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8章 若き灯は塔を駆ける
133話 留まる魂の数々
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(ねぇ、レフィード。アンジェラさんの考察をどう思う?)
順調に登っていく中で、私は頭の中からレフィードに呼びかけた。
『……』
(レフィード?)
『あっ!? す、すまない。考え事をしていた』
いつもならすぐに返事をしてくれるのに、珍しいな。どうしたんだろう。
(何か気になる所があった?)
『この塔へ入った時、初めて来たはずなのに、不思議と懐かしいと思ったんだ』
(え? 先代の精霊王の記憶が、そうさせているのかな)
『先代の記憶には、建設途中の塔を上から見た程度しか残っていない。どうしてそう思ったのか、ずっと考えていた』
精霊王の遺体の一部が遺物として塔の中へと運ばれたのだから、記憶にないのは当然だ。だったら、レフィードにとって何が懐かしいと思わせているのだろう。
『だが、そればかり考えていては緊急事態に対応できない。神脈の恩恵の影響を考慮し、一旦頭の隅に置いておくとする』
(そうだね。神脈は命が生まれ、帰る場所だから)
以前の私が神脈の力を一時的に借りた時とは違い、ここは長い間充満している。魂や精神に近い精霊であるレフィードは、神脈の力を人よりも感じ取り易いのだろう。
私自身は何も感じていない。神脈に力を借りただけじゃない。人が入れない領域に二回潜っているはずなのに。アンジェラさん達が同行のもとで行った風森の神殿で、リティナ達と行った際にも、迷える存在によって裏側への領域へ引きずり込まれている。
神々の住んでいた領域と神脈はイコールではないけれど、何か、そういう別のものに敏感になっていてもおかしくない、はず。
『アンジェラの考察についてだが……魂が留まっているのは正解だ』
(レフィードには見えているの?)
『あぁ、沢山いる。逆に妖精は見当たらない。塔の中を動き周り、我々を珍しい客人だと興味を示している。悪さをする様子はない』
視線を感じたのは、妖精では無く彼らだったか。
ふわりと私の右頬を撫でるレフィードの気配がした瞬間、無数の何かが動くのを感知した。壁や天井をすり抜け、ゆっくりと動くモノや素早いモノ、柱や物陰に隠れているモノなど様々だ。こんなに沢山いる、と驚くと共に、不思議と嫌な感じはしなかった。
『人は、生きとし生きるものは、負の感情を自らの内に残しやすいものだ。彼らには強い意思があるものの、感情が負の想念となり蓄積した様子は見られない』
(それは嬉しい情報だけれど……変だね。風森の神殿で襲われた彼等みたいに、迷える亡霊や怨霊の類に変異はしていないんだ?)
魂は塔に縛り付けられ、監禁状態だ。800年もの長い間となれば、お互いに認識し合って自我保っていても、いずれ五感と時間感覚の消失によって、自分が何者であるか分からなりそうだ。
『私もその点が気になる。魂の器を無くしたとなれば、自我の崩壊が急速に進むはずだ』
(彼らの魂だけじゃなく、意思を留めておく魔術があるのかな?)
ふと、ホムンクルスが魂の器になった場合、どうなるのだろうと思ってしまった。権力者が不老の存在になりたくて、塔の建設者と契約を交わしていたら。それがあったとしても実験は出来ずじまいであり、結局は負の想念と怨霊問題に逆戻りだ。なので、考えとしては却下だ。
『神々の間ですら、人の魂と意思を支配し、操作するのは禁忌に値すると議論された。魔術も、魔法は万能ではない。黒魔術であれば、魔力以外の代価が必要だ。数百人の魂を留める為に、数万人の魂を犠牲にされてしまう』
(富裕層と貧困層の人数の当時の差と、時代における人の命の安さ考えると……)
黒魔術。呪い、死者の蘇生、死霊の使役、人体の改造など、倫理からかけ離れた禁忌の術式だ。中には強大な力の引き換えに、術者自身や周囲に悪影響を及ぼす術もあり、負の想念と同じ点が見られる。設定が被るからかアイデアとして資料集に載っているだけで、ゲーム中には存在しない。それっぽいカルト教は登場したが、見せかけだった。
ホムンクルスの一件もあって、現実は設定だけでは留まらないと理解しているが、次々と色んな要素が増えて頭を抱えたくなる。
『権力者だけではない。身分も年齢も様々だ。子供らしき小さな霊もいた』
(えっ)
一瞬、グランではない小さな何かが通り過ぎた気がした。
『接触を試みようとしたが、逃げられてしまう。喋りかけても、口を塞ぐ動作をされるため、何か言えない理由がようだ』
(浄化の継承している魔物が、何か言わないようにしているのかな)
『もしくは、本当に声が出せないか。魔物に憑く精霊がいれば、正確な情報を得られるのだが……』
階段を上り終え、私達は21階へ辿り着いた。15と18階に魔狼系の魔物が登場したが、どれも精霊憑きでは無かった。しかもどういう訳か、大人しかった。こちらを警戒はしているが、威嚇行動はせずに一定の距離を保つばかりだった。
ここは本当に兵器の為に作られたのか。遺物が置かれた経緯は何だったのか。違和感と共に疑問ばかり増える。
順調に登っていく中で、私は頭の中からレフィードに呼びかけた。
『……』
(レフィード?)
