モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~

片海 鏡

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2章 生誕祭に霊草の葉を

18話 ゲームのキャラが出来るまでに (一部修正)

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 子供達の誕生会は、なんとか大騒ぎにならずに終わった。
 私はシャーナさん達にお別れの挨拶をして、王太子の護衛を務める騎士4人と共に別館へ帰った。2人の騎士が護衛してくれるだけでも充分だと思ったが、厚意に甘える事にした。
 別館に帰ってみると、ベッドの中の兄様は〈もう大丈夫なのに〉とブツブツと言いながら、お母様に監視されていた。何度か外に出ようと試みたようだ。
 兄様の体調を考え、急遽一家は晩餐会を欠席し、別館の食堂室で夕食を摂った。
 王室付のシェフが腕によりをかけて作った料理は豪華で、味は洗練されながらも何処か素朴さを感じた。地方ごとに好みの差があると学んでいるシェフは、私達の舌に合わせながらも王室で振舞われる料理を作ったと聞いた。
 技術力に感服すると共に、兄様と美味しさを共有できなかったのは残念だと思った。

『ミューゼリア。シャンティスの生育は順調だ。箱内部の魔力は安定している』
「よかった。ありがとう。この2週間はレフィードに頼りきりになっちゃうね」

 宛がわれた豪華な寝室で、白いネグリジェに着替えた私はこっそりとレフィード礼を言う。
 夜は更けているが、窓の外から見える王都はまだまだ灯りが灯っている。

『気にすることは無い。私に出来る事であれば、頼って欲しい』
「うん。ありがとう」

 レフィードは少しずつだが水であった体が変化してきた。時折熱くない火や柔らかい土で構成されるようになり、姿を隠していてもた締め切った部屋の中で時折そよ風が吹くようになった。四大元素に変化できるので、水の精霊ではない事が確定をした。しかしレフィード本人は、まだ自身の正体が分からないと言っていた。

「ねぇ、レフィード。覚えている限りの知識で、知っている事を教えて欲しいの」

 観察日記を書き終えた私は、レフィードに訊く。

『なんだろうか?』
「人は魔力をどうやって成長させるの?」

 赤い液体の正体は調べられないが、レフィードなら何か知っていると思い、まず私は少し遠回しに聞いてみる。

『成長……どのような意味合いでの、成長だろうか?』
「あ、えーと……まず、人は魔力をどうやったら、沢山貯められるようになるかな?」

 具体的な話を聞けなかったのは、とても惜しかった。しかし、あの子達が親から聞いている話は少ないと思う。黙って言う事を聞きなさいと強く言われている子や、強くなれるとしか聞いていない子もいそうだ。

『容量で言うならば、筋肉と同じように鍛えると考えてもらって良いだろう。何度も練習を重ね、器を広げ、大きく成長させる。産まれによって最初に持っている器に差はあるが、方法は同じだ』

 ゲームにはレベルだけでなく、各スキルに熟練度が存在する。その中には、魔力量も含まれている。魔術を使う、魔法道具を作る等の魔力に関する行動によって、その熟練度がアップしていた。本人の資質や才能というスタートラインに違いはあっても、積み重ねる事は共通している。

「何か薬や飲み物で成長させることは?」
『それは出来ない。絶対に、やめた方が良い』

 きっぱりと言われ、私は驚いた。
 ゲームでは、魔力等のステータスをアップさせるアイテムがあった。それは魔法使いの師匠から貰えるリティナ専用のものだ。あの赤い飲み物は危険だが、ここまで否定されるとは思いもしなかった。

「どうして?」
『おそらくその薬や飲みものは、魔力生産の増幅させる効果があると考えられる。その時であれば良い効果をもたらすだろう。しかし、人体に過度の負担が掛っている。筋肉同様に人体に影響を及ぼし、のちに何らかの損失を招く』
「増幅されるのは、別に悪い事ではないような気がするけど……」

 攻撃力や防御力をアップさせる補助魔法をリティナは扱っていた。それと何が違うのか、私にはピンとこなかった。

『例えるならば、ろくろで作る陶器だろう。ろくろを魔力生産器官、手を人体と考えて欲しい。本来は、一定の速さと自らの意思でろくろの速度を変化させる為、手は対処でき、練習を続ける事で大きな陶器の器を作ることが出来る。しかし、薬によって勝手に決められ異常な速さで回るろくろでは、人の手は対処が出来ないが、魔力を納める為に無理やりにでも器を作る。若い頃は器を何度も作り替えるので平気に見えても、その速度で作り続けた手は損傷が蓄積されてしまっている。
 早い段階で止めなければ、その手ではもう綺麗な器は作れない。出来ても歪な器だけだ』
「歪か……どんな影響が出るの?」

 宝石の原石を削る。そのイメージも出来たが、レフィードが言いたいのは別にあるのだと、話を聞くうちに理解する。

『内部の損傷の激しい体は、イレグラ草等の効果は効きにくい。歪な器は不要な魔力の排出が上手く出来なくなり、沈殿する恐れがある。それは毒素となり、心身に多大な影響を及ぼすだろう』
「た、たとえば?」

 いやな予感がする。

『体を守ろうと精神は攻撃的になり、それによって認知機能が狂い妄想癖に囚われる。過剰な敵対心を周囲へ振りまいてしまうだろう。強力な魔術を使えば、暴走する危険性がある』

 シャーナさんの姿が浮かんだ。
 彼女は、ゲーム内ではルートと会話選択によっては死亡する。妖精王の味方となり、リティナ達に対して上級魔術を酷使した結果、暴走が発生する。リティナ達がなんとか暴走を止め、すぐに病院へ運ぶが、すでに手遅れだった。 
 やがて、父であるアーダイン公爵に看取られる。
 あの時、取り巻きの女の子達が飲みものについて庇うような姿勢を取ったのは、他の子に比べてシャーナさんが定期的に飲んでいるからなのかもしれない。
 彼女の中に毒素が溜まり続け、その影響が表へ出始め、8年後の悪役令嬢となる。彼女はあの赤い飲み物による中毒によって身体を壊し、精神をすり減らし性格が変わってしまう。

『何か飲まされそうになったのか?』 
「う、うん。赤い……なんだか、変な臭いがする液体をティーカップに一杯分。貴族の子供達は、何回か飲んでいるみたい。今日、兄様が少しだけ飲んで、魔力の循環が一時的に乱れたの。それを見て、殿下がメイドに撤去するように言って、私は飲まずに済んだよ」
『赤だと? 少しとはどれ位だ?』
「すぐに吐いたから、ほんの少し口に含んだだけだと思う」
『……子供達の様子は分かるだろうか?』
「いやそうな顔をしていたけど、見た目では影響はないように見えた。兄様が受け付けない体だったんじゃないかって、令嬢の子が言っていたよ」
『その可能性は拭いきれないが、循環が乱れた事実は変わらない。様子を見させてはもらえないだろうか?』
「良いけど、どうして? お医者様から薬を貰っているし、兄様は元通り健康そうだったよ」 

 調整剤は貰い、夕食の後に兄様はそれを飲んでいる。眠る前に挨拶をした時には、顔色が良く、特に問題は無さそうに見えた。

『確証はまだないが、赤い色の危険なものを知っている。もしそれであるなら、イグルドが危ない』

 レフィードはそう言いながら、扉の前へと移動する。

『シャルティスが必要だ』

 私はそれを聞いて、8年後の病を思い出した。
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