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懐妊編

認められた男

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セイラムに認定証とピンバッジが授与されると、室内は盛大な拍手に埋め尽くされた。

「殿下!」
「さすが殿下!」
「まさか我が国から評定員が!」

文官達が興奮した様子で口々に讃え、監査対策の専門チームを組んでいた王太子妃付き文官の中には、余りの事に咽び泣く者もいた。

学会からの抗議を想定していたジェスはというと、まさかの認定に言葉を失った。

殿下の、早く帰りたいがためのあの対応が、こんな形で受け入れられるとは…!

人によっては、「学会へ喧嘩を売っている」と受け取られるかもしれない、と危惧していた。

だが、思ったよりもこの学会は懐が広かったらしく、ただただラッキーだった、としか言いようがない。



当のセイラムは、授与された認定証をしげしげと眺めて、ひそやかに眉を顰めている。

それを見て、ジェスの心中に不安がよぎる。

殿下のあの様子…

絶対、「評定員って…3年間、監査のために毎年他国へ出張するということか?面倒くさいな」って思ってるぞ。

リリアナ至上主義の殿下のことだ。

「代役を立てられるならまだしも、他国に出張する時間を捻り出す位ならリリアナと過ごしたい」とか言って、認定を辞退しかねない。

まずい、何か性急に手を打たねば…!

ジェスが焦りつつ周囲を見回すと、レダー厚生府長官と目が合った。

浮かれる文官達の中、法治府長官、労務府長官も王太子を凝視している。

やはり産休育休改定プロジェクトで、殿下と深く関わった面々はその可能性に思い至っている。

殿下がここで辞退とか言い出す前に、何とかどうにかできないか…!

四者が必死の形相で、目線のみで会話する中、王太子のすぐ側に控えるジェスの目前を、スッと人影が通り過ぎた。

セイラムの隣まで来ると立ち止まり、歓喜する文官達を眺めるヴァシリス上皇に礼を取る。

「殿下、私にバッヂを見せていただいても?」

「リリアナか。…これだが」

手渡されたリリアナは、じっと見つめてから、バッヂをケースから取り出した。

「殿下、少し屈んでいただいても?」

「屈む?」

「バッヂを襟元に付けさせて頂きたいのです」

「あぁ…いや、だが…ん?リリアナ?」

セイラムはそこで初めてリリアナの目が潤んでいるのを見た。

「リリアナ、どうしたのだ…!」

リリアナは一歩近づき、セイラムに小声で話しかけた。

「すごい…すごいですわ!セイ様!私は感動してしまって…」

「…そんなにすごいことなのか?」

「すごいことです!学会創設以来、個人で認定を受けた人など居ないのですよ!?セイ様が初めてです!国の誇りです!」

驚き興奮するリリアナが手放しでセイラムを褒め称えている。

「一体どのようなことをすれば個人で認定をもらえるのか…!!」

その件には殿下の妃殿下へのマッサージ熱が多分に関わっております、と心の中でジェスは呟いた。

「私の旦那様が、あの国際婦人学会の認定をお持ちなんて!私、私…とても誇らしい気持ちでいっぱいです!」

リリアナのキラキラした尊敬の眼差しを一身に浴び、王太子は声を張った。

「リリアナ、バッヂをお願いできるか。俺は学会に認められた男だからな。」

「はいっ!!」

拍手喝采の鳴り止まない中、得意気にバッヂを付けてもらう王太子の、その背後。

王太子の側近は、皆に気付かれない程度に、グッと小さくガッツポーズをしたのだった。

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