『あっ!? す、すまない。考え事をしていた』
いつもならすぐに返事をしてくれるのに、珍しいな。どうしたんだろう。
(何か気になる所があった?)
『この塔へ入った時、初めて来たはずなのに、不思議と懐かしいと思ったんだ』
(え? 先代の精霊王の記憶が、そうさせているのかな)
『先代の記憶には、建設途中の塔を上から見た程度しか残っていない。どうしてそう思ったのか、ずっと考えていた』
精霊王の遺体の一部が遺物として塔の中へと運ばれたのだから、記憶にないのは当然だ。だったら、レフィードにとって何が懐かしいと思わせているのだろう。
『だが、そればかり考えていては緊急事態に対応できない。神脈の恩恵の影響を考慮し、一旦頭の隅に置いておくとする』
(そうだね。神脈は命が生まれ、帰る場所だから)
以前の私が神脈の力を一時的に借りた時とは違い、ここは長い間充満している。魂や精神に近い精霊であるレフィードは、神脈の力を人よりも感じ取り易いのだろう。
私自身は何も感じていない。神脈に力を借りただけじゃない。人が入れない領域に二回潜っているはずなのに。アンジェラさん達が同行のもとで行った風森の神殿で、リティナ達と行った際にも、迷える存在によって裏側への領域へ引きずり込まれている。
神々の住んでいた領域と神脈はイコールではないけれど、何か、そういう別のものに敏感になっていてもおかしくない、はず。
『アンジェラの考察についてだが……魂が留まっているのは正解だ』
(レフィードには見えているの?)
『あぁ、沢山いる。逆に妖精は見当たらない。塔の中を動き周り、我々を珍しい客人だと興味を示している。悪さをする様子はない』
視線を感じたのは、妖精では無く彼らだったか。
ふわりと私の右頬を撫でるレフィードの気配がした瞬間、無数の何かが動くのを感知した。壁や天井をすり抜け、ゆっくりと動くモノや素早いモノ、柱や物陰に隠れているモノなど様々だ。こんなに沢山いる、と驚くと共に、不思議と嫌な感じはしなかった。
『人は、生きとし生きるものは、負の感情を自らの内に残しやすいものだ。彼らには強い意思があるものの、感情が負の想念となり蓄積した様子は見られない』
(それは嬉しい情報だけれど……変だね。風森の神殿で襲われた彼等みたいに、迷える亡霊や怨霊の類に変異はしていないんだ?)
魂は塔に縛り付けられ、監禁状態だ。800年もの長い間となれば、お互いに認識し合って自我保っていても、いずれ五感と時間感覚の消失によって、自分が何者であるか分からなりそうだ。
『私もその点が気になる。魂の器を無くしたとなれば、自我の崩壊が急速に進むはずだ』
(彼らの魂だけじゃなく、意思を留めておく魔術があるのかな?)
ふと、ホムンクルスが魂の器になった場合、どうなるのだろうと思ってしまった。権力者が不老の存在になりたくて、塔の建設者と契約を交わしていたら。それがあったとしても実験は出来ずじまいであり、結局は負の想念と怨霊問題に逆戻りだ。なので、考えとしては却下だ。
『神々の間ですら、人の魂と意思を支配し、操作するのは禁忌に値すると議論された。魔術も、魔法は万能ではない。黒魔術であれば、魔力以外の代価が必要だ。数百人の魂を留める為に、数万人の魂を犠牲にされてしまう』
(富裕層と貧困層の人数の当時の差と、時代における人の命の安さ考えると……)
黒魔術。呪い、死者の蘇生、死霊の使役、人体の改造など、倫理からかけ離れた禁忌の術式だ。中には強大な力の引き換えに、術者自身や周囲に悪影響を及ぼす術もあり、負の想念と同じ点が見られる。設定が被るからかアイデアとして資料集に載っているだけで、ゲーム中には存在しない。それっぽいカルト教は登場したが、見せかけだった。
ホムンクルスの一件もあって、現実は設定だけでは留まらないと理解しているが、次々と色んな要素が増えて頭を抱えたくなる。
『権力者だけではない。身分も年齢も様々だ。子供らしき小さな霊もいた』
(えっ)
一瞬、グランではない小さな何かが通り過ぎた気がした。
『接触を試みようとしたが、逃げられてしまう。喋りかけても、口を塞ぐ動作をされるため、何か言えない理由がようだ』
(浄化の継承している魔物が、何か言わないようにしているのかな)
『もしくは、本当に声が出せないか。魔物に憑く精霊がいれば、正確な情報を得られるのだが……』
階段を上り終え、私達は21階へ辿り着いた。15と18階に魔狼系の魔物が登場したが、どれも精霊憑きでは無かった。しかもどういう訳か、大人しかった。こちらを警戒はしているが、威嚇行動はせずに一定の距離を保つばかりだった。
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