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35 これが世に聞く闇オークション!
しおりを挟む膝を抱えて不安な気持ちに耐えていると、突然ドアが開いた。
優に二メートルは超えるガタイのいい男たちが身をかがめて入って来た。
「さあ!お前ら!来い!」
三人いる男たちはみんな、一目でカタギではないとわかる。顔に傷があり、煙草らしきものを咥え、不機嫌そうな表情が恐ろしい。高級そうな、だけど手入れの行き届いていないジャケットを着て、宝石のついた指輪などをごちゃごちゃつけている。
皆は従順に男たちに従った。反抗したら痛い目を見そうなので、俺もしんがりからくっついていく。
すると、男たちの一人にぐいっと襟首をつかまれた。
「な、な、何?何ですか??」
めちゃくちゃ怖い。
「お前、いい服を着ているじゃねえか」
「これを売ったら金になる」
「ええええ」
俺は強引にヨノイに買ってもらった衣服をはぎとられた。靴も靴下ももちろん奪われる。
下着姿になると、それすら目をつけられた。
「なんていい生地だ!これも売りもんにならあな!!」
「や、やだ!うわああ…」
下着も脱がされる。羅生門かよ…。
ひどい。ひどすぎる。
あられもない姿にされた俺は、お情けでむしろを被せられ、それを羽織って小突かれるまま石造りの冷たい廊下を進んだ。
進んでいくと、喧騒が聞こえてくる。
俺たちは競売にかけられると言っていた。
まぶしい光が進む先に見えてくる。火ではない。魔法の光だろうか…。
進んでいくと、一旦止められた。そこからはステージのようなものが見えた。
泣いていたあの蜜のような金髪の少年が舞台中央で小突かれながら立っている。
「さあ、皆さま…!こちらの少年、よくよくご覧ください!蜜のようなブロンドに、海のような碧い瞳をしています!何の病気ももっていません!健康で従順な少年です!」
「うっ…うっ…」
「こら泣くな!笑顔!笑顔!」
こんな状況で笑顔になれだなんて無茶というものだ。
俺は心底少年に同情した。
「五十万カイスから始めます!」
高いのか、安いのかわからない。いや、安い。こんなの人権がない。
「五十五万カイス!」
「百万カイス!」
「百十万!」
「百二十万!」
「百五十万だ!」
少年の値はどんどん吊り上がっていく。
暗くて、俺からは客席の様子は見えない。
少年は最終的に五百六十万カイスで買い取られた。
そうして次々に、人身売買が行われていく。
ダークブロンドの少年の番になる。
少年は、しゃなりしゃなりと舞台中央までもったいぶった様子で歩いて行き、笑顔を振りまいているようだ。
彼なりの生存戦略であろう。
いい家に買われたいと言っていた。
「素直な少年です!仕込む手間は省けましょう!それにこの美貌!では、七十万カイスから…!」
「八十万カイス!」
「九十万!」
「百万!」
「百十万!」
この少年の値もどんどん上がっていく。
そして、なんと千百万カイスまで上がり、その値で彼は買われていった。
「おい!お前、それを脱げ!みっともない!」
「ええ…」
俺は体に巻き付けているむしろをはぎとられた。
「ちょっと!!じゃ、じゃあ何か着せて!」
抗議したが聞く耳を持たれない。俺は正真正銘の素っ裸にされてしまった。冷える。
「ほら!お前の番だ!行けっ!」
「や、やだ!」
「言う事を聞け!!」
俺は舞台に引きずり出された。
痛いほどの視線が俺に集中する。
進行役の男が、持っているステッキの先で、俺の顎を上向かせた。背中にもそれは当てられ、姿勢を正せられる。
「これは掘り出し物です!さまよえる者…!ですが、この輝かんばかりの白い肌!なんとしっとりとしていることだ!容貌も端正です!漆黒の髪に、吸い込まれるような黒瞳…!どうです!」
「……」
俺はなんとも言えない屈辱を感じていた。こんな世界、いやだ…こんな世界…。
「では、百万カイスから!」
しばらく、客席は静かだった。ふん!俺は溜飲が下がった。こっちはいつこの世界から消えてもおかしくない『さまよえる者』だ。大金を積んで買った商品が消えてなくなってしまっては意味がないわけだ。
しかし、声が上がらなかったのはほんの少しの間だけで、すぐに金額が叫ばれ始めた。
「百五十万!!」
「百六十万カイス!」
「二百万!!」
「二百十万!」
「二百二十万!」
「三百万!!」
値段はどんどん吊り上がった。
「千五百万カイス!」
「二千万!!」
俺は気が遠くなった。そんな金額で俺を買って、何をするつもりだ。
俺を抱きたかったら、エメルド館にくればいい。
「三千八百万!」
「五千万!!」
五千万…!さすがにそれ以上の金額を提示するものはいなかった。
「では、五千万で…!」
その時だ。会場のドアの一つがギギッと開かれた。客席は暗いが、廊下の灯りで入って来た人物がわかった。ヨノイ…!
「待て!今、いくらだ!私は…」
ヨノイの叫びは進行役に遮られた。
「五千万で、シノ・ヤブサ様が落札なされました!!」
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