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第三章 冒険者になろう
54.陰湿な奴の日記は読みにくい
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「お、やほ~!あれシャルちゃんもキュキュちゃんも正気取り戻してるじゃん。お久~!」
「ユ、ユンさん!無事だったんですね……!」
「久しぶりですユン。すみません、操られていたとはいえ色々とご迷惑をおかけしました。」
「いいよいいよ!別に怪我とかしてないし!」
シャルルに案内されて辿り着いた、バーニュ家の邸宅。
今はもう誰も住んでいないのだろう。綺麗に残っているがどこか薄汚い、全体的に古びた建物の古床を踏みつけると、すぐに目標と出会うことができた。
懸命に助けに来たガジュ達は皆満身創痍だが、当の本人は随分と気楽な様子でこちらに手を振り、まるで自分の家かのようにソファへ腰掛けている。
「お前……何してるんだ?」
「何って言われても見ての通り本を読んでるんだよ。最初は僕もびっくりしたんだよ?シャルちゃんにこの家の地下牢に入れられてさぁ。けどほら、この家見ての通り空き家じゃん?地下牢なんてボロッボロで、簡単に脱出できたからこうして時間を潰してるの。」
そういってユンはそこらに転がった本を手に取り、パラパラとめくり始める。元々乱雑な性格だから、一目でどの本が既読なのか見てとる事は出来ないが、もし床に転がった本全てを読んだとすれば、相当な時間この場所でくつろいでいるのだろう。
「いやー面白いよこの家。シャルルちゃんのご両親読書家なんだねぇ。小説、学術書、図鑑やら何やら。児童書や絵本が一切ないのはちょっと面白かったけどね!」
「人の家庭環境を面白がるなよ……。まぁお前が無事ならそれでいい。さっさとバーゼを探しに行くぞ。」
「まぁまぁそう焦らずにそこのソファにでも座りなよ。別に僕だってここでただ怠けていたわけじゃないんだよ?なんせここはシャルちゃんの実家であり、バーゼの実家だからね!奴の隠れ家の位置からスキルの詳細まで、全部調べ尽くしたよ!」
ユンがVサインを振り回し、ガジュ達をソファに誘う。普段であればこのテンションのユンは軽くあしらうが、流石に内容が内容だ。一同はゾロゾロとソファや床に腰を下ろし、ユンの話に耳を傾ける。そして語り手たるユンの右手には、派手な装丁の本が握られていた。
「僕が見つけたこの本!なんとこれはバーゼの日記です!シャルちゃんが事を起こす三年ぐらい前から、かなり長いことつけてたみたいだよ。」
「それはシャルも見覚えがあります。バーゼとは八つも年が離れているので、ほとんど話すこともありませんでしたが、毎日日記をつけていた事だけは知ってます。」
「そうそう。やっぱああいう陰湿な奴はこういうの好きなんだろうね。僕なんか毎日檻に囚われて暇を持て余していたというのに、日記なんて付けた事がないよ。」
どうでもいい話をしながらユンはバーゼの日記をガジュに放り投げ、無言のまま「読め」と指示してくる。調べ尽くしてはいるが、自分の口で話すのは面倒くさい。ユンという人間はそういう我儘な存在だ。ガジュは諦めて日記を読み進め、バーゼの人となりを知っていく。
バーゼ・バーニュ(21)
シャルルの実兄であり、バーニュ商会の長男。幼少期から秩序を重んじ、両親の悪行に関しても必要悪と割り切って見逃してきた。
しかしある日を境に両親の行為はそれを逸脱し、ただ利益の為に秩序を乱すようになった。そこでバーゼは両親殺害を計画したが、彼には筋力も魔力もない上、自分が手を下して犯罪者として収監されればこの街の秩序を守りきれない。
