絶頂の快感にとろける男の子たち【2023年短編】

ゆめゆき

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生命の樹の会

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 香が焚かれ、四隅にろうそくが灯された広いベッドの上、大樹たいじゅこと僕は、僕と同い年か少し下くらいの青年と、厳かな雰囲気の中セックスに励んでいた。
 見学の者、見守りの係りの者が数名、僕たちの行為をじっと観察し、記録用のカメラも回っている。
 週に一度の特別な儀式だった。

「あ…♡あ…♡大樹さま……っぼくっ…もう…」
「ん…いいよ……出したいときに…出して…」
「あ…あ…出る……♡出る……っ♡」

 胡坐をかいた僕の上に背中をあずけ、背面座位の体位で僕のペニスを受け入れている青年は、か細い声でとぎれとぎれに喘ぎながらぴゅっ、ぴゅっ…と射精した。儀式が始まって、四度目の射精。

「あうう…あう…♡」
「よく、出したね。体位を変えるよ。もう少しがんばって」
「はい…♡」

 僕は青年を四つん這いの姿勢にさせると、その尻をなでさすり、ゆっくりと貫いた。

「あ……♡あ……♡」
「ふう…」

 腰を前後に振り、青年を責め始める。具合がいい。僕は快感に溺れた。
 アナルを突かれる度に、青年が甘い声をもらす。

「あっ…♡あっ…♡あっ…♡あっ…♡ああん…♡ああっ……♡」
「ふう…んん……!ああ、いい……」

 肛門の締め付けを楽しむため、陰茎をぎりぎりまで引き抜き、深く突きさすのを何度も繰り返す。
 快感が下半身にずんずんとたまってくる。はっはっ…と獣のようにせわしなく呼吸をし、相手の青年の肉体を貪る。互いに貪り合う。

「ああん…♡気持ちいい……っ♡大樹さまあ…っ!」
「はあ…私も…私もいいよ…すごく……っあ……いく……!」
「来て…っ♡来てください♡ぼくに…ぼくの中にいっぱいください……っ♡」
「うう…っ!ああー……っ!ああ…!」
「あんっ…♡ぼくも、またいっちゃ…いっちゃう…っ♡」

 青年は腰をふりながら、ぽたぽた…っとシーツの上に吐精する。
 僕も強い快感を下腹に感じ、青年の中へ思いきり射精した。気持ちいい。
 満足して、青年のアナルからペニスを抜くと、呼吸を整える。

「あ、あん…っ♡大樹さま、ありがとうございま…す…」

 青年が礼を述べると、係の者が儀式の終了を告げた。

「香が全て尽きました。時間です」
「うん」

 僕の肩に単衣のシルクの白い着物がかけられる。
 なかなかよかった。
 へとへとの青年はベッドから引きはがされ、やっとの様子で修業着を着て末席に正座し、「感謝いたします」と頭を下げた。
 つい、さっきまで濃厚に交わっていたのに、少しさびしく感じる。
 教祖の僕と、信者との交歓―生命循環の儀式は、お布施の額が高いものだけが受けられる特別な修行だ。齢十四歳から二十五歳の男子のみが僕とセックスすることが出来ることになっている。
 もしもの妊娠を恐れて、女性は選ばれない。
 …などなど。
 僕が決めたことじゃない。
 僕が十五歳の時に父が亡くなり、後を継がされてからずっと、この儀式は続いている。
 何が儀式だ。馬鹿馬鹿しい話だ。
 だけど、ずっとこの立場に甘んじている僕には、ほかに生きていく場所はない。
 学校には行かせてもらえているが、卒業した後、僕はこの教団の教祖としてふるまう他、自由は許されないのだろう。
 講演会で、終末がどうとか、信心が足りなければ救われないとか、そういう原稿を読んで、お布施の多い限られた信者たちと交流して、男の子を抱く。そういう生活だ。狂ってると思う。
 教団ではもちろん物販もしていて、”生命の水”を二リットル、三千円で、”生命の土”を一キロ、五万円で、”生命の苗木”を一本、二十万円、その他いろいろなものを高額で信者たちに売りつけている。
 どんなご利益があるというのだろう。ただの水、ただの土、ただの苗木じゃないか。
 僕は儀式が終わった後、午後から授業に出るために、カジュアルな私服に着替えた。
 学校では僕は普通の学生でいられる。友人もふつうにいる。
 教団本部の建物から、車で駅まで送ってもらって、電車で通学する。
 学食でいつもの友人たちを探して、教義によると本当は食べちゃいけないんだけど、来る途中のコンビニで買ったハムサンドを食べながら、学友の話とか映画の話とか、本当に他愛のない雑談で盛り上がる。
 就職活動の話ももちろん出る。僕には関係ないけど、話を合わせる。
 『留年』の文字が頭に浮かぶ。そうだ。留年すればいい。だけど、本来、学年が違う学生とフラットな関係を築けるだろうか。
 ふと、友人らを見ると、その中の一人、添島夕そえじまゆうはどことなく元気がなかった。添島は医学部の学生だ。
 この面子はサークルの見学とかコンパで一緒になったことがあるだけでつるみ始めたどうしで、学年以外環境がばらばらだ。
 なんとなく気になって添島に声をかける。

「…なんか顔色悪くない?やっぱ、医学部って大変なん?」

 添島は声をかけられると、びくっとして僕の顔を少しの間、凝視して目をそらした。

「あ、いや。なんでもない…まあ勉強はたいへんだけど…」

 他の面々が口を出す。

「でも、実家を継げるのはいいよな~」
「いや、それが大変なんじゃね?」
「俺、血とか無理だから、医者なんてなれないし。すごいと思うわ」

 添島が曖昧に笑う。

「いや、いや。気にせんで。遅くまでスマホいじってて寝不足なだけ…」

 添島の様子がおかしかった理由がわかったのは、次の儀式の時だった。
 教団幹部と母に導かれて、儀式の間に着くと、そこには添島が恭しく頭を垂れて布団の上に正座して待っていた。

