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二章
24話
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「露天商に行ってみたらどうだろう? 個人の作品や地方から来た冒険者達の店もあるんだ。もしかしたら、お目当ての布が有るかもしれないよ」
最後に行った防具屋の店主から助言をうけ、広場の一角に建ち並ぶ露天商へとクォギアは足を運んだ。食べ物屋もあれば、武器の研ぎ職人出張所、新人らしき職人の弓や剣、別の地方から持ち込まれた本や雑貨が建ち並んでいる。
しかし布を売っている店は無く、もう帰ろうかとクォギアは思っていた。
「?」
露天商の外れ。向かいの装飾の露店には客が足を止めているが、そこに目線を向けると人々が足早に去って行く。クォギアは何かあったのかと遠目で見ると、露店の準備をし始めている男女がいた。どちらも汚れた布で顔を覆い隠し、継ぎ接ぎだらけの使い古し擦り切れた服を着ている。女性が古い絨毯を地面へ敷き、山の小屋へと荷物を運ぶ歩荷のように自分の身長を優に超える荷物を背負っていた男は、ゆっくりとその上へ降ろした。
北神門広場には、冒険者も来るので古今東西の人々が来るが、まるで物乞いのような姿の2人に戸惑い、避けている様子だ。
「こんにちは」
「!? こ、こここ、こんにちは」
クォギアは特に気にせず2人に挨拶をした。男は驚き言葉が出ず、女の方が上ずりながらも挨拶を返してくれた。
「辺境から来た方ですよね?」
「え、えぇ……どうして、それを?」
2人に警戒の色が強くなった。
「左袖の刺繍は辺境の村に住む方の服に良く縫われていると聞きまして」
男女の服の左袖には、赤、黄、青、緑の糸で描かれた鳥の刺繍が施されている。大きく翼を広げるその鳥は、懸命に生き、死した人を楽土へと運ぶとされ、過酷な環境で生きる彼らの信仰と志を表している。
「自分は裁縫師をしていまして、服や刺繍の文化について少しだけ詳しいんですよ」
説明するクォギアを見て、布の隙間から見える2人の目が少しだけ緩んだ。
「それで……布を探していまして、お二人が露店を開く様子でしたから、声を掛けたんです」
「布ですか。それなら……」
男は、積み上げられていた荷物の中から、古い布で丁寧に包まれた品を出した。
「こちらなんて、如何でしょうか?」
クォギアは受け取ると、布の結び目を解き、包みを開いた。
「この布の原料となる糸は、辺境にのみ生息する蛾の繭なんですよ。特殊な鉱物を食べるので魔獣に属しますが、大きさも生態も虫の蛾と変わらないんです。長年の研究の末に人間でも飼育が可能になり、こうして布を織る事に成功しました」
男は誇らしげに言い、クォギアはじっと折り畳まれた布を見つめる。
ディルギスの普段着にも、蚕に似た魔獣の蛾の繭を原料とする布を使用した。しかし、それとは全くの別物だ。手触りは絹であるが、光沢が貝の作る生体鉱物に近く、淡く虹のように複数の光を内包している。
「買います」
クォギアの理想は白く、真珠のような布だ。光の加減で七色が薄っすら見える様な、独特な光沢が欲しい。不浄と淀みを内包しているディルギスの身体を隠しつつも、美しさを引き立てるには、あえて類似させながらも決定的に違う輝きが必要だと考えたからだ。
まさに、この布は理想そのものである。
「あ、ありがとうございます!」
女性は大喜びするが、男性は不安そうに目を泳がせる。
「これは一番高い品でして、一枚5万はするのですが……」
「持ち合わせはあります。あと7枚ほどありますか?」
即決されるだけでなく追加注文に、声が出ない程2人は驚いた。
最後に行った防具屋の店主から助言をうけ、広場の一角に建ち並ぶ露天商へとクォギアは足を運んだ。食べ物屋もあれば、武器の研ぎ職人出張所、新人らしき職人の弓や剣、別の地方から持ち込まれた本や雑貨が建ち並んでいる。
しかし布を売っている店は無く、もう帰ろうかとクォギアは思っていた。
「?」
露天商の外れ。向かいの装飾の露店には客が足を止めているが、そこに目線を向けると人々が足早に去って行く。クォギアは何かあったのかと遠目で見ると、露店の準備をし始めている男女がいた。どちらも汚れた布で顔を覆い隠し、継ぎ接ぎだらけの使い古し擦り切れた服を着ている。女性が古い絨毯を地面へ敷き、山の小屋へと荷物を運ぶ歩荷のように自分の身長を優に超える荷物を背負っていた男は、ゆっくりとその上へ降ろした。
北神門広場には、冒険者も来るので古今東西の人々が来るが、まるで物乞いのような姿の2人に戸惑い、避けている様子だ。
「こんにちは」
「!? こ、こここ、こんにちは」
クォギアは特に気にせず2人に挨拶をした。男は驚き言葉が出ず、女の方が上ずりながらも挨拶を返してくれた。
「辺境から来た方ですよね?」
「え、えぇ……どうして、それを?」
2人に警戒の色が強くなった。
「左袖の刺繍は辺境の村に住む方の服に良く縫われていると聞きまして」
男女の服の左袖には、赤、黄、青、緑の糸で描かれた鳥の刺繍が施されている。大きく翼を広げるその鳥は、懸命に生き、死した人を楽土へと運ぶとされ、過酷な環境で生きる彼らの信仰と志を表している。
「自分は裁縫師をしていまして、服や刺繍の文化について少しだけ詳しいんですよ」
説明するクォギアを見て、布の隙間から見える2人の目が少しだけ緩んだ。
「それで……布を探していまして、お二人が露店を開く様子でしたから、声を掛けたんです」
「布ですか。それなら……」
男は、積み上げられていた荷物の中から、古い布で丁寧に包まれた品を出した。
「こちらなんて、如何でしょうか?」
クォギアは受け取ると、布の結び目を解き、包みを開いた。
「この布の原料となる糸は、辺境にのみ生息する蛾の繭なんですよ。特殊な鉱物を食べるので魔獣に属しますが、大きさも生態も虫の蛾と変わらないんです。長年の研究の末に人間でも飼育が可能になり、こうして布を織る事に成功しました」
男は誇らしげに言い、クォギアはじっと折り畳まれた布を見つめる。
ディルギスの普段着にも、蚕に似た魔獣の蛾の繭を原料とする布を使用した。しかし、それとは全くの別物だ。手触りは絹であるが、光沢が貝の作る生体鉱物に近く、淡く虹のように複数の光を内包している。
「買います」
クォギアの理想は白く、真珠のような布だ。光の加減で七色が薄っすら見える様な、独特な光沢が欲しい。不浄と淀みを内包しているディルギスの身体を隠しつつも、美しさを引き立てるには、あえて類似させながらも決定的に違う輝きが必要だと考えたからだ。
まさに、この布は理想そのものである。
「あ、ありがとうございます!」
女性は大喜びするが、男性は不安そうに目を泳がせる。
「これは一番高い品でして、一枚5万はするのですが……」
「持ち合わせはあります。あと7枚ほどありますか?」
即決されるだけでなく追加注文に、声が出ない程2人は驚いた。
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