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第四話(終)
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「ちょ、ちょっと、待ってって!」
向井は田んぼ道で耕三を追いかけていた。前を歩く耕三の足取りはずんずんと怒りがこもっているようだ。
だが、振り返る。
「ビデオ、見ました!」
「ビデオ…あっ」
向井は買い物があるから、車出してデパートに行こうと亀井に言われたので、ラインで耕三を誘ったのだが、『ばーかばーか』と返ってきて、意味がわからなかったので、耕三の家である居酒屋まで顔を見に来たのである。
ビデオとは、昨晩の竜二とのことであろう。だが…。
「なんで?何、怒ってるの?」
「わかりません!なんか、むかついてるんです!あんないちゃいちゃして…」
「だって、夜伽は村の決まりなんだろう!いちゃいちゃって…別に…」
「…よかったですか?」
「いや…そんなこと…」
正直、よかったが、その感想を耕三に白状しなければならない理由はない。
「まことさんのとこには、昨晩は行かなくていいってみんなに言っておいたのに…竜二が…」
「そ、そうだったんだ…なんで来たのかな…?」
「あいつ、村を出たいんです!というか東京に行きたいんです!次男だし!まことさんとつてを作りたかったんでしょ!」
「そ、そんな理由…?東京なんか、一人でも行けるでしょ?」
「意気地無しなんです!あいつは!もう…っ!!」
耕三は柳眉を逆立て、怒りを表している。が、怒っている顔も可憐だ。
向井が見守っていると、すー、はー…と、耕三は深呼吸して、怒りを押さえようとしている。
「僕とどっちが…」
「え?」
「どっちがよかったですか?まことさん」
耕三は嫉妬しているのだろうか。だけど、誰とでも寝るのは耕三の方ではないか。
「俺は、耕三くんの方が…」
その場しのぎの嘘ではない。向井は耕三とのセックスの方が燃えた。
「そうですか…」
「うん…」
「僕、一緒にデパート行きます。買いたいものあるし」
「うん。行こうよ」
と言うわけで、二人は亀井の運転するアルファードで、村に一つだけある大亀屋というデパートに行くことになった。
田舎のデパートと言えば、イオンと相場が決まっているが、さすがのイオンも未だこの地には到達していないらしい。
耕三はさっきの不機嫌が嘘のように、子供みたいににこにこして、向井の隣を歩いた。
「買いたいものって何?」
「靴を…スニーカーと、ローファー、だめになってきちゃって…あと、ついでに書店にも寄りたいです」
向井は亀井と別れて、耕三の買い物につきあい、自分の買い物も済ませた。楽なスウェットハーフパンツと、サンダル。
耕三と書店にも行った。暇を潰すための雑誌や文庫本を何冊か。
耕三は参考書などを買った。向井が同じ参考書を手に取り、ペラペラとめくると、目がチカチカした。難解だ。
「意外と、真面目なんだな…」
「意外ですか?」
「いや、受験生だもんな。そりゃ、そうか…理系なんだなあ…」
「志望は医学部です」
「うわ。マジで…?」
向井は、急に耕三に距離を感じた。医者なんて、雲の上の存在に感じる。実は向井の母は五年前に、生きるか死ぬかという大病にかかったことがあり、それが完治したので医者には尊敬の念しかない。
向井自身はデザイン学科卒だ。
それぞれ買い物が終わると、合流して遅い昼食をとった。
二千八百円の天丼…!
亀井の奢りである。ビールも勧められたが、運転手の亀井に悪いので断った。
久々のすっぽん以外の食事は、しみじみ旨かった。
耕三は新しいスニーカーを早速履いて、弾むように歩いた。
ソフトクリームも買って、それを食べて、帰りの道中も、後方シートに向井と耕三は並んで座り、学校の話や、向井がしていた仕事の話やアニメや映画の話をした。
楽しい一日が終わり、耕三を家に送り、亀井家に帰宅する。
夕飯までの時間潰しに、亀井と駄弁りながらテレビゲームをし、またしても、すっぽん料理の夕食。向井はもう慣れてきた。
そして、風呂をもらい、部屋に戻ると、先客がいた。
「竜二くん…!」
「また、来ちゃいました。連絡先交換してなかったし…」
「え、うん。うーん…いいけど…」
向井は竜二と連絡先を教えあった。
竜二は今日も浴衣姿だ。首に手を回してきて、口づけしようとするのを向井はやんわりと拒んだ。
「どうしたんすか」
「今日は、耕三くんが来るんじゃないかと…」
「おれじゃだめっすか?」
「そういう…そういうことじゃないけど…」
「じゃあ…じゃあ、いいじゃないすか!早く…っ」
竜二は焦っているようだ。向井を布団に押し倒そうとする。
そこへ、廊下をどんどん音を立てて歩く音がして、障子がスパーンと開いた。
浴衣姿の耕三がそこに立っていた。怒っている。
「あーっ!耕三…っ!」
「にゃろう。竜二!抜けがけしようとしやがって…!」
「一晩や二晩、いいじゃないかよ!!じゃんけんで決まっただけだろ!」
じゃんけんで決まったの??
