因習蔓延る大亀頭沼村!

ゆめゆき

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第四話(終)

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「ちょ、ちょっと、待ってって!」

 向井は田んぼ道で耕三を追いかけていた。前を歩く耕三の足取りはずんずんと怒りがこもっているようだ。
 だが、振り返る。

「ビデオ、見ました!」

「ビデオ…あっ」

 向井は買い物があるから、車出してデパートに行こうと亀井に言われたので、ラインで耕三を誘ったのだが、『ばーかばーか』と返ってきて、意味がわからなかったので、耕三の家である居酒屋まで顔を見に来たのである。
 ビデオとは、昨晩の竜二とのことであろう。だが…。

「なんで?何、怒ってるの?」

「わかりません!なんか、むかついてるんです!あんないちゃいちゃして…」

「だって、夜伽は村の決まりなんだろう!いちゃいちゃって…別に…」

「…よかったですか?」

「いや…そんなこと…」

 正直、よかったが、その感想を耕三に白状しなければならない理由はない。

「まことさんのとこには、昨晩は行かなくていいってみんなに言っておいたのに…竜二が…」

「そ、そうだったんだ…なんで来たのかな…?」

「あいつ、村を出たいんです!というか東京に行きたいんです!次男だし!まことさんとつてを作りたかったんでしょ!」

「そ、そんな理由…?東京なんか、一人でも行けるでしょ?」

「意気地無しなんです!あいつは!もう…っ!!」

 耕三は柳眉を逆立て、怒りを表している。が、怒っている顔も可憐だ。
 向井が見守っていると、すー、はー…と、耕三は深呼吸して、怒りを押さえようとしている。

「僕とどっちが…」

「え?」

「どっちがよかったですか?まことさん」

 耕三は嫉妬しているのだろうか。だけど、誰とでも寝るのは耕三の方ではないか。

「俺は、耕三くんの方が…」

 その場しのぎの嘘ではない。向井は耕三とのセックスの方が燃えた。

「そうですか…」

「うん…」

「僕、一緒にデパート行きます。買いたいものあるし」

「うん。行こうよ」

 と言うわけで、二人は亀井の運転するアルファードで、村に一つだけある大亀屋というデパートに行くことになった。
 田舎のデパートと言えば、イオンと相場が決まっているが、さすがのイオンも未だこの地には到達していないらしい。
 耕三はさっきの不機嫌が嘘のように、子供みたいににこにこして、向井の隣を歩いた。

「買いたいものって何?」

「靴を…スニーカーと、ローファー、だめになってきちゃって…あと、ついでに書店にも寄りたいです」

 向井は亀井と別れて、耕三の買い物につきあい、自分の買い物も済ませた。楽なスウェットハーフパンツと、サンダル。
 耕三と書店にも行った。暇を潰すための雑誌や文庫本を何冊か。
 耕三は参考書などを買った。向井が同じ参考書を手に取り、ペラペラとめくると、目がチカチカした。難解だ。

「意外と、真面目なんだな…」

「意外ですか?」

「いや、受験生だもんな。そりゃ、そうか…理系なんだなあ…」

「志望は医学部です」

「うわ。マジで…?」

 向井は、急に耕三に距離を感じた。医者なんて、雲の上の存在に感じる。実は向井の母は五年前に、生きるか死ぬかという大病にかかったことがあり、それが完治したので医者には尊敬の念しかない。
 向井自身はデザイン学科卒だ。
 それぞれ買い物が終わると、合流して遅い昼食をとった。
 二千八百円の天丼…!
 亀井の奢りである。ビールも勧められたが、運転手の亀井に悪いので断った。
 久々のすっぽん以外の食事は、しみじみ旨かった。
 耕三は新しいスニーカーを早速履いて、弾むように歩いた。
 ソフトクリームも買って、それを食べて、帰りの道中も、後方シートに向井と耕三は並んで座り、学校の話や、向井がしていた仕事の話やアニメや映画の話をした。
 楽しい一日が終わり、耕三を家に送り、亀井家に帰宅する。
 夕飯までの時間潰しに、亀井と駄弁りながらテレビゲームをし、またしても、すっぽん料理の夕食。向井はもう慣れてきた。
 そして、風呂をもらい、部屋に戻ると、先客がいた。

