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四章
43話
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貴族は第二、第三、第四、第五、第六に階級が分けられ、第一は皇族を意味する。
初代聖皇時代に、医療部隊がはじめて編成された時の名残だ。人口増加と共に変化し、当部隊長や隊員たちは貴族の位を賜り、その子孫は内殻の様々な分野の管理者に就任した。名称を変えようと議論に上がる時代もあったが、往来の多い外殻の人々や緊迫した状況では数字の方が瞬時に理解できるとして、その名称が引き継がれている。
「輸血用の希少な血液でも冷凍保存の最長は10年だよ。何百年と前の竜の血液を保存できるの?」
「うーん。結晶を液状に戻せる技術があるならば、と考えたけれど、粉末の方が現実的かな」
センテルシュアーデは、1人分のいちごと生クリームのケーキをフォークで切り分ける。
「うん。そっちで考えた方が良いと思う。どっちにしても今では希少な筈なのに、Ωの抑制剤にずっと入れられていたのは疑問が残るよ。貴族達は平民のΩは保険だって言うくせに、潰しに掛かっているじゃないか」
横領の問題から、抑制剤についても貴族が絡んでいるのは明白。シャングアは話している内に眉間に皺を寄せ、最後は吐き捨てる様に言う。
「皇族に自分達のΩを迎え入れたくて必死なんだよ。私から見れば、血を濃くしない為にも外から来てくれる人々の方が、配偶者として重要視しているけれど……なかなか難しいね」
聖徒の近親交配は、神殿で暮らすうえで切っては切れない問題である。だが、政治の面では、貴族達を無視することは出来ない。複雑な事情が絡み合っている。
「話を戻すが……シャングアの推測が正しかったら、相手は絶滅種の血を長期消費し続け、今回の結晶も押収されてしまっている。彼らは膨大な量を保有し、その程度減っても痛手ではないと考えられる」
センテルシュアーデは至って冷静に構え、周囲を見据えている。
装備品に埋め込まれていた宝玉がΩの抑制剤に繋がるとは言い難い。
絶滅種ではなくその近縁種から採取された血液の可能性。
結晶が外界から持ち込まれた品の可能性。
まだ決定打が足りない。その為か、相手は証拠を残しても良いと判断しているのが見て取れる。残したところで、自分達を見つけられないと履んでいる。
「けれど、まだ確証に至るには足りない部分が多い。今は、推測は推測として留めておこう。我々は実直に調査を進めるしかない。シャングアは、交代式の後始末を続けてほしい」
飛竜の暴走と犯人が同一人物ではなくとも、Ωの中毒についての調査範囲が、まだ抑制剤が確立していない初代聖皇時代まで遡る必要が出てきた。
入手経路が両者共に判明していないのは、シャングアの言う通り根が深い部分にいる人物が関与している。
「うん。わかった。飛竜達は再度訓練をさせた後、そのまま使役させてもらっても良い? これが理由だったら、飛竜達は悪くないと思うんだ」
円盤と欠片に手を触れながら、シャングアは言う。
「良いよ。こちらも飛竜達が大人しくなったと聞いている。現場の判断に委ねるよ」
「ありがとう。それじゃ、僕はそろそろ退室させてもらうよ。ごちそうさま」
シャングアは椅子から立ち上がる。
「お菓子は食べて行かないのかい?」
「あ……えーと、エンティーと約束しているから」
照れ臭そうにしながら、シャングアは答える。
「それなら、仕方ないな。また今度、お茶を楽しもう」
「うん。また今度ね」
部屋を出ようとするシャングア。
「あ、シャングア」
咄嗟にセンテルシュアーデは彼を呼び止める。
「ん? 何?」
「エンティーさんとキスするまで進展できるように、頑張ってね」
振り向いた弟に対して、清々しく見惚れる程に美しい笑顔でセンテルシュアーデは言う。
「うっさいな!! 長い間会いに行かないのは、そういう所なんだよ!!!」
顔を真っ赤にしてシャングアは捨て台詞を吐く様に、足早に部屋を出て行った。
部屋に残されたセンテルシュアーデは少し残念そうにしながら、トゥルーザの方を向く。
「……滅茶苦茶に嫌われてしまった。反抗期かな?」
「おまえの失言のせいだろ」
トゥルーザは呆れた様子で言い、センテルシュアーデは楽しそうに微笑む。
「それにしても父さんの言う通り、シャングアの意思が戻ったのには驚いたな」
センテルシュアーデは、ケーキにフォークを刺す。
口の周りにクリームを付けながらケーキを頬張っていた小さなシャングアを思い出す。
「リル様について何も話さなかったが、良いのか?」
「その方が良い」
センテルシュアーデはそう言って、ケーキを口へ運んだ。ふんわりと柔らかな生地の触感に、濃厚な生クリームと苺の酸味がよく合っている。
「トゥルーザから見て、エンティーさんはどんな感じ?」
「話した印象では素直で明るい子だ。依存症を起こしている様子は無く、奇蹟の副作用が無ければ至って健康そうに見えた。フェルエンデ様も、それについて話されていない」
「へぇ。リュクって青年の聴取記録からも、エンティーさんは高い耐性の持ち主だろうと思っていたんだ。凄いね」
センテルシュアーデは感心しながら、ケーキを再び切り分ける。
Ω達の中毒の治療で厄介な壁の一つが、依存症だ。長年にわたる服薬の結果、彼らは放心状態となり、日頃から禁止薬物が混入した抑制剤を欲している。神力の循環の正常化治療により、正気を取り戻し始めている人もいるが、彼らもまた依存症に悩まされている。
