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7章 氷塊は草原に憧れる

113話 友に会いに行く (視点変更)

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   地震の直後、ヤレアの街の石畳には大きな亀裂が走り、その中から赤い光が溢れ出した。
 奇怪な現象に驚いたシャーナ達であったが、彼女達へそれ以上の異変は襲い掛からなかった。だが、ホムンクルス達は突如として暴走を始める。それはシャーナ達へと押し寄せるものではない。行動そのものに規律と統率が取れず、完全に壊れた。
 あるモノは壁に何度も体を打ちつけ、あるモノは足の動かし方を忘れ這いずり回り、またあるモノは自分の腕を食べ始めた。
それが発生したのは、間もなく街の出入り口へ到達しようとした時だった。

「イグルド。勝手な行動はやめて」

 シャーナは直ぐにイグルドへ釘を刺す。

「危険だわ」
「別にいいだろ。そいつもいるし」

 ズボンのポケットからハンカチを取り出し、ナイフの刃に付いたホムンクルスの血を拭き取りながら、イグルドは言った。
 末恐ろしい男だ、とシャーナはイグルドを見て思う。
 人間の見た目をしている相手へ、躊躇いなく急所を刺し、核である結晶を破壊し続けた。
 狩猟を趣味としても、権力争いとは無縁の位置にいた貴族の子供にしては、動作に無駄がない。デュアスの身のこなしを見た時も相当だとは思っていたが、この一族はこれまで表立った武功が無い事に疑問を覚える。

「駄目よ。彼は大量の使え魔の使役に、魔力と精神をすり減らしているから、これ以上は酷使できないわ」

 町のいたる所で大きな蜘蛛達の巣が張られ、上空は蜻蛉と蜂達が飛び回っている。
銀狐の大男の虫は、卵の頃から魔力を与えて造り上げた使い魔。五感を共有することで思い通りに操られるだけでなく、術者に悪影響が無い限り、他の魔術による妨害を受けない。けれど、使い魔達から得られる情報は全て術者の脳が処理を行うので、数が多くなる程に負担が増える。強力な魔術師であっても5匹が限界のところ、大小合わせて2000近くの虫達を彼は操り、役割を与え、乱れることなく操り続けた。彼のお陰で、町中の推定約6000体のホムンクルスを制圧し、シャーナ達への進撃を最低限に抑え込んだ。
 一部の虫はホムンクルスの抵抗によって絶命した為、彼の精神に負荷がより掛かっている。早く休ませなければならない。

「サージェルマンの周りには、蜘蛛が到着しているわ。逃げないから、応援を待ちましょう」
「待っている間に、製造者に爆発させられるかもしれないだろ」
「貴方が彼の元へ向かう道中で、他のホムンクルスが爆発する危険性もあるじゃない」

 ゴーレムやホムンクルスに爆発の魔方陣を仕込み、敵陣に特攻させる。
 今でも大型の魔物の討伐の手段の一つとして用いられ、其れがいるとなれば最後は、と戦場では共通認識となっている。

「この機を逃せば、俺は一生後悔する。危なくても、行く」
「ちょっと!?」

 イグルドは綺麗になったナイフを手に、屋根から壁を伝い降りてしまう。
 護衛の1人を行かせようにも、走り出した彼の影はホムンクルス達の群れの中に消えて行った。

「分かっていながら行くなんて……」

 シャーナは眉間に手を当て、ため息を着いた。
 危険なのは爆発だけではない。ホムンクルス達は赤い光によって壊れたように見せかけて、突然正気を取り戻す可能性もある。なにより、この光が何なのかもわからない以上、1人で動くのは余りにも危険だ。

「もう少しだけ、頑張ってくれる?」

 魔術が使えない以上、お荷物同然のシャーナは銀狐を頼るしかない。

「かしこまりました」

 偵察を行っていた蜻蛉3匹がイグルドを上空から追い始める。

「ラグニール。貴方も行きたいと思っているでしょうけど、私に付いて来てもらうわ」

 イグルドの向かった先を見つめるラグニールへ、シャーナは声を掛ける。
 放棄された武器屋から剣を借り、イグルドと同じく応戦をしていた彼は、息切れしている様子は一切ない。

「貴方の先程の話は、国家の問題。私には、詳しく聞く権利がある」
「あぁ、勿論だよ」

 次期王妃であるシャーナの言葉に、涼しい笑顔でラグニールは従う。
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