その状況を打開する策としてシャルルに目を付け、スキルを用いて洗脳。両親を排除した後は、街の有力者や老人を操作し、部屋に引き篭もりながらも自身の権力を向上。遂にはイリシテアのトップに上り詰め、この街を剣と酒の街から法と秩序の街へと作り替えた。
「ざっとまとめるとこんなもんか。とにかく読みにくい文章だな。五秒に一回は秩序って文字が出てきやがる。」
「僕は文学性があって好きだけどね。それより肝心なのはもっと先だよ。この日記を書き始めた頃にバーゼが記した、自身のスキルに関する考察メモが挟まってるはず。」
「メモ、メモ……。あぁこれか。」
ガジュは日記に挟まっていた黄ばんだ紙を手に取り、そこに書かれた汚い字を睨みつける。まだ文章の形を保っていた日記部分と違い、こちらは走り書きだ。一文字一文字を読み解くのすら困難だが、これを解読しなければ奴には敵わない。
「あー【秩序の管理者】。相手の名前、年齢、生年月日、血液型。この四つの情報を知った状態で相手の首を五秒間締め続けると洗脳状態にする事が出来る。洗脳状態にした相手には遠隔で指示を出す事ができ、操られた側はその指示を絶対的に遵守する。洗脳は解ける事がないが、バーゼから半径一キロの範囲から外れると指示を飛ばす事が出来なくなる。一度に洗脳状態に出来る人間は無限であるものの、一度に出せる指示は一つ。操った相手の誰かが指示を遂行していれば、他の人間に指示を出すことは出来ない。って感じか?」
ガジュが語ったバーゼのスキルの詳細。それを聞き、ユン以外の二人は震えていた。
「あまりにも強すぎませんか……?知らなければならない四つの情報も基本的なものですし、一度洗脳さえしてしまえばいつでも命令出し放題ってことですよね。」
「まぁそういう事だな。さっきまではシャルルに指示が出されていたが、この街には奴の操り人形が沢山いる。それら全ての洗脳を解かない限り、あいつは永遠に表舞台に立つ事なく秩序を守り続けられるわけだ。」
「一応奴が今住んでる場所も突き止めてるから本人に会いにいくことは出来るけど。多分そこにも大量の操り人形が待ち構えてるだろうね!」
絶望的状況の中、ユンだけが明るく踊り、古びた屋敷に風が吹き抜けていく。
「ユ、ユンさん!無事だったんですね……!」
「久しぶりですユン。すみません、操られていたとはいえ色々とご迷惑をおかけしました。」
「いいよいいよ!別に怪我とかしてないし!」
シャルルに案内されて辿り着いた、バーニュ家の邸宅。
今はもう誰も住んでいないのだろう。綺麗に残っているがどこか薄汚い、全体的に古びた建物の古床を踏みつけると、すぐに目標と出会うことができた。
懸命に助けに来たガジュ達は皆満身創痍だが、当の本人は随分と気楽な様子でこちらに手を振り、まるで自分の家かのようにソファへ腰掛けている。
「お前……何してるんだ?」
「何って言われても見ての通り本を読んでるんだよ。最初は僕もびっくりしたんだよ?シャルちゃんにこの家の地下牢に入れられてさぁ。けどほら、この家見ての通り空き家じゃん?地下牢なんてボロッボロで、簡単に脱出できたからこうして時間を潰してるの。」
そういってユンはそこらに転がった本を手に取り、パラパラとめくり始める。元々乱雑な性格だから、一目でどの本が既読なのか見てとる事は出来ないが、もし床に転がった本全てを読んだとすれば、相当な時間この場所でくつろいでいるのだろう。
「いやー面白いよこの家。シャルルちゃんのご両親読書家なんだねぇ。小説、学術書、図鑑やら何やら。児童書や絵本が一切ないのはちょっと面白かったけどね!」
「人の家庭環境を面白がるなよ……。まぁお前が無事ならそれでいい。さっさとバーゼを探しに行くぞ。」
「まぁまぁそう焦らずにそこのソファにでも座りなよ。別に僕だってここでただ怠けていたわけじゃないんだよ?なんせここはシャルちゃんの実家であり、バーゼの実家だからね!奴の隠れ家の位置からスキルの詳細まで、全部調べ尽くしたよ!」