「エンティーさんは、このまま健やかでいて欲しいね」
いずれは依存症やそれに伴う病気についても話さなければならないと思いつつ、センテルシュアーデはケーキを口へ運ぶ。
初代聖皇時代に、医療部隊がはじめて編成された時の名残だ。人口増加と共に変化し、当部隊長や隊員たちは貴族の位を賜り、その子孫は内殻の様々な分野の管理者に就任した。名称を変えようと議論に上がる時代もあったが、往来の多い外殻の人々や緊迫した状況では数字の方が瞬時に理解できるとして、その名称が引き継がれている。
「輸血用の希少な血液でも冷凍保存の最長は10年だよ。何百年と前の竜の血液を保存できるの?」
「うーん。結晶を液状に戻せる技術があるならば、と考えたけれど、粉末の方が現実的かな」
センテルシュアーデは、1人分のいちごと生クリームのケーキをフォークで切り分ける。
「うん。そっちで考えた方が良いと思う。どっちにしても今では希少な筈なのに、Ωの抑制剤にずっと入れられていたのは疑問が残るよ。貴族達は平民のΩは保険だって言うくせに、潰しに掛かっているじゃないか」
横領の問題から、抑制剤についても貴族が絡んでいるのは明白。シャングアは話している内に眉間に皺を寄せ、最後は吐き捨てる様に言う。
「皇族に自分達のΩを迎え入れたくて必死なんだよ。私から見れば、血を濃くしない為にも外から来てくれる人々の方が、配偶者として重要視しているけれど……なかなか難しいね」
聖徒の近親交配は、神殿で暮らすうえで切っては切れない問題である。だが、政治の面では、貴族達を無視することは出来ない。複雑な事情が絡み合っている。
「話を戻すが……シャングアの推測が正しかったら、相手は絶滅種の血を長期消費し続け、今回の結晶も押収されてしまっている。彼らは膨大な量を保有し、その程度減っても痛手ではないと考えられる」
センテルシュアーデは至って冷静に構え、周囲を見据えている。
装備品に埋め込まれていた宝玉がΩの抑制剤に繋がるとは言い難い。
絶滅種ではなくその近縁種から採取された血液の可能性。
結晶が外界から持ち込まれた品の可能性。
まだ決定打が足りない。その為か、相手は証拠を残しても良いと判断しているのが見て取れる。残したところで、自分達を見つけられないと履んでいる。
「けれど、まだ確証に至るには足りない部分が多い。今は、推測は推測として留めておこう。我々は実直に調査を進めるしかない。シャングアは、交代式の後始末を続けてほしい」
飛竜の暴走と犯人が同一人物ではなくとも、Ωの中毒についての調査範囲が、まだ抑制剤が確立していない初代聖皇時代まで遡る必要が出てきた。
入手経路が両者共に判明していないのは、シャングアの言う通り根が深い部分にいる人物が関与している。
「うん。わかった。飛竜達は再度訓練をさせた後、そのまま使役させてもらっても良い? これが理由だったら、飛竜達は悪くないと思うんだ」
円盤と欠片に手を触れながら、シャングアは言う。
「良いよ。こちらも飛竜達が大人しくなったと聞いている。現場の判断に委ねるよ」
「ありがとう。それじゃ、僕はそろそろ退室させてもらうよ。ごちそうさま」
シャングアは椅子から立ち上がる。
「お菓子は食べて行かないのかい?」
「あ……えーと、エンティーと約束しているから」
照れ臭そうにしながら、シャングアは答える。
「それなら、仕方ないな。また今度、お茶を楽しもう」
「うん。また今度ね」
部屋を出ようとするシャングア。
「あ、シャングア」
咄嗟にセンテルシュアーデは彼を呼び止める。
「ん? 何?」
「エンティーさんとキスするまで進展できるように、頑張ってね」
振り向いた弟に対して、清々しく見惚れる程に美しい笑顔でセンテルシュアーデは言う。
「うっさいな!! 長い間会いに行かないのは、そういう所なんだよ!!!」
顔を真っ赤にしてシャングアは捨て台詞を吐く様に、足早に部屋を出て行った。
部屋に残されたセンテルシュアーデは少し残念そうにしながら、トゥルーザの方を向く。
「……滅茶苦茶に嫌われてしまった。反抗期かな?」
「おまえの失言のせいだろ」
トゥルーザは呆れた様子で言い、センテルシュアーデは楽しそうに微笑む。
「それにしても父さんの言う通り、シャングアの意思が戻ったのには驚いたな」
センテルシュアーデは、ケーキにフォークを刺す。
口の周りにクリームを付けながらケーキを頬張っていた小さなシャングアを思い出す。
「リル様について何も話さなかったが、良いのか?」
「その方が良い」
センテルシュアーデはそう言って、ケーキを口へ運んだ。ふんわりと柔らかな生地の触感に、濃厚な生クリームと苺の酸味がよく合っている。
「トゥルーザから見て、エンティーさんはどんな感じ?」
「話した印象では素直で明るい子だ。依存症を起こしている様子は無く、奇蹟の副作用が無ければ至って健康そうに見えた。フェルエンデ様も、それについて話されていない」
「へぇ。リュクって青年の聴取記録からも、エンティーさんは高い耐性の持ち主だろうと思っていたんだ。凄いね」
センテルシュアーデは感心しながら、ケーキを再び切り分ける。
Ω達の中毒の治療で厄介な壁の一つが、依存症だ。長年にわたる服薬の結果、彼らは放心状態となり、日頃から禁止薬物が混入した抑制剤を欲している。神力の循環の正常化治療により、正気を取り戻し始めている人もいるが、彼らもまた依存症に悩まされている。
「エンティーさんは、このまま健やかでいて欲しいね」
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