向井は呆気にとられた。
「なんだろうと、決まったことは決まったことだ!まことさんは…まことさんは…いや、僕は…とにかく、勝手に来んな!!」
耕三は、向井と竜二とを引き離そうと、竜二につかみかかった。互いに衿元をひっつかんで揉み合う。
「お前は東京行きたいだけだろ!!」
「行きてえよ!悪いかよ!!」
「東京くらい一人で行けよ!!」
「卒業したら、東京で生活したいんだよ!」
「だぁから一人で行けって!!」
「東京に母ちゃんがいるてめえに言われたくねえよ!T大もM大もよゆーでA判定で、花のキャンパスライフ送るんだろうが!!」
「てめえも頑張りゃいいだろうが!!」
「人には向き不向きがあんだよ!!」
T大もM大もA判定?!向井は耕三の学力の高さにおののいた。
「大体、昨晩はてめえが行けねえっつうから、来たんだし!ごちゃごちゃ言われる筋合いねえわ!昨晩は誰の布団に潜り込んだんだぁ?!」
「うるせえ!こっちだって、いろいろ事情があんだよ!!」
耕三がすうっと息を吸うと、次の瞬間竜二の体がひっくり返った。足払いだった。
どたんと盛大に竜二が畳の上に転がった。
「耕三…こんにゃろ…っ!」
竜二はすっくと立ち上がり、また耕三と取っ組みあう。
「阿保が!隙だらけなんだよ!てめえなんか何べんでもぶん投げてやるからな!!」
「ふ、二人とも、もうやめろって!!竜二くん!俺は、今東京に住んでるけど、会社潰れて今無職なんだよ!頼りになんないよ!それに…」
「ええ~…」
竜二が気の抜けたように耕三と組み合っている手の力を抜いた。
次の瞬間、今度はその体が宙を飛んだ。
「耕三くん!やめて!やめなさい、もう!」
「だって…」
唇を尖らせたその顔も愛らしい。だが、さっき二度も友人をぶん投げたところだ。
「竜二くん…どうしても東京行きたいなら、出来ることは協力するから…今日は…とりあえず帰って…」
「…はい……」
竜二は耕三を睨みつつ、しぶしぶと帰って行った。
残されたのは耕三だ。
竜二を見送ると、ペタンと畳の上に座りこんだ。
「ちくしょう。あいつ…」
「まあまあ…」
向井は耕三が落ち着くよう、背中をさすってやった。
「俺は耕三くんが好きだよ」
「ほんと…っ!?」
耕三は振り返って向井に抱きついてきた。
「さっき、言おうとしたら、君が竜二くんをぶん投げたもんだから…で、でも、あんまり深くとられても困るかな…俺もあんまり自分の気持ちがわからないんだ…でも、好きだ…」
「なんだ…」
「それは…耕三くんは俺のこと、好きなのかな…」
「わかんない…」
「わかんないの??」
「でも、好きな気がする…こうしてると、落ち着くし…」
「ん……」
耕三は向井に口づけてきた。互いに舌を絡める。
二人は布団の上で重なり、慈しみあった。
「ああん…♡」
「あの…さ…耕三くん…」
「何ですか?」
「昨夜は、どうしてたの…?」
聞くと、耕三はピタリと動きを止めて、向井の目を見て、そらして、また見た。
「う、嘘はやめにします…」
「えっ…やっぱり、誰かのところに行ってたの?」
「いとこの剛くんとこ行ってました…剛くん、今度アメリカに留学に行くんですけど…その前にこの村に帰ってきて…」
「はあ…」
「剛くん、この村じゃ珍しく童貞だったんです。アメリカ行く前に僕と…どうしても…したいって…あっちは銃社会だから、童貞のままでは銃弾に当たると…」
「なん…その迷信…そんで、寝たの…」
耕三はコクッとうなずいた。それでいながら、竜二とのことをあんなに怒るとは…。向井は呆れた。
「よかった…?」
「よく、いとこどうしは蛸…じゃない鴨の味だと言いますが」
「言わないよ…」
「いや、春画なんかにもそういう…まあ、そう言いますが、なんともあっさりしたものでした…」
「そ、そうか…あ…っ…!」
耕三はこれ以上は話す気がないらしく、向井の寝間着をずらして、ペニスを扱き始めた。
「僕としては、まことさんとの方が鴨の味というか…」
