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二章

21話

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 ディルギスの意図が読みきれず、困惑するクォギアであるが、ビルジュの配下であるメリンへの接触をさせないためにトトルゥを呼び寄せたように思う。徹底的に隠されている中、神の中でも最も多方面の繋がりを持つベル―ニャの配下であり、現状を把握しているトトルゥは情報提供者として適任だ。

「だからこそ、今回は問題になっているんです。不遇については、ここの外観から見てそう思われても仕方がないとしても、横領と窃盗の件はおかし過ぎるんですよ。使用人は雇われなのでやる奴はやりますが、聖騎士も含むとなって戦の神はお怒りです」

 彼女の疲れた表情から、ひと悶着があったのが伺える。
 聞く限りでは、解雇された使用人や聖騎士達に罰を与えれば、それで問題はある程度解決するように見える。しかし、まだクォギアには引っ掛かる点があった。

「先日街に出た際に、商家の若者から噂について言いがかりを付けられました」

 国の最高位の座にいる国神が沈静化させたはずが、噂がまだ残っている。

「えぇ……まだ信じてる人いるんですか……念の為、詳しく教えてもらえます?」

 げんなりとした様子でトトルゥは言い、クォギアは一部始終を話した。

「私の知っている話とは、違いますね。浄化の力について触れる噂は、初めて聞きました」
「えっ」  
「私や調査班の聞いたのは、浪費や怠惰の噂でした。それは、クォギアさんを揺さぶる為の内容だったのかもしれません。ディルギス様。集会への参加はお止めになりますか?」

 トトルゥはすぐさま真剣な表情になり、ディルギスを見る。

「いや。私が表に出た際、噂を発生させた輩がどう動くか、調べる必要がある」

 きっぱりとディルギスは言う。

「私は役目を遂行しさえすれば、静かに暮らせる日々に戻りたい」
「えー! ディルギス様がやる気になったと思ったら、それが理由ですかー!」

 トトルゥが苦笑する中、クォギアは考えていた。
 夜の屋台で、神殿へ使用人が新しく来た、と店主たちは盛り上がっていた。屋台の店主が話していた〈嘘臭い噂〉は、トトルゥの言う怠惰についてだろう。彼等にも事情はあったが、魔獣の被害は膨れ上がっていない事から、昔から住んでいる人々はそこまで信じていなかった。そして次に起きたのが、子供が訪れた事で発生したのが不遇の噂。そこに使用人達の窃盗、裁縫師と北区区長の横領と騒ぎが重なり、事態を悪化させないために国神が沈静化させた。あの夜、屋台の店主たち、そして屋台に訪れる様々な年代の客は、歓迎と謝罪の言葉ばかりで性的な噂を仄めかす会話は無かった。そして、次の日に訪れた複数の店でも、それらしい話は聞かなかった。
 国神達の予定では、良い方向へと進むはずだった。
 だが、新たな噂が生じた。あの3人は辺境の話よりも、法の神の名と口に出した瞬間に顔色を悪くした。人ごみに紛れていた共犯者を含めて、辺境よりも法の神が恐ろしいと言わんばかりだった。
 こちらが証言と証拠を集め、立証されなければ法の神は動かないと、少しでも考えれば気づくはずなのに。

「まだ普段着しか持ち合わせがない。クォギアと相談するので、また連絡をする」
「はい! わかりました」

 トトルゥはそう言って、立ち上がる。
 

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