「そ……」

 声をかけようとしたが、ここでは僕は教祖としてふるまわなければならない。
 それ以上声はかけず、幹部たちに促されるまま服を脱ぎ捨てていく。添島も着物を脱いでいった。

「よろしくお願いします」
「あっ…」

 添島が何も言うなという風に目配せして、僕の唇を奪い、首に手を回してきて、自分の方に引き倒した。

「あっ…」

 二人の体が重なる。何も身につけていない素肌が触れ合って、官能を呼び起こす。
 そこからは思うがまま、お互いを貪った。
 ベッドの上の添島がこんなに男の欲情をそそる媚態を見せるとは思わなかった。
 僕の舌を吸い、ペニスを手慣れた様子で扱く。

「ああ…っ…いい…んん…っ!」
「大樹…こんなにたくましい…早く……♡」

 添島の足を大きく開かせて、上体に押しつけ、もう準備を済ませてあるアナルをあらわにさせる。

「あ…♡」

 薄桃色のアナルはひっそりと恥じらい、息づくように見えた。

「み…見んで…早く…」

 アナルにペニスをあてがう。

「はあ……っ」
「あうぅ…っ♡」

 すでにそこは充分に広げられていて、ローションによって潤いも与えられていた。すぐに先端は飲みこまれる。
 しばらく先端だけを出し入れし、なじませると、ゆっくりと深く挿入していく。

「あ…うぅん…♡気持ちいい…です…♡あぅ…ん♡」
「はー…っ、はー…っ、ああ…」
「あ…りがとうございます…大樹……」
「ん…ああ…っ!」

 添島の両脇に手をついて、腰を遣い始める。添島は揺さぶられるのに合わせて気持ちよさそうに高い声を上げた。

「あ…っ♡あ…っ♡いい…っです…♡大樹…♡気持ちいい…♡あぁん…♡あぁ…っ♡」
「ああ…私もいい…っ!はあ…っ、ああ……!」

 添島の媚肉がペニスにまとわりつくように僕を責め立て、甘く上ずった声が興奮を高めた。
 二人のせわしない息づかいが部屋中に響く。
 どんどん気持ちよくなって、周囲の景色が遠く感じられる。
 添島とこんなことをするなんて…。それに、添島がこんなにいやらしい肉体をしているなんて。

「ああ…あ…!イキそ…」
「あん…♡んん…っ♡出して…♡中に、いっぱい出して…ください…っ♡大樹の精液をください…っ♡」
「ああ……っ!く…あ……!」
「はぁ…あん…♡気持ち…いい…♡あ…♡あ…♡イク…ッ♡んん…ん…っ♡」

 限界に達し、僕は添島の体内に思うさま精を吐き出した。強い快感に陶然としていると、遅れて添島が絶頂に達し、射精した。

「はあ…っ、はあ…っ、はあ…っ、はあ……っ」
「ああぅ…っ♡はあ…っ♡ああ……っ♡」

 僕と添島は見つめ合って、何度も口づけ合って余韻に浸った。
 香が尽きて、時間が来るまで交わる形を変えて二人は何度も執拗に求め合った。
 儀式が終わって、その日も午後は学校へと向かった。添島も来るだろうか。
 学食で、コンビニで購入したハムサンドをかじっていると、肩をとん、とつつかれてびくっとなった。
 振り返るとそこには添島がいた。

「添島……」

 添島は小さく僕にだけ聞こえるように囁いた。

「た・い・じゅ・さ・ま…」
「やめろよ……」

 僕の本名は光毅だ。大樹は父親も名乗っていた教祖としての名だ。

「食事、抜いてたからお腹空いちゃった…」

 B定食の盆を持った添島はテーブルを回って、僕の向かい側に座った。

「あまたの生命に感謝して…いただきます」

 そう言うと、豪快にとんかつや米を頬張っていく。

「あいさつだけちゃんとしたって…教義違反じゃん…」
「光毅もじゃん」

 生命の樹の会の教義では、なぜだか肉食を禁じられている。魚はセーフだけど、ハムもとんかつもアウトだ。

「いつから…?」
「ん?」
「いつから、信者になったの…」
「…先月から。祖母が…病気して。母が入信したんだ」
「何それ!家、医者じゃん」
「そうだよ!だから、すげえ大変…ふっ…」

 添島は自嘲気味に笑った。

「パンフレット見せられて、びっくりした。光毅の写真が載ってたから…」
「ああ、そう…はあ…」
「…気持ちよかったね」
「……」
「俺、すぐ好きになっちゃうんだよね。好きになってもいい?」
「……」

 しばらく沈黙していると、気まずそうに添島が呟いた。

「ごめん。気にせんで…」
「…好きになってくれる?」
「うん?」

 添島は目をぱちくりさせた。

「うん…」

 友が欲しかった。友でも恋人でも。
 僕は僕の感情が動かされる関係を欲していた。
 添島の目が妖し気に輝いた。

「午後の講義さぼって、ヤろっか…」
「いいよ」
「やった!」

 添島はうれしそうに笑うと、定食を半分残して片付けて、僕の手をひいた。
 学食から出る時に、友人たちとすれ違う。

「何、二人どっか行くん?」
「さぼんの?」

 僕は誤魔化した。

「いや、野暮用…」
「そうそう!ちょっと、出て来るわ!」

 添島は楽しそうだ。
 添島が一緒にいてくれるなら、なんとかやっていける気がする…。
 僕はそう、思った。
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