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四章 大河に告げる夏の小嵐
32.古き友と
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嵐が過ぎ去った様な静寂の中、彼の足取りは書庫に向かった時に比べて遅く、重い。酔いとは違い、不調を体が訴えているのが見て取れ、気づけなかったゼネスは責任を感じた。
「気にする必要は無いぞ」
「え?」
亡霊達が行き交う廊下を互いに黙って歩いている最中、唐突に言ったシャルシュリアにゼネスは思わず聞き返す。
「療養生活の間に体力が低下したせいで、あのような事態になっただけだ。身体を動かすように成れば、すぐに治る」
「その際はお供させていただきます」
確かに病み上がりは体力が落ちて身体が鈍る。そう納得しかけたていたが、気を落としていたのを見抜かれた事にゼネスは気づく。
「……もしかして、顔に出ていましたか?」
「三匹が私に叱られた時の様に、気落ちしているのが見て取れた」
千の顔を持つ獣達も粗相をするのかと思うべきか。それとも、自分は言葉だけでなく、態度と顔に出る程分かりやすい事に驚くべきか。
情けない顔をシャルシュリアに見せてしまった。ゼネスは恥ずかしくなると共に、エーデに対して向けていた表情が気がかりとなる。
シャルシュリアを助けてくれたエーデに対して、おかしな感情を向けしまった。それどころか、その表情を崩す手助けまでしてくれた。
次に会う機会があれば、謝ろう。そうゼネスは思った。
「何かまだ思い悩んでいるようだが……」
「お気になさらず! 自分はもう少し気を配れるように成れたら、と思っていただけなので」
ゼネスは何とか誤魔化し、シャルシュリアもその言葉を信じた様子で追及は無かった。
「その、シャルシュリア様はエーデ様と仲が良いのですね。古い付き合いだと仰っていましたが、いつ頃から何ですか?」
「まだ私が地上に居た頃からだ。創世の時代が終わりを迎え、神と巨人の時代になる手前だな」
創世の時代とは、世界が誕生し、大地、空、海の三つに分かれたばかりの頃だ。その後、星の女神の眷属として創造された巨人族が山や谷を作り、地形を構成する為に闊歩する時代へと移行する。これが終わると植物が生まれ、ようやく人間等の生物達が登場し始めるが、そこへ辿り着くまでに途方も無い時間が費やされている。
想像を絶する月日を共有しているのだと、ゼネスは理解しながらも、どこか不快であった。
「気分屋の所はあるが、世界全土の川を弟妹に持つ彼だ。責任感があり、感情的に暴走する事は滅多にないので、何かと頼りになる」
信頼しているのが言葉の節々から感じ取れる。エーデの軽々しい口調と態度が許されているのは、彼がシャルシュリアの期待に応えられている証拠だ。
「ゼネスも、地上には友がいるだろう?」
「神の友となると、伝令の神くらいですね。他の神からは子ども扱いされてばかりです」
「昔に比べて新たな神の誕生は稀になったからな。可愛くて仕方がないのだろう」
貴方も俺を子ども扱いしているのだろうか。
混沌の神が何故自分を選んだのか、と少し前に結論付けた事柄が、今になって嫌だとゼネスは強く思った。
信頼されたい。頼られたい。隣に立って、当然のように助け合える仲になりたい。
ニネティスに頼まれてから、ずっとシャルシュリアの傍に居た。だから、彼にとって自分が一番だと無意識に思ってしまった。けれどエーデに対して彼は、自分には見せない気安さや、感情を表に出せる程に心を許しているのが見て取れる。
羨ましく、悔しい。
「シャルシュリア様は、俺の事をどう思っていますか?」
素直さは時に仇となると教えてもらっても、それだけは訊かなければならない。
ゼネスは緊張した面持ちで、シャルシュリアに問いかけた。
「…………君は、信じられる友だと想っている」
急な質問に驚いた様子のシャルシュリアは、間を置いて答える。
「気にする必要は無いぞ」
「え?」
亡霊達が行き交う廊下を互いに黙って歩いている最中、唐突に言ったシャルシュリアにゼネスは思わず聞き返す。
「療養生活の間に体力が低下したせいで、あのような事態になっただけだ。身体を動かすように成れば、すぐに治る」
「その際はお供させていただきます」
確かに病み上がりは体力が落ちて身体が鈍る。そう納得しかけたていたが、気を落としていたのを見抜かれた事にゼネスは気づく。
「……もしかして、顔に出ていましたか?」
「三匹が私に叱られた時の様に、気落ちしているのが見て取れた」
千の顔を持つ獣達も粗相をするのかと思うべきか。それとも、自分は言葉だけでなく、態度と顔に出る程分かりやすい事に驚くべきか。
情けない顔をシャルシュリアに見せてしまった。ゼネスは恥ずかしくなると共に、エーデに対して向けていた表情が気がかりとなる。
シャルシュリアを助けてくれたエーデに対して、おかしな感情を向けしまった。それどころか、その表情を崩す手助けまでしてくれた。
次に会う機会があれば、謝ろう。そうゼネスは思った。
「何かまだ思い悩んでいるようだが……」
「お気になさらず! 自分はもう少し気を配れるように成れたら、と思っていただけなので」
ゼネスは何とか誤魔化し、シャルシュリアもその言葉を信じた様子で追及は無かった。
「その、シャルシュリア様はエーデ様と仲が良いのですね。古い付き合いだと仰っていましたが、いつ頃から何ですか?」
「まだ私が地上に居た頃からだ。創世の時代が終わりを迎え、神と巨人の時代になる手前だな」
創世の時代とは、世界が誕生し、大地、空、海の三つに分かれたばかりの頃だ。その後、星の女神の眷属として創造された巨人族が山や谷を作り、地形を構成する為に闊歩する時代へと移行する。これが終わると植物が生まれ、ようやく人間等の生物達が登場し始めるが、そこへ辿り着くまでに途方も無い時間が費やされている。
想像を絶する月日を共有しているのだと、ゼネスは理解しながらも、どこか不快であった。
「気分屋の所はあるが、世界全土の川を弟妹に持つ彼だ。責任感があり、感情的に暴走する事は滅多にないので、何かと頼りになる」
信頼しているのが言葉の節々から感じ取れる。エーデの軽々しい口調と態度が許されているのは、彼がシャルシュリアの期待に応えられている証拠だ。
「ゼネスも、地上には友がいるだろう?」
「神の友となると、伝令の神くらいですね。他の神からは子ども扱いされてばかりです」
「昔に比べて新たな神の誕生は稀になったからな。可愛くて仕方がないのだろう」
貴方も俺を子ども扱いしているのだろうか。
混沌の神が何故自分を選んだのか、と少し前に結論付けた事柄が、今になって嫌だとゼネスは強く思った。
信頼されたい。頼られたい。隣に立って、当然のように助け合える仲になりたい。
ニネティスに頼まれてから、ずっとシャルシュリアの傍に居た。だから、彼にとって自分が一番だと無意識に思ってしまった。けれどエーデに対して彼は、自分には見せない気安さや、感情を表に出せる程に心を許しているのが見て取れる。
羨ましく、悔しい。
「シャルシュリア様は、俺の事をどう思っていますか?」
素直さは時に仇となると教えてもらっても、それだけは訊かなければならない。
ゼネスは緊張した面持ちで、シャルシュリアに問いかけた。
「…………君は、信じられる友だと想っている」
急な質問に驚いた様子のシャルシュリアは、間を置いて答える。
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