「竜二くん…!」

「また、来ちゃいました。連絡先交換してなかったし…」

「え、うん。うーん…いいけど…」

 向井は竜二と連絡先を教えあった。
 竜二は今日も浴衣姿だ。首に手を回してきて、口づけしようとするのを向井はやんわりと拒んだ。

「どうしたんすか」

「今日は、耕三くんが来るんじゃないかと…」

「おれじゃだめっすか?」

「そういう…そういうことじゃないけど…」

「じゃあ…じゃあ、いいじゃないすか!早く…っ」

 竜二は焦っているようだ。向井を布団に押し倒そうとする。
 そこへ、廊下をどんどん音を立てて歩く音がして、障子がスパーンと開いた。
 浴衣姿の耕三がそこに立っていた。怒っている。

「あーっ!耕三…っ!」

「にゃろう。竜二!抜けがけしようとしやがって…!」

「一晩や二晩、いいじゃないかよ!!じゃんけんで決まっただけだろ!」

 じゃんけんで決まったの??
 向井は呆気にとられた。

「なんだろうと、決まったことは決まったことだ!まことさんは…まことさんは…いや、僕は…とにかく、勝手に来んな!!」

 耕三は、向井と竜二とを引き離そうと、竜二につかみかかった。互いに衿元をひっつかんで揉み合う。

「お前は東京行きたいだけだろ!!」

「行きてえよ!悪いかよ!!」

「東京くらい一人で行けよ!!」

「卒業したら、東京で生活したいんだよ!」

「だぁから一人で行けって!!」

「東京に母ちゃんがいるてめえに言われたくねえよ!T大もM大もよゆーでA判定で、花のキャンパスライフ送るんだろうが!!」

「てめえも頑張りゃいいだろうが!!」

「人には向き不向きがあんだよ!!」

 T大もM大もA判定?!向井は耕三の学力の高さにおののいた。

「大体、昨晩はてめえが行けねえっつうから、来たんだし!ごちゃごちゃ言われる筋合いねえわ!昨晩は誰の布団に潜り込んだんだぁ?!」

「うるせえ!こっちだって、いろいろ事情があんだよ!!」

 耕三がすうっと息を吸うと、次の瞬間竜二の体がひっくり返った。足払いだった。
 どたんと盛大に竜二が畳の上に転がった。

「耕三…こんにゃろ…っ!」

 竜二はすっくと立ち上がり、また耕三と取っ組みあう。

「阿保が!隙だらけなんだよ!てめえなんか何べんでもぶん投げてやるからな!!」

「ふ、二人とも、もうやめろって!!竜二くん!俺は、今東京に住んでるけど、会社潰れて今無職なんだよ!頼りになんないよ!それに…」

「ええ~…」

 竜二が気の抜けたように耕三と組み合っている手の力を抜いた。
 次の瞬間、今度はその体が宙を飛んだ。

「耕三くん!やめて!やめなさい、もう!」

「だって…」

 唇を尖らせたその顔も愛らしい。だが、さっき二度も友人をぶん投げたところだ。

「竜二くん…どうしても東京行きたいなら、出来ることは協力するから…今日は…とりあえず帰って…」

「…はい……」

 竜二は耕三を睨みつつ、しぶしぶと帰って行った。
 残されたのは耕三だ。
 竜二を見送ると、ペタンと畳の上に座りこんだ。

「ちくしょう。あいつ…」

「まあまあ…」

 向井は耕三が落ち着くよう、背中をさすってやった。

「俺は耕三くんが好きだよ」

「ほんと…っ!?」

 耕三は振り返って向井に抱きついてきた。

「さっき、言おうとしたら、君が竜二くんをぶん投げたもんだから…で、でも、あんまり深くとられても困るかな…俺もあんまり自分の気持ちがわからないんだ…でも、好きだ…」

