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21 ここらで身の上話でも!
しおりを挟む次の日も、その次の日もサユは俺を買った。
毎日、一緒に寝て、一緒にごはんを食べたり、買い物したりして、俺はサユにぶらさがるみたいにくっついて街を歩いた。
実際、サユの腕にぶら下がることは出来る。一度片腕で力こぶを作るみたいに、腕を突き出してもらって、そこにつかまって足を曲げてみたら、俺の体は難なく浮いた。
セックスする晩もあったし、しない時もあった。
「別に俺を買わなくても、サユならロハでいいのに。外で会えばいいじゃん」
と、俺が言うと
「そういうわけにはいかない」
と、やけに真面目な顔でサユは言って、とりなすようにニコっと一瞬微笑んだ。
三十万カイスも返そうとしたが、固辞された。
「何があるかわからない。金は持っていた方がいい」
「うん…」
今更ながら、サユの実家の話も聞いてみた。
「片田舎の領主だよ…」
と、つまらなそうに言う。
「それって、すごくない?なんで家を出たの…」
「別にすごくない…俺は三男だし、姉や妹を嫁に出すにも金がいるし、ごくつぶしになっちゃ肩身が狭いから、出てきちゃったんだ」
「でも、お城に住んでたんじゃない?」
「まあ…それはそうだけど。広いばっかりで不便だよ。それより、タクトは学校へ行ってたんだろう。学校って面白い?」
「サユは学校に行ったことないの?」
「家庭教師がついてたから」
なるほど。
学校が面白いかと言われると、答えるのは難しい。成績は中の上で授業についていくのに困りはしなかったし、クラスの中で浮いているということもなかった。つるめる友人は何人かいた。
でも、いじめを見て見ぬふりをしたこともある。自己嫌悪に苛まれて、でも誰にも相談せずに波風を立てないようにしていたような気がする。
「学校は…どうだろう。別に勉強するだけだし…。人によるんじゃないかな…。同じ年の友達はできるけど」
「ふうん…。何を勉強するんだ?」
「えっ!数学とか、古文とか…あっ、美術や音楽もやるし…」
サユは俺の話を楽しそうに聞いていた。
サユが領主の息子というのは納得だった。どうりで庶民臭くない、いやに上品なかんばせをしているわけだ。
ある朝、サユは一人で街に出ていって、果物やタパスチー、酒などたくさん食べ物を買い込んできて言った。
「今日は、一日部屋にいよう。いい?」
「うん。いいよ」
「じゃあ、食べよう」
「うん」
朝食に二人で果物を食べて、くつろぐ。
二人でベッドに並んで座っていると、サユが軽くキスしてきた。
額に。
次に頬に、まぶたに…。なかなか唇にしない。
俺をゆっくりベッドに押し倒して、やっと唇と唇を合わせた。合わせるだけ。
「ん……」
深く口づけようとすると、離れてしまう。
互いに見つめ合って口づけるのを繰り返す。
「ん…サユ…」
首に手を回して、引き寄せようとするが、サユはびくともしない。
何度も軽いキスをしてから、やっと舌を差し入れてきた。この緩慢さはなんだろう。
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