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殿下登場

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応接室のドアが開くと、懐かしい笑顔が待っていた。

「ジュリアン」

「これはこれは妃殿下、本日はお目通り頂きまして、ありがとうございます。」

仰々しい動きと口調で、わざとらしく私に会釈する彼に、私も大仰にカーテンシーをして見せて、2人で笑い合った。

ジュリアンは、私の遠縁の親戚で、父同士が仲が良いこともあり、子供の頃から交流があった。

大きくなるにつれ、会う機会は減ってしまったけれど、事あるごとに気にかけてくれて、あのモコモコの部屋着をくれたのも、ミリアを贈ってくれたのも、ジュリアンだった。

久しぶりに見るジュリアンは、日に焼けて体つきも逞しい。

肩くらいまで伸びた赤銅色の髪は、無造作に後ろで束ねていた。

「こうやって2人でゆっくり話すのは久々だね。」

アイスブルーの瞳が優しく細められた。

「会うのも、結婚式の時以来だもの。」

「もう小さなお姫様のリリィじゃなくって、今は妃殿下なんだから、おいそれとは来れないよ。」

そう言って肩を竦めて、お菓子に手を伸ばす。

「あの、ジュリアン、お願いしてたものは…」

「ああ、そうだった、そうだった」

ちょっと待ってて、とジュリアンが荷解きを始め、出てきた品を見て、私は思わず歓声をあげた。



部屋着をひと通り確認し、ウキウキした気持ちでまたソファに座りジュリアンとお茶をした。

「猫は元気にしてる?」

「ええ!ミリアと名付けたわ。だいぶ大きくなって、元気いっぱい走り回っているわよ」

「それは良かった。」

他愛もない話を続けていると、突然ノックの音がした。

「リリアナ、入ってもいいか」

「え?殿下??」

ドアが開くとやはり殿下だ。

「たまたま近くを通りかかったら、リリアナの護衛を見かけたものでな。」

いつものポーカーフェイスだけど、肩で息をして汗もかいている。

私の疑問に気づいたのか、「最近鍛錬のため移動中は走っているのだ」と言って、ジュリアンに目を向けた。

ジュリアンはすでに片膝立ちで、頭を垂れていた。

いけない、殿下にジュリアンを紹介しないと。

「殿下、ご紹介いたしますわ。こちら私の親戚のジュリアン ギルトフォード子爵令息です。」

「ジュリアン ギルトフォードです。殿下に拝謁でき恐悦至極に存じます」

「ジュリアン子爵令息。リリアナとの歓談中に邪魔をしたな。楽にしてくれ」

「ありがとうございます」

「リリアナ、新種の葡萄をリリアナに差し入れようとしていたのだ。」

・・・だからずっと皿を持っていたのですね。

皿片手に現れた殿下の姿はなかなかシュールでしたわ。

「ありがとうございます。殿下もお座りになりますか」

「うむ」

隣に殿下が座ってきた。

そうか、そうよね。いつもは殿下と対面で座っているけど、今日はジュリアンがいるから殿下は隣になるのよね。

でも近過ぎない?腕や足が当たってるんですが・・

あぁ、私がよく考えずに、ソファの真ん中に座ってしまったからだわ。

横にズレようとすると、殿下に手を回されガッチリと腰を掴まれて引き戻されてしまった。

「で、殿下・・」動けないです、と言おうと隣の殿下を見上げるも、すでにジュリアンと話し始めていた。

その後も何度か、それとなく横にズレようとするも、ビクともしない。うぅ、動けないし近いし・・

殿下はジュリアンの貿易業について興味があるらしく、ジェラード国でどういったものが人気があるのか尋ねている。

テーブルの上に新たなティーカップと葡萄が加わった。

動くことを諦めた私が、おいしそうな葡萄に手を伸ばそうとすると、

「私が取ろう」

と殿下が葡萄をひと粒取ってくれて、そのまま私の口に近づけてきた。

「・・・」

「リリアナ、安心しなさい。これは種もなく、皮ごと食べれるのだ」

いや、そんなことを気にしてるんじゃなくてですね・・

「リリアナ?」

口の前にセットされ微動だにしない葡萄。

ジュリアンが興味津々な顔でこちらを見ている。やめてー!

「で・・」殿下、と言おうと開いた口に葡萄が入ってきた。

モグモグ。何これ!すごい美味しい!

飲み込んで余韻に浸っていると、また口の前に葡萄がセットされていて、私は迷わず口を開けた。

「甘味もあって美味しいですね。これはジェラード国でも人気が出そうだ。いやー、甘々だ」

ジュリアンがこちらを見ながらニヤついていたが、食べることに夢中な私はそれどころではなかった。

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