそのまま腰掛けた。
肩に背負っていた鞄を下ろし、ゴソゴソとあさって目当てのものを見つけると、それを机にゴトリと置いた。
紺の布に包まれていたそれは、赤ん坊の拳大の小さな水晶だった。
布を折りたたんで、透明な球形が机から転がり落ちないように注意深く配置すると、彼女は「よし」と小さく呟いた。
「では始めましょう!」
彼女は嬉々として私に告げると、何を占ってほしいか聞いてきた。
「じゃあ、今年の運勢をお願い」
「はい!」
薄い木の板を取り出して、私に差し出す。
「ここに生年月日と、誕生地を書いてください」
私が書いている間に、彼女は太い蝋燭を取り出して、蝋燭の芯に向かって人差し指と中指を揃えて真っ直ぐに伸ばした。
「着火」
蝋燭に火が点ると、今度は私から木板を受け取り、蝋燭の火にかざす。
火がついた木板を机の溝に差し込むと、木板は少し傾いて起立した。
木板は曲がりながら燃えていき、半分ほどを残して自然に鎮火した。
「さーてどれどれ。ではおねーさんの運勢ですが・・うん。全体的にいいですよ!特に仕事運バッチリ!今の仕事もいいですし、割と凝り性だから、絵付けとかそういう職人系も合ってます。体も丈夫で病気の心配も無し!恋愛に関しては・・うわーモテモテですね!なのにイマイチかなぁ。今お付き合いされてる方はいないんですか?」
「恋愛運は別にいいわ。それより今年、旅行に行くならどの辺りがいいかしら?」
「今年は方角的には東が良さそうです。おねーさんは緑の恵みを受けやすいみたいだから、森とか、植物が多いところの方がいいですね。」
「ふーん」
その後もいくつかのアドバイスを受けて、私は500ドネを手渡した。
「初めてだったけど、楽しかったわ」
「ありがとうございます!」
ふと水晶が目に入り、私は迷いながらも口を開いた。
「あのさ・・それ、本物の水晶でしょう?そんな高価なもの、人前に出さない方がいいんじゃない?」
この界隈は治安がいい方ではあるが、客と1対1になる場所で持ち出すのは流石に危ない。
「あー、いや、そうなんですけど、やっぱり占い師のイメージってこれじゃないですか。」
「まぁ確かにそうだけれど・・」
(・・・このコ、カタチから入るタイプね)
「本当は、師匠にも良い顔されてないんです。水晶は媒介物になるからって」
媒介・・?疑問が顔に出ていたのだろうか、彼女は詳しく教えてくれる。
「師匠曰く、水晶は別の世界と現実を繋げる媒介物になるんだそうです。だから、王様のお抱えになれちゃうくらい偉大な昔の占い師は、水晶を介して見たいものを見れたんです!」
「ふぅん・・」
占いは、魔法のあるこの世界においても、運命や吉凶を見るのに使われる。
昔は国に雇われる占い師もいたようだが、魔法の研究が進んだ今、その地位は廃れ、占い師は市井でしか見かけなくなった。
それにしても、別の世界、か。
その中に、前世いたあの世界も入っているだろうか。
「あなたも、この水晶を通して何か見れたりするの?」
「2回だけ・・見ようとして見たものでもないし、風景だけでした。意図したものが見えるようだったら、こんな道端で占いなんてしてないんですよ・・・」
トホホ、と呟く占い師の卵に微笑む。
「占い師になったばかりなんだから、これからまだわからないじゃない?どんな偉大な占い師だって、最初からなんでも見れた訳じゃないんだろうし・・」
「おねーさん・・」
まぁ頑張んなさい、と立ちあがろうとすると、再度パッと手を掴まれた。
「じゃ、自信ないですけど、1回、水晶占いしてみてもいいですか!?もちろん無料で!」
返事を待たずにグイッと引っ張られて、水晶に手を当てさせられる。
「ねぇ、私そろそろ行かなくちゃなんだけど」
「すぐ終わりますから!ほら、さっき、おねーさんモテモテだって言ったでしょ?将来どんな人と結婚するのかだけでも見せてくださいよ。見れても見れなくても、一瞬で終わりますから!」
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