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二章

19話

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「それで、おまえはいつ休む?」
「え?」

 話題を変えて来たディルギスに、クォギアは首を傾げる。

「休日は決めているのか、聞いているんだ」
「いえ、特にないですね。次の季節の服や、まだまだ作らないといけない衣類がありますし」

 春、夏、秋、冬の4種類だけでなく、急な寒さに備えてどの季節でも使い勝手の良いカーディガン等の羽織物も作らなければならない。帽子や靴のようなやや専門外でも、職人に注文する際はある程度のデザインを考える必要がある。
 着込む冬に備え、良質な毛皮を今から注文しなくては。
 ゼロからのスタートの為、クォギアには仕事が山積みだ。

「休め」
「いやです」

 またクォギアは、もう一つ専属としてある計画も練っている。
 裁縫師は主に服を担当するが、時にカーテンやテーブルクロス、ハンカチなど、布製品の制作も行う。まだ金属加工や彫刻が発展途上の時代には、神々は特別な存在をより演出する為に、独自の刺繍の柄を作り、自分だけでなく空間を彩った。
 装飾類が盗まれた神殿や聖堂の修復だけでなく、布製品の彩りを添えようとクォギアは考えている。自分一人ではあまりに多すぎる仕事量の為、星神城の工房長に協力を仰ぐことになるはずだ。デザインの制作や材料費、作る物の大きな等をまとめた書類を作製する必要があり、休んではいられない。

「過労になる」
「服は急ぎで作りましたが、しっかり睡眠も取っていますので大丈夫ですよ」
「ダメだ」
「小さい頃とは違って、自分の管理位できます」

 ディルギスはクォギアを心配し、クォギアはディルギスを想って作っている。
 一歩も譲らない2人の攻防だ。

「こーんにーちはー! どなたか、いらっしゃいますかー?」

 神殿の玄関口より、メリンとは違う女性の大きな声が響く。

「業者の方ですか?」
「いいや。あの声は、トトルゥだな。ここへ連れて来てくれ」
「はい? わかりました」

 この国にいる神の名前は一通り覚えているが、トトルゥは初めて聞く。しかし、ディルギスの反応からして、知り合いのようだ。
 クォギアは足早に神殿の玄関扉へと向かい、静かに開けた。

「お待たせしました」

 ヒヨコを思わせるフワフワとした金髪に、緑色の瞳、そばかすは特徴的な女性が立っていた。普段着のようなシャツとズボンを履いている。長く尖った耳には、ブドウを模したイヤリングが下がっている。手には筒状に丸めた紙と冊子がある。

「わぁ! はじめまして! 酒の神ベルーニャ様の配下トトルゥと申します」
「ディルギス様の専属裁縫師のクォギアと申します」

 和やかな雰囲気の中、お互いに一礼をする。
 酒の神ベルーニャ。古株に属するが、新しいもの好きで柔軟な姿勢を示す男神だ。国神と仲が良く、時折星神城へやって来るのをクォギアも工房から遠巻きに見ていた。

「ディルギス様から連絡を受けまして、入っても宜しいですか?」
「え、えぇ、はい。連れて来るよう言われましたので……どうぞ」

 連絡をしたなんて初耳であるクォギアは少し困惑するが、ディルギスを信じて扉を開けた。

「ありがとうございます!」

 にっこりと笑顔を見せるトトルゥはクォギアの案内の元、神殿へと足を踏み入れる。
 
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