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4章 老緑の王は幼子に微笑む
44話 挨拶にやって来た理由
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「はじめまして、レンリオス卿。ボクの名前はアンジェラ・シング。ダンジョンと魔物について研究している学者です」
アンジェラさんは左胸に手を当て、深々とお辞儀をする。先代の当主と付き合いがあるのでアーダイン公爵相手には気易かったが、初対面の相手にはちゃんと礼儀をもって接している。
「男爵家当主デュアス・アルドナ・レンリオスと申します。娘を助けていただき、誠にありがとうございました。本来であればこちらから招待し、おもてなしをするのが礼儀ですが、シングさん自ら足を運ばせてしまい、申し訳ありません」
アンジェラさんは霊峰に登る、と私はお父様に伝えていた。
〈レンリオス領にいらっしゃるなら、もてなさなければ!〉とお父様は意気込んでいたが、一足早くアンジェラさんが霊峰に登ってしまっていた。なので、下山を待たなければならず、招待が出来ていなかった。
「いやいや、霊峰に登頂させてもらう事がボクにとっては最高のおもてなしなので、お気になさらず。ちゃんと整備されていて、道のりも分かり易かったです。特に、登山届の制度が良かった。あれは、王国だけでなく帝国にも広まって欲しいです」
霊草シャンティスを持ち帰る為に多くの人が死んだ。その過去があり、霊峰シャンディアでは、登山者に身元と連絡先、行動予定と範囲、装備品、出発時刻と下山予定時間を記した紙を、登山協会に提出するよう義務付けている。受理されると、協会から登山許可書が発行される。それを登山口の門番に見せて、ようやく霊峰へ登ることが出来る。そのお陰で、遭難人がいても迅速な救助が出来るようになった。
お父様が協会から貰った情報によれば、アンジェラさんは前々から登る予定だったらしく、届け出を出されたのは3ヵ月も前だった。しかも、生物調査の為に登山から3週間後に下山予定と書かれていたらしい。
気候によって下山が早まる場合もあり、アンジェラさんが下りて来たのは不思議ではない。生物調査に夢中になり過ぎず、ちゃんと下山できる分、危機管理がしっかりできている証拠だ。
「妻のサリィと申します。こちらは、ミューゼリアの兄のイグルドです。娘を助けてくださり、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
お母様と兄様もまた、アンジェラさんへとお礼を言う。
「ここまで感謝されると、なんか照れ臭くなるなぁ」
アンジェラさんは私の家族の気持ちを受け取ってくれた様だ。
「あっ、そうそう。レンリオス夫妻にお話が在りまして、お時間宜しいですか?」
「はい。もちろんです」
「よろしかったら、今晩泊まって行ってください。歓迎しますわ」
「わぁ! ありがとうございます!」
アンジェラさんは嬉々とした様子でお礼を言った。
「私達は、そろそろ帰らせてもらおう」
「えっ」
アーダイン公爵が言った途端に、レーヴァンス王太子が声を上げる。
「ダンジョンや魔物の話が聞きたかったのに」
「明日、ホテルへ呼び寄せますので、今日のところは我慢してください」
「……わかった。明日の楽しみにしておくよ」
状況はよく分かっているので、レーヴァンス王太子は直ぐに諦めた。
「外堀埋められた……」
アンジェラさんが小さく呟いたのが聞こえ、アーダイン公爵へ目線を向ける。
「殿下のお望みを断る事は許されないぞ。後援者としても、聞きたい事が山の様にある」
なるほど。アンジェラさんは、公爵家に財政支援を受けているのか。
アンジェラさんは結果を出しただけでなく、まだ学者が少ないが国の将来としては必要な知識を持っている。囲っておくのは当然だ。
「わかったよ。ちゃんと明日の昼にはそっちに行く。場所を教えて」
2人は場所と道のりについて会話をした。
アーダイン公爵たちはその場で別れ、私達一家はそれを見送った。
「アンジェラさんを書斎へ案内するから、2人は応接間で休んでいてくれ」
「わかりました」
「そうさせてもらいます……」
キサミさんは隻腕で器用にゼノスさんを手当てし終っていた。ゼノスさんは痛みが残っているのか、腕や足をさすっている。
2人は執事に案内され、私達はお父様の書斎へ向かった。書斎には、家族用のソファやローテーブルが置かれてはいるが、どうしてそこにしたのか私には理由が分からない。
「お茶を持って来てくれ」
「かしこまりました」
書斎まで来るとお父様はメイドにそう言い、私達を中へ入るように促す。
使い込まれた書斎机と椅子。壁一面の本棚には、歴代の当主達の帳簿やレンリオス家の領地に関する資料が保存されている。3人掛けの2脚の深緑色のソファの間には、ブドウの彫刻が足に施されたローテーブルが置かれている。
私はアンジェラさんと座り、向かいの椅子には両親と兄様が座った。
