異世界でいっぱいH!

ゆめゆき

文字の大きさ
上 下
49 / 51

49 シノとのお別れ!

しおりを挟む

 よく見れば、シノの着ている上等なコートはあちこち煤けて汚れている。何があったのか。

「タクト…」
「シノ…」

 足が床に縫いつけられたように、進まない。ここを離れがたいとでも俺は思っているのだろうか。
 サユに手を引かれて、やっと歩を進めることが出来た。
 シノの横を通り過ぎ、屋敷の玄関へ。外へ、出た。
 解放だ。屋敷の門扉までもすぐ。表の道にリューバが繋がれているのが見える。

「タクト…」

 この屋敷から永遠に立ち去ろうとする俺の名を呼ぶものがいた。シノではない。
 どたばた騒がしかったので、囲われている少年たちが出てきていた。今のはレイジュの声だ。

「行くのかー?」

 俺は振り返った。

「レイジュ、リク…世話になったなー!俺は出てくから…だから…」

 俺は立ち止まって、サユを戸惑わせた。

「タクト?」
「ごめん。サユ、ちょっと行ってくる…待ってて」
「え」

 屋敷の玄関で膝を折り、うなだれているシノに俺は近づいてしゃがみこんで目線を合わせた。

「タクト…」
「シノ…、俺はもう行くし二度と会わないと、会えないと思うけど…」
「ああ…っ」

 シノが絶望したように天を見上げ、吠えた。

「聞いて。俺、シノのこと忘れないよ…絶対忘れない。エリックもシノのこと、ずっと覚えてると思う。一生、忘れないと思う」
「ああ…」
「だから、自分のことちゃんと大事にして欲しい!わかった?」
「ああ…」

 シノの背中にはリクがそっと寄り添っていた。

「リク、よろしくね!」
「うん」

 控えめなリクの瞳には強い光が宿っていた。大丈夫だって思いたい。

「さよなら。シノ…」

 俺は言い置いてサユの元へ戻った。

「ここを出たいやつがいたらついでに連れて行くけど…」
「他のみんなはここが好きなんだよ。将来も保証されてるし」
「そうか…」
「うん」

 サユと再び歩き出そうとした時だった。がくっと足の力が抜けた。えっ…、た、立てない…。歩けない…。
 緊張の糸が切れたのかもしれない。ここ一か月、足枷に繋がれてたいして歩いてなかったのだ。足が萎えてしまった…。

「タクト、おぶされ」
「う、うん…」

 俺は素直に従った。サユの背中は頼もしい。安心して眠ってしまいそうだ。
 サユにおんぶされて俺は屋敷の門を抜けて外に出て、リューバに乗せられた。
 今日はもう遅い。夜中だ。少し行ったところに宿をとってあるので、そこで休むと言う。
 サユの腰につかまって、リューバに揺られながら言った。

「サユ…ありがとう…」
「礼なんかいい…。ここを突きとめられたのは俺だけの手柄じゃないし」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...