「んあ…っ…、それ、どういう意味なの??」
「油がのってこってりしている…みたいなことです…」
耕三は帯を解いて、着ている着物を脱ぎ、一糸まとわぬ格好になった。向井の寝間着も脱がす。
ペニスを擦りつけ合いながら、熱心に口づけを交わす。
ああ、うう、と、喘ぎ、呻き、いやらしくうごめいて、互いの肉体に溺れていく。
耕三は体をずらして、下になろうとして、その意を汲んで向井は上になり、耕三を組み敷いた。
「あぁ…♡」
耕三がすらりとした脚を開いて、向井をはさみこむ。
「挿れるよ…」
耕三がこくこくと頷く。
ゆっくりとペニスをアナルに挿入する。
「ああ…っ♡まことさん…♡いっぱい突いて…っ♡んん…♡」
「ああ…っ!」
向井が腰をピストンし始める。
耕三は脚を向井の腰に巻き付けて、爪先と足の甲とを組み合わせるようにしてぎゅっとした。
求められる実感に向井は興奮した。
次第にピストンを速め、激しく揺さぶると、耕三はかぶりを振り、枕に頭を押しつけて乱れた。
「あぁ…あぁ…っ♡んん…♡気持ち…いい…♡あっ…♡
あっ…♡」
「ああ~~っっ!いい…!」
二人の荒い呼吸が部屋に響く。
「あぁん♡いい…♡とろけそう…♡頭、ぼーっとする…♡」
「はあ…!かわい…ああ…っ!俺もとけそう…っ!」
快感が何度も耐えきれないほど強くなったり、心地いい程度になったりを繰り返して、どんどん高まっていく。
「んん…っ♡あぁん♡あ…あ…っ♡イキそう…♡」
「ああ…俺も…ああ…っ!」
「あ…っ♡あ…っ♡あっ♡イクッ♡あっ♡んん…っ♡」
「あーー…っっ!イクイクイクイク……」
向井がピストンを止め、奥深く強く突きながら、それに合わせてドクン、ドクッ…と耕三の中に精を放った。
「ああぁ……っ」
「あぁ♡あぁ♡ビクビクして…♡あぁ…っ♡」
耕三の手が、布団に手をついた向井の手首を握りしめる。
「あ…っ♡あぁ…っ♡」
ピュッ…ピュッ…、と耕三が射精する。
「ああ~…っ♡気持ちいい……っ♡」
二人は繋がったまま重なりあい、ぼうっとする頭で、快感の名残に浸った。
その後も何度も求め合い、絶頂を味わい、互いの肉体を貪った。
そして、朝になれば朝食を共にとり、それは亀井が東京に帰っても続いた。
向井は大亀頭沼村にとどまったのである。
それというのも、亀井の父親がすっぽんの養殖の手伝いを探していて、その日当が三万だったからである。
向井は一旦は東京に戻ったが、一人暮らしをしていた部屋を整理して引き払い、耕三の卒業まで大亀頭沼村で過ごした。
そして、現在は東京で耕三と暮らしている。
向井はまたデザイン事務所になんとか再就職し、耕三はK大の医学部に通っている。
時々、映画女優の八千代千代子が手料理を持ってくるから驚く。耕三の母親だった。
本当に時々、竜二も遊びに来た。部屋は広いので、ここに泊まりがけで東京に遊びに来るのだ。
家事は主に向井が担当している。医学部の学生の忙しさといったらなかった。
耕三は、いづれ村に帰るのだろうが、その時はその時だと向井は思っていた。あの村にはいくらでも仕事はあるし。
二人は離れがたい伴侶を手にいれたのだ。
向井は田んぼ道で耕三を追いかけていた。前を歩く耕三の足取りはずんずんと怒りがこもっているようだ。
だが、振り返る。
「ビデオ、見ました!」
「ビデオ…あっ」
向井は買い物があるから、車出してデパートに行こうと亀井に言われたので、ラインで耕三を誘ったのだが、『ばーかばーか』と返ってきて、意味がわからなかったので、耕三の家である居酒屋まで顔を見に来たのである。
ビデオとは、昨晩の竜二とのことであろう。だが…。
「なんで?何、怒ってるの?」
「わかりません!なんか、むかついてるんです!あんないちゃいちゃして…」
「だって、夜伽は村の決まりなんだろう!いちゃいちゃって…別に…」
「…よかったですか?」
「いや…そんなこと…」
正直、よかったが、その感想を耕三に白状しなければならない理由はない。
