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7章 氷塊は草原に憧れる
115話 町へ戻り
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ニアギスが用意してくれた安全な水を飲み、サクランボに似た果実を5つ食べ、私は一息ついた。ニアギスはその間、何度か果実や石を空間魔術で移動させ、安全性を確認していた。神脈の力で傷が治っただけでなく、一定水準まで魔力が戻ったらしい。
迅速に町へ戻れる反面、彼に無理させている事に変わりはない。はやく事態を終息させるためにも、ヤレアの町へと戻って来た。
「えっ!? なにこれ!?」
町は大きな蜘蛛の巣が張り巡らされている。人ほどの大きさのある楕円形の繭が、至る所に吊るされている。
全く予想していなかったホラーやパニック映画の様な光景に、私は警戒した。
「ご安心ください。あれらは、私の同胞が操る使え魔の仕業です」
「使え魔!? こんな大規模の!?」
「はい。そうです」
な、なんでもありだなぁ………どうして、ゲームでは登場しなかったんだろう。
よく観察してみると、巣を作ったのは狼位の大きさになった蜘蛛だ。魔物側であればもっと牙が鋭利であったり、目の色が青や黄色、腹部や足に棘があったりと〈いかにも〉な見た目をしている。しかしこちらは、見た目は節足動物のコガネグモ科やタナグモ科だ。
魔力で操作をするので使役難易度を考えれば、魔物よりも虫の方が扱いやすいだろう。しかし、手練れの魔術師が操れて最大5匹のところ、視界に入るだけでも20匹は軽く超えていている。蜂は巣を作り、群れを成す生き物なので500匹は優に超え、その時点で次元が違う。
「…………ここまでやるなんて、やっぱり裂け目の被害がここまで来たの?」
ここまで表立って動くとなれば、町全体に非常事態が発生していた。あの裂け目が町まで到達しているとすれば、赤黒い魔物達が出現していた可能性がある。
『赤黒い魔物がいたにしては、暴れた形跡がない。別の問題が発生したようだ』
確かに、建物の壁や荷車等には暴れ、壊した形跡、爪痕が無い。私が襲われた事件もあってか、迅速に避難が進んだ結果、赤黒い魔物達は何もできなかった様にも思える。
あの繭の中身は、なんだろうか。
『ミューゼリアとニアギスに被害を与えた犯人は、この虫達が捕まえたと考えて良いな?』
「はい。彼なら、容易です」
断言するニアギスに、同胞である銀狐への信頼が伺える。
「ニアギス」
「兄様」
2mはありそうな長身の男性が、通路の影から出て来た。
紺色ロングコートを着て、ニアギスと同じ青銀色の長い髪が顔を覆い隠している。彼の周りには蜂が隊列を組むようにホバリングしている。
使え魔と視覚共有も行っている筈が、動けるなんてすごいな。
「……あの時、ニアギスの判断は最善だった。けれど、君の怪我は兄さんと姉さんが悲しむ」
「はい。わかっています」
私の後ろから飛んできた蝶が、男性の肩へとふわりと止まる。
ずっと私達を探し、監視していた使え魔だろう。
銀狐の男性は私の前に立つと、胸に左手を当て深々と頭を下げる。
「レンリオス子爵令嬢。シャーナお嬢様、ラグニール様、レンリオス小子爵がお待ちです」
「えっ、2人がどうしてここに??」
「エレウスキー商会の嫡男サージェルマン殿と話し合うため、いらっしゃったと聞いております。今頃、話が着いているでしょう。ここは俺の虫達が処理を行いますので、ニアギスと共に東出入り口へ向かってください」
兄様はやりかねないが、ラグニールさんまで来るなんて思いもしなかった。レーヴァンス王太子の命令で、サジュだけでなくエレウスキー商会について調べていそうだ。
今回の大きな騒動から、重要参考人として保護が必要だ。どんな話がされたか分からないが、私も改めてサジュと対面しなければならない。
「わかった。ここは、よろしくね」
「はい」
私とニアギスに合わせて、一部の蜘蛛や蜂達も動き出す。
町は蜘蛛の巣に覆われている。赤い光を放つ裂け目が発生し、避難する住人達が身一つで町の外へ出たのだろう。木箱が散乱し、パンの入った袋や果物が石畳に転がっている。
『やはり、赤黒い魔物は出ていないようだな』
「そうだね。住人が逃げた形跡だけ」
出入り口に近付くにつれて、蜘蛛の巣の数が減っていく。所々にぶら下がっている繭は、蜘蛛達が丁重に移動させている。
あの繭がもしも赤い液体によって負傷した人々だったら……
そんな風に考え、少し気分が暗くなる。
狙いが私だったからって、複数箇所で赤い液体を無差別に散布していても、おかしくはない。ゲームから外れた物語になって、赤黒い魔物や裂け目は負の想念関連なので見方を変えれば当てはめられる部分もあるけれど、劇薬が登場するなんて思いもしなかった。
まだ確定では無いが、病の発生原因もそうだ。
完全にゲーム知識から離れている。何が起こっているのだろう。カルトポリュデの言っていた次期精霊王であるレフィードへの試練や神が関係しているのだろうか。
『今日は余りにも多くの出来事が一度に発生した。情報を整理する必要がある。炎誕の塔でも、何かが起きていそうだ』
