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三章
29話
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集会では問題は起きず、ディルギスは一通り挨拶を済ませ、クォギアと共に早々に城を出た。不可解な点は残るが、大きな問題は起きず、さらに10日が経過する。この間に生活は変化し、中央区の戦神より聖騎士4名、国神より使用人3人、庭師2人、そして聖職者2人が配属された。
聖堂での礼拝が再開され、北区の町の人々が訪れる様になりはじめた。クォギアから住民に関する情報を以前聞いていた通り、住民は好意的であり、今までの非礼を詫びてきた。
北区との関係は、これからより良い方向へ向かう。
こちらの問題は落ち着く。次の問題へ着手すべきだが、ディルギスであるが集中が出来なかった。
クォギアは距離を置く様に、急によそよそしくなった。
怠慢はせず、裁縫師として今後の服の冬に向けてデザインの作成や試作を行っている、と彼へ食事を運ぶ使用人から報告を受けている。時折神殿に来て挨拶をしていくが、紅茶を淹れようと言っても、すぐに帰ってしまう。
神と仕える裁縫師として一定の距離はあった。旧知の仲もあり、多少の近さはあっても、踏み込んだ関係ではではない。これまでの生活で、互いに失言は無く、不快になるような行動はなかった筈だ。
なぜこうなったのか理由が分からず、痺れを切らしたディルギスは、彼の工房に足を運ぶ。
「入るぞ」
普段は一声かけるが、問答無用で扉を開けた。
「えっ!?」
驚いたクォギアは咄嗟に何かを隠そうとしたが、無駄な足搔きである。
ハートカットネックの胸元には真珠の様に艶めく大きな白いバラが咲き誇り、作りかけのタッキングスカートがふわりと広がっている。
マネキンに飾られていたのは、純白のドレスだ。
「なぜ、その様なものを作っている」
ディルギスの中で、何か、きりきりと擦り切れて行く音が聞こえた気がした。
「これは、その……」
目を泳がせるクォギアの手から白いレースが音もなく床へと落ち、工房の空気は一気に張り詰めた。
ディルギスの護衛を務める尖った耳の聖騎士は、内心戸惑いながらも2人のやりとりを静観する。長命種であるその聖騎士は、長年星神城に鎮座する国神の護衛の一端を務め、20年より前からディルギスを知っている。傍から見れば不愛想、不機嫌、そう言われる程に淡々とした神であり、使用人が粗相をしても眉一つ動かさない程だった。
その神が、顔に出なくとも感じ取れる程に感情を動かしている。
「おまえは私の裁縫師だろう」
「も、申し訳ありません。急な頼みを受けて、断る暇が無く……」
口ごもるクォギアに、ディルギスの胸がざわついた。
星神城の工房で待機している際に、依頼を受けた。そんな事は、ドレスの大きさとデザインを見ればすぐにわかる。
「なぜ、報告をしなかった」
言ってくれさえすれば、快く受け入れられた。たまには違う体格の服を作りたくなる時もあるだろう。
しかし、クォギアが距離を離した挙句、今は目線すら合わせずに話している。
ディルギスの心はざわつき、一歩、また一歩とクォギアに近付いて行く。
「ア、 アルティア様からの御依頼でして、内密にするようにと釘を刺されたので」
愛の女神アルティアは、多くの男性を手中に収めている。自由奔放で宝石の如く輝き、花の如く惹きつける。女性であっても、その姿に目を奪われ、感嘆を漏らすほどだ。
「私に、言えない内容なのか?」
ディルギスはクォギアの前に立ち、真っ直ぐに見つめる。
最初の内は目線を外していたクォギアだったが、徐々に居た堪れない気持ちになり始め、渋く苦い顔をしたのち、
「言えない内容、ではございません……」
耐え切れなくなり白状する。
「…………農耕の神で在らせられるバンダン様との交際200周年を記念し、白いドレスを誂て欲しいと依頼を受けました」
「記念すべき事ではあるが、私にまで隠す必要は無い依頼ではないか」
拍子抜けする様な内容に、ディルギスはため息をつく。
ざわついていた胸が急に収まり、それに違和を感じながらも、安心してしまう。
「それは……俺も、そう思いますが…………」
何故かまだ口籠っているクォギアに、ディルギスは首をかしげる。
「なんだ? まだ何かあるのであれば、言ってしまえ」
クォギアは何故か驚いたようなおかしな表情をしたのち、ドレスに隠れる様にゆっくりと屈んで行った。ますます意味が分からなくなり、目線を合わせる様にディルギスも屈む。
怒られて落ち込む小さな彼を見ている様な気分になり、心が柔らかくなってしまう。
「…………言わないと駄目ですか」
「吐け」
「でしたら、あちらの聖騎士様を一度退室させていただけますか」
「?? 言ってくれるのなら、そうしよう」
ディルギスに指示を受け、聖騎士は問題ごとに発展しないと安堵しつつ、工房から一旦は離れる。
「行ったぞ。それで、どうした?」
足音が遠のくのを聞くと、ディルギスはクォギアをじっと見つめる。
「アルティア様が」