ユンがVサインを振り回し、ガジュ達をソファに誘う。普段であればこのテンションのユンは軽くあしらうが、流石に内容が内容だ。一同はゾロゾロとソファや床に腰を下ろし、ユンの話に耳を傾ける。そして語り手たるユンの右手には、派手な装丁の本が握られていた。
「僕が見つけたこの本!なんとこれはバーゼの日記です!シャルちゃんが事を起こす三年ぐらい前から、かなり長いことつけてたみたいだよ。」
「それはシャルも見覚えがあります。バーゼとは八つも年が離れているので、ほとんど話すこともありませんでしたが、毎日日記をつけていた事だけは知ってます。」
「そうそう。やっぱああいう陰湿な奴はこういうの好きなんだろうね。僕なんか毎日檻に囚われて暇を持て余していたというのに、日記なんて付けた事がないよ。」
どうでもいい話をしながらユンはバーゼの日記をガジュに放り投げ、無言のまま「読め」と指示してくる。調べ尽くしてはいるが、自分の口で話すのは面倒くさい。ユンという人間はそういう我儘な存在だ。ガジュは諦めて日記を読み進め、バーゼの人となりを知っていく。
バーゼ・バーニュ(21)
シャルルの実兄であり、バーニュ商会の長男。幼少期から秩序を重んじ、両親の悪行に関しても必要悪と割り切って見逃してきた。
しかしある日を境に両親の行為はそれを逸脱し、ただ利益の為に秩序を乱すようになった。そこでバーゼは両親殺害を計画したが、彼には筋力も魔力もない上、自分が手を下して犯罪者として収監されればこの街の秩序を守りきれない。
その状況を打開する策としてシャルルに目を付け、スキルを用いて洗脳。両親を排除した後は、街の有力者や老人を操作し、部屋に引き篭もりながらも自身の権力を向上。遂にはイリシテアのトップに上り詰め、この街を剣と酒の街から法と秩序の街へと作り替えた。
「ざっとまとめるとこんなもんか。とにかく読みにくい文章だな。五秒に一回は秩序って文字が出てきやがる。」
「僕は文学性があって好きだけどね。それより肝心なのはもっと先だよ。この日記を書き始めた頃にバーゼが記した、自身のスキルに関する考察メモが挟まってるはず。」
「メモ、メモ……。あぁこれか。」
ガジュは日記に挟まっていた黄ばんだ紙を手に取り、そこに書かれた汚い字を睨みつける。まだ文章の形を保っていた日記部分と違い、こちらは走り書きだ。一文字一文字を読み解くのすら困難だが、これを解読しなければ奴には敵わない。
「あー【秩序の管理者】。相手の名前、年齢、生年月日、血液型。この四つの情報を知った状態で相手の首を五秒間締め続けると洗脳状態にする事が出来る。洗脳状態にした相手には遠隔で指示を出す事ができ、操られた側はその指示を絶対的に遵守する。洗脳は解ける事がないが、バーゼから半径一キロの範囲から外れると指示を飛ばす事が出来なくなる。一度に洗脳状態に出来る人間は無限であるものの、一度に出せる指示は一つ。操った相手の誰かが指示を遂行していれば、他の人間に指示を出すことは出来ない。って感じか?」
ガジュが語ったバーゼのスキルの詳細。それを聞き、ユン以外の二人は震えていた。
「あまりにも強すぎませんか……?知らなければならない四つの情報も基本的なものですし、一度洗脳さえしてしまえばいつでも命令出し放題ってことですよね。」
「まぁそういう事だな。さっきまではシャルルに指示が出されていたが、この街には奴の操り人形が沢山いる。それら全ての洗脳を解かない限り、あいつは永遠に表舞台に立つ事なく秩序を守り続けられるわけだ。」
「一応奴が今住んでる場所も突き止めてるから本人に会いにいくことは出来るけど。多分そこにも大量の操り人形が待ち構えてるだろうね!」
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