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一章 冬の睡蓮と冥界
6.苦園の大蛇と死の三女神の長女
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高い天井はドーム状に形作られ、壁や床には蛇を思わせる幾何学模様が施されている。周囲を囲うように作られた水路は、他の部屋に比べて深い。ここには壁付け燭台と蝋燭では無く、館と同じく天井から吊り下がる複数の鳥かごに囚われた光達が、灯りとなっている。
今までの部屋と様式自体違うだけでなく、この広い空間の何処にも肉片や骨は落ちていない。
「なんだ。番人の誰かかと思えば、客人じゃないか」
広間の先にある大扉が開き、女性が入って来た。
人間で言えば平均以上の身長であるゼネスより、女性のほうが高く、肌は灰色がかっている。凛々しく勇ましくも美しい顔立ちに、今は柔らかな光を帯びる浅葱色の瞳。美しく長い濃藍色を一つに束ね、飾り気の少ない金の耳飾りに首飾り、腕輪を装着している。背筋が伸び、鍛え抜かれた体には、紅紫色のローブと鎧を合わせた特殊な装備を着ている。
「はじめまして。神の末席に座るゼネスと申します」
「私は死の三女神の長女レガーナ。畏まらず、普段通り気楽に話してくれ」
同じく冥王に仕える身だ、と言う様に彼女は気さくに話す。
死を与える三人の女神。運命の女神より定められた死を人間に与え、冥界へと続くエーデ川の渡し守へと魂を引き渡す。レガーナは長女であり、戦死を含めた他殺によって死亡した被害者とそれを行った加害者の人間の魂を狩る役割を担っている。苦園とは、最も縁のある神と言えるだろう。
「ありがとう。しばらくの間、世話になる」
「こちらこそ。剣の捜索を兼ねているとはいえ、掃除係の任を受けてくれて、助かるよ」
地上で活動する頻度の高いレガーナにまで情報が伝わっていることに、ゼネスは驚きながらも感心をする。
「この広間はどんな目的で作られているのか、教えてくれないか?」
闘技場にも、礼拝や儀式を行う為の場所にも見えるこの部屋が気になり、ゼネスは聞いた。
「いいとも。ここは次の層へ続く階段の前にある広間でね。他の層にも、同様の空間がある。道中で疲弊した逃亡者を一網打尽にする為に、私達3姉妹の飼っている魔物をそれぞれ放っているんだ」
レガーナがそう言うと、水路から10匹の大蛇が顔を出した。馬を丸呑みできそうな程に顔は大きく、胴もそれ相応に太い。艶めく漆黒の鱗に、赤い瞳。大きさも相まって、一匹一匹少しずつ目の位置や鼻や口の形の違いが、分かりやすく見て取れる。
「壮観だな……レガーナは、彼等の様子を見に?」
幻獣やその類は、地上にも生息しているが、人より遥かに大きな種は滅多にお目にかかれない。絵物語でしか見られない光景に、ゼネスは感動する。
「あぁ、そうだよ。彼らの健康管理担当は私だからね」
レガーナが手を軽く上げると、一匹の大蛇が鼻を軽く押し当てた。蛇と言うよりは竜に近く、知能の高い彼らは彼女に良く懐いている様子だ。
「俺だったら、一匹を世話するだけでも手を焼いてしまいそうだ。レガーナは凄いよ」
「ふふ、ありがとう」
裏表のない素直な賞賛の言葉に、ほんのりと頬を赤らめながらレガーナは嬉しそうに微笑んだ。
「触ってみるかい?」
「いいのか!?」
ゼネスは目を輝かせる。
今までの部屋と様式自体違うだけでなく、この広い空間の何処にも肉片や骨は落ちていない。
「なんだ。番人の誰かかと思えば、客人じゃないか」
広間の先にある大扉が開き、女性が入って来た。
人間で言えば平均以上の身長であるゼネスより、女性のほうが高く、肌は灰色がかっている。凛々しく勇ましくも美しい顔立ちに、今は柔らかな光を帯びる浅葱色の瞳。美しく長い濃藍色を一つに束ね、飾り気の少ない金の耳飾りに首飾り、腕輪を装着している。背筋が伸び、鍛え抜かれた体には、紅紫色のローブと鎧を合わせた特殊な装備を着ている。
「はじめまして。神の末席に座るゼネスと申します」
「私は死の三女神の長女レガーナ。畏まらず、普段通り気楽に話してくれ」
同じく冥王に仕える身だ、と言う様に彼女は気さくに話す。
死を与える三人の女神。運命の女神より定められた死を人間に与え、冥界へと続くエーデ川の渡し守へと魂を引き渡す。レガーナは長女であり、戦死を含めた他殺によって死亡した被害者とそれを行った加害者の人間の魂を狩る役割を担っている。苦園とは、最も縁のある神と言えるだろう。
「ありがとう。しばらくの間、世話になる」
「こちらこそ。剣の捜索を兼ねているとはいえ、掃除係の任を受けてくれて、助かるよ」
地上で活動する頻度の高いレガーナにまで情報が伝わっていることに、ゼネスは驚きながらも感心をする。
「この広間はどんな目的で作られているのか、教えてくれないか?」
闘技場にも、礼拝や儀式を行う為の場所にも見えるこの部屋が気になり、ゼネスは聞いた。
「いいとも。ここは次の層へ続く階段の前にある広間でね。他の層にも、同様の空間がある。道中で疲弊した逃亡者を一網打尽にする為に、私達3姉妹の飼っている魔物をそれぞれ放っているんだ」
レガーナがそう言うと、水路から10匹の大蛇が顔を出した。馬を丸呑みできそうな程に顔は大きく、胴もそれ相応に太い。艶めく漆黒の鱗に、赤い瞳。大きさも相まって、一匹一匹少しずつ目の位置や鼻や口の形の違いが、分かりやすく見て取れる。
「壮観だな……レガーナは、彼等の様子を見に?」
幻獣やその類は、地上にも生息しているが、人より遥かに大きな種は滅多にお目にかかれない。絵物語でしか見られない光景に、ゼネスは感動する。
「あぁ、そうだよ。彼らの健康管理担当は私だからね」
レガーナが手を軽く上げると、一匹の大蛇が鼻を軽く押し当てた。蛇と言うよりは竜に近く、知能の高い彼らは彼女に良く懐いている様子だ。
「俺だったら、一匹を世話するだけでも手を焼いてしまいそうだ。レガーナは凄いよ」
「ふふ、ありがとう」
裏表のない素直な賞賛の言葉に、ほんのりと頬を赤らめながらレガーナは嬉しそうに微笑んだ。
「触ってみるかい?」
「いいのか!?」
ゼネスは目を輝かせる。
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