黒い姉妹

ゆめゆき

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嘲笑う妹

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 怖い…!気持ち悪い…!いや…いや…!怖い…!怖い…!こっちに来ないで…!わたしにさわらないで!いや…!怖い…!いや…!

 わたしは黒い闇にまとわりつかれて、逃げられない。ゾッとする気持ちの悪い感触がわたしを襲う。助けて…!助けて…!

 目が覚めると、わたしはぐっしょりと汗をかいている。涙が止まらない。

「あ…あ…」

「奥様…!お目覚めに…!」

「エッタ…」

 わたしは寝間着に着替えさせられて、ベッドに寝かされていた。

 実家のわたしの寝室だ。嫁いでいった時のまま、変わっていない。

「奥様は気を失ったまま丸一日、起きずに…まあまあ汗びっしょりで…体を拭きましょう…ああ、お腹は空いていませんか?喉は渇いていませんか?」

「お…お水をちょうだい…」

「かしこまりました!すぐにお持ちしますね…!」

 喉が渇いてはりつきそうだった。

 エッタは一度下がって、水差しとコップを持ってきてくれた。

 注いでくれた水を、震える手でごくごくと一気に飲み干す。何杯も。

 だめだ…。震えが止まらない…。

「あの…グレイを…呼んでくれる…?」

「ええ!お待ち下さい…!」

 グレイに抱きしめてもらいたい。安心出来る唯一の場所。会いたい。恐怖を拭い去って欲しい…!

 だが、わたしの部屋をノックして現れたのは、リナだった。

 期待にふくらんでいた気持ちがしぼみ、体が硬直する。

「まあ!お姉様…!おかわいそうに…!!」

 リナは、わたしの元に駆け寄り、跪いて大仰に嘆くと、次の瞬間にはうつむいて、ふ、ふ、と笑い始めた。

「お姉様ったら、大袈裟よ…!生娘でもあるまいに!男に襲われたくらいで、丸一日も寝込むなんて…!繊細ぶって、馬鹿みたい…」

「ね、ねえ…グレイ…グレイは…」

「グレイは来ないわ…あんなことがあったすぐ後だから、男性は近づかない方がいいって、わたしが忠告したのよ…客室で寝泊まりしているわ…」

「そんな…」

 確かに男性は怖い。でも、グレイは別だ。グレイは怖くない。彼だけは違う。彼に会えれば恐怖が薄らぐはずだ。

「会いたいの…彼に会わせてちょうだい…お願い、リナ…!」

 リナは楽しくて仕方がないという風に笑い続けている。

「嫌よ。お姉様はしばらくそうやって寝込んでいるといいわ!その間にグレイはわたしのものよ。もともとお姉様では釣り合いがとれなかったもの…あの真紅のドレスも、少し破れてしまったけど、お姉様はもういらないでしょう。仕立て直してわたしが着るわ。わたしが着た方があのドレスもうれしいはずだわ…」

「ねえ…お願い…グレイを連れてきて…!ドレスはあげるから!ほかのドレスもあげる!!」

「そうね、ほかのドレスももらうわ…それに彼の伴侶になれば、もっとたくさんドレスを新調できるわね…」

「リナ……」

 絶望が迫ってくる。彼に会いたい。

「昨晩はばたばたしていて、彼の寝室に行けなかった…ふふっ…!今夜は彼に抱かれるわ…」

「リナ……」

 怒りも憎しみもわかない。ただひたすら力が抜けて、気力が失われていく…。

 そこへ、エッタが現れた。湯を満たしたたらいと、手拭いを乗せた盆を持っている。

「奥様の体を拭きます…!」

「あら、そう!じゃあ、わたしはこれで」

 リナは足取りも軽く、部屋を出ていった。

 エッタは熱い手拭いで、わたしの体を拭いてくれた。汗を拭き取ってもらって、少しほっとする。

 エッタは怒ったように言った。

「奥様…負けてはいけません…!!こんなことで負けてはいけませんよ…!意気地なしではだめです…!」

「エッタ…」

「あの女狐に負けてはいけません。奥様は何も悪くはないのです…!ご主人様はこれまで奥様に、あんなにも思いやりをかけてくれていたではありませんか…!今度は奥様の番です…!」

「……」

 エッタの怒りがわたしに乗り移ったように感じる。じわじわと少しずつ、ほんとうに少しずつだが、力が湧いてくる。
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