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3章 こうして私はメインストーリーから外れる
32話 林間学校へ行く場所は
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ロクスウェルに発明品作りのお題を出してから、4日経つ。今日はクラスの女の子達と食堂で昼食を一緒に食べている。入学してからずっとロクスウェルが付いて回っていたので、男子がいないテーブルは久々だ。
「レンリオスさん。最近、バージェンシーさんと一緒にいないけど、何かあったの?」
隣の席に座るおっとりした女の子が声を掛けてくる。
4日前から、徐々にロクスウェルと一緒にいる時間が減った。授業中に設計図らしきものを書いて先生に怒られ、一日の最後の授業が終わると一目散に帰るようになった。昼は食堂で飲食をする姿を見かけたが、私と一緒の時に比べてかなりの速さで食べ、終わるとどこかへ行ってしまう。私の出したお題は、それだけ彼の開発への情熱に火をつけてしまったようだ。
「何か発明品を閃いたらしくて、今はそっちに夢中みたい」
「へぇ。あんなに付け回していたのに……何かありそう」
私の答えに、テーブルを挟んで正面に座る眼鏡を掛けた女の子が、面白そうに言った。
「一番近くで見ていたミューゼリアさんが言うのだから、本当じゃないかしら?」
「そうそう! 男性寮の廊下で玩具みたいな機械を動かしてるって男子が話しているのを聞いたから、レンリオスさんの言っている事は嘘じゃないよ」
いかにも貴族生まれの上品な女の子と活発そうな女の子が言った。
「嘘とは思っていないよ。その……バージェンシーがふ、フラれたのかなって思って……」
慌てて眼鏡を掛けた女の子は、自分の発言の意味を答える。
「えー! レンリオスさんに似合うのは、年上の殿方だよ!」
「世話焼きさんだから、年下とも相性が良いと思うわ」
どんどん恋愛の話にすり替わって来ている……?
10歳でも、なんだか皆大人っぽい。
金の卵たちが集まる学園。貴族達の目線からすれば、我が子にとっても将来の人脈を作り、社会を学び、婚約者と関係をより深くさせる為のお見合いの場として活用されている。
平民の目線では、音楽家や研究者等を目指す子は将来のパトロンとなる相手を見つけ、中には就職先を見つけ、あわよくば貴族と関係を持とうなんて人もいるだろう。
将来の事を考えつつも、私は6年後を考えてばかりいる。話せるはずが無く、なんだか一人だけ違い場所から同じ景色を見ている様な不思議な感覚を覚えた。
「皆さん。8月の林間学校について、お話が在ります」
今日は5時間目の授業と合間の休憩が終わり、6時間目の特別授業が始まった。入学案内の冊子に書かれていたので知っているが、8月の半ばに2泊3日で〈風森の神殿〉へ向かう。最初は、学園からでも行けるのか、と驚いたが、自由に行き来するにはやっぱり陛下の許可が必要だと思い返して冷静になった。
「皆さん。朝礼の際に配った林間学校の冊子を出してください」
クラスの皆が学園指定の鞄の中から、水色の小さな冊子を取り出す。休憩時間に軽く見たところ、冊子には2泊3日の予定と注意事項、簡易的な地図が記されている。
「風森の神殿は、大まかに書くと……このように三重構造になっています」
先生は黒板にチョークを使って三重の丸を書き上げる。
「聖域は中央部にあり、ここへ近づくほどに魔物達が強力になります。5年生が行くのは、この一番外側です。ここは、大人しい魔物と動物が生息している地帯になり、国から許可を得た猟師や木こり達が、周囲の町や村から仕事にやって来るほどに穏やかです。安全性を高める為、私達が泊まる施設だけでなく、日中の活動にも護衛兵を配置します」
陛下から12歳になったらと許可を貰った後、私も屋敷の図書室で風森の神殿と牙獣の王冠について調べた。行く予定の〈風森の神殿〉は、ストーリー序盤の大型ダンジョンだ。牙獣の王冠に比べると人の手が多く入っている。神殿の名が付く通り、800年以上前に作られた神を祀る遺跡が至る所に残っている。現在は、国の千年樹の管理だけでなく、先生の言ったように猟師や木こりが近くの町や村からやって来る程に、他のダンジョンに比べて身近だ。
「しかしながらダンジョンでは、例外は付き物となります。皆さんには、その冊子に書かれた予定に沿って動き、単独行動は絶対に行わない様にしてください。一歩間違えば、命を落とし、綺麗な状態で見つからない場合もあります」
先生は少し脅すように言ったが、私はもっと怖がらせても良いとさえ思った。
聖域に近づくほど魔物は強くなるが、序盤なのでリティナが15レベルもあればクリアできる。しかし、やり込み要素として70レベルを超す魔物が潜むエリアがある。こちらも奥地であり、ゲーム内では騎士が門を封鎖している。特定のアイテムを所持している状態だと門が開き、そのエリアに入ると途端に高レベルの魔物が出現するようになる。ゲームとしては初心者が間違って入らない様にする対策だが、現実では安全な場所に認定されていても、突然70レベルを超す鳥系の魔物が飛来する可能性がある。
鳥系の魔物の種類によっては、牛を軽々と持ち上げながら飛べる程の大きさと強さを持っている。人間なんてひとたまりもない。
