上 下
34 / 142
3章 こうして私はメインストーリーから外れる

32話 林間学校へ行く場所は

しおりを挟む
 ロクスウェルに発明品作りのお題を出してから、4日経つ。今日はクラスの女の子達と食堂で昼食を一緒に食べている。入学してからずっとロクスウェルが付いて回っていたので、男子がいないテーブルは久々だ。

「レンリオスさん。最近、バージェンシーさんと一緒にいないけど、何かあったの?」

 隣の席に座るおっとりした女の子が声を掛けてくる。
 4日前から、徐々にロクスウェルと一緒にいる時間が減った。授業中に設計図らしきものを書いて先生に怒られ、一日の最後の授業が終わると一目散に帰るようになった。昼は食堂で飲食をする姿を見かけたが、私と一緒の時に比べてかなりの速さで食べ、終わるとどこかへ行ってしまう。私の出したお題は、それだけ彼の開発への情熱に火をつけてしまったようだ。

「何か発明品を閃いたらしくて、今はそっちに夢中みたい」
「へぇ。あんなに付け回していたのに……何かありそう」

 私の答えに、テーブルを挟んで正面に座る眼鏡を掛けた女の子が、面白そうに言った。

「一番近くで見ていたミューゼリアさんが言うのだから、本当じゃないかしら?」
「そうそう! 男性寮の廊下で玩具みたいな機械を動かしてるって男子が話しているのを聞いたから、レンリオスさんの言っている事は嘘じゃないよ」

 いかにも貴族生まれの上品な女の子と活発そうな女の子が言った。

「嘘とは思っていないよ。その……バージェンシーがふ、フラれたのかなって思って……」

 慌てて眼鏡を掛けた女の子は、自分の発言の意味を答える。

「えー! レンリオスさんに似合うのは、年上の殿方だよ!」
「世話焼きさんだから、年下とも相性が良いと思うわ」

 どんどん恋愛の話にすり替わって来ている……?
 10歳でも、なんだか皆大人っぽい。
 金の卵たちが集まる学園。貴族達の目線からすれば、我が子にとっても将来の人脈を作り、社会を学び、婚約者と関係をより深くさせる為のお見合いの場として活用されている。
 平民の目線では、音楽家や研究者等を目指す子は将来のパトロンとなる相手を見つけ、中には就職先を見つけ、あわよくば貴族と関係を持とうなんて人もいるだろう。
 将来の事を考えつつも、私は6年後を考えてばかりいる。話せるはずが無く、なんだか一人だけ違い場所から同じ景色を見ている様な不思議な感覚を覚えた。
 



「皆さん。8月の林間学校について、お話が在ります」

 今日は5時間目の授業と合間の休憩が終わり、6時間目の特別授業が始まった。入学案内の冊子に書かれていたので知っているが、8月の半ばに2泊3日で〈風森の神殿〉へ向かう。最初は、学園からでも行けるのか、と驚いたが、自由に行き来するにはやっぱり陛下の許可が必要だと思い返して冷静になった。

「皆さん。朝礼の際に配った林間学校の冊子を出してください」

 クラスの皆が学園指定の鞄の中から、水色の小さな冊子を取り出す。休憩時間に軽く見たところ、冊子には2泊3日の予定と注意事項、簡易的な地図が記されている。

「風森の神殿は、大まかに書くと……このように三重構造になっています」

 先生は黒板にチョークを使って三重の丸を書き上げる。

「聖域は中央部にあり、ここへ近づくほどに魔物達が強力になります。5年生が行くのは、この一番外側です。ここは、大人しい魔物と動物が生息している地帯になり、国から許可を得た猟師や木こり達が、周囲の町や村から仕事にやって来るほどに穏やかです。安全性を高める為、私達が泊まる施設だけでなく、日中の活動にも護衛兵を配置します」

 陛下から12歳になったらと許可を貰った後、私も屋敷の図書室で風森の神殿と牙獣の王冠について調べた。行く予定の〈風森の神殿〉は、ストーリー序盤の大型ダンジョンだ。牙獣の王冠に比べると人の手が多く入っている。神殿の名が付く通り、800年以上前に作られた神を祀る遺跡が至る所に残っている。現在は、国の千年樹の管理だけでなく、先生の言ったように猟師や木こりが近くの町や村からやって来る程に、他のダンジョンに比べて身近だ。

「しかしながらダンジョンでは、例外は付き物となります。皆さんには、その冊子に書かれた予定に沿って動き、単独行動は絶対に行わない様にしてください。一歩間違えば、命を落とし、綺麗な状態で見つからない場合もあります」

 先生は少し脅すように言ったが、私はもっと怖がらせても良いとさえ思った。
 聖域に近づくほど魔物は強くなるが、序盤なのでリティナが15レベルもあればクリアできる。しかし、やり込み要素として70レベルを超す魔物が潜むエリアがある。こちらも奥地であり、ゲーム内では騎士が門を封鎖している。特定のアイテムを所持している状態だと門が開き、そのエリアに入ると途端に高レベルの魔物が出現するようになる。ゲームとしては初心者が間違って入らない様にする対策だが、現実では安全な場所に認定されていても、突然70レベルを超す鳥系の魔物が飛来する可能性がある。
 鳥系の魔物の種類によっては、牛を軽々と持ち上げながら飛べる程の大きさと強さを持っている。人間なんてひとたまりもない。

「これから、6時間目の特別授業は林間学校の準備をします。今日は、風森の神殿がどのような場所か、歴史を通して説明をします」

 先生はそう言うと、風森の神殿の歴史について黒板に単語を書きつつ、話を始める。
 私はメモを取る為にノートを開いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...