「なんだ…」

「それは…耕三くんは俺のこと、好きなのかな…」

「わかんない…」

「わかんないの??」

「でも、好きな気がする…こうしてると、落ち着くし…」

「ん……」

 耕三は向井に口づけてきた。互いに舌を絡める。
 二人は布団の上で重なり、慈しみあった。

「ああん…♡」

「あの…さ…耕三くん…」

「何ですか?」

「昨夜は、どうしてたの…?」

 聞くと、耕三はピタリと動きを止めて、向井の目を見て、そらして、また見た。

「う、嘘はやめにします…」

「えっ…やっぱり、誰かのところに行ってたの?」

「いとこの剛くんとこ行ってました…剛くん、今度アメリカに留学に行くんですけど…その前にこの村に帰ってきて…」

「はあ…」

「剛くん、この村じゃ珍しく童貞だったんです。アメリカ行く前に僕と…どうしても…したいって…あっちは銃社会だから、童貞のままでは銃弾に当たると…」

「なん…その迷信…そんで、寝たの…」

 耕三はコクッとうなずいた。それでいながら、竜二とのことをあんなに怒るとは…。向井は呆れた。

「よかった…?」

「よく、いとこどうしは蛸…じゃない鴨の味だと言いますが」

「言わないよ…」

「いや、春画なんかにもそういう…まあ、そう言いますが、なんともあっさりしたものでした…」

「そ、そうか…あ…っ…!」

 耕三はこれ以上は話す気がないらしく、向井の寝間着をずらして、ペニスを扱き始めた。

「僕としては、まことさんとの方が鴨の味というか…」

「んあ…っ…、それ、どういう意味なの??」

「油がのってこってりしている…みたいなことです…」

 耕三は帯を解いて、着ている着物を脱ぎ、一糸まとわぬ格好になった。向井の寝間着も脱がす。
 ペニスを擦りつけ合いながら、熱心に口づけを交わす。
 ああ、うう、と、喘ぎ、呻き、いやらしくうごめいて、互いの肉体に溺れていく。
 耕三は体をずらして、下になろうとして、その意を汲んで向井は上になり、耕三を組み敷いた。

「あぁ…♡」

 耕三がすらりとした脚を開いて、向井をはさみこむ。

「挿れるよ…」

 耕三がこくこくと頷く。
 ゆっくりとペニスをアナルに挿入する。

「ああ…っ♡まことさん…♡いっぱい突いて…っ♡んん…♡」

「ああ…っ!」

 向井が腰をピストンし始める。
 耕三は脚を向井の腰に巻き付けて、爪先と足の甲とを組み合わせるようにしてぎゅっとした。
 求められる実感に向井は興奮した。
 次第にピストンを速め、激しく揺さぶると、耕三はかぶりを振り、枕に頭を押しつけて乱れた。

「あぁ…あぁ…っ♡んん…♡気持ち…いい…♡あっ…♡
あっ…♡」

「ああ~~っっ!いい…!」

 二人の荒い呼吸が部屋に響く。

「あぁん♡いい…♡とろけそう…♡頭、ぼーっとする…♡」

「はあ…!かわい…ああ…っ!俺もとけそう…っ!」

 快感が何度も耐えきれないほど強くなったり、心地いい程度になったりを繰り返して、どんどん高まっていく。

「んん…っ♡あぁん♡あ…あ…っ♡イキそう…♡」

「ああ…俺も…ああ…っ!」

「あ…っ♡あ…っ♡あっ♡イクッ♡あっ♡んん…っ♡」

「あーー…っっ!イクイクイクイク……」

 向井がピストンを止め、奥深く強く突きながら、それに合わせてドクン、ドクッ…と耕三の中に精を放った。

「ああぁ……っ」

「あぁ♡あぁ♡ビクビクして…♡あぁ…っ♡」

 耕三の手が、布団に手をついた向井の手首を握りしめる。

「あ…っ♡あぁ…っ♡」

 ピュッ…ピュッ…、と耕三が射精する。

「ああ~…っ♡気持ちいい……っ♡」

 二人は繋がったまま重なりあい、ぼうっとする頭で、快感の名残に浸った。
 その後も何度も求め合い、絶頂を味わい、互いの肉体を貪った。
 そして、朝になれば朝食を共にとり、それは亀井が東京に帰っても続いた。
 向井は大亀頭沼村にとどまったのである。
 それというのも、亀井の父親がすっぽんの養殖の手伝いを探していて、その日当が三万だったからである。
 向井は一旦は東京に戻ったが、一人暮らしをしていた部屋を整理して引き払い、耕三の卒業まで大亀頭沼村で過ごした。
 そして、現在は東京で耕三と暮らしている。
 向井はまたデザイン事務所になんとか再就職し、耕三はK大の医学部に通っている。
 時々、映画女優の八千代千代子が手料理を持ってくるから驚く。耕三の母親だった。
 本当に時々、竜二も遊びに来た。部屋は広いので、ここに泊まりがけで東京に遊びに来るのだ。
 家事は主に向井が担当している。医学部の学生の忙しさといったらなかった。
 耕三は、いづれ村に帰るのだろうが、その時はその時だと向井は思っていた。あの村にはいくらでも仕事はあるし。
 二人は離れがたい伴侶を手にいれたのだ。
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