「これから、6時間目の特別授業は林間学校の準備をします。今日は、風森の神殿がどのような場所か、歴史を通して説明をします」
先生はそう言うと、風森の神殿の歴史について黒板に単語を書きつつ、話を始める。
私はメモを取る為にノートを開いた。
「レンリオスさん。最近、バージェンシーさんと一緒にいないけど、何かあったの?」
隣の席に座るおっとりした女の子が声を掛けてくる。
4日前から、徐々にロクスウェルと一緒にいる時間が減った。授業中に設計図らしきものを書いて先生に怒られ、一日の最後の授業が終わると一目散に帰るようになった。昼は食堂で飲食をする姿を見かけたが、私と一緒の時に比べてかなりの速さで食べ、終わるとどこかへ行ってしまう。私の出したお題は、それだけ彼の開発への情熱に火をつけてしまったようだ。
「何か発明品を閃いたらしくて、今はそっちに夢中みたい」
「へぇ。あんなに付け回していたのに……何かありそう」
私の答えに、テーブルを挟んで正面に座る眼鏡を掛けた女の子が、面白そうに言った。
「一番近くで見ていたミューゼリアさんが言うのだから、本当じゃないかしら?」
「そうそう! 男性寮の廊下で玩具みたいな機械を動かしてるって男子が話しているのを聞いたから、レンリオスさんの言っている事は嘘じゃないよ」
いかにも貴族生まれの上品な女の子と活発そうな女の子が言った。
「嘘とは思っていないよ。その……バージェンシーがふ、フラれたのかなって思って……」
慌てて眼鏡を掛けた女の子は、自分の発言の意味を答える。
「えー! レンリオスさんに似合うのは、年上の殿方だよ!」
「世話焼きさんだから、年下とも相性が良いと思うわ」
どんどん恋愛の話にすり替わって来ている……?
10歳でも、なんだか皆大人っぽい。
金の卵たちが集まる学園。貴族達の目線からすれば、我が子にとっても将来の人脈を作り、社会を学び、婚約者と関係をより深くさせる為のお見合いの場として活用されている。
平民の目線では、音楽家や研究者等を目指す子は将来のパトロンとなる相手を見つけ、中には就職先を見つけ、あわよくば貴族と関係を持とうなんて人もいるだろう。
将来の事を考えつつも、私は6年後を考えてばかりいる。話せるはずが無く、なんだか一人だけ違い場所から同じ景色を見ている様な不思議な感覚を覚えた。
「皆さん。8月の林間学校について、お話が在ります」
今日は5時間目の授業と合間の休憩が終わり、6時間目の特別授業が始まった。入学案内の冊子に書かれていたので知っているが、8月の半ばに2泊3日で〈風森の神殿〉へ向かう。最初は、学園からでも行けるのか、と驚いたが、自由に行き来するにはやっぱり陛下の許可が必要だと思い返して冷静になった。
「皆さん。朝礼の際に配った林間学校の冊子を出してください」
クラスの皆が学園指定の鞄の中から、水色の小さな冊子を取り出す。休憩時間に軽く見たところ、冊子には2泊3日の予定と注意事項、簡易的な地図が記されている。
「風森の神殿は、大まかに書くと……このように三重構造になっています」
先生は黒板にチョークを使って三重の丸を書き上げる。
「聖域は中央部にあり、ここへ近づくほどに魔物達が強力になります。5年生が行くのは、この一番外側です。ここは、大人しい魔物と動物が生息している地帯になり、国から許可を得た猟師や木こり達が、周囲の町や村から仕事にやって来るほどに穏やかです。安全性を高める為、私達が泊まる施設だけでなく、日中の活動にも護衛兵を配置します」
陛下から12歳になったらと許可を貰った後、私も屋敷の図書室で風森の神殿と牙獣の王冠について調べた。行く予定の〈風森の神殿〉は、ストーリー序盤の大型ダンジョンだ。牙獣の王冠に比べると人の手が多く入っている。神殿の名が付く通り、800年以上前に作られた神を祀る遺跡が至る所に残っている。現在は、国の千年樹の管理だけでなく、先生の言ったように猟師や木こりが近くの町や村からやって来る程に、他のダンジョンに比べて身近だ。
「しかしながらダンジョンでは、例外は付き物となります。皆さんには、その冊子に書かれた予定に沿って動き、単独行動は絶対に行わない様にしてください。一歩間違えば、命を落とし、綺麗な状態で見つからない場合もあります」
先生は少し脅すように言ったが、私はもっと怖がらせても良いとさえ思った。
聖域に近づくほど魔物は強くなるが、序盤なのでリティナが15レベルもあればクリアできる。しかし、やり込み要素として70レベルを超す魔物が潜むエリアがある。こちらも奥地であり、ゲーム内では騎士が門を封鎖している。特定のアイテムを所持している状態だと門が開き、そのエリアに入ると途端に高レベルの魔物が出現するようになる。ゲームとしては初心者が間違って入らない様にする対策だが、現実では安全な場所に認定されていても、突然70レベルを超す鳥系の魔物が飛来する可能性がある。
鳥系の魔物の種類によっては、牛を軽々と持ち上げながら飛べる程の大きさと強さを持っている。人間なんてひとたまりもない。
「これから、6時間目の特別授業は林間学校の準備をします。今日は、風森の神殿がどのような場所か、歴史を通して説明をします」
先生はそう言うと、風森の神殿の歴史について黒板に単語を書きつつ、話を始める。
私はメモを取る為にノートを開いた。
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