「まことさんのとこには、昨晩は行かなくていいってみんなに言っておいたのに…竜二が…」
「そ、そうだったんだ…なんで来たのかな…?」
「あいつ、村を出たいんです!というか東京に行きたいんです!次男だし!まことさんとつてを作りたかったんでしょ!」
「そ、そんな理由…?東京なんか、一人でも行けるでしょ?」
「意気地無しなんです!あいつは!もう…っ!!」
耕三は柳眉を逆立て、怒りを表している。が、怒っている顔も可憐だ。
向井が見守っていると、すー、はー…と、耕三は深呼吸して、怒りを押さえようとしている。
「僕とどっちが…」
「え?」
「どっちがよかったですか?まことさん」
耕三は嫉妬しているのだろうか。だけど、誰とでも寝るのは耕三の方ではないか。
「俺は、耕三くんの方が…」
その場しのぎの嘘ではない。向井は耕三とのセックスの方が燃えた。
「そうですか…」
「うん…」
「僕、一緒にデパート行きます。買いたいものあるし」
「うん。行こうよ」
と言うわけで、二人は亀井の運転するアルファードで、村に一つだけある大亀屋というデパートに行くことになった。
田舎のデパートと言えば、イオンと相場が決まっているが、さすがのイオンも未だこの地には到達していないらしい。
耕三はさっきの不機嫌が嘘のように、子供みたいににこにこして、向井の隣を歩いた。
「買いたいものって何?」
「靴を…スニーカーと、ローファー、だめになってきちゃって…あと、ついでに書店にも寄りたいです」
向井は亀井と別れて、耕三の買い物につきあい、自分の買い物も済ませた。楽なスウェットハーフパンツと、サンダル。
耕三と書店にも行った。暇を潰すための雑誌や文庫本を何冊か。
耕三は参考書などを買った。向井が同じ参考書を手に取り、ペラペラとめくると、目がチカチカした。難解だ。
「意外と、真面目なんだな…」
「意外ですか?」
「いや、受験生だもんな。そりゃ、そうか…理系なんだなあ…」
「志望は医学部です」
「うわ。マジで…?」
向井は、急に耕三に距離を感じた。医者なんて、雲の上の存在に感じる。実は向井の母は五年前に、生きるか死ぬかという大病にかかったことがあり、それが完治したので医者には尊敬の念しかない。
向井自身はデザイン学科卒だ。
それぞれ買い物が終わると、合流して遅い昼食をとった。
二千八百円の天丼…!
亀井の奢りである。ビールも勧められたが、運転手の亀井に悪いので断った。
久々のすっぽん以外の食事は、しみじみ旨かった。
耕三は新しいスニーカーを早速履いて、弾むように歩いた。
ソフトクリームも買って、それを食べて、帰りの道中も、後方シートに向井と耕三は並んで座り、学校の話や、向井がしていた仕事の話やアニメや映画の話をした。
楽しい一日が終わり、耕三を家に送り、亀井家に帰宅する。
夕飯までの時間潰しに、亀井と駄弁りながらテレビゲームをし、またしても、すっぽん料理の夕食。向井はもう慣れてきた。
そして、風呂をもらい、部屋に戻ると、先客がいた。
「竜二くん…!」
「また、来ちゃいました。連絡先交換してなかったし…」
「え、うん。うーん…いいけど…」
向井は竜二と連絡先を教えあった。
竜二は今日も浴衣姿だ。首に手を回してきて、口づけしようとするのを向井はやんわりと拒んだ。
「どうしたんすか」
「今日は、耕三くんが来るんじゃないかと…」
「おれじゃだめっすか?」
「そういう…そういうことじゃないけど…」
「じゃあ…じゃあ、いいじゃないすか!早く…っ」
竜二は焦っているようだ。向井を布団に押し倒そうとする。
そこへ、廊下をどんどん音を立てて歩く音がして、障子がスパーンと開いた。
浴衣姿の耕三がそこに立っていた。怒っている。
「あーっ!耕三…っ!」
「にゃろう。竜二!抜けがけしようとしやがって…!」
「一晩や二晩、いいじゃないかよ!!じゃんけんで決まっただけだろ!」
じゃんけんで決まったの??
