黒い姉妹

ゆめゆき

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不愉快な里帰り

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 実家への訪問の日時を手紙で知らせ、わたしとグレイはエッタを連れ、その通りに実家へ向かった。

 わたしは念入りにお化粧をし、真紅のドレスを選んだ。思えば赤はいつもリナの色だった。

「すごく、きれいだ…」

 グレイは身支度を整えたわたしにキスして、抱きついて持ち上げた。そのままくるくる回ったので、わたしは宙に浮いてるみたいで戸惑う。

「危ないわ。グレイ…!」

「平気!」

 快活な笑い声と共に、わたしは地上に降ろされる。

 馬車で半日かけて実家に向かった。

 実家の庭園は相変わらず美しかった。

 レヴィ家の庭はただの広い芝生だが、近々花を植え、木々を植え、わたしの好みの庭園にするつもりだ。グレイが、そうしなさいと言ってくれた。

 この庭園を散歩するのがわたしは好きだった。

 森の中でリナとフロードのあの場面を見て、散策の途中でイドレスと口づけを交わしてしまった、忌まわしい庭園だけど…。

「見事な庭園だね。でも、うちはもっと素敵な庭園にしよう…!」

 グレイの言葉がうれしい。

 両親は驚きを持ってわたしたちを出迎えた。

「お義父様、お義母様…グレイ・レヴィです。訳あって、素顔を隠したまま、お嬢さんへ求婚したことをお詫びします。改めてご挨拶に参りました」

「あ、ああ…ようこそ…!」

「エルも久しぶりね…!今日はリナも帰っているのよ」

 母の言葉に、わたしは愕然とする。リナがいる…!

 嫌だ。グレイとリナを会わせたくない。

「あの…リナはどこにいるのかしら…」

「あら?おかしいわね…さっきまでいたんだけど…」

 わたしはとりあえず、ほっとする。

 客間に通されて、お茶とお菓子を振る舞われた。

 グレイの美貌と、品のある立ち居振る舞いに、両親は見惚れているようだ。

 両親の暮らしぶりと、わたしの新婚生活についてお互いかんたんに話し、なんということもない世間話をした後、わたしは思い切って切り出した。

「その…リナ…リナから、手紙でお金を催促されたんだけど…そんなに困っているのかしら…」

 両親は顔を見合わせる。

「私たちもアムルート家に支援しているのだが、そっちにも手紙が…?」

「そ…そうなの…」

 リナはかなり困窮しているのだろう。

「やはり、リナをアムルート家に嫁がせるのではなかったな…」

 父はため息をついた。

「ええ、リナは華やかな場所が似合う子なのに…ドレスも新調できずに、パーティーにも行けずに…もったいないことだわ」

 母も顔を曇らせる。

 そして、わたしに唐突に切り出してきた。

「エル…あなた、これからでもうちに戻ってきなさいな」

 父も重々しく頷く。

「ああ、エルは家に戻ってくるといい。新しい縁談を探そう」

「ど…どういうこと…?」

 わたしは意味がわからない。

 グレイの方を見ると、彼も怪訝な表情をしている。

「お嬢さんをご実家にお返ししろと…?僕はお嬢さんに不自由をさせた覚えはありません。足りないとおっしゃるなら改善します」

 母が焦ったようにとりなす。

「誤解なさらないで…!逆。そう、逆ですわ」

「逆…??」

 グレイは眉をひそめ、少し唇を尖らせた。そんな表情でさえ、魅力的だった。

「エルでは、レヴィ氏にふさわしくないかと…改めてリナを嫁がせます。リナはご存知でしょう!美しく、快活で、社交的な娘です…!必ず、気に入ります。リナも、きっと…!ああ、リナはどこへ行っているんだ。誰か捜しに行かせなさい」

 黒く重たいものが、たちまちのうちにわたしの胸に巣食った。

 体調がおかしい。息がうまく出来ない…。

「僕は初めからエルへ求婚しました。お忘れですか?」

 グレイは眉間を指で押さえ、ため息をついた。

「それはリナと勘違いをしていたのかと…違うのですか?」

「僕はエルへ求婚したのです。勘違いなどしていない」

 グレイは億劫そうに言葉を紡いだ。
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