「話とは、なんでしょうか?」
お父様は静かな声音でアンジェラさんへと問いかける。
「単刀直入に言って、ミューゼリアちゃんとボクの弟子にしたいんだ」
その言葉に驚き、私はアンジェラさんに顔を勢いよく見た。
アンジェラさんは左胸に手を当て、深々とお辞儀をする。先代の当主と付き合いがあるのでアーダイン公爵相手には気易かったが、初対面の相手にはちゃんと礼儀をもって接している。
「男爵家当主デュアス・アルドナ・レンリオスと申します。娘を助けていただき、誠にありがとうございました。本来であればこちらから招待し、おもてなしをするのが礼儀ですが、シングさん自ら足を運ばせてしまい、申し訳ありません」
アンジェラさんは霊峰に登る、と私はお父様に伝えていた。
〈レンリオス領にいらっしゃるなら、もてなさなければ!〉とお父様は意気込んでいたが、一足早くアンジェラさんが霊峰に登ってしまっていた。なので、下山を待たなければならず、招待が出来ていなかった。
「いやいや、霊峰に登頂させてもらう事がボクにとっては最高のおもてなしなので、お気になさらず。ちゃんと整備されていて、道のりも分かり易かったです。特に、登山届の制度が良かった。あれは、王国だけでなく帝国にも広まって欲しいです」
霊草シャンティスを持ち帰る為に多くの人が死んだ。その過去があり、霊峰シャンディアでは、登山者に身元と連絡先、行動予定と範囲、装備品、出発時刻と下山予定時間を記した紙を、登山協会に提出するよう義務付けている。受理されると、協会から登山許可書が発行される。それを登山口の門番に見せて、ようやく霊峰へ登ることが出来る。そのお陰で、遭難人がいても迅速な救助が出来るようになった。
お父様が協会から貰った情報によれば、アンジェラさんは前々から登る予定だったらしく、届け出を出されたのは3ヵ月も前だった。しかも、生物調査の為に登山から3週間後に下山予定と書かれていたらしい。
気候によって下山が早まる場合もあり、アンジェラさんが下りて来たのは不思議ではない。生物調査に夢中になり過ぎず、ちゃんと下山できる分、危機管理がしっかりできている証拠だ。
「妻のサリィと申します。こちらは、ミューゼリアの兄のイグルドです。娘を助けてくださり、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
お母様と兄様もまた、アンジェラさんへとお礼を言う。
「ここまで感謝されると、なんか照れ臭くなるなぁ」
アンジェラさんは私の家族の気持ちを受け取ってくれた様だ。
「あっ、そうそう。レンリオス夫妻にお話が在りまして、お時間宜しいですか?」
「はい。もちろんです」
「よろしかったら、今晩泊まって行ってください。歓迎しますわ」
「わぁ! ありがとうございます!」
アンジェラさんは嬉々とした様子でお礼を言った。
「私達は、そろそろ帰らせてもらおう」
「えっ」
アーダイン公爵が言った途端に、レーヴァンス王太子が声を上げる。
「ダンジョンや魔物の話が聞きたかったのに」
「明日、ホテルへ呼び寄せますので、今日のところは我慢してください」
「……わかった。明日の楽しみにしておくよ」
状況はよく分かっているので、レーヴァンス王太子は直ぐに諦めた。
「外堀埋められた……」
アンジェラさんが小さく呟いたのが聞こえ、アーダイン公爵へ目線を向ける。
「殿下のお望みを断る事は許されないぞ。後援者としても、聞きたい事が山の様にある」
なるほど。アンジェラさんは、公爵家に財政支援を受けているのか。
アンジェラさんは結果を出しただけでなく、まだ学者が少ないが国の将来としては必要な知識を持っている。囲っておくのは当然だ。
「わかったよ。ちゃんと明日の昼にはそっちに行く。場所を教えて」
2人は場所と道のりについて会話をした。
アーダイン公爵たちはその場で別れ、私達一家はそれを見送った。
「アンジェラさんを書斎へ案内するから、2人は応接間で休んでいてくれ」
「わかりました」
「そうさせてもらいます……」
キサミさんは隻腕で器用にゼノスさんを手当てし終っていた。ゼノスさんは痛みが残っているのか、腕や足をさすっている。
2人は執事に案内され、私達はお父様の書斎へ向かった。書斎には、家族用のソファやローテーブルが置かれてはいるが、どうしてそこにしたのか私には理由が分からない。
「お茶を持って来てくれ」
「かしこまりました」
書斎まで来るとお父様はメイドにそう言い、私達を中へ入るように促す。
使い込まれた書斎机と椅子。壁一面の本棚には、歴代の当主達の帳簿やレンリオス家の領地に関する資料が保存されている。3人掛けの2脚の深緑色のソファの間には、ブドウの彫刻が足に施されたローテーブルが置かれている。
私はアンジェラさんと座り、向かいの椅子には両親と兄様が座った。
「話とは、なんでしょうか?」
お父様は静かな声音でアンジェラさんへと問いかける。
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