向井は呆気にとられた。
「なんだろうと、決まったことは決まったことだ!まことさんは…まことさんは…いや、僕は…とにかく、勝手に来んな!!」
耕三は、向井と竜二とを引き離そうと、竜二につかみかかった。互いに衿元をひっつかんで揉み合う。
「お前は東京行きたいだけだろ!!」
「行きてえよ!悪いかよ!!」
「東京くらい一人で行けよ!!」
「卒業したら、東京で生活したいんだよ!」
「だぁから一人で行けって!!」
「東京に母ちゃんがいるてめえに言われたくねえよ!T大もM大もよゆーでA判定で、花のキャンパスライフ送るんだろうが!!」
「てめえも頑張りゃいいだろうが!!」
「人には向き不向きがあんだよ!!」
T大もM大もA判定?!向井は耕三の学力の高さにおののいた。
「大体、昨晩はてめえが行けねえっつうから、来たんだし!ごちゃごちゃ言われる筋合いねえわ!昨晩は誰の布団に潜り込んだんだぁ?!」
「うるせえ!こっちだって、いろいろ事情があんだよ!!」
耕三がすうっと息を吸うと、次の瞬間竜二の体がひっくり返った。足払いだった。
どたんと盛大に竜二が畳の上に転がった。
「耕三…こんにゃろ…っ!」
竜二はすっくと立ち上がり、また耕三と取っ組みあう。
「阿保が!隙だらけなんだよ!てめえなんか何べんでもぶん投げてやるからな!!」
「ふ、二人とも、もうやめろって!!竜二くん!俺は、今東京に住んでるけど、会社潰れて今無職なんだよ!頼りになんないよ!それに…」
「ええ~…」
竜二が気の抜けたように耕三と組み合っている手の力を抜いた。
次の瞬間、今度はその体が宙を飛んだ。
「耕三くん!やめて!やめなさい、もう!」
「だって…」
唇を尖らせたその顔も愛らしい。だが、さっき二度も友人をぶん投げたところだ。
「竜二くん…どうしても東京行きたいなら、出来ることは協力するから…今日は…とりあえず帰って…」
「…はい……」
竜二は耕三を睨みつつ、しぶしぶと帰って行った。
残されたのは耕三だ。
竜二を見送ると、ペタンと畳の上に座りこんだ。
「ちくしょう。あいつ…」
「まあまあ…」
向井は耕三が落ち着くよう、背中をさすってやった。
「俺は耕三くんが好きだよ」
「ほんと…っ!?」
耕三は振り返って向井に抱きついてきた。
「さっき、言おうとしたら、君が竜二くんをぶん投げたもんだから…で、でも、あんまり深くとられても困るかな…俺もあんまり自分の気持ちがわからないんだ…でも、好きだ…」
「なんだ…」
「それは…耕三くんは俺のこと、好きなのかな…」
「わかんない…」
「わかんないの??」
「でも、好きな気がする…こうしてると、落ち着くし…」
「ん……」
耕三は向井に口づけてきた。互いに舌を絡める。
二人は布団の上で重なり、慈しみあった。
「ああん…♡」
「あの…さ…耕三くん…」
「何ですか?」
「昨夜は、どうしてたの…?」
聞くと、耕三はピタリと動きを止めて、向井の目を見て、そらして、また見た。
「う、嘘はやめにします…」
「えっ…やっぱり、誰かのところに行ってたの?」
「いとこの剛くんとこ行ってました…剛くん、今度アメリカに留学に行くんですけど…その前にこの村に帰ってきて…」
「はあ…」
「剛くん、この村じゃ珍しく童貞だったんです。アメリカ行く前に僕と…どうしても…したいって…あっちは銃社会だから、童貞のままでは銃弾に当たると…」
「なん…その迷信…そんで、寝たの…」
耕三はコクッとうなずいた。それでいながら、竜二とのことをあんなに怒るとは…。向井は呆れた。
「よかった…?」