「うん」
「あなたの気を引くために、ドレスを作って嫉妬させようと言い出したんです……!」
「………………は?」
呆気にとられるディルギスは硬直し、クォギアは顔を真っ赤にして顔を両手で覆った。
聖堂での礼拝が再開され、北区の町の人々が訪れる様になりはじめた。クォギアから住民に関する情報を以前聞いていた通り、住民は好意的であり、今までの非礼を詫びてきた。
北区との関係は、これからより良い方向へ向かう。
こちらの問題は落ち着く。次の問題へ着手すべきだが、ディルギスであるが集中が出来なかった。
クォギアは距離を置く様に、急によそよそしくなった。
怠慢はせず、裁縫師として今後の服の冬に向けてデザインの作成や試作を行っている、と彼へ食事を運ぶ使用人から報告を受けている。時折神殿に来て挨拶をしていくが、紅茶を淹れようと言っても、すぐに帰ってしまう。
神と仕える裁縫師として一定の距離はあった。旧知の仲もあり、多少の近さはあっても、踏み込んだ関係ではではない。これまでの生活で、互いに失言は無く、不快になるような行動はなかった筈だ。
なぜこうなったのか理由が分からず、痺れを切らしたディルギスは、彼の工房に足を運ぶ。
「入るぞ」
普段は一声かけるが、問答無用で扉を開けた。
「えっ!?」
驚いたクォギアは咄嗟に何かを隠そうとしたが、無駄な足搔きである。
ハートカットネックの胸元には真珠の様に艶めく大きな白いバラが咲き誇り、作りかけのタッキングスカートがふわりと広がっている。
マネキンに飾られていたのは、純白のドレスだ。
「なぜ、その様なものを作っている」
ディルギスの中で、何か、きりきりと擦り切れて行く音が聞こえた気がした。
「これは、その……」
目を泳がせるクォギアの手から白いレースが音もなく床へと落ち、工房の空気は一気に張り詰めた。
ディルギスの護衛を務める尖った耳の聖騎士は、内心戸惑いながらも2人のやりとりを静観する。長命種であるその聖騎士は、長年星神城に鎮座する国神の護衛の一端を務め、20年より前からディルギスを知っている。傍から見れば不愛想、不機嫌、そう言われる程に淡々とした神であり、使用人が粗相をしても眉一つ動かさない程だった。
その神が、顔に出なくとも感じ取れる程に感情を動かしている。
「おまえは私の裁縫師だろう」
「も、申し訳ありません。急な頼みを受けて、断る暇が無く……」
口ごもるクォギアに、ディルギスの胸がざわついた。
星神城の工房で待機している際に、依頼を受けた。そんな事は、ドレスの大きさとデザインを見ればすぐにわかる。
「なぜ、報告をしなかった」
言ってくれさえすれば、快く受け入れられた。たまには違う体格の服を作りたくなる時もあるだろう。
しかし、クォギアが距離を離した挙句、今は目線すら合わせずに話している。
ディルギスの心はざわつき、一歩、また一歩とクォギアに近付いて行く。
「ア、 アルティア様からの御依頼でして、内密にするようにと釘を刺されたので」
愛の女神アルティアは、多くの男性を手中に収めている。自由奔放で宝石の如く輝き、花の如く惹きつける。女性であっても、その姿に目を奪われ、感嘆を漏らすほどだ。
「私に、言えない内容なのか?」
ディルギスはクォギアの前に立ち、真っ直ぐに見つめる。
最初の内は目線を外していたクォギアだったが、徐々に居た堪れない気持ちになり始め、渋く苦い顔をしたのち、
「言えない内容、ではございません……」
耐え切れなくなり白状する。
「…………農耕の神で在らせられるバンダン様との交際200周年を記念し、白いドレスを誂て欲しいと依頼を受けました」
「記念すべき事ではあるが、私にまで隠す必要は無い依頼ではないか」
拍子抜けする様な内容に、ディルギスはため息をつく。
ざわついていた胸が急に収まり、それに違和を感じながらも、安心してしまう。
「それは……俺も、そう思いますが…………」
何故かまだ口籠っているクォギアに、ディルギスは首をかしげる。
「なんだ? まだ何かあるのであれば、言ってしまえ」
クォギアは何故か驚いたようなおかしな表情をしたのち、ドレスに隠れる様にゆっくりと屈んで行った。ますます意味が分からなくなり、目線を合わせる様にディルギスも屈む。
怒られて落ち込む小さな彼を見ている様な気分になり、心が柔らかくなってしまう。
「…………言わないと駄目ですか」
「吐け」
「でしたら、あちらの聖騎士様を一度退室させていただけますか」
「?? 言ってくれるのなら、そうしよう」
ディルギスに指示を受け、聖騎士は問題ごとに発展しないと安堵しつつ、工房から一旦は離れる。
「行ったぞ。それで、どうした?」
足音が遠のくのを聞くと、ディルギスはクォギアをじっと見つめる。
「アルティア様が」
「うん」
「あなたの気を引くために、ドレスを作って嫉妬させようと言い出したんです……!」
「………………は?」
呆気にとられるディルギスは硬直し、クォギアは顔を真っ赤にして顔を両手で覆った。
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