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49 シノとのお別れ!
しおりを挟むよく見れば、シノの着ている上等なコートはあちこち煤けて汚れている。何があったのか。
「タクト…」
「シノ…」
足が床に縫いつけられたように、進まない。ここを離れがたいとでも俺は思っているのだろうか。
サユに手を引かれて、やっと歩を進めることが出来た。
シノの横を通り過ぎ、屋敷の玄関へ。外へ、出た。
解放だ。屋敷の門扉までもすぐ。表の道にリューバが繋がれているのが見える。
「タクト…」
この屋敷から永遠に立ち去ろうとする俺の名を呼ぶものがいた。シノではない。
どたばた騒がしかったので、囲われている少年たちが出てきていた。今のはレイジュの声だ。
「行くのかー?」
俺は振り返った。
「レイジュ、リク…世話になったなー!俺は出てくから…だから…」
俺は立ち止まって、サユを戸惑わせた。
「タクト?」
「ごめん。サユ、ちょっと行ってくる…待ってて」
「え」
屋敷の玄関で膝を折り、うなだれているシノに俺は近づいてしゃがみこんで目線を合わせた。
「タクト…」
「シノ…、俺はもう行くし二度と会わないと、会えないと思うけど…」
「ああ…っ」
シノが絶望したように天を見上げ、吠えた。
「聞いて。俺、シノのこと忘れないよ…絶対忘れない。エリックもシノのこと、ずっと覚えてると思う。一生、忘れないと思う」
「ああ…」
「だから、自分のことちゃんと大事にして欲しい!わかった?」
「ああ…」
シノの背中にはリクがそっと寄り添っていた。
「リク、よろしくね!」
「うん」
控えめなリクの瞳には強い光が宿っていた。大丈夫だって思いたい。
「さよなら。シノ…」
俺は言い置いてサユの元へ戻った。
「ここを出たいやつがいたらついでに連れて行くけど…」
「他のみんなはここが好きなんだよ。将来も保証されてるし」
「そうか…」
「うん」
サユと再び歩き出そうとした時だった。がくっと足の力が抜けた。えっ…、た、立てない…。歩けない…。
緊張の糸が切れたのかもしれない。ここ一か月、足枷に繋がれてたいして歩いてなかったのだ。足が萎えてしまった…。
「タクト、おぶされ」
「う、うん…」
俺は素直に従った。サユの背中は頼もしい。安心して眠ってしまいそうだ。
サユにおんぶされて俺は屋敷の門を抜けて外に出て、リューバに乗せられた。
今日はもう遅い。夜中だ。少し行ったところに宿をとってあるので、そこで休むと言う。
サユの腰につかまって、リューバに揺られながら言った。
「サユ…ありがとう…」
「礼なんかいい…。ここを突きとめられたのは俺だけの手柄じゃないし」
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