「よく、いとこどうしは蛸…じゃない鴨の味だと言いますが」
「言わないよ…」
「いや、春画なんかにもそういう…まあ、そう言いますが、なんともあっさりしたものでした…」
「そ、そうか…あ…っ…!」
耕三はこれ以上は話す気がないらしく、向井の寝間着をずらして、ペニスを扱き始めた。
「僕としては、まことさんとの方が鴨の味というか…」
「んあ…っ…、それ、どういう意味なの??」
「油がのってこってりしている…みたいなことです…」
耕三は帯を解いて、着ている着物を脱ぎ、一糸まとわぬ格好になった。向井の寝間着も脱がす。
ペニスを擦りつけ合いながら、熱心に口づけを交わす。
ああ、うう、と、喘ぎ、呻き、いやらしくうごめいて、互いの肉体に溺れていく。
耕三は体をずらして、下になろうとして、その意を汲んで向井は上になり、耕三を組み敷いた。
「あぁ…♡」
耕三がすらりとした脚を開いて、向井をはさみこむ。
「挿れるよ…」
耕三がこくこくと頷く。
ゆっくりとペニスをアナルに挿入する。
「ああ…っ♡まことさん…♡いっぱい突いて…っ♡んん…♡」
「ああ…っ!」
向井が腰をピストンし始める。
耕三は脚を向井の腰に巻き付けて、爪先と足の甲とを組み合わせるようにしてぎゅっとした。
求められる実感に向井は興奮した。
次第にピストンを速め、激しく揺さぶると、耕三はかぶりを振り、枕に頭を押しつけて乱れた。
「あぁ…あぁ…っ♡んん…♡気持ち…いい…♡あっ…♡
あっ…♡」
「ああ~~っっ!いい…!」
二人の荒い呼吸が部屋に響く。
「あぁん♡いい…♡とろけそう…♡頭、ぼーっとする…♡」
「はあ…!かわい…ああ…っ!俺もとけそう…っ!」
快感が何度も耐えきれないほど強くなったり、心地いい程度になったりを繰り返して、どんどん高まっていく。
「んん…っ♡あぁん♡あ…あ…っ♡イキそう…♡」
「ああ…俺も…ああ…っ!」
「あ…っ♡あ…っ♡あっ♡イクッ♡あっ♡んん…っ♡」
「あーー…っっ!イクイクイクイク……」
向井がピストンを止め、奥深く強く突きながら、それに合わせてドクン、ドクッ…と耕三の中に精を放った。
「ああぁ……っ」
「あぁ♡あぁ♡ビクビクして…♡あぁ…っ♡」
耕三の手が、布団に手をついた向井の手首を握りしめる。
「あ…っ♡あぁ…っ♡」
ピュッ…ピュッ…、と耕三が射精する。
「ああ~…っ♡気持ちいい……っ♡」
二人は繋がったまま重なりあい、ぼうっとする頭で、快感の名残に浸った。
その後も何度も求め合い、絶頂を味わい、互いの肉体を貪った。
そして、朝になれば朝食を共にとり、それは亀井が東京に帰っても続いた。
向井は大亀頭沼村にとどまったのである。
それというのも、亀井の父親がすっぽんの養殖の手伝いを探していて、その日当が三万だったからである。
向井は一旦は東京に戻ったが、一人暮らしをしていた部屋を整理して引き払い、耕三の卒業まで大亀頭沼村で過ごした。
そして、現在は東京で耕三と暮らしている。
向井はまたデザイン事務所になんとか再就職し、耕三はK大の医学部に通っている。
時々、映画女優の八千代千代子が手料理を持ってくるから驚く。耕三の母親だった。
本当に時々、竜二も遊びに来た。部屋は広いので、ここに泊まりがけで東京に遊びに来るのだ。
家事は主に向井が担当している。医学部の学生の忙しさといったらなかった。
耕三は、いづれ村に帰るのだろうが、その時はその時だと向井は思っていた。あの村にはいくらでも仕事はあるし。
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