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怪物たち(胸糞&バッドエンド)

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 〇月×日、午前六時ごろ、C区△▲ビル前の路上で、男性が血を流して倒れているのを通行人が発見。救急車で搬送されましたが、男性は既に死亡しており、持ち物から会社役員の弓削兆次さんと判明。〇◎県警はビルから落下したものとして、事故と自殺の両面から捜査している。





 妻子は寝静まっている。最近仲間になった同好の士の一人から送られてきたURLをクリックし、兆次は驚愕した。

「匠海じゃないか…」

 二年前、失踪した息子の匠海の姿がそこにあった。
 先程まで一緒に吞んでいた仲間の言葉が思い返される。


 かなり、かわいい子でさ、それが幼い顔立ちなのにめちゃくちゃいい反応するんだよ!
 相当やりこんでる感じ。
 なのに、純情そうっていうか、恥じらいがあってたまらないよ。
 あとでURL送るから、いくさんも観てみなよ。
 オレもあんな子に、人生狂わされてみたいなあ!


 ”いく”というのは兆次のハンドルネームからとったあだ名だ。
 匠海が半裸の姿で、裸の男たちに囲まれているパッケージ写真。
 恐る恐るサンプル動画再生のボタンをクリックする。
 『耽美シリーズ・美少年の誘惑・男たちの猛烈ピストンに身悶え絶頂しまくる!』
 なんてタイトルだ…!
 兆次は目をしばたたかせる。
 じきに画面が肌色に覆われ、せわしない息遣いと甘く鼻にかかった声が断続的に聞こえてきた。
 イヤホンはしている。
 モニターには匠海の痴態が映し出されている。複数の男たちに白シャツとスラックスを脱がされ、乳首を弄ばれ、ぴちゃぴちゃと音を立ててキスをする。男のペニスを扱き、扱かれ、アナルを舐められる。ペニスを挿入され、激しく突かれる。中に射精され、射精する―。
 そこでサンプルは終わった。
 兆次の心臓はドッドッ、と早鐘を打っていた。
 まさか、こんな…。


 二年前、匠海は急に家を出ていくと言って消えた。

「好きな子ができたんだ」

 馬鹿なことを言うなと兆次は諫めた。まだお前はこどもじゃないか。

「止めても無駄だから」

 許さないぞ!お前は…お前がいなくなったら…!俺は……。


 この二年。妻と娘と自分の三人だけの生活は、砂を噛むように味気ないものだった。
 ずっと、ずっと心配していた。それがこんな形で見つかるなんて。
 生きていてくれた。それだけでも救いだった。だが…。
 動画の説明に、出演者:七原ナユタとあった。芸名だろう。リンクがはられているのでクリックすると、何本もの動画がヒットした。

「こんなに……」

 計六本。兆次は全ての動画を購入した。

「匠海…会いたかった…会いたかった……!」

 兆次の目に映るのは一人息子のしどけない姿だ。
 男たちに犯されながら、”ナユタ”は気持ちよさそうに甘い声をあげる。
 犬の姿勢をとらされているナユタは後ろから激しくピストンされ、自分の方からも尻を相手に打ち付け快感に没頭している。

「ああ…っ♡ああん…♡もっと…もっと…♡奥、突いて……っ♡あん♡はうん…♡気持ちいい……っ♡」
「はあ…あー……いい……!ああー…!」
「あんっ…♡あんっ…♡あんっ…♡すご…い…♡あん……っ♡」
「ああ…っ!あー……あー……!いく…いく……っ!」
「ああん…♡いい…っ♡出して…っ♡中に出して…っ♡」
「あー…!いくいくいくいく……おお……っ!」

 男たちが憎い。匠海は俺のものだ。このかわいらしい喘ぎ声は…この滑らかな肌は…。
 息子の匠海をここまで”育成”したのは俺だ!


 妻と娘が家を空けている間、週に二、三度、そして月に一、二回はホテルでゆっくり、じっくりと兆次は匠海を育成してきた。

「あっ…♡パパ…ッ♡はげし……♡」

 兆次の腕の中で、匠海は性の喜び、官能を知り、父を愉しませる術を覚えてきた。
 それが兆次の愛だ。匠海もそれに応えてきた。

「んん…♡パパ…もう…っ♡いく…いくっ……♡ぼく、もう…ああ…っ♡お尻だけで…いっちゃう…♡すごい…あんん…っ♡」


 かわいい、かわいい匠海。
 兆次は匠海なしでは生きていく意味がない。匠海は兆次なしでは生きていけない。そのはずだった。
 なのに…。
 動画の匠海は兆次以外の男たちに抱かれて、歓喜の声をあげ、積極的に腰を振り、瞳をうるませて気持ちよさそうにしている。

「匠海…どうして……」

 確かに、兆次は”愛息子♡育成中”のハンドルネームで、仲間内で匠海との交合の動画を秘かに共有してきた。だが、息子にじかに触れ、熱い体を抱き、その体内に精液を注ぎ込めるのは兆次だけの特権だったはずなのに。

「あ…♡あ……♡」

 激しいアナルセックスの後、中に射精され、自らも射精したナユタのアナルをカメラが映す。ぴくぴくとうごめくそこから、白い液体がこぼれ出る。
 相手役の男優に「どうだった?」と、聞かれ「すごく、気持ちよかったです…」と、恍惚の表情で答えるナユタ。
 その後、場面が変わり衣装も変わったナユタはまた男に抱かれる。
 バイブレーターや、アナルパールなども使用され、様々な体位で責められ、精液まみれになりながら法悦に浸り、男たちの愛撫に応える。
 何度も激しく行為は続き、それらを兆次は全て鑑賞した。
 寝不足になりながらも、翌日は有休を取り、ネットカフェからログインして、全ての動画を観終えると、更に翌日からはUSBメモリに記録した”思い出”の動画を観た。


「や…♡へん…なの…っ♡パパ…ッ♡気持ちいい……♡」
 手淫による射精に、戸惑いながらも快感を訴える匠海。

「あん…っ♡ふう…ん…♡やあ…っ♡出ちゃ…出ちゃう……っ♡」
 フェラチオを施されて気持ちよさそうに身をよじる匠海。

「ん…んん…♡んぐ…ん……っ♡」
 ぎこちないながらも一生懸命口で奉仕する匠海。

 ゆっくりと準備し、初めて一つになれた時の動画も。
「は…ん……♡パパあ…♡苦しく…ないよ…。よく、わかんないけど…うれしい…あ…っ♡」

 匠海はどんどん淫らになっていく。
「はう…♡ああ……っ♡き、気持ちいい…♡パパ……ッ♡あんっ♡あ…♡また、出ちゃう…っ♡うううん…っ♡」

 最後の動画はとっておきだ。
 匠海は兆次の上にまたがり、あるいは対面座位の体位をとり、あるいは自分から四つん這いになって腰を高く上げ、兆次のペニスを求め、積極的に腰を振りながら、気持ちよさそうに喘いで何度も何度も絶頂に達する。
「んっ♡んっ…♡パパ、気持ちいい…♡気持ちいい……っ♡いく…っ♡いっちゃう……っ♡あっ♡あっ♡あ……っ♡」


 それらも全て鑑賞し終えると、兆次は深夜の街をふらふらと歩いた。人気がない暗い道。
 とあるビルの前に立つと、そこへ入る。
 ここの屋上からの夜景は見事だ。管理が甘く施錠されておらず、よく匠海と訪れたものだ。

「ああ…」

 屋上に着くと、生暖かい風に吹かれながら、兆次は地上を見下ろした。しばらくそうしていると、背後でガチャリと扉を開ける音がした。驚いて振り返ると、そこにいたのは匠海だった。缶チューハイを片手に持ち、コンビニの袋をぶら下げている。グレーのセットアップを着て、耳にはたくさんのピアスをつけている姿は、だいぶ垢抜けた印象があるが、匠海に違いなかった。

「あれ…」

 知らず知らずのうちに、兆次は泣いていた。匠海、匠海、どれほど会いたかったか。匠海、俺の匠海。
 匠海はぽかんとしている。

「もしかして……パパ…なの?」

 兆次は頷いた。
 匠海は確認すると、花がほころぶように破顔した。たとえようもなく可憐な笑顔だった。
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