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8章 若き灯は塔を駆ける

129話 塔に向かうための準備

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 新学期に短期留学としてグランディス皇国へ行き、最短半年で二つのダンジョンを周る、と計画を立てていた。しかし、ローレンさんは3日後が良いと言い出した。

「急ではありませんか?」
「儂らの周りをうろつく馬鹿共の慌てふためく姿を見たくてな」
「グランディス皇国までの距離を考えろよ」

 あちらの国境まで向かうにしても、イリシュタリアの王都からは走竜の引く竜車で2週間ほど掛かる。炎誕の塔へは、準備を含めてさらに時間が必要だ。
 ファルエースさん達を護衛する長命種達が、皇帝もしくは別組織に連絡するには充分なくらいに時間がある。

「ミューちゃんの護衛に付いている男に頼めば、時間を短縮できるのではないか?」
「それは……」
「あぁ、勘違いしないでくれ。儂は、アーダインから聞いたまでだ。あいつはこちらの情勢について知っているからな。もし何か問題発生し、逃亡を余儀なくされた場合、彼の力を使ってくれと言われたんだ」

 私が一瞬警戒したのを見て、直ぐにローレンさんは教えてくれた。
 皇子の突然の見合いに、陛下だけでなく公爵も介入していたのか。
 パシュハラ辺境伯の件でもそうだったけれど、国境沿いにはアーダイン公爵と協力関係にある貴族がいくつか存在する。皇子達が王都へ向かう道中、宿に泊まる際など何処かで接触していたのだろう。
 …………この会話を平然と出来るって事は、ニアギスが空間魔術使って、音を遮断している。ローレンさんは彼と打ち合わせをしていて、最初から知っている。今更になって警戒して私はなにやってるの。

「へぇ、良い駒持ってるんだな」
「彼を愚弄したら、皇子であっても殴りますよ」
「ガサツ」
「七光」

 ファルエースさんに冗談交じりに言われたので、こっちも半分くらいはそれを含んで言ったら、またケンカしそうになった。私は直ぐにローレンさんへ目線を移動させる。

「確かに彼なら出来るかもしれませんが、距離が距離なので、いくつか中継地点を作りましょう。生物の移動には細心の注意が必要だと聞いています。彼の精神の疲労は私達の命にも関わりますので、休憩時間を設けなければなりません」 

 便利な分、彼には負担を掛け続けている。きちんと休憩は取って貰わないと。
 それに、前回の妨害によって空間魔術が上手く使えない場合も考慮する必要がある。塔の周囲や、町や道など何処かに魔方陣や赤黒い魔物が潜んでいる可能性もある。飛んだ先が敵陣の中では、私達は即ゲームオーバーだ。だから多少時間が掛っても、周囲の安全を確認してから空間魔術で移動するのが最良だ。

「わかった。塔への道は幾つかあるから、そこを参考に中継地点を作るとしよう。彼とは儂が相談し、後ほどミューちゃんに知らせる形で良いかな?」
「はい。おまかせします」

 私もゲーム上でのルートを知っているが、現状では使えるのか怪しい。周囲の組織の目を掻い潜るとなればローレンさんの知識が必要だ。

「相分かった。リュカオンには、ファルの武器や防具を用意して欲しい。レンリオス子爵が雇い入れた新人の護衛として、変装させねばならんからな」
「わかりました。髪は染めさせますか?」
「そうしよう。加えて、顔に化粧で傷を作るか」
「なんで、そこまでする必要があるんだよ。各地を瞬時に移動だったら、いらないだろ」

 ファルエースさんは面倒くさそうに言った。

「入るためには、塔の門番にどいて貰う必要がある。皇族の許可を貰った魔物調査内の中にファルといるとバレては、騒ぎになるぞ。皇帝から怒られるし、周囲の奴らから何を言われるか」

 連絡がいかない状態で行くのだから、そうなるのは当然だ。確認を取るために一週間待ちぼうけを食らわされて、更に国から護衛が追加されるだろう。私のやるべき事も出来なくなってしまう。

「門番が俺の顔知っているとは限らないだろ」
「何を言うか。おまえの顔は国中に知れ渡っている。10歳の誕生祭では、おまえの顔を象った記念硬貨が作られ、各市町村に似顔絵が配られる程だったんだぞ。ただ格好を替えただけでは、すぐにバレる」

 長男が10歳で亡くなったのもあって、皇帝はファルエースさんの健やかな成長を盛大に祝ったのだと想像がつく。ゲームの設定でも、少し触れていた。
 それを聞いて、ファルエースさんは何とも言えない顔になった。反抗期な彼は、そんな小さな頃の話をされて怒り出すかと思った。しかし、思う所がある様子だ。

「世の中には同じ顔をした人が三人いる、なんて話があります。皇子に似た顔の者が、イリシュタリア王国に居ても不思議ではありません。同じ顔でも三者三様の人生です。完全に別人と見なされる為には、服装だけでは不十分なんですよ」
「……わかった。ただ、やり過ぎは勘弁しろよ。塔の中で外すのが面倒になる」

 外堀を埋めるのが上手いローレンさん達に、ファルエースさんは折れた。
 
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