「そうだね。寮に戻ったら、文字にしてまとめるよ」
何か見落としている気がするが、まずは一つ一つの事を確認しなければならない。
「ミュー!!」
考えながら歩いていると、イグルド兄様の声が聞こえて来た。
迅速に町へ戻れる反面、彼に無理させている事に変わりはない。はやく事態を終息させるためにも、ヤレアの町へと戻って来た。
「えっ!? なにこれ!?」
町は大きな蜘蛛の巣が張り巡らされている。人ほどの大きさのある楕円形の繭が、至る所に吊るされている。
全く予想していなかったホラーやパニック映画の様な光景に、私は警戒した。
「ご安心ください。あれらは、私の同胞が操る使え魔の仕業です」
「使え魔!? こんな大規模の!?」
「はい。そうです」
な、なんでもありだなぁ………どうして、ゲームでは登場しなかったんだろう。
よく観察してみると、巣を作ったのは狼位の大きさになった蜘蛛だ。魔物側であればもっと牙が鋭利であったり、目の色が青や黄色、腹部や足に棘があったりと〈いかにも〉な見た目をしている。しかしこちらは、見た目は節足動物のコガネグモ科やタナグモ科だ。
魔力で操作をするので使役難易度を考えれば、魔物よりも虫の方が扱いやすいだろう。しかし、手練れの魔術師が操れて最大5匹のところ、視界に入るだけでも20匹は軽く超えていている。蜂は巣を作り、群れを成す生き物なので500匹は優に超え、その時点で次元が違う。
「…………ここまでやるなんて、やっぱり裂け目の被害がここまで来たの?」
ここまで表立って動くとなれば、町全体に非常事態が発生していた。あの裂け目が町まで到達しているとすれば、赤黒い魔物達が出現していた可能性がある。
『赤黒い魔物がいたにしては、暴れた形跡がない。別の問題が発生したようだ』
確かに、建物の壁や荷車等には暴れ、壊した形跡、爪痕が無い。私が襲われた事件もあってか、迅速に避難が進んだ結果、赤黒い魔物達は何もできなかった様にも思える。
あの繭の中身は、なんだろうか。
『ミューゼリアとニアギスに被害を与えた犯人は、この虫達が捕まえたと考えて良いな?』
「はい。彼なら、容易です」
断言するニアギスに、同胞である銀狐への信頼が伺える。
「ニアギス」
「兄様」
2mはありそうな長身の男性が、通路の影から出て来た。
紺色ロングコートを着て、ニアギスと同じ青銀色の長い髪が顔を覆い隠している。彼の周りには蜂が隊列を組むようにホバリングしている。
使え魔と視覚共有も行っている筈が、動けるなんてすごいな。
「……あの時、ニアギスの判断は最善だった。けれど、君の怪我は兄さんと姉さんが悲しむ」
「はい。わかっています」
私の後ろから飛んできた蝶が、男性の肩へとふわりと止まる。
ずっと私達を探し、監視していた使え魔だろう。
銀狐の男性は私の前に立つと、胸に左手を当て深々と頭を下げる。
「レンリオス子爵令嬢。シャーナお嬢様、ラグニール様、レンリオス小子爵がお待ちです」
「えっ、2人がどうしてここに??」
「エレウスキー商会の嫡男サージェルマン殿と話し合うため、いらっしゃったと聞いております。今頃、話が着いているでしょう。ここは俺の虫達が処理を行いますので、ニアギスと共に東出入り口へ向かってください」
兄様はやりかねないが、ラグニールさんまで来るなんて思いもしなかった。レーヴァンス王太子の命令で、サジュだけでなくエレウスキー商会について調べていそうだ。
今回の大きな騒動から、重要参考人として保護が必要だ。どんな話がされたか分からないが、私も改めてサジュと対面しなければならない。
「わかった。ここは、よろしくね」
「はい」
私とニアギスに合わせて、一部の蜘蛛や蜂達も動き出す。
町は蜘蛛の巣に覆われている。赤い光を放つ裂け目が発生し、避難する住人達が身一つで町の外へ出たのだろう。木箱が散乱し、パンの入った袋や果物が石畳に転がっている。
『やはり、赤黒い魔物は出ていないようだな』
「そうだね。住人が逃げた形跡だけ」
出入り口に近付くにつれて、蜘蛛の巣の数が減っていく。所々にぶら下がっている繭は、蜘蛛達が丁重に移動させている。
あの繭がもしも赤い液体によって負傷した人々だったら……
そんな風に考え、少し気分が暗くなる。
狙いが私だったからって、複数箇所で赤い液体を無差別に散布していても、おかしくはない。ゲームから外れた物語になって、赤黒い魔物や裂け目は負の想念関連なので見方を変えれば当てはめられる部分もあるけれど、劇薬が登場するなんて思いもしなかった。
まだ確定では無いが、病の発生原因もそうだ。
完全にゲーム知識から離れている。何が起こっているのだろう。カルトポリュデの言っていた次期精霊王であるレフィードへの試練や神が関係しているのだろうか。
『今日は余りにも多くの出来事が一度に発生した。情報を整理する必要がある。炎誕の塔でも、何かが起きていそうだ』
「そうだね。寮に戻ったら、文字にしてまとめるよ」
何か見落としている気がするが、まずは一つ一つの事を確認しなければならない。
「ミュー!!」
考えながら歩いていると、イグルド兄様